第四話『名付け』
今回かなり短いっす
「……こちら、本日のお夕食となります」
ヴァンパイアハンター……改め、メイド長咲夜はそう言うと、机の上にたくさんのご飯を置いた。
咲夜のご飯は、実質これが初めてだ。幻想郷に来て1日目の夜は倒れたところを発見されたらしいし。
仲直りと運命の守護者との決闘を終えたのは、実質召喚された翌日だったらしい。その頃にはパチェも元気になってて、安心した。だが、パチェは紅魔城壊滅の日の後遺症で、喘息を患っているらしかった。
戦闘の後遺症で喘息って……とも思ったが、魔力を回復しきれていない証拠か。
パチェがあの時使った秘術『土行抜』は、本来は一つづつ使う五行のうち、四つを同時に使う上に大量の魔力を用いて、属性同士を繋ぐ土行を弾いて大爆発を起こす。
まあつまりは、あの魔術は魔力の消費量が半端なく多い代物だ。並の魔術師が一生をかけて使えるかどうかの魔力であり、パチェはその上に俺を逆召喚でどこかに飛ばしている。
目的地を指定してないから多分召喚魔法の消費魔力量自体はかなり低いんだろうが、それでも召喚魔法は他の魔法と併用できるような物じゃない。
あの瞬間、パチェはどれだけの魔力を消費したのか。また、魔力を消費したパチェはその後どうなったのか。それは、おそらく想像を絶するほどだろう。
実際、パチェが起きたのも100年くらい前だって聞いたし。長命の魔術師や吸血鬼にとっては、100年というのはかなり短い年月だ。まだ幼いレミリアやフランは分からないかもしれないが、千年二千年生きてる俺やパチェからしたらあっという間に過ぎて行ったんだろうな。
食事に話を戻そう。
今日の晩飯は……なんだろう、予想に対して垂直に攻めてきたような感じだ。
紅魔城のこともあるし、やはり洋食中心のメニューかと思ったら……うな重だけ!?
「え、なんでうな重だけなんだ?」
「何って……ヴラド様が昨日寝てたせいで土用の丑の日の鰻を逃したからですよ。せっかく生きたままの天然の鰻を夜雀から仕入れたというのに……まあ、生きたままだったので助かりましたが」
あ、俺のせいなのか!? ……ていうか、ここ紅魔館だよな!? 洋風の館だよな!? なのに和食!?
俺が脳内で怒涛のツッコミラッシュを入れていると、レミリアが俺の心を読んだように応える。
「だって、洋食だけだと栄養偏るじゃない」
健康的吸血鬼!?
◇◆◇◆◇
「美鈴、フランは?」
今思い出せば、飯の時にも居なかったな。
「妹様なら、博麗神社に遊びに行っています。お泊まり会……でしたか? をやるそうですよ」
「へー」
俺は美鈴と会話をしていると、ドラゴンが俺を小突いてきた。俺はドラゴンの頭を撫でると、ドラゴンは嬉しそうに「グルッ」と鳴いた。
「可愛いわね」
「あれ、レミリア?」
「お嬢様は昨日から、割と頻繁にこの子に会いに来てるんですよ」
「う、うるさいわね! そんなことどうでもいいでしょう!! ……それより、この子、なんていうの?」
「そうだな……名前がいつまでもないのも、可哀想だよな」
俺がそう言うと、レミリアは自信満々に発言した。
「じゃあ、私が考えてあげるわ!!」
「はぇ?」
「そうね……シェ○ロンっていうのはどうかしら?」
レミリアがそう言うと、美鈴はクスクスと笑い、俺はブッと吹き出してしまった。
「はぁ!? 何がおかしい!?」
「いえ……やはり兄妹だなと思いまして」
美鈴がそう言うと、レミリアは俺を見て……嫌そうな顔をした。
「……他に何かあるかしら」
「うーん……そうですね……」
「うーん……」
黒いから、ダークとかブラックってのは……いや、ないな。
「……憤怒」
「「え?」」
美鈴の唐突な呟きに、俺とレミリアは聞き返した。
「いえ、深い意味はないんです。ただ……ドラゴンは憤怒の化身と呼ばれているので、ラースって名前が似合うんじゃないかなと思って」
なるほど……確かに、こいつの見た目は『ラース』って感じの黒色だな。まあ、見た目はかなり愛くるしいが……。
ラース……ラースか。かっこいいな。
「レミリア、他に意見あるか?」
「いや、ないけど。ていうか、そんなかっこいいの出されたら勝ち目ないじゃない!!」
レミリアが少し怒るが……他に意見もないみたいだし、これでいいか。
「じゃあ、ラースでいいな?」
「ええ」
「構わないわ」
俺の言葉に、レミリアと美鈴が同意した。
「じゃあ、お前は今日からラースだ! よろしくな!!」
「グルッ!!」
こうして、月夜の下で、一匹の子供ドラゴンの名前が決定した。
──この時はまだ、あんなことになろうとは、俺たちは知る由もなかった。
皆さん待望、妹様は次回登場!!




