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東方遊楽調  作者: 甘味処アリス
第1章〜子供達の黄昏〈人超異変〉編〜
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第六話『紅魔館から来た男〜人超異変第四面〜』


 俺は、倒れて今度こそ意識を失った慧音を木の根元に寝かしつけ、俺は少し羽ばたくと、巨大な森を見つめる。


「魔法の森……あそこだな。魔力の匂いがプンプンする。……行ってみるか」


 俺はそう言うと同時に、助走をつけ、翼を広げて森へと飛ぶ。

 すると、人里から俺を追いかけるように凄いスピードで何か……男が飛んできた。それも、すごい妖力と魔力……かなり高位の妖怪だな。

 大天狗と同じくらいの力はあるだろう。さすがに天魔ほどとは言わないが……。


「待て! お前もこの異変を解決しに来たのか!?」

「そういうお前は誰だ!?」


「俺は『ヴラド・スカーレット』、紅魔館という館で生活をしている! 今回は館の主人の指令で、異変の解決に来たんだ!」


「へぇ、そうかい!」


 俺が続きを話したそうにしている男を無視して、思考を巡らせる。

 それにしてもこいつ……ヴラドと言ったか? 俺の飛行スピードについてこれるなんて、相当だな。

 しかも、妖力の操作にかなり慣れていることが妖精や雑魚妖怪を倒す様からわかった。


「もしよろしければ、俺と一緒に……っておい! 聞いてんのか!」

「ああ、すまん。聞いてなかった。それで? どんな話だ?」

「俺と一緒に異変解決をしてくれって話だよ!」


 ヴラドはそう言うと、突然俺の頭上に飛び上がり、かかと落としをしてくる。


「何しやがんだ!!」

「俺より弱いんじゃ、ただの足手まといだからな!」


 俺はヴラドの答えを聞きながら、冷静に攻撃をかわす。


「俺、空中戦苦手なんだよな……」


 俺は半分は天狗だが、空中では遠距離攻撃の方が重要視される。近距離攻撃では踏ん張れる大地や土台がないため、そこまでの威力が出ないからだ。

 それに、横になった状態より、立っている状態の方が近接戦では攻撃力が高くなるし、攻撃方法も格段に幅広くなる。


 そういった所から、俺は近接戦闘の方が得意。故に、遠距離戦闘はかなり苦手……なのだが。

 ヴラドは空から蝙蝠のような羽をはためかせ、召喚魔法陣を手元に展開し、そこから一本の槍が出現する。


「神槍『分裂する槍(ゲイ・ボルグ)』」


 それはケルト神話に伝わる、スカサハより若りし頃のアルスターの英雄クー・フーリンへと授けられた伝説の銛のような槍。


 ヴラドはゲイボルグを上空に向かって投げつける。ゲイボルグは伝説の通り、空で30もの槍に分裂する。それは吹き荒ぶ嵐となり、雷と共に降り注いだ。


「あーあー……やりやがった」


 俺はそう言いながら、結界を張ったり動きを調節することで投げられたゲイボルグをかわす。

 俺は出現した全てのゲイボルグを避けて、ヴラドに向き直る。


 ヴラドはゲイボルグを手に、俺に突き出した。

 それと同時に、槍の周囲にたくさんの棘のような鋭い物が出現し、こちらに飛んでくる。


「……覚悟はいいんだろうな?」


 俺はそう言いながら、飛んでくる棘を刀で斬りさばく。

 そのまま、ゲイボルグを真っ二つに斬り落とすと、ヴラドは上昇して俺から距離をとった。


 さらにその両手には、新たな二つの魔法陣が光り輝く。


「完鎚『ミョルニル』、闘笛『戦を告げる笛(ギャラルホルン)』」


 ヴラドは俺に対し、魔法陣によって召喚された金槌を投げてきた。

 俺はすごいスピードで回転するそれを避けると、今度はヴラドが巨大な角笛を鳴らす。低いホルンのような音と共に、音を模したような波状攻撃の弾幕が飛んできた。


 俺はそれを妖力弾と妖力弾の間をくぐり抜けて回避すると、突然翼を巨大な固いものが襲おうとした。

 俺は瞬間的にその巨大な物に足を当てて蹴り飛ばすと、それは先ほど墜落したはずのミョルニルだった。

 ヴラドは単身で武器を持たずに俺に突撃してくるが、俺はそこを顔面に蹴りを決めようと足を振るう。が、それはヴラドにいとも簡単に防がれ、そのまま投げ飛ばされた。


「うぐ……!」

「その程度かァ!?」


 俺が怯んでる間に、ヴラドは俺の目の前に移動し、掌拳を俺の腹にめがけて撃ち放つ。

 俺はその衝撃に、思わず口から嘔吐しそうになるが、ヴラドの手首を握った。

 思いっきり握りつぶすつもりで握るが、一向にヴラドは痛みを顔に表さなかった。


「な……!」

「もう一度聞くぜ、その程度か?」


 ヴラドはそう言うと、逆に俺の手首を握りしめた。


「アガァァッ!」


 俺はその痛みに思わず吠え、ヴラドの腕を振りほどいてヴラドから距離を置く。

 なんなんだ、こいつは……! こいつの筋力は、戦闘力は、まさしく出鱈目だ。俺が今まで会った中でも、トップクラスの戦闘力だ。


 俺はそんなことを考えながら、再び刀を構え直す。


「ハアッ!!」

「オラァッ!!」


 俺の剣とヴラドの攻撃が交差する。遅れて、ヴラドの攻撃の衝撃が剣を伝って俺を地面に突き飛ばす。


「ウグッ……!」

「期待はずれだぜ!?」


 ヴラドはそう言いながらも、俺にかかと落としを決めようと足を振り下ろした。俺はそれを寸でのところで横に転がって回避すると、ヴラドの腹に向かって思いっきりタックルする。


「おおっ!?」

「ハアッ!!」


 そのまま勢いに任せ、ヴラドの顔面に拳を振るう。

 それはヴラドの右頬にクリーンヒットし、ヴラドはきりもみ回転しながら吹き飛んだ……と思いきや、地面に見事に着地し、こちらを睨みつけた。


「いい調子じゃねぇかぁ……! いいぜ、その調子で来い!!」


 ヴラドはそう言うと、俺に向かって走り込んできた。その途中、一歩踏み込んだところで、ヴラドの足元から大量の魔法陣が何重にも展開され、そこから数え切れない妖力弾が発生し、俺に向かってきた。

 俺は空に向かって上昇し、上空から巨大な妖力弾でその全てをかき消す。


 その一瞬だった。俺の背後から刃が突き立てられ、右翼が真っ二つにされた。


 俺は、片方の翼が折れ、飛行スピードが遅くなる。


 まさか……!


 バランスも不安定になり……急いで回復しなければと考えているうちに、もう片方の翼にもヴラドは迫ってくる。それと同時に、左翼に鋭い痛みが走る。翼が斬り落とされたと気づくのにそう時間はかからなかった。なんで強さだ……!


 ヴラドの強さを理解し、後悔と羨望が混じる間にも、自由落下によって急加速しながら俺は墜落した。


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