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せーれーとえれめんたー


「それでは、魔法の授業を始めます!」


 小休止を終え、なんとか気力を取り戻したステリアがフレイシアを伴い、庭に出て発した言葉である。


「いよっ! まってました~! ――ひゅー、ぴゆぅー」


 出来もしない指笛ではやし立てるフレイシア。


「フレアはほんとに元気ね……」


 白いケープをマントと言い張り、騒ぎ続けていたとは思えないほどに体力が有り余っているフレイシアを見て、私が年なのかしら……、と少し自重げに笑うステリアであった。


「はい! 楽しみにしていたであります!」


 よく分かっていないので、ドヤ顔をしながら左手でビシっと敬礼をしてみるフレイシア。


「もう……手が逆よ? それは、よく武器を持つ右手をあげて、敵意がないことを示すものよ。兵士の人に敬礼する時は気を付けなさいね」 

「えへへ、逆だったかぁ」


 フレイシアは恥ずかしそうに頬を掻いている。


 枕はこのくらいにしておいて――ステリアが取り直す。


「まずは、精霊について話しましょうか」

「ん~、そういえば、おばさんのせーれーさん見たことないよ? みんなにいるんだよね?」

「そう。大抵の人には精霊が宿っているわ。種族によっては宿してない人たちも居るけど、その話はまた今度ね」


 そう言ってステリアの説明が始まる。

 

 この世界で産まれる殆どの人型生物は、出生の際に、赤子の魔力を媒介とした精霊と共に産まれる。

 この精霊は守護精霊と呼ばれ、宿主に様々な恩恵をもたらす。

 殆どの者は生まれ持つ魔力が然程多くないため、淡く属性の光を放つ形を持たない下位精霊ウィスプが宿る。


 ウィスプがもたらす恩恵は、そのウィスプが司る属性の魔法を扱う際、僅かに上昇補正が掛かるというものだ。

 ウィスプは、普段、宿主の体内に常駐しているのだが、気まぐれにふらりと外に出て、宿主の周りをふわふわと漂っていることがある。


 そして生まれつき、もしくは鍛錬により保有魔力を高めるか、守護精霊との親和性が高まった者には、何らかの形を模した上位精霊エレメントが宿って産まれるか、ウィスプから昇格することがある。


 そしてこのエレメントを宿す者達は、“エレメンター”と呼ばれるのである。


 エレメンター達は、己のエレメントを操り――武器、防具、装飾品、もしくは、己の肉体と一体化させることが出来、その力は強大と言われている。

 エレメントになると、常に外に出て宿主と共に生活をするのが普通なのだが、ウィスプのように、宿主の体内に身を潜めることも出来るのである。


 フレイシアがステリアの精霊を見たことが無かったのは、ステリアがエレメンターであり、エレメントを見たフレイシアを怯えさせないように、あえて姿を見せないように言いつけていたからである。


「という訳よ。ここまではいいかしら?」

「おばさん――えれめんたーだったの!?」

「ええそうよ。これから私のエレメントを呼び出すけど、心の準備はいい?」

「はい!」


 フレイシアは、どんなエレメントが現れるかドキドキしながら元気に返事をした。


「来なさい、雷獣(らいじゅう)サンダーボルト!」


――その時、地面から(・・・・)いかずちが生えた。


「うわっ!?」


 強い光を発し、轟音をまき散らせた何かは、光が収まり静寂が訪れた中庭で遠吠えをあげた。


――ウォォォォォォン!


 その姿は、銀色の美しい毛並みに黒い雷の模様の入った、力強く地を踏みしめる誇り高き狼だった。


『随分と久しぶりだな……軽く一年は外に出ていないぞ』

「しゃべ…………!?」


 サンダーボルトという名の狼は、ステリアに悪態をついた。


「仕方ないでしょ。あなたの凶悪な容姿は子供の教育に悪いわ」


 その悪態を柳に風と受け流し、ステリアも言い返す、しかしそのやり取りは随分と気安い。


『その子がフレアか、直に見るのは初めてだな』

「しゃべったああああああ!」


 あまりにも自然に言葉を発するサンダーボルトに、フレイシアはとうとう我慢できなくなった。


『オレが喋るのがそんなに不思議か?』

「きいてない! しゃべるのはきいてないよ!!」

「あ――ごめんなさいね。私は慣れてたからすっかり忘れてたわ」


 多少、凶悪な姿の精霊が現れるかと思って、心構えだけはしていたフレイシアだが、ステリアはエレメントが言葉を発することを説明し忘れていたのである。


「もぅ……雷よりびっくりしたよ……」 


 すこし拗ねてしまったフレイシアに、サンダーボルトはトコトコと歩み寄る。


『……驚かせて悪かったな、ほら、少しだけなら……いいぞ』


 見た目は凶悪なのだが、彼は子供が好きなのだ。

 だからこそ、フレイシアの機嫌を治すために足元に寝そべり自慢の毛並みを差し出したのだが――


「え! のっていいの!?」

『――んえっ!?』


 油断していた彼は、フレイシアの流れるような騎乗動作に、背中に跨がられるまで反応できなかったのだ。


「おお~! いいのりごこちだね!」

『ちがああああああう! 触るだけ! 触るだけだあああ!』

「――わっと! あははぁ~、すごいすご~い!」


 まさか背中に乗られるとは思っていなかった彼は、さながらロデオのように暴れ狂ったのだが。

 フレイシアはすっかり楽しんでしまっている――しかも。


『――っ!? 痛っ! 痛い痛い、痛いわああああ!』


 フレイシアは振り落とされまいと、彼の自慢の毛並みを鷲掴みにしてしがみついていたのだ。


――しばしその状態が続き。


『頼む……頼むよ……もう……許してくれ……』


 彼は涙目になっていた。


「フレア……そろそろ降りてあげて」


 さすがのステリアも、哀愁さえ漂い始めたパートナーの姿を見て助け舟を出した。


「あ――ごめんね、つかれちゃった?」

『ああ……まあ……そうだな……疲れちゃった……な……』


 今の彼は、ナニをされた乙女のようである。


◆◇◆


 疲れちゃったサンダーボルトの精神が回復するのを待って、授業を再開した。


「え……っと、ほらボルト! しっかりなさい! 次はアレをやるわよ!」

『…………やだ』


 サンダーボルトの精神は完全に回復した――とうことにして、ステリアは無理やり続ける。 


「フレア、今度は魔装を見せてあげるわね」

「そーびにへんしんするやつだね! たのしみ!」


 フレイシアは腕をわきわきしながら、ワクワクした瞳でステリア達を見ている。


「いくわよボルト! 魔装|《雷獣の衣》」

『ああああああああ! わあったよちくしょおおおお!!』

 

――ステリアの言霊を聞いて、サンダーボルトの姿が輝き、形を失っていく。


 そしてその光はステリアの体を包んでいく。

 じきに、眩い光に包まれていたステリアの姿が徐々に顕になる。


 その姿が顕になった時――ステリアはちょっとかわいくなっていた。


 何故なら、狼風のロングパーカーのようなものを着込んでいたからである。

 犬耳の付いたフードをかぶり、手には鉤爪を装着しているのだが、如何いかんせんその丸みを帯びたフォルムが愛らしく、更にご丁寧に尻尾までついている。


…………これこそがエレメンターの持ち味である“魔装”だ。


 その威圧感たるや、見るものを震え上がらせる――はずである。


「……すごい…………かわいい……」


 その姿を見たフレイシアは驚愕していた。


『くうぅ……だから嫌なんだ……』


 自慢の毛並みを弄ばれた挙句にこれである、彼の心労は計り知れない。


「ふふん、いいでしょこれ? 結構気に入ってるのよー」


 サンダーボルトの心労などお構いなしに、ステリアもご機嫌であった。


 ところで、魔装についてだが。

 その形はエレメンターの望みを繁栄しやすく、エレメントの意志よりも、エレメンターの好みに沿ったものが顕れるのである。

 そして、更に練度を上げることで、身に纏う装備の数を増やしていくことも出来る。


「いいな、いいな~! わたしもえれめんたーになりたい!」


 この場にいる哀れなエレメントの心を知ってか知らずか、フレイシアは暢気のんきにそんなことを言った。


『そろそろいいだろ、ステア…… もう戻るぞ! 戻るからな!』


 戦いの最中さなかならいざしらず、ただ見せびらかすだけに魔装を披露するのは我慢できない彼だった。


「まったくもう、しょうがないわね……いい加減慣れなさいよ」


――気持ち、魔装化する際よりも速い速度で彼はもとの狼の姿へ戻った。


『冒険者を引退したから安心していたのに……くそっ!』


 彼は何やらボソボソとつぶやき始めたので、ステリアとフレイシアは彼を省いて話し出す。


「やっぱり魔力を鍛えるのが近道かしらねー? ウィスプとの親和性を高めるっていうのはよくわからないのよ」


 かくいうステリアも、魔法の練度を高めエレメンターになったのだ。


「まほうなんて、ほんとに使えるのかな……」


 未だ魔法を発動したことのないフレイシアはそれが心配なようだ。


「大丈夫よ! 魔法が使えないエルフなんて見たことがないわ。今日はこれから少しずつ試していきましょう」

「……うん! がんばるよ!」


 そうして、フレイシアの魔法体験会が始まる。

読んでいただいてありがとうございます。

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エレメンツ:ガールズ―elements girls―旅立ってからのお話です。
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