調和の本領
「落ち着きなさいな……とりあえず話を聞かせてちょうだい」
突然現れて、ステリアの言葉を遮るほどに慌てている元パーティメンバーの女性を諌めるステリア。
「……おばさんの知ってる人なの?」
ステリアの足元に立っているフレイシアも、女性を見て驚いていた。
「――ッ!? ステア! あなた子供がいたの!?」
女性はステリアの面影のあるフレイシアを見て娘と勘違いしたようだ。
「はあ……相変わらずそそっかしいわね。その子は私の姪でフレイシアよ、姉さんの忘れ形見なの」
「そ――そうだったの、ごめんねステア……」
さすがの女性も、自分の失態に気がついたようで、素直に謝罪した。
「ママ……カームダウン。まだ挨拶もしてないの」
「「えっ!?」」
と、驚いたのはフレイシアとステリアだ。
女性をママと呼んだ誰かは、ひょっこりと女性の足元から顔を覗かせていた。
「ミーはミーランなのミーラン・ダイス、三歳なの。ママはカレット・ダイスなの」
ミーランと名乗った少しタレ目の少女は、顔のラインに沿ったショートボブで、白っぽいブラウンの頭髪をしている、そして頭頂部付近が少しはねており――さながら獣耳のようで実に愛らしく、チャームポイントであることを確信させる。
加えてフレイシアと同じくらいの小さな身長が、その小動物っぷりに拍車をかけている。
そして、ミーランに紹介された母親のカレットはと言うと。
同じくタレ目で髪色も髪型も似ているのだが、その頭髪はだらしなさを感じさせるボサボサといった風体であるが、どこか妙な色っぽさを醸し出している二十台後半の女性だ。
二人は何故か白衣を纏っており、科学者のようなイメージを受ける人族だ。
「あーん、さすがミーランね。ママちょっとせっかちしちゃったー」
ミーランの時々イングリッシュな言葉遣いはともかく、平坦な口調でクールな印象、カレットのすこしせっかちで感情が表に出過ぎる裏表のないオープンな印象――まるで正反対な性格をした親子である。
さておき、この場には可愛いものに目がない少女がいるのを忘れてはいけない。
もちろん今も――
「か……かわいい!」
「ワッツ!? な……なに……なんでミーに抱き付いてるの?」
もはや脊髄反射であった。
「ミーちゃんっていうんだね! 私はフレイシアだよ! よろしくだよ~」
フレイシアはミーランに頬ずりしながら自己紹介している。
「プリーズ、分かったの、とりあえず放れて」
「こらフレア! いきなり抱き付いたらダメだって言ってるでしょう!」
例のごとく、フレイシアはステリアに引き剥がされてしまう。
「うぐぅ~……もうちょっと……もうちょっとだけぇ~……!」
――反省も後悔もしていないのであった。
「クレイジーなの……」
ともあれ、ミーランは開放されてホッとしているようだ。
後ろから腹部を抱えられ手足をバタつかせているフレイシアを抱えているステリアが、カレットに向き直る。
「……とりあえず中に入ってちょうだい、リビングに案内するわ」
一行はリビングに到着した。
ソファーに座るように促され、ステリアに解放されたフレイシアは、当然のようにミーランの隣に腰掛けた。
しれっとミーランの手を握っているようだ。
「おかしいの……違和感がないの……」
遂にフレイシアは、相手に違和感を与えずに手を握る術を編み出したらしく、それにミーランが驚愕している。
これは、エルアナの手をむにむにし続けるために開発したものだ。
《調和の資質》をフルに発揮し、相手との波長をあわせ――さながら、長時間身につけたアクセサリーのごとく、極自然に相手の手を握りずつける魔法、その名も『私の心は貴方の一部』である。
「あらーん? もうお友達になったの?」
「えっとぉ……話を進めたいのだけど?」
そんな風に、ミーランが驚愕し、カレットが暢気なことを言い、ステリアが少しだけ寂しそうにしている脇で、フレイシアはまたしてもトランスしていた。
その集中力は――エレメンターとして覚醒した時のそれを遥かに凌駕するものであった。
『……ミーちゃん……かわいい……』
「ノーウェイ! ……頭のなかで声がするの……」
『……お友達になろ~……』
「こ――こんなの……人知を超えてるの……」
~・フレイシアは念話を習得した!・~
念話。
それは、接触している相手との波長を合わせ、親和性を高めることにより、思念そのものを魔力として相手に譲渡する魔法――『調和魔法』、《調和の資質》を持つものにのみ使える特異魔法である。
フレイシアが接触している間、その相手も念話を扱うことが出来る。
「んー? どうしたの、ミーラン。初めてのお家で緊張してるの?」
念話は送受信する者同士でしか聞き取れないため、カレットとステリアには聞こえておらず、二人は首を傾げている。
「フレア……あなた、またなにか……」
どう考えても元凶は、ミーランの手を握り、目を閉じてニヤニヤしているフレイシアであろうと当たりをつけていた。
「え~? 私はただぁ~、ミーちゃんの手を握ってるだけだよ~?」
――などとしらばっくれている。
「ミーもヤラれてばかりじゃないの……! ノア」
『あいあいっ!』
反撃に転じようと、ミーランが呼び出したのは――シマリスのようなエレメント。
ミーランもエレメンターだったのだ。
「ノア、メタモルフォーゼ」
『オーケーだよ!』
「『《博識の片眼鏡》』」
ミーランの魔装――博識の片眼鏡は、モノクルを通して見たものの本質を見破り、本来知り得ない情報を得ることが出来る。
「これ……は……。ミーとこの子の魔力が飽和してるの……こんなことが……」
ミーランがフレイシアと繋いだままの手を見た時、自分たちの魔力が飽和していることを見抜いた。
そして――
『転生者……なの……?』
ミーランなりに気を使ったのか、念話でフレイシアに問うた。
『――ッ!? どう……して……』
『場所を変えるの、聞かせてほしいの』
転生者と見抜かれたフレイシアの動揺は、いま魔力が繋がっているミーランに伝わっていた――抱え込んでいる、その深い闇も。
ミーランは、フレイシアが悪人ではないことも分かっていた。
それに、人の秘密をいたずらに言いふらすのも好まないため、場所を変えて二人で話そうと提案したのだ。
そして慌てて手を放そうとするフレイシアを、今度はミーランが捕まえる。
『……いや……やめて……!』
『……放さないの』
ミーランはそこで一度言葉を区切る。
『……友達なら……隠し事はダメなの!』
その言葉がフレイシアの琴線に触れたのか、フレイシアは重い腰を上げた。
「二人で話をしてくるの、空いてる部屋を貸してほしいの」
「ミーランちゃん、急にどうしたのよ? ……それにフレアも」
先ほどと違うフレイシアの様子に、ステリア状況がわからず首を傾げる。
「……私の部屋に行ってくるね、おばさんたちはここで話ししてて」
フレイシアとしても、繋がっていることでミーランの温もりを感じ、随分と落ち着いているようだ。
そんな二人を見て、心配はなさそうだと思ったステリアは了承し、ステリアとカレットを残し二人はフレイシアの私室に向った――
◆◇◆
「ミーちゃん……どうして分かったの……?」
部屋に入ったところでフレイシアが切り出した。
二人は横並びで手を繋いだままベッドに座っている。
「このモノクルは、見た物の本質を見抜くの、貴方の魂は子供のそれとは少し違ったの……だから――」
不安で押しつぶされそうになったフレイシアが堪らず言葉を遮った。
「お願い! 誰にも言わないで! ……嫌われたくないの……」
そんなフレイシアの手に、ミーランがもう片方の手をそっと重ねて、フレイシアを真っ直ぐに見つめる。
「ミーは誰にも言わないの……秘密なんて誰にでもあるの……ミーにも……ミーの秘密も、貴方に話すの」
フレイシアの抱える闇の深さを感じていたミーランは、まず自分の秘密を打ち明けることにしたようだ。
「……ミーはウィッチ、魔道士なの」
それを歯切りにミーランは語り始めた。
ミーラン・ダイスは産まれながらに魔道士であり、エレメンターとして覚醒していた。
この世界の生物は、無意識に体内の気を魔力に変換している。
気を一度魔力に変換すれば、再び気に戻すことは出来ない。
しかし、これを自在に行える、肉体を超越した者達が極僅かに存在する――それが魔道士だ。
魔道士の存在は極めて稀であり、発見が報告された魔道士は、その膨大な力を目当てに身柄を狙われることさえある。
かくいうミーランもそうであった。
二歳までは周りの協力もあり隠し通すことが出来ていた。
だがある時、それを嗅ぎつけた組織が現れた。
革命を謳い、殺人、強奪を繰り返す犯罪集団――『聖者の怒り』である。
最初のうちは、ミーランの引き渡しを拒む両親に悪辣な嫌がらせを続ける日々であったが、とうとうしびれを切らした奴らは、強硬手段に出た、ミーランを拉致するために、ミーランと両親が暮らす家に、数人で押し入ってきたのだ。
押し入ってきた奴らは怒鳴り散らし、辺りにある家具を破壊し続けた。
愛する妻と子を守るために、父親は苦渋の決断をする。
自分が奴らを引き受け、その間に妻と子を逃がすと言うものだ。
父親は勇猛に戦った、複数人を相手に善戦したのだ。
母親に連れられ逃げ出す時、ミーランの目に写ったのは、勇猛に戦う父の背中と、醜くあがく虫けらをあざ笑うような、リーダー格であろう男の悪相であった。
おそらく父親は生き残ってはいまい、ただ母親に抱かれ、逃げることしか出来なかった自分が憎いと、ミーランは語った。
「そんな……ひどすぎるよ……」
話を聞いているうちに、フレイシアの目には涙が溜まっていた。
「奴らの目を逃れるために、半年かけて各地を転々としていたの。最終的には、ママのパーティメンバーだった貴方のおばさんに頼ろうと決めていたの」
「ごめんね……私何も知らずに……」
「良いの、貴方との繋がりが出来て……ミーは嬉しいの」
ミーランにとって、転生者であるフレイシアの存在は、希少な存在である自分とダブって見えたのだ。
「ミーはウィッチ、貴方は転生者。ミー達は似ていると思うの……秘密を分かち合えるの」
「ミーちゃん……」
フレイシアは今の感情を言葉に出来なかった――ただ、ミーランを抱きしめ、共に涙を流すだけだった。
――しばしそのまま抱き合って。
「全部話すよ……聞いてミーちゃん――」
フレイシアは全てを語った。
叔母であるステリアにさえ話していない自分の資質も――思いもすべて。
対等に全てを分かち合える存在を得たのは――前世も含めて、初めてのことであった。
いま魔法で繋がっていることも手伝って――二人の絆はより確かなものとなった。
「シア……ミーと友達になって欲しいの」
「ミーちゃん……私と友達になってください」
フレイシア・ノーリン・ハート、そして、ミーラン・ダイス。
――この二人の絆は、生涯切れることはない。
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