表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/21

十歳のフレイシア・二十歳の凛


 あれから、もうすぐ四年が経過する。

 フレイシアの十歳の誕生日まで、あと二ヶ月である。

 

 命を奪うことに抵抗を持っているフレイシアだが。

 ミーランからのケアもあり、動物型、人型のモンスターも討伐できるようになっている。


 順調に訓練を進めるフレイシアだが、最近になって、ある異変が起こり始めていた。

 フレイシアにではない――ステリアが、体長を崩しているのだ。


 年末から体長を崩したステリアは、洗年祭に参加できないほどに、体力が疲弊している。

 年が明けてからは、ベッドに寝たきりになっている。

 王国でも指折りの医師であるミケットが診察したのだが、原因が発覚しないのだ。

 手の施しようがなく、日に日に、その体は疲弊していった。

 いまはフレイシアが付きっきりで看病している。


「ゴホッ……ゴホッ……ごめん……ね……フレア……」


 すでに言葉を発するだけでも体力を消耗しているようで、ステリアの声は苦しげであった。


「無理に喋っちゃダメだよ……それに、謝らないで」


 目に見えて疲弊していくステリアを、フレイシアは日がな一日看病している。


 もはや、実の母親よりも長い時間を共に過ごしている。

 フレイシアにとって、ステリアの存在はとても大きなものになってた。

 転生したばかりだった頃、不安と孤独から救ってくれたのはステリアだった。

 転生の話をしても気味悪がらず、しかも、これまで以上に愛情を注いでくれた。

 いつもは優しいステリアも、フレイシアのためならと、厳しく接してくれることもあった。

 十年近くも支えてくれた恩人。

 とうに気がついていた、ステリアはフレイシアにとって――母親同然なのだ。


「わかっ……たわ……ゴホッ……ふぅ……」

「ほら、ちゃんと休んで……」


 上体を起こして座っていたステリアを、フレイシアが寝かしつける。


「はぁ……愛してるわ……フレア……」

「うん。私もだよ。愛してる」


 ステリアはフレイシアの頭に手を回して、額を合わせてそう言った。

 ステリアはそのまま眠りについた。


◆◇◆


 ステリアが寝付いてから、フレイシアはリビングでミケットと話していた。


「おばあちゃん……なんとかならないの……?」

「なんとかしたいさ……不甲斐ないけどあたしじゃあ……」


 無理だとは――言いたくなかった。

 すでに一人、娘を失っているミケットは、再び己の力不足で娘を失うなどとは、思いたくはなかったからだ。

 救いたい。

 そのために己を高めてきたはずだった。

 にも関わらずこの体たらく――原因を突きとめることすら敵わない。

 いまのミケットの心境は想像に難くなかった。

 

◆◇◆


 そんな中、ステリアは夢を見ていた。


 自分に子供がいて、愛していて、子供のために毎日仕事に勤しむ――そんな夢だ。

 見たこともない世界で子供を想い、仕事に勤しむ自分は、いい母親ではなかった。

 仕事を言い訳に、疲れているからと、家で子供に構うことを疎かにしてしまっていた。


 子供にまで気を使われていたように思う、なにかを言いたそうにしながらも、めったに話しかけてくることはなかった。


 だがある日、普段は声をかけてこないが、頼み事をしてきた。

 友達の誕生日会があるから、プレゼントを買いたいというのだ。

 そのことが堪らなく嬉しかった。

 久しぶりに娘の声を聞いた気がした。

 自分のことでは決して我儘を言わない娘。

 いまも友達のためのお願いだ――そして、ふと思った。

 この子を幸せにしてあげる存在は居るのかと――それは自分の役目ではなかったのかと。

 いつの間に見失っていたのだろう。

 自分は娘のために働いていたのではなかったのか。

 どこで間違ってしまったのだろう――そんな自分を、この子はまだ頼ってくれる。

 そうだ、私は母親だ、この子を愛する、実の母親なのだ――

 次の休みは二人で過ごそう――母子二人で、笑って過ごそう。


 最寄りのショッピングモールで過ごした時間は本当に楽しかった。

 一緒に食事をして、色んな店を回って、たくさん服を試着して、ピンクのコートを買ってあげた。

 娘も楽しそうに笑ってくれた――喜んでくれた。

 こういう時間が必要だったのだ。

 これからも、休みの日は二人で過ごそう――楽しい思い出をたくさん作ろう。

 娘はまだ十歳だ、時間ならまだまだあるのだから――


 いなくなってしまった――失ってしまった。

 

 りんがいなくなった。りんが死んでしまった。


 たった一人で、水の底に沈んでいた。


 どうして……。おそすぎたの……。もう、りんの笑顔を見ることはできないの……。

 

 ちがう……。フレアはここにいる……。ちゃんと笑えている……。きっと幸せになれる……。


 あの子はもう独りじゃない! 私だっている! 皆もいる! 今度こそ、あの子を大切にしてみせるわ!


◆◇◆


 フレイシア達はステリアの寝室に集まっていた。

 この場には、フレイシア、ミーラン、エルアナ、カレット、ベアータ、ミケットがいる。 


 しばらく眠っていたステリアが目を覚ましたようだ。

 皆心配そうに顔を覗き込んでいる。

 ステリアも、皆の顔を見回し、そしてフレイシアを見て視線を止めた――


「おはよう――りん」


 フレイシアは言葉を失っていた。

 皆も困惑している――ミーラン意外は。


「シア……」


 ミーランは何かを察していた――だが、フレイシアは確信していた。

 ステリアは、あの日の母のように優しく微笑み、愛おしげにその名前を呼んだ。

 母は――凛の名を柔らかく呼ぶのだ。 

 いままでのステリアとは違う。

 顔は同じ。声は同じ。見た目は何も変わっていない。

 目の前の女性は、ステリアで間違いない。

 だが――違う。

 ステリアだが、ステリアではない――何かが混ざり合っている。

 前世の母と――中林楓なかばやしかえでと混ざり合っている。

 間違いない。見まごうことはない。

 そこにいるのは――ずっと追い求めていた、実の母親(・・)だった。


「お――おがあざぁ~ん!!」


 ただ、抱きしめた。それしかできなかった。


 困惑する一同が見守る中――しばらくはそのままだった。


◆◇◆


 ステリアがフレイシアを『りん』と呼び、フレイシアがステリアを『おかあさん』と呼んだ。


 ミーランはフレイシアの転生を知っていたが、他の者はしらない。

 もはや隠すことはできず、フレイシアが落ち着いてから、皆に語った。

 転生のことを――


 フレイシアを咎めるものは誰もいなかった。

 ミーランはもちろん、カレットも、ベアータも、エルアナも。

 フレイシアが築いてきた絆は、もはやこの程度では揺るぎはしない。


 そんなフレイシアだからこそ、深く――強く、自分たちを愛してくれたのだと、ここに居る皆は分かっていた。

 フレイシアを拒む者は誰もいない。

 拒絶など、出来ようはずがない。

 むしろ、いままで以上の強い繋がりを、皆が感じていた。

 ミケットは少し複雑な顔をしていたが、何か納得していた。


「あの子――ノーリンの旦那は、結局わからなかったからねぇ……」


 とのことだ。ノーリンは、交わった相手を誰にも話すことはなかったという。


 ともあれ、フレイシアとステリアは、この日、本当の親子になった。


◆◇◆


 二ヶ月後、今日はフレイシアの十歳の誕生日だ。


「「「「「お誕生日おめでとー!」」」」」


 十歳は節目の歳なので、例年より豪華なパーティが行われている。

 とはいえ、前年はミーランの十歳の誕生日があったため、それと同じくらいである。

 リビングを皆で飾り付けして、ケーキや焼き菓子をたくさん作り、料理も奮発されている。

 乾杯を経て、お待ちかねのプレゼントの受け渡しである。


 ステリアからは――銀の懐中時計。

 カレットからは――自作の香水。

 ベアータからは――可愛い雑貨。

 エルアナからは――可愛いぬいぐるみ。

 ミーランからは――新兵器である。


 どのプレゼントもフレイシアを喜ばせたが、ミーランのプレゼントだけは異彩を放っていた。

 新兵器と言われて手渡されたものは布にくるまれており、中がわからなくなっている。


「開けてみてほしいの。シアとの出会いを思い出して作ったの」


 促されたままフレイシアは布をほどいた。

 そして現れたのは、白を貴重として青いグラデーションの入った装飾銃。


「綺麗…………」


 空圧式マスケット銃――《縁日の夜(サマー・ナイト)》。

 名前とは対象的に、夏の青空のようなボディである。


「シアが話してくれたお祭りの射的の銃なの――」


 ミーランがこの銃を作ったのは、フレイシアがスノーナイトのフルオートを使いこなせず、セミオートなら命中精度は上がるが、威力が心もとないためだ。

 ミーランが作ったこのマスケット銃は、フレイシアに聞いた縁日の射的の銃を参考に、その形状をとった。

 一発ずつしか射出できないが、その精度と貫通力は確かなものであり――片手で打てるスナイパーライフルのようなものだ。


 事前にフレイシアのエレメントであるユイと相談し、用いる弾はスノーナイトの弾と同じ仕組みだが、縦に長くなっている――弾の装填もユイが行う。

 それに加え、中に仕込まれた魔法陣により風魔法を発動させ、内部の気圧を一気に膨れ上がらせる。

 これによって高い威力を発揮するこの銃だが、精度を高めるためにミーランの空間魔法をも組み込まれている。

 弾自体に一つのポイントをうち、銃口から直線で二十メートル先に、もう一つのポイントが打たれている。

 トリガーを引き、押し出された弾は、銃口の先にあるポイントに向って軌道を調整される仕組みだ。


「ミィありがとう! さっそく試し撃ちしてく――」

「コラ! フレア、いまはパーティの最中でしょう! 主役がいなくなってどうするのよ!」


 早速試し撃ちに行こうとするフレイシアだったが、ステリアに止められてパーティの席に戻った。


「へへ~。ごめんねお母さん。ついねぇ~」

「まったく……いくつになっても変わらないんだから」


 そう言って微笑むステリアには生気が戻っている。

 あの日を境に体長が戻り始め、いまではすっかり元通りだ。

 この誕生日会は、ステリアの快気祝いも兼ねているのである。

 精神年齢は二十歳になったとはいえ、愛する母親との再会――と言えるかわからないが、再び会えたことで、この日のフレイシアはパーティの雰囲気も手伝って、上機嫌に浮ついている。


 前世で迎えることの叶わなかった成人を、いま――母と共に過ごしている。


――幸せな時間だった。

今日はあと一話投稿します。

予約で夜の10時に投稿しますので、ぜひそちらも御覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメンツ:ガールズ―elements girls―旅立ってからのお話です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ