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おまつりにいこう


 ベアータが本当の意味で打ち解けてから、さらに二週間後。

 今日は感謝祭の日である。


 フレイシアは、ミーランの肩をそっと抱いて、窓の外を見ている。


「ミーちゃん……君のために用意した夜景だよ……」

「シア…………今は朝なの」


 朝になり目が覚めた二人は、カーテンを開けて見えた光景に感動していた。

 感謝祭当日の演出で、町中には、大小様々なハート型の何かが浮かんでいたのだ。

 これは投影の魔道具によって、空中にハートを映し出しているものだ。

 その幻想的な光景にかこつけて、いまフレイシアは格好付け損ねていたのである。


「でもなぁハニ~。どんなに美しい夜景も、君の瞳には敵わないよ……」


 フレイシアは、懲りずにまだ何か言っていた。


「はぁ……早く顔を洗わないといつまでも寝言をほざくことになるの……」


 寝起き早々祭りの空気に酔っているフレイシアを見て、ミーランはため息を付いた。


「ミーちゃんノリが悪いよ~。今日はお祭りなんだよ? 私なんて夜寝付けなくて、ずっとミーちゃんのほっぺを――ぁ……」


 日課の件をつい口走ってしまい、ミーランにジト目を向けられる。


「ミーのほっぺを……なんなの。シアはミーが寝た後なにをしてるの? ……ジーッ……」


 寝付くのが早いミーランはいつもフレイシアより早く意識を手放してしまうため、フレイシアの日課を知らないのである。

 そして先ほどのフレイシアの失言によって、眠っているミーランに何かをしているであろうことが発覚してしまった。


「……ぇ? ……なにも? ……してない……ょ?」


 すっとぼけた顔でそう言った。

 フレイシアは誤魔化すことにしたようだ。


「……ジーッ…………なの」


 白状するまで言及してやると、その目は語っていた。


「……ぇえ? ……」


 この期に及んで、フレイシアは声を上ずらせながらしらばっくれている。


「……ジーッ……」


 ミーランは視線で攻め立て続ける。


「え……っとぉ……。だ――だって! ミーちゃんのほっぺがやわらかいんだもん!!」


 逆ギレであった。

 据え膳食わぬが恥――というのがフレイシアの言い分である。

 しかしミーランの頬は、フレイシアのためにもちもちしているわけではないのだ。


「――シア! そこに直るのッ!」

「はいぃ~!」

 

 ミーランの一喝により、フレイシアは直立不動の姿勢をとる、そして――


――チュッ!


 ミーランはフレイシアの頬に口づけをした――突然のことにフレイシアは固まっている。


「仕返し…………なの」


 赤くなった顔を隠すために俯いたまま、そう言い残して、ミーランは部屋を飛び出していった。

 その場に残されたフレイシアはというと。


「わ~お…………」


 口づけをされた頬にそっと触れ、放心していた。


 今日はお祭りである――


◆◇◆


 朝食は、いつも家族六人揃って摂っている。

 その朝食の席で、一人ニヤニヤしている少女がいる――フレイシアだ。


「あらフレア、今日は特にご機嫌じゃないの。ずっと感謝祭を楽しみにしてたものね」


 上機嫌なフレイシアを見て、ステリアは祭りで浮かれているのだと思ったようだ。


「へへ~。お祭りもだけど~……ねぇ、ミ~ちゃん!」

「知らないの、シアはヘンタイなの」

「ちょわっ!?」


 ミーランは何か勘違いしているらしく、フレイシアをヘンタイ呼ばわりである。


「んな!? なにを言ってるの……ミーちゃん……?」


 毎晩ミーランの頬をぷにぷにしていただけで、まさかヘンタイと呼ばれるとは思っていなかったフレイシアは驚愕していた。


「シアは……毎晩、ミーのほっぺにチューしてたの」


 その時――食卓に爆弾が投下された。


「ええええええぇ~! ご――誤解だよミーちゃん!」


 必死に弁明しようとするフレイシアだが、奥様方には格好のおかずだったようで――


「あーん、もうそんなに仲良くなっちゃったのー? いいねー、ラヴラヴじゃない」

「えっとぉ……フレアちゃん、寝てる相手にそういうことをするのは良くないと思うんです」

「まったく……フレアったら……」


 誤解だよおおお~、というフレイシアの叫びも虚しく、しばらくは大人達三人にイジられていた。


◆◇◆


 ひとしきりイジられた後、部屋に戻ったフレイシアがボソリと呟いた――


「うぅ……ただミーちゃんのもちもちほっぺをぷにぷにしてただけなのに……」


 その呟きは、隣に座っていたミーランに聞こえたようだ。


「――ワッツ!? じゃあシア……チューは?」

「誤解だって言ってるでしょ~……。私はただ、指で触ってただけだもん……」


 ようやくのこと、ミーランの誤解を解くことが出来たようだが――新たな問題が浮上した。


「指……で……なの?」


 ミーランは毎晩口づけされていると勘違いしていたため、意を決して仕返しをしたのである。

 そして今、自分の勘違いに気がついたミーランは、羞恥心に苛まれていた。


「ひどいの! シアはいじわるなの! もう一緒に寝てあげないの!」

「そんなっ!? 待ってミーちゃん! ちゃんと謝るからぁ!」 


 このままでは、フレイシアの楽しみが無くなってしまう。

 至福のもちもちを失ってしまう。


「ダメなの……許してあげないの」


 ミーランはそっぽを向いて、すっかりむくれてしまっている。


「ゴメンねミーちゃん……どうしたら許してくれる……?」


 フレイシアが真摯に謝り続け、ようやくのことミーランが折れたようで――


「……チョコレートなの」

「――え?」

「今日のチョコレートはシアのおごりなの……それで許してあげるの」


 ミーランとしても、いつまでもフレイシアと喧嘩をしていたくなかったため、仲直りの条件を提示した。

 ミーランが言うチョコレートというのは、祭りの出店に格安で出品される、新作チョコレートのことである。


「うぐッ……! わかったよぉ……今日は私が買ってあげる! だから仲直り……しよ?」


 フレイシアは感謝祭に向けて、ステリアから貰ったお小遣いを貯めていたのである。

 確かに痛手ではあるが、ミーランと仲直りが出来るなら安いものであった。


「イエス……なの、でももう一つあるの……」

「もう一つ? ……なに?」


 そっぽを向いていたミーランはフレイシアに向き直り、もう一つの条件を出す。


「ミーだけ不公平なの……シアも……チューして」


 頬を赤らめて恥ずかしそうにモジモジしながらそう言ったミーランを見て、フレイシアが正気でいられるわけがなかった。


「わ――わかったよミーちゃん……目を閉じて……」


 フレイシアはミーランの肩に手を置き、そしてミーランはゆっくりと目を閉じた。

 二人の顔は少しずつ近づいていき――


――チュッ!


 と、フレイシアはミーランの唇に(・・)唇を重ねた。


「――違うの! ほっぺに決まってるの! やっぱりシアはヘンタイなのッ?!」

「うわああああ! ミーちゃんごめ~ん!!」


 また怒らせていた。


◆◇◆


 紆余曲折あったが、ベアータとエルアナ意外の四人は、感謝祭の開場であるマーケットパークに到着していた。


「シア! 出店はあそこなの! 早く買ってくるの!」


 未だ怒りの収まらないミーランが、新作チョコレートを売っている出店を指してフレイシアに司令を出した。


「イエッサァー!!」


 フレイシアは美しい敬礼をして、出店に向かって駆け出した。


「ただいま戻りましたぁ~!」


 数分後に戻ってきたフレイシアは、両手にチョコレートを抱えていた。

 今年の新作はロリポップのような形状で、棒の先端に星やハートなどの形をしたミルクチョコレートが付いている子供向けのものだ。

 十本セットの物を買えるだけ買ってきたようである。

 さておき、まずは一本取り出して、ミーランに手渡した。


「ヤム……ヤム……なの」


 甘いチョコレートを味わい、ミーランの怒りは徐々に収まり始めたように見受けられる。


「お――御気に召して……いただけたでしょうか……?」


 恐る恐る訪ねるフレイシア。

 その表情には、どこか怯えが混じっている。


「もういいの……許してあげるの…………シアも一緒に食べるの」


 許してくれるというミーランの言葉で、ようやくフレイシアの肩の荷が降りたようだ。


「ん~! おいしいねミーちゃん! それと……ゴメンね」

「ミーも怒り過ぎたの……ゴメンなの」


 仲直りができた二人は、その後もチョコレートを分け合いながら祭りを楽しんだ。


◆◇◆


 祭りを堪能した一行は家に帰り着き、ベアータ達も交えてリビングで談笑している。

 大人たちは食卓で、子供組はソファの方でそれぞれ集まっている。


「来年はエルちゃんも一緒にいけるかな~? 今日はお留守番させてゴメンね~」


 フレイシアはソファーに寝かされているエルアナの手を取り話しかけている。


「あ~ぅ、あぅあぅ」


 手を取り、魔力の波長を合わせているフレイシアに、エルアナは異常なほどに懐いているのである。

 この時もご機嫌であった。


「シアのそれはずるいの……そうなの! 三人で繋がれるようにするの! シアなら出来るの!」 

 ミーランもエルアナに嫌われているわけでは無いのだが、ミーランとフレイシアが同時に手を差し出せば、十中八九フレイシアの手を取るのだ。

 ミーランはそれを寂しく思っていた。


「ん~……出来るかなぁ?」

「出来るはずなの! やってもらわないと困るの!」 


 自身のなさそうなフレイシアに、ミーランは必死に追い縋る。


「うあ、あう、うあ。わかった! わかったよミーちゃん! だから揺するのをやめてぇ!」


 ミーランはフレイシアの腕を掴み、ユサユサと揺らしていたのだ。


「コンセントレイションなの! 必ず成功させるの! もし出来たら……チューしてあげるの!」


 もはやなりふり構わないミーランであった。

 言っているうちに熱が入ってきたようである。

 そしてこの言葉で魂を燃やすものがいた――フレイシア・ノーリン・ハートその人である。


「――ッ!? やる! 私はやってみせるよ! ふぅ……」


 ミーランのあの柔らかい唇を思い描き、フレイシアはまたしてもトランス状態に入った。

 このトランス状態のフレイシアは意識を失っているも同然のため、記憶が残らず、いつの間にか新しい魔法を習得しているという事がいままでにもあったのだ。

 エレメンターの覚醒然り、調和魔法然り。

 大抵あとになってユイから聞かされていた。


 さておき、いまフレイシアはミーランとエルアナの手を握って、三人の波長を調整している。

 正常な精神状態ではとても成し得ないような繊細な魔力操作を行っているのだ。

 異なる三人の魔力の波長が、少しずつ、少しずつ混ざり合い――そして飽和していった。


「《グループ・コネクト》」


 意識のないフレイシアが呟いた言葉。

 それが新しい調和魔法の名前であった。

 この言葉を切っ掛けに発動した魔法により、三人の魔力が完全に飽和した。


「アメイジングなの……ほんとにやっちゃったの……チューするって、言っちゃったの……」


 ミーランの感情は複雑であった。

 ともあれ、未だトランスしているフレイシアの頬をぺちぺちと叩いて、意識を戻させた。


「うっ……うぅ……またこれ……かぁ……疲れたぁ」

「お疲れ様なの……エルのことはミーに任せて、シアは少し休むの」


 ミーランはそれとなくエルアナを独り占めにしようとしていた。


「うん……。ちょっと休憩するね~」


 そう言ってフレイシアはソファーに背中を合わせた。


 そのままエルアナと戯れながら、フレイシアとの約束をどうしようかと悩むミーランであった。


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エレメンツ:ガールズ―elements girls―旅立ってからのお話です。
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