第四話『人里から消えたモノ〜人超異変第二面〜』
前話のタイトル、変更しましたー。
「志郎さん──」
ん……なんだ? 誰かに呼ばれたような気がする。
「志郎さん!!」
聞き覚えが、あるような、ないような……。
「志郎さん!!!!」
「ひゃい!!??」
俺は文の怒号で、完全に目を覚ました。
「何でこんな所で寝てるんですか!?」
「何でだっけ……そうだ!! 爺さんは!? 少年は!?」
「爺さん? 少年? 何言ってるんです? 今この場には私たちしかいませんでしたが」
文は疑問符多めで俺にそう言った。──冷静に考えてみれば、どっちも帰ってたな……。
おさらいをしておこう。
俺は前回、文を含めて3人の敵に連戦になり、その疲れからぶっ倒れたんだった。おさらいしゅ〜りょ〜!!
「そういや文さぁ、あの戦いはどういう意図があったの?」
「はい? どういうって言われても……」
俺の急な質問に、文は困りきった顔をする。
「言葉通りとしか、言いようがありませんね」
文は俺に対して、そうはっきりと断言した。言葉通り……というと、戦えない人を戦場に出さない、という話か。
それで、俺を試した……ということか?
俺は半信半疑で、村の入り口に歩いていく。
文もカメラを構え直すと、駆け足で俺についてきた。
「何者だ! 現在、多くの少年少女が失踪中につき、村では厳戒態勢を取っている! 無理やりに村に入ろうとするなら、貴様もただでは済まんぞ!」
おーおー、ご苦労なこって。
村の入り口では、ガタイのいい兵士らしき人が、槍を持って警備をしていた。
異変のおかげで、人が居なくなっているからだろうか?
「ていうか文、これについては知らなかったの?」
「ええ、一切合切、今回は何も下調べせずに来てしまったので……」
おいおい、それは新聞記者としてどうなんだよ。俺は呆れ半分で、文を見つめる。
「な、何ですか!」
「うーん……」
俺の唸りに、文は急に不安そうな顔をする。
そうやって、会話のノリで何とか誤魔化せないかと村に入るが……兵士っぽい人に止められてしまった。
「待てと言っているんだ!!」
「とは言われてもなぁ……」
今から白玉楼に帰るのもなんだか妖夢や幽々子様に申し訳ない。
それに、今情報が入手できるとしたら、それは人里の中だ。
とは言え、人里に入れないならどうしようもない。
「一旦帰るか……」
「待ちなさい!!」
俺が引き返そうとすると、突然一人の少女に引き止められる。
「稗田様!」
稗田と呼ばれた少女は、訴える門兵に対し、諭すように言った。
「この人は無害、私が保証します」
この空気、稗田……まさか、阿礼か!? 生きていたのか!?
稗田 阿礼とは、古事記の編纂者と言われる、天武天皇に仕えてた女だ。
半妖である俺に、人間として対等に接してくれた、数少ない人物でもある。
「さて……志郎さんですね。お待ちしておりました、ついてきてください」
「稗田様!!」
「……死にますか?」
歯向かうように訴えかける門兵に対して、阿礼は俺がゾッとするくらい冷たい視線を向けた。
「さ、行きましょう」
「あ、ああ……」
阿礼って、こんな奴だったか? とそう思いながら、俺は先導する阿礼についていった。
◇◆◇◆◇
「まずは、文さん。少々席を外していただいても?」
「え? 嫌ですよ!! 何で私が……」
阿礼は文の返答を聞き、ドス黒い笑みを浮かべ始める。
「文さん、もう一度言います。この部屋から出てください」
「い、嫌ですよ……?」
阿礼の表情の変化に、文は泣きそうになりながらも抗う。
阿礼はそれを聞き、非常に和かな表情に変わる。
「なら、仕方ありませんね。熱湯に弾幕の的に、剣術指南の人形……どれがいいですか?」
「退散させていただきます!」
「よろしい」
文は阿礼の発言により、部屋から出ようとする。阿礼はそれに、満足そうに頷いた。
「さて……先祖より、お話は伺っておりました」
「ちょっと待て、先祖?」
「ええ。私は稗田 阿求。稗田 阿礼より続く稗田家の9代目です。私たちの仕事は、歴史を綴ること。それ故、過去の記憶の一部も継承しているのです」
……そうか。少し変だと思ったら、阿礼の子孫か。それにしても……阿礼そっくりだな。
いや、阿礼はもうちょっと……こう、出るところは出てたんだよな。
ていうか、歴史を綴るか。確か、阿礼も同じようなこと言ってたな。
……ん? 俺のことは、覚えてないのか?
「私たちは、仕事に関連した記憶以外は残念ながら継承できません。ですが……貴方に対して、手紙は残されていました」
手紙か、阿礼らしい。あいつは字を書くことが好きだったからな。
「こちらです、どうぞ」
「ああ……異変を解決したら、しっかりと目を通すよ」
「それなんですが……今回は、手を引いてくださいませんか?」
「は? なぜ?」
阿礼……間違えた。阿求のその言葉に、俺は驚く。
「助けない方が、幸せだからです。今回失踪した子供達の多くは、寺子屋にも碌に通えない可哀想な子供達です」
「……いくらお前でも、その言葉は許さないぞ」
寺子屋に通えないから、子供が不幸? 可哀想?
こいつは、親に引き離された子の気持ちを、子がいなくなった親の気持ちを理解して言ってるのか?
そりゃ、子供達が虐待を受けていたなら話は別だ。
だが、今回いなくなった子の親たちは、本気で悲しんでる。それは、大天狗の力で分かる。
「……仕方ありませんね。貴方には怪我して欲しくなかったのですが……」
俺と阿求は、ほぼ同時に阿求の屋敷から飛び出した。
阿求の放った霊力の弾を、俺は霊力を含んだ風を飛ばして吹き飛ばす。
「なっ!?」
……っくそ。阿求とか人間の女には、流石に手荒なことはできないからな。妖力弾は苦手なんだが……あれ、妖夢の言ってた『弾幕』ってこういうことか?
俺はそう思いつつ、妖力弾を阿求を取り囲むように巨大な妖力弾を4つ作り出す。
「降伏しろ」
「……わかりました。やるからには、怪我しないでくださいよ」
阿求はそう言って、霊力を元に戻した。俺も妖力弾を消す。
「そういや、今回の異変の手がかりを探してるんだが……負けたし、教えないとかないよな?」
「はぁ……仕方ありませんね。今回の異変は、魔法の森に行ってみてください。鍵はそこにあります」
◇◆◇◆◇
「止まれ! ここは今、通行止めだ!!」
「あれ? 慧音じゃないか」
「その声はまさか……志郎か!?」
「慧音は変わんねーなー。それで、変化の方はどうなった?」
「ああ、まだあんまり上手くいってなくてな」
俺が魔法の森と言われて、阿求の指差した方にある森にとりあえず行ってみると、そこには俺の旧友である上白沢 慧音が待ち構えていた。
「……お前も異変解決に来たのか?」
「まあな。残念ながら、俺が今お世話になっている所が財政難でな」
「……ふむ。お前なら大丈夫だとは思うが、一応試してみるか」
慧音はそう言うと、突然襲いかかってきた。
まあ、体は半妖だし、肉弾戦になっても大丈夫……だよな。




