かんげいかい!
お互いの秘密を打ち明けあったことで、フレイシアとミーランは親友と呼べるほどの仲になっていた。
その後、他愛無い会話を交わしたところでミーランが切り出した。
「資質なんて概念は聞いたことが無いの、おそらくだけど、人に眠っている潜在能力のようなものなの」
フレイシアの話した資質というものは目に見えるようなものではない上に、どれだけ五感の優れた者にも感じ取ることすら出来ない。
そのため、この世界の人々は、そんな才能が眠っている可能性を見落としていたのだ。
「もしそれを見つける方法が確立されれば、人の潜在能力を覚醒させることも可能かもしれないの。公になったら大騒ぎなの」
「やっぱり秘密にしておいてよかったよぉ。そして、み~ちゃん愛してるよ~!」
「シアは人の話を聞いているの?!」
何かにつけてミーランに抱きつくフレイシアであった。
◆◇◆
フレイシアとミーランが部屋に入った頃。
リビングに残っていたステリアとカレットの方も本題に入ろうとしていたのだが、あてがわれていた私室でエルアナの世話を焼いていたベアータが、エルアナを抱いてリビングに入ってきた。
「どなたかいらしてたんですか? あ――失礼しました」
部屋に入ったベアータはソファーに座るカレットが視界に入り、接客中だったかと身を引こうとした。
「待ってベアータ。カレット、彼女も同席させていいかしら?」
「……えっと、彼女は?」
流石に、見ず知らずの他人に身の上話をするのは躊躇われたため、カレットはベアータの紹介を求めた。
「そうね、まずは紹介しないといけないわね。彼女はベアータ、抱いてる赤ちゃんはエルアナよ。ちょっと事情があって、今は一緒に暮らしているの」
そういってステリアはベアータとエルアナを紹介した。
「ご紹介に預かりましたベアータです。私達は――」
それからベアータはリビングの入り口からカレットの側へ歩み寄り、ステリアの家に居候するに至った経緯――武勇伝を話して聞かせた。
「あ~んステキ! そんな奴ら、ぶっ飛ばして当然よねー!」
カレットは英雄譚を聞いた少年のごとく目を輝かせていた。
話を聞いたカレットは、共同生活をすることになるベアータにも聞かせるべきだと思い直した。
「……なるほどね。これから同じ屋根の下で苦楽を共にするんだもん……話すべきね――」
カレットはミーランがフレイシアへ語ったように、ステリアとベアータに事の次第を説明した。
「ヴォルケーノ……あいつら、まだ活動していたのね……」
「王国もギルドも、あの組織には手こずっているようですね」
「半年かけて奴らの目は散らしてきたの、尾行はないはずだよ」
ステリアもベアータも、ヴォルケーノの事は噂で知っていた。
カレットは、険しい顔をする二人に、この町までは追ってこないはずだと補足した。
「それにしても。半年も旅だなんて……ミーランちゃんはよく耐えられたわね」
先ほど元気な姿を確認したとはいえ、幼い少女に逃亡の旅は相当な負担になったのではないかと心配していた。
「忘れたのステア? 私には“ドールハウス”があるんだよー」
カレットは、分かるような、分からないような返答をした。
ドールハウスというのは、錬金術師であるカレットが作成した魔道具だ。
形状は折りたたみ式のテントのようであり、その中は拡張した空間が広がっていて、家屋のようになっている――さながら持ち運び式の民家だ。
この世界の錬金術師というのは、魔道具や薬品の研究、開発を生業としている。
もちろん、研究テーマは、その錬金術師によってさまざまだ。
ともあれ、冒険者時代に自分も住まわせてことのあったステリアも思い出したようで――
「あー。そうだったわね。あの中に入っててもらえば、あなたが歩き回るだけで済むものね」
「そうそう。ヴォルケーノに嫌がらせを受けていた頃に旦那と話し合って、いざとなったら逃げることに決めていたの。だから、旅に必要なものはマジックバッグに用意しておいたの」
ちなみに、マジックバッグはこの世界で一般的に出回っている魔道具で、鞄の中の空間が拡張されており、馬車一台分くらいの容量がある。
「本当なら家族三人で逃げ出すはずだったんだけど……一足遅かったの……」
家を捨てて家族揃って逃走する予定だったのだが、その準備の最中、ヴォルケーノは突然攻め入ってきたのだ。
その時の光景を思い出したのか、カレットの表情が曇る。
「カレット……あなたは立派に娘を守り抜いたのよ……よく頑張ったわね」
そう言ってステリアはカレットの肩を抱き寄せた。
「……うっ…………ステアあぁぁぁ!」
冒険者時代、ステリアのことを姉のように慕っていたカレットは、ステリアに抱き寄せられたことで、旦那を失い、一人きりで娘を守り続ける日々で溜まり続けていたものが、一気に溢れ出した。
カレットは、しばしそのまま涙を流し、落ち着くまでステリアがその背中を優しく叩いていた。
カレットが落ち着くのを待って、ステリア達は話を再開した。
「ともあれ、私はカレット達がここで暮らすのに異論はないわ」
ステリアとしてはカレット達との共同生活に肯定的であったが、フレイシアにも相談しなければと思っていた。
「私もです。そもそも、私達も居候ですし、お気になさらず」
居候であるベアータは、自分が口出しできる立場ではないことを自覚しており、さらに、カレットの人となりに、特に思うところもなかったため、成り行きに任せることにしたのだ。
「ありがとう二人共……そういえば、ミーラン達はどうしてるかな?」
この場に居るステリアとベアータには了承を得たものの、ミーランとフレイシアの相性が悪いようならどうしようかというのが、カレットの気がかりであった。
「手を繋いだまま部屋に行ったから大丈夫だとは思うけど……何か通じるものでもあったのかしら?」
少しフレイシアの様子がおかしかったのが気になってはいたが、険悪そうには見えなかったため、二人で部屋に向かう時も止めるようなことはしなかった。
「ミーランちゃんでしたっけ。エルアナとも仲良くしてくれるでしょうか」
フレイシアはエルアナを自分の妹のように可愛がっていたので、ミーランにも仲良くしてもらいたい、というのがベアータの希望である。
「ミーランは優しくて賢い子だから大丈夫だと思うの。フレイシアちゃんと何を話してるのかなー」
二人が部屋にこもってから、すでに一時間以上が経過している。
こちらの話も一段落したのでそろそろ戻ってきてほしいと、三人それぞれが思っていた。
「まあ、フレア達なら大丈夫でしょう。それより、そろそろお昼だから食事の用意をしておくわね」
「ステア。それなら私も手伝うよー」
食事の用意を始めようとするステリアに、カレットが手伝いを申し出た。
「そうね、それじゃあお願いしようかしら。ベアータはそこで待っていてちょうだい」
ステリアはカレットの申し出を受け、エルアナの世話があるベアータには寛いでいるように言いつけた。
「いつもすみません。お言葉に甘えさせていただきます」
エルアナを抱いたままでは満足に手伝うことも出来ないため、ベアータはおとなしく身を引いた。
◆◇◆
ステリアとカレットが昼食を作り終え、食事の支度が整った頃。
フレイシアとミーランが、親密な様子でリビングに入ってきた。
「あら、おかえり二人共……って、随分と仲が良さそうね……」
行きは普通に手を繋いでいただけだったのだが、帰って来た二人は指を絡め、ニコニコと笑いあっていた。
「うん! 友達になったんだぁ!」
「相思相愛なの」
「そ――そうなの……それはよかったわ。……さあ二人共! お昼にしましょう!」
少しだけ冷や汗をかいたステリアであったがなんとか取り直し、食卓へ座らせた。
「先に確認しておかなくちゃね。フレア、ミーランちゃん達と一緒に暮らそうと思うのだけど、あなたはどうかしら?」
返答はわかりきっていたステリアだが、一応の体裁としてフレイシアに尋ねた。
「もちろん良いよ! ミーちゃんは私の部屋においでよ!」
「ルームシェアなの。今夜は寝かさないの」
フレイシアもミーランも共に暮らせることが嬉しいようで、二人揃ってごきげんである。
念のために。
ミーランが寝かさないと言ったのは、色々と話したいことがあるためであって、他意はない。
「夜更かしはしすぎないようにするのよ。……それじゃあ、皆グラスを持って!」
カレットとミーランという新しい住人が増えるとあって、昼食は少し豪華なものを用意してある。
そして、一同がグラスを持つのを確認して、ステリアが代表して音頭を取る。
「それでは。カレット、ミーラン、そして、ベアータとエルアナも、改めてよろしくね。……これからの新しい家族に――」
「「「「「かんぱ~い!!」」」」」
この日の昼食はちょっとしたパーティだった。
乾杯の後、それぞれが談笑しながら食事を楽しみ、食事が一段落したら、ステリアとカレットが改めて再開を懐かしみ、フレイシアとミーランは、ベアータを左右から挟んで座り、エルアナを愛で、ベアータとの親睦も深め、エルアナも終始楽しそうに笑っていた。
◆◇◆
歓迎会を兼ねた昼食を終え、フレイシアはミーランを伴って庭に出ていた。
「シアのエレメント、楽しみなの」
二人が庭に出ているのは、フレイシアのエレメントと魔装を見せるためである。
「ふっふ~ん! それじゃあいくよ! おいでユイ!」
フレイシアの呼びかけを受け、出番を今か今かと待ち構えていたユイが姿を顕す。
『じゃっじゃ~ん! ユイだよぉ!』
体長二十センチ程の小さなフクロウが、元気よく飛び出してきた。
「……綺麗な羽なの……触りたいの……」
『いいよ~、でもあんまり乱暴にしないでね?』
そう言ってユイは地面に降り立ち、ミーランの元へ短い足でトテトテと歩み寄った。
「……はぁ~、気持ちいいの~。柔らかいの~」
ミーランはユイのさわり心地が気に入ったようでモソモソとなでている。
「でしょ~! ユイの羽は最高だよ~!」
そんな具合に。
しばらくはユイの羽毛について盛り上がり、いよいよフレイシアの魔装を見せる。
「ユイ《モデル・スノーナイト》」
その言霊を受け、ユイの体が輝き形を失ってく。
そして二つに別れた光はフレイシアの両手へ。
雪の舞う夜空を連想させるニ丁拳銃を手にしたフレイシアは、例のごとく片膝を付き、両手の銃を体の前で交差させ構える――
「シア……ベリーキュートなの!」
やはりまだまだ貫禄は出ていないようである。
フレイシアもどこか所在なさ気な表情だ。
「いいもん……わかってるもん……」
褒めたにも関わらず何故か肩を落としているフレイシアを見て、ミーランは首を傾げた。
「どうしたのシア? えっと、その武器? は、どうつかうの?」
ともあれ、気になったことを質問するミーラン。
フレイシアももう気にしていないようだ。
「これは銃っていってね――」
スノーナイトの性能についてフレイシアは説明し、フルオートが扱いきれないという悩みも添えて伝えた。
「それは仕方がないと思うの。体が育つのを待つの。その銃っていうのは他にも種類があるの?」
そうだねぇ~、といって悩むフレイシア。
なんとなくの形なら分かるのだが、武器についてはあまり詳しくないため、縁日で遊んだ射的の空気鉄砲について話すことにした。
「空気鉄砲はね、中の空気を圧迫して弾を飛ばすんだよ。縁日ではよくあそんだんだぁ。あ、空気砲っていうのもあったよ」
これは小学校で人気だった、じろう先生がよく作って遊ばせてくれたものである。
「面白いの! シアの居た世界の話、もっと聞きたいの!」
二人はそのまま日が暮れるまで談笑していた。
この日フレイシアが話した前世のおもちゃ。
これがいずれ、ミーランの手によってフレイシアの代表武器に昇華するのだが――それはまだ先の話。




