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東方遊楽調  作者: 甘味処アリス
第1章〜子供達の黄昏〈人超異変〉編〜
5/24

第四話『人里から消えたモノ〜人超異変第二面〜』

前話のタイトル、変更しましたー。


「志郎さん──」


 ん……なんだ? 誰かに呼ばれたような気がする。


「志郎さん!!」


 聞き覚えが、あるような、ないような……。


「志郎さん!!!!」

「ひゃい!!??」


 俺は文の怒号で、完全に目を覚ました。


「何でこんな所で寝てるんですか!?」

「何でだっけ……そうだ!! 爺さんは!? 少年は!?」

「爺さん? 少年? 何言ってるんです? 今この場には私たちしかいませんでしたが」


 文は疑問符多めで俺にそう言った。──冷静に考えてみれば、どっちも帰ってたな……。

 おさらいをしておこう。


 俺は前回、文を含めて3人の敵に連戦になり、その疲れからぶっ倒れたんだった。おさらいしゅ〜りょ〜!!


「そういや文さぁ、あの戦いはどういう意図があったの?」

「はい? どういうって言われても……」


 俺の急な質問に、文は困りきった顔をする。


「言葉通りとしか、言いようがありませんね」


 文は俺に対して、そうはっきりと断言した。言葉通り……というと、戦えない人を戦場に出さない、という話か。

 それで、俺を試した……ということか?

 俺は半信半疑で、村の入り口に歩いていく。

 文もカメラを構え直すと、駆け足で俺についてきた。


「何者だ! 現在、多くの少年少女が失踪中につき、村では厳戒態勢を取っている! 無理やりに村に入ろうとするなら、貴様もただでは済まんぞ!」


 おーおー、ご苦労なこって。

 村の入り口では、ガタイのいい兵士らしき人が、槍を持って警備をしていた。

 異変のおかげで、人が居なくなっているからだろうか?


「ていうか文、これについては知らなかったの?」

「ええ、一切合切、今回は何も下調べせずに来てしまったので……」


 おいおい、それは新聞記者としてどうなんだよ。俺は呆れ半分で、文を見つめる。


「な、何ですか!」

「うーん……」


 俺の唸りに、文は急に不安そうな顔をする。

 そうやって、会話のノリで何とか誤魔化せないかと村に入るが……兵士っぽい人に止められてしまった。


「待てと言っているんだ!!」

「とは言われてもなぁ……」


 今から白玉楼に帰るのもなんだか妖夢や幽々子様に申し訳ない。

 それに、今情報が入手できるとしたら、それは人里の中だ。


 とは言え、人里に入れないならどうしようもない。


「一旦帰るか……」

「待ちなさい!!」


 俺が引き返そうとすると、突然一人の少女に引き止められる。


「稗田様!」


 稗田と呼ばれた少女は、訴える門兵に対し、諭すように言った。


「この人は無害、私が保証します」


 この空気、稗田……まさか、阿礼か!? 生きていたのか!?


 稗田 阿礼とは、古事記の編纂者と言われる、天武天皇(のヤロー)に仕えてた女だ。

 半妖である俺に、人間として対等に接してくれた、数少ない人物でもある。


「さて……志郎さんですね。お待ちしておりました、ついてきてください」

「稗田様!!」

「……死にますか?」


 歯向かうように訴えかける門兵に対して、阿礼は俺がゾッとするくらい冷たい視線を向けた。


「さ、行きましょう」

「あ、ああ……」


 阿礼って、こんな奴だったか? とそう思いながら、俺は先導する阿礼についていった。


◇◆◇◆◇


「まずは、文さん。少々席を外していただいても?」

「え? 嫌ですよ!! 何で私が……」


 阿礼は文の返答を聞き、ドス黒い笑みを浮かべ始める。


「文さん、もう一度言います。この部屋から出てください」

「い、嫌ですよ……?」


 阿礼の表情の変化に、文は泣きそうになりながらも抗う。

 阿礼はそれを聞き、非常に和かな表情に変わる。


「なら、仕方ありませんね。熱湯に弾幕の的に、剣術指南の人形……どれがいいですか?」

「退散させていただきます!」

「よろしい」


 文は阿礼の発言により、部屋から出ようとする。阿礼はそれに、満足そうに頷いた。


「さて……先祖より、お話は伺っておりました」

「ちょっと待て、先祖?」

「ええ。私は稗田 阿求。稗田 阿礼より続く稗田家の9代目です。私たちの仕事は、歴史を綴ること。それ故、過去の記憶の一部も継承しているのです」


 ……そうか。少し変だと思ったら、阿礼の子孫か。それにしても……阿礼そっくりだな。

 いや、阿礼はもうちょっと……こう、出るところは出てたんだよな。


 ていうか、歴史を綴るか。確か、阿礼も同じようなこと言ってたな。

 ……ん? 俺のことは、覚えてないのか?


「私たちは、仕事に関連した記憶以外は残念ながら継承できません。ですが……貴方に対して、手紙は残されていました」


 手紙か、阿礼らしい。あいつは字を書くことが好きだったからな。


「こちらです、どうぞ」

「ああ……異変を解決したら、しっかりと目を通すよ」

「それなんですが……今回は、手を引いてくださいませんか?」

「は? なぜ?」


 阿礼……間違えた。阿求のその言葉に、俺は驚く。


「助けない方が、幸せだからです。今回失踪した子供達の多くは、寺子屋にも碌に通えない可哀想な子供達です」

「……いくらお前でも、その言葉は許さないぞ」


 寺子屋に通えないから、子供が不幸? 可哀想?

 こいつは、親に引き離された子の気持ちを、子がいなくなった親の気持ちを理解して言ってるのか?


 そりゃ、子供達が虐待を受けていたなら話は別だ。

 だが、今回いなくなった子の親たちは、本気で悲しんでる。それは、大天狗の力で分かる。


「……仕方ありませんね。貴方には怪我して欲しくなかったのですが……」


 俺と阿求は、ほぼ同時に阿求の屋敷から飛び出した。


 阿求の放った霊力の弾を、俺は霊力を含んだ風を飛ばして吹き飛ばす。


「なっ!?」


 ……っくそ。阿求とか人間の女には、流石に手荒なことはできないからな。妖力弾は苦手なんだが……あれ、妖夢の言ってた『弾幕』ってこういうことか?


 俺はそう思いつつ、妖力弾を阿求を取り囲むように巨大な妖力弾を4つ作り出す。


「降伏しろ」

「……わかりました。やるからには、怪我しないでくださいよ」


 阿求はそう言って、霊力を元に戻した。俺も妖力弾を消す。


「そういや、今回の異変の手がかりを探してるんだが……負けたし、教えないとかないよな?」

「はぁ……仕方ありませんね。今回の異変は、魔法の森に行ってみてください。鍵はそこにあります」


◇◆◇◆◇


「止まれ! ここは今、通行止めだ!!」

「あれ? 慧音じゃないか」

「その声はまさか……志郎か!?」

「慧音は変わんねーなー。それで、変化の方はどうなった?」

「ああ、まだあんまり上手くいってなくてな」


 俺が魔法の森と言われて、阿求の指差した方にある森にとりあえず行ってみると、そこには俺の旧友(半妖仲間)である上白沢 慧音が待ち構えていた。


「……お前も異変解決に来たのか?」

「まあな。残念ながら、俺が今お世話になっている所が財政難でな」

「……ふむ。お前なら大丈夫だとは思うが、一応試してみるか」


 慧音はそう言うと、突然襲いかかってきた。

 まあ、体は半妖だし、肉弾戦になっても大丈夫……だよな。

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