第五話『EXボス降臨』
──それは、突然の出来事だった。
いつかの小悪魔の時のように、突然大きな音を立てて扉が開かれる。……いや、開かれるどころではなく、扉が爆散した。
俺が驚いてそっちの方に目を見開いて向けていると、そこにいたのはレミリアとほとんど背丈の変わらない少女。
「たっだいまー!! お姉様! 咲夜!! 私、地獄より帰還しました!!」
そう言って、少女は壊した扉に目を向けることなく、無邪気に、一目散にこっちに駆け寄る。
「……!! お……兄……ちゃん……?」
「おう、久しぶりだな、フラン」
少女……フランドール・スカーレットはいつの間にか紅魔館に居た俺に驚いているのか、ワナワナと震えだした。
その直後。
「おかえりい!!!」
俺に渾身のタックルを決めるように、フランの体が俺に抱きつき、そのまま俺は床に叩きつけられる。
「おうぐっ」
「お兄ちゃんだ!!」
俺は喜ぶフランの頭をポンポンと叩き、喜びで涙すら流すフランの気がすむまで、床でフランを抱きしめていた。
「えへへ……おかえり、お兄ちゃん」
「ああ、ただいま」
俺は顔を上げてこっちを見つめるフランを見つめ返し、フランの頭を撫でる。
「えへへぇ」
「フラン、悪いんだけどそこどいてくれ。立てない」
「えー! なんでー!? このまんまでいいでしょー!!」
そう言って駄々をこねるフランを無理矢理引き剥がすと、俺は立ち上がって汚れた服の裾をパンパンと払う。
「フラン、もうすぐ朝になるわ。部屋に戻りなさい」
「えー……」
「兄さん連れてっていいから」
「ほんと!? ありがとう、お姉様!! お兄ちゃん、行こ?」
セリフの疑問詞と明らかに合わない力強さで、フランは俺の服の裾を無理矢理引っ張り、俺をどこかへと案内した。
「お兄ちゃん、もう直ぐつくからねっ!!」
フランはそう言った途端、大図書館の扉を開ける。
へー、フランの部屋って大図書館の中にあるのか。パチェみたいだな。
俺はそう思いながら、フランに引かれるままに大図書館に入る。
そのまま、俺とフランは大図書館の奥へ、地下へと段々進む。俺はそれに対し「こんな所にフランの部屋があるのか?」と疑問に思っていたが、それを口に出す直前にフランは立ち止まった。
その先にあるのは、この洋風の紅魔館でも、明らかに今まで見てきた扉に対して異様な扉。
何重にも重ねられた魔法陣と、それが書かれたまさに重みを感じさせられるような重圧な鋼鉄の扉。
「フラン……ここがお前の部屋、なのか?」
「うん! そうだよ!! 前は嫌だったけど、今はみんなが扉開けても良いって言ってくれてるし、遊び相手になってくれてるからあんまり嫌じゃないの!!」
「そうか……」
……レミリアの奴、何してるんだ。年下の妹に対してこの仕打ち、対してあいつは上で悠々と紅茶を飲んでいるのか。──許せない。
「フラン、お前はそれでいいのか?」
「え?」
「本当は、上に部屋が欲しいんじゃないのか?」
俺がそう言うと、フランは押し黙って唇を噛んだ。その鋭い犬歯のせいか唇から鮮血が流れ、顎を伝い、やがて地面に滴となって落ちる。
「──私だって、上に部屋欲しいよ。やだよ、こんな広いだけの、暗くて、寂しくて、悲しい所。──寒いよ、お兄ちゃん」
「……なら」
「でもね。私、気づいたんだ。お姉様は、いつだって私たち、スカーレット一族のために行動してるって。だから、私もワガママ言うのもうやめたの」
なんだよ。なんだよそれ。フランの方が、レミリアよりずっと大人じゃないか。
なんで、フランが我慢しなきゃならない? 弱者であるはずのフランが……!!
俺は気付けば、ケルトの勇者クーフーリンの槍であるゲイ・ボルグを握りしめていた。
「やめてお兄ちゃん!! それより……この部屋、遊びにうってつけなんだよ?」
「遊び?」
「そ。……弾幕ごっこのね」
どうやら俺は、少々どころでは無い勘違いをしていたらしい。
◇◆◇◆◇
「いっくよー!! 禁忌『フォーオブアカインド』」
そう言うとフランは四人に分裂し、そのまま高く飛び上がった。それにしても……この部屋、どんだけ高いんだ。
俺が疑問に思っていると、それを無視するようにフランは一斉に手元に炎の剣を出現させた。
俺はそれに対し、ゲイ・ボルグを頭上に投げつける。
空中で幾つにも分裂するその槍は、四人のフランの心臓を寸分狂わず穿つ。
だが、フランはニタァ、という狂気的な笑みを浮かべた。
次の瞬間、俺は背後から5本目のレーヴァテインに刺されていた。
「がふっ」
「これで私の4勝目ね!」
フランは無邪気にそう言う。何これ、なんでフランこんなに強いの? 俺のそんな疑問は、もう一回やろ!! という声にかき消された。
「もー一回!!」
「ああ……よーし、待ってろよフラン! 直ぐに勝ってやる!!」
「兄として威厳を見せねば!!」
……なんて言ってるが、結果はやはり惨敗。
「なあ、フラン。なんでお前そんなに強いんだ?」
「んー? ……なんでだろうね。こいしちゃんや鵺ちゃんと遊んでるからかな?」
また新しい名前出てきたな。フランに友達がしっかりいるようで、俺は安心だ。俺はフランの倍の年齢にもかかわらず、友達って言えるのはパチェくらいだし。
「お兄ちゃん!! 最後に一回だけしよ!!」
「一回だけな」
俺はそう言って、空に飛び上がったフランを見つめる。
「神降『月猟の女神・アルテミス』」
「あー! ずるい!! 私だって……!! 『スカーレットの威光』」
俺の神降に対して、フランは自らを強化する技を発動した。そのまま、俺に対して一直線に向かってくる。
さっきまで見えなかったが──今は見える!!
フランの鋭い爪による一撃を、俺はバックステップでかわし、そのまま回し蹴りを叩き込む。
「きゃっ!!」
フランは少し飛ばされたが、すぐに地面に爪を立ててブレーキをかける。フランはそのまま、こちらに突進してきた。
俺はフランの背中に手をついて前転をすることでかわすと、そのまま滞空して空中で振り返り、空高くから弾幕を発生させる。
フランは俺の弾幕を回避していくが、さらに俺は攻撃を増やす。
「『ゲイ・ボルグ』」
空から降る無数の槍に、フランはなすすべなく貫かれた。
なんでこうなった……!?




