みんなで年越し
感謝祭から一ヶ月弱。
今日で一年が終わり、新しい年がやってくる。
ミクスの町では、一年の締めくくりに、洗年祭という祭りがある。
このイベントはマーケットパークで行われ、広場の中央にある時計台を囲むように住人が集まってくる。
時計台の根本にはドーナツ上のステージが敷設されており、ステージ上では、大きな布をローブのように羽織った女性たちが舞を舞っている。
そして零時の鐘がなった時。
その布を脱ぎ捨て、綺羅びやかな衣装の女性たちが現れるのである。
それと同時に時計台の窓から水が噴射され、広場に雨を降らせるのだ。
一年間で溜まった汚れを払い、綺麗な体で新しい年を迎えようという神聖な祭りだ。
なのだが。
ステリア家に住まう住人達は家族全員で年を越したかったため、エルアナがまだ外出出来ないこともあって、今年は自宅で年を越す事になった。
そういう訳で、年越しを控えた面々はリビングに集まっている。
「おばさんは踊りを見たことあるんだよね?」
と言ったのはフレイシアである。
家族全員で年を越したいという思いはもちろんあるのだが、やはり洗年祭の事が気になっていたようだ。
「それはそうよ。冒険者をやっていた時期もあったけど、人生の殆どはこの町で過ごしているんだもの」
ステリアの冒険者歴は、元パーティメンバーのカレットと然程変わらない。
七十年を生きた彼女の人生で、この町を出ていた年月はあまり長くないのである。
故に彼女は、洗年祭の舞も舞えるのだ。
「みたいな~。おばさんの洗年の舞みたいな~!」
洗年祭で舞われる舞は、洗年の舞というまんまのネーミングだ。
フレイシアはどうしても見てみたいらしく、ステリアにお願いしている。
「いやよ……他に舞える人もいないんだから、私一人で舞うことになるじゃないの」
さすがのステリアも、一人だけで舞うのが嫌なようで、フレイシアのお願いに困っていた。
「見せてあげなよー、私もみたいしー」
と、さっきまでミーランと親子の時間を過ごしていたはずのカレットが、話を聞きつけてフレイシアを援護する。
「――ッ! カレット! その地獄耳はなんとかならないのかしら……」
「ただカウントダウンするだけじゃ、味気ないでしょー? 折角ミクスの町に来たんだからー、気分だけでも味わいたいじゃなーい」
カレット、ミーラン、ベアータは、エルアナを気遣って今年の洗年祭は諦めたのだが、やはり少しだけ未練があったらしく、ステリア達の話に聞き耳を立てていたのだ。
「あの――私も見てみたいです!」
いまではベアータも随分と馴染んでおり、悪ノリにも参加するようになっていた。
「うっ……!? ベアータまで……」
「ミーも見たいの。言い出しっぺのシアも一緒に踊るの」
「――ちょわっ!? おま……」
ミーランからの思わぬ不意打ちにより、フレイシアまでとばっちりをくらった。
ステリアもどこか意地悪そうな表情で、フレイシアにそっと視線を移した。
「――ヒッ!?」
フレイシアが肩をビクリとさせ、ギギギ、と音が聞こえそうなほどの動きで首を回しステリアの顔を見ると――
「フ・レ・ア~! あなたもエルフなんだから、舞を覚えたほうが良いわよね~? 教えてあげるから、こっちにいらっしゃ~い……」
ステリアはそう言って、フレイシアを小脇に抱え、リビングから出ようとする。
別室で舞を教え込むらしい。
「い――いやあぁぁぁぁぁ! ミーちゃんのバカぁぁぁぁぁぁぁ!」
その悲痛な叫びを残して、ステリアとフレイシアはリビングを出ていった。
◆◇◆
零時の鐘まで後十分となった頃。
着替えて舞の準備を整えた二人がリビングに戻ってきた。
ステリアは昔使っていたであろう古いローブを羽織って堂々としている。
フレイシアはいつものお気に入りのケープなのだが、教育の賜物なのか、その表情は、歴戦の兵士のような重苦しい雰囲気を醸し出している――少しだけ眉が濃くなっているような気さえするほどだ。
ちなみに、ユイは羽に鈴を、サンダーボルトは頭にマラカスを取り付けられている。
他の面々は、厳かな雰囲気のフレイシアとステリアを見て息を飲んだ。
二人は無言のまま皆の前に出て舞のポジションに付く。
すると――楽器を縛り付けられているユイとサンダーボルトがリズムを刻み始め、二人の舞が始まる。
その舞は、眉が太くなったフレイシアには似つかわしくない、優雅で、どこか神聖さを感じさせるものであった。
舞を見ていた三人がカウントダウンを始め、零時の鐘がなった時。
フレイシアとステリアは纏っていたケープとローブを脱ぎ去り、室内で水を撒き散らすわけにはいかないため、ユイが室内を羽ばたきながら細かい氷の粒を振らせていた。
「「「「「一年間お疲れ様でしたー!」」」」」
こうして、ステリア家に住まう住人たちにとって、人生のターニングポイントと言っていい、激動の年が終了し、また新しい年がやってきた。
それぞれが辛い別れを経験してはいるが、新しく出会った家族と一緒に、いい一年にしようと、皆が心を同じくしていた。
◆◇◆
年越しの為とはいえ、随分と夜更かしをしてしまったフレイシアとミーランは、いい加減、眠気が我慢できなかったため部屋に戻ってベッドに入っている。
「シアの踊りステキだったの」
ミーランの率直な感想である。
ちょっとした悪ふざけで、ステリアを焚き付けてフレイシアにも舞わせてみたが、思いの外感動してしまったのである。
「ミーちゃん……」
フレイシアの眉はいつも通りに戻っている。
「意外だったの……シアには踊りの才能があるの」
短時間でよくあそこまで習得できたと、素直に感心していた。
「ミーちゃん……そういえば約束があったよね?」
そう言って、フレイシアはミーランに馬乗りになった。
フレイシアの言った約束というのは、ミーランにエルアナを懐かせるためにフレイシアに魔法を開発させた報酬――チュウである。
「――チィ! なの! とっくに忘れてると思ってたの! 降りるの! シアはヘンタイなの!」
フレイシアはミーランの腕も含めて足でホールドしているため、ミーランは気を付けの姿勢で身動きが取れない。
「も~、大変だったんだよ~? おばさんにあんなに厳しくされたのは初めてだったんだから~……」
――フレイシアの青空のような青い瞳には光がなかった。
その瞳が、さらにミーランの恐怖を煽る。
「ま――待つの! ダメなの! ちゃんと反省してるの! ゴメンなのぉ!」
ミーランの必死の抵抗も虚しく、無情にもフレイシアの唇は迫ってくる。
「らめ……らめなのぉぉ――むぐっ!」
ミーランは、フレイシアが飽きるまで、夜通し堪能され続けたのだった。




