第三話『人里に向けて〜人超異変第一面〜』
異変開幕でございます!!
俺は文に案内されるまま、翼を解放して空を飛ぶ。
「それにしても、驚きましたよ!! まさか、志郎さんが大天狗と人間のハーフだったなんて! ハーフなんで、階級的には私達、普通の烏天狗と同じくらいでしょうが……どうです? 天狗の里に来ませんか?」
大天狗。日本に伝わる三大妖怪の一つ、天狗妖怪の上位版。格差社会が形成されている天狗の里において、天魔が最も偉い存在だ。その次が鞍馬天狗などの俺たち大天狗、その下が烏天狗、さらにその下が白狼天狗だったか。
実は、こういった文のような勧誘は、何度か受けている。知ったこっちゃないけどな。
「いや、俺は妖夢と幽々子に助けられたからな。遠慮しとくよ」
「そうですか、それは残念です」
文は気にすることもなくそう言うと、グングンスピードを上げた。
俺もそれに合わせて、スピードを上げる。
「よく付いてこれますね! 私は幻想郷でもトップの速さを持ってるんですよ!!」
そりゃぁ、お前より経験も多ければ種族も一応同じだからな。
そう思っていると、突然文は首だけだったのを、今度は体ごとこちらに向け、いつでも撮影できるようにと手に持っていたカメラを肩掛けに直し、おもむろに口を開いた。
「……そうだ、私を倒せないような人を先に行かせるのも悪いですし、この先へは私を打ち倒していってください」
「へ?」
突然の言葉の変化による俺の間抜けな聞き返しも気にせず、文は俺よりもさらに上空に浮かんだ。
「早くしないと、死にますよっ!!」
文はそう言うと、妖力の弾のような物を撒き散らした。俺はそれに対し、妖力の壁……即ち結界を貼ることでガードすると、そのまま文に突撃する。
「ファッ!?」
「舐めんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」
驚いた文に対し、蹴りを決め……ようとするが、文はそれを後退してかわすと、回し蹴りを俺に叩き込む。俺はそれを両手で防ぎ、空中でブレーキをかけ、文に向かって飛んでいく。
「飛符『烏天狗の泣く夜』」
文はさらに高く飛びながら、回転して黒い弾幕を撒き散らした。俺はそれを避けるため、少し飛行速度が落ちる。すると、文はさらに弾幕を放出した。
「くっ……!」
俺は向かってくるそれを回避するため、一番スペースのあった右側に逸れる。すると、文はそれを見越していたのか、弾幕の方に意識が行っていた俺にかかと落としを決める。
「後手に回ったら負けますよ!!」
「ぐふっ!!」
俺はその勢いのまま地面に衝突し、空気の塊を吐き出す。それと同時に、文から追撃とばかりに蹴りが入る。
「ガッ!!」
「ふぅ……っんな!?」
俺は自分の腹の上にある文の足首を掴み、そのまま握力でへし折る。
「へへ……後手だからできる技だぜ」
「ァァァァァ!!!」
絶叫する文に掴んでる手とは反対の手の平を向ける。
その手から放たれるのは、妖力の壁を丸めた……結界弾と呼ばれるもの。妖力弾の使えない俺の、数少ない距離を置いた技。
しかし、痛みの中で文は意識を明確に保っていたのか、俺の妖力弾を体を反らしてかわした。そのまま俺の文の脚を掴む右手を蹴り飛ばし、文は上空へと高速で逃げうせた。
「はぁ……まったく、酷い目に遭いました。こんなの、弾幕戦じゃなくて殺し合いですよまったく……」
「なんか言ったか?」
「殺し合いなんてしたくないと……ぇえ!?」
文は直ぐに追いついた俺に驚いたのか、さらに遠くへと逃げていく。
「逃げたら案内になんねぇだろ!!」
俺は怒りながら、文に向かって背後から突進する。文はそれをバク転の要領で突進の威力を打ち消すと、背後をとられた俺に対して大量の弾幕を打ち出した。それはやがて鴉のようになり、俺へと迫ってきた。
「くっ……! なんて面倒な……!!」
俺はそう言いながら、幻想郷に入った時に拾った刀を初めて振るう。初めてなのに手になじむ、不思議な刀だ。
文から放たれ、俺に迫ってくる鴉弾幕を、俺は刀で切りさばいていく。といっても、俺自身はそこまで剣術できるってわけでもないが。義経に指導したという鞍馬にちょっと教えてもらってた程度だ。
だが、弾幕のコントロールが雑なのか、俺の剣術レベルでも十分に鴉弾幕を防ぎきれた。
「今度は俺からいくぜ? 半妖『大天狗の瞬間速度』」
俺はスペルを宣言し、遠くから弾幕を放つ文の攻撃を回避し、時に剣で斬り伏せながら、そのまま、文に対して、妖力を纏った手で殴り飛ばす。
「ケホっ!!??」
驚いた文に対して、さらにかかと落としの追撃を決める。
文はそれを受け、地面に墜落していった。
「ふぅ……って案内してもらわなきゃ!!」
俺は急いで急速で落下する文を捕まえ、地面に降り立つ。
「……案内、必要なかったか?」
俺はそう言いながら、ぐったりとした文を背負って木造建築の建ち並ぶ村へと入ってい……こうとして、突然目の前に長い髭を蓄えた、かなり年をとった男が現れた。
「……お主、相当な腕前じゃな。だが、甘いのう」
「ああ、それは否定しない。……で、あんた誰よ」
「ワシか? そのうちわかる」
老人はそう言うと、俺の横を素通りするように歩いて行った。
それと同時に、大量の風のような斬撃が吹き抜けるように俺の背後に飛んでいった。
「ガハッ!?」
俺はそのダメージに、老人の方を向くが、老人はもうすでに消えていた。……仕方ねぇ、諦めるか。
そう思った矢先、今度は白髪の少年が姿を
現した。ボサボサなその髪は、手入れされていない印象を受ける。
その少年は、緋色の瞳を俺に向けた。
「ん? なんだ?」
白髪の少年は俺の問いには答えず、フラフラと俺の元に歩み寄る。その不審さに俺は警戒するが、それよりも早く少年の拳は俺の顎を捉えた。
「うぐ!?」
俺は顎への攻撃によって脳が揺れ、グラグラとする。チッ……何なんだよこいつ……!
「やっぱり、人間じゃ、ない。骨の硬さ、違う……」
白髪の少年は泣きそうになりながらそう言うと、俺に向かって脚を思いっきり踏み出した。
白髪の少年はその瞬間、圧倒的なスピードと共に俺に突っ込んでくる。
「今日は俺を虐める日なのか!?」
少年のショルダータックルを受けた俺は脳へのダメージも相まって、グラリと転んでしまう。というか……この少年、人間じゃないのか……!?
そう思っている間にも、少年の回し蹴りが俺の腹部を狙い打つ。
「ハグッ」
「……妖怪? 弱い……」
「残念ながら、俺はお前のご希望の妖怪じゃねぇ。半分だ」
俺としても、あんまりこういうことを言うのは嫌なんだが……この状況で言える軽口なんて、これくらいなもんだ。
「……新たなケース、確認。一時帰還し、所有者の指示を仰ぐ」
少年は機械的な音声でそう言うと、突如光に包まれて消えた。
「いったい、今日は何の日なんだ……」
俺は蓄積されたダメージに、思わずぶっ倒れた。




