第一話『幻想入り』
R15注意ですっ!
「おいおい兄ちゃん、覚悟はできてんだろォなァ」
「ったりめーだろ。さらに言うなら、お前を倒す算段も出来てるぜ」
俺は、とある路地で行われている不良と不良の喧嘩を観戦していた。挑発するのは、ぶつかられた不良。言い出しっぺは、ぶつかった不良だ。ちなみに俺が居るのはとあるビルの屋上。景色を見るならここが一番。俺のいつもの定位置だ。
「おォ? 見せてもらおうじゃねぇの?」
そう言って、殴りかかってくる『路地でぶつかった不良』に対し、『路地でぶつかられた不良』は不良の拳を上に弾き、そのまま掌底打ちを腹に決める。
「ぐふっ!」
「甘えんだよ! やるなら力つけてやってこいやァ!!」
ぶつかられた方はその言葉と共に、怯んでいるもう片方の腹を蹴り飛ばす。
「おうぐ!」
「オラオラオラァ!!」
壁に衝突して地面に倒れた、ぶつかった方に対し、ぶつかられた方はガンガンと上から踏みつける。
「おーおー……やりすぎじゃねぇの?」
「ギャァァァァ!!」
俺はそう言って、2人の喧嘩を見届けることを決めた。まあ、結果はもう明らかになっていると言っても過言ではないけど。そう思った矢先、ぶつかられた方は悲鳴を上げた。
なんだって俺の勘はこうも外れるんだろうか。いつものことだが、我ながら呆れる。
ぶつかった方の手には、スタンガンが装備されている。おいおい……片方だけ武器ありはセコいだろう。そう思っていると、突然俺の尻の下に穴が空いた。
「へ?」
そんな間抜けな声と共に、俺は気味の悪いギョロリとしている目玉だらけの空間に尻から落ちていく。
「痛え!! なんなんだ急に……!」
やがて出口が見え、俺は突然豹変した景色に、驚きながら辺りを見渡す。
「もしもーし……ってあれ? ここ、誰か居そうな雰囲気はあるんだけどな……ま、いっか」
とにかく、今しなきゃいけないことは今の状況を探ることだ。
俺は何故か近くに落ちていた刀を拾い、辺りを見渡す。
これはアレか、ゲームやマンガでいう異世界召喚か、異世界転移か……まあ、そんなもんだろう。神様は出てこなかったし、転生じゃあなさそうだ。
どうせなら、何かチート級な力か、もしくは種族を変えてくれればよかったのに。
俺はそう思いつつ、周りをもう一度見渡す。
……神社か。随分と人が少なく、寂れてしまっているようだけれど。
「あ、あん♡ らめ、らめなのぉぉぉぉ!!」
「……」
「おいおい……誰かが居るからって、興奮してんのか? 霊夢はビッチだなぁ……」
「ん!? ん〜〜!!!」
俺は何も聞いてないし、何も見てない。そういうことにしておこう。
ていうか……声的に、まだ2人とも若いだろう。それなのに神社でそういうことするとか……。
俺は少しゲンナリとしながら、辺りを見回す。
やはり、どうしようもないくらい広い神社。
鳥居などもまだ色褪せておらず鮮明で赤くキレイだが……どうしてこんなにも人が居ないんだろうか。見た目だけならとても立派だが。
「ていうか……巫女さんとか、神主さんとかは居ないのか?」
俺の愚直な質問に、答える気はさらさらないとでも言うように、強い突風が吹いた。
「うわ……!」
俺は突風に煽られるままに、背後にあった階段を……踏み外した。
「うわぁァァァァァ!!!」
そこから先、頭に迸る鋭い痛みと共に視界が安定した後のことは、よくは覚えていない。
あるのは、真っ逆さまになった世界への恐怖心と、死ぬわけがないのに「死ぬかもしれない」という不安感、そして痛み……というより、熱さにすら感じる痛覚だけだった。
◇◆◇◆◇
「……生きてた」
思わず、俺はそう呟いた。
俺の視界に入るのは、木造建築の木で出来た屋根。
見る限りだと、かなり古い屋敷のようだ。
「あれ、目を覚ましたんですね」
そう言った、誰かの方を向くと……そこには、銀髪に黒く大きなリボンをつけた、白いシャツの上から緑……深緑色のベストを着た女の子が扉の前で立っていた。
「ここは……?」
「ここは白玉楼です。博麗神社で、偶々倒れているあなたを見つけたので、思わず連れて帰ってしまいましたが……博麗の関係者ですか?」
博麗神社。あそこの神社のことだろうか?
「博麗……ってなんだ?」
俺の言葉に、少女はため息を吐きながら答えた。なんか、馬鹿にされてる気がするな。
「なら、いいです。この世界のことはおいおい話すとして……あなた、弾幕勝負か、剣術はできますか?」
弾幕勝負? イライラ動画のアレ……なわけないか。というか、あんな弾幕でどうやって戦うというんだ。
それに、剣術なんて俺は使えない。そもそも、習ったことすらも無いし。
「……いや、特に使えないけど?」
「なら、いいです」
少女はそう言うと、こちらをじっと見つめた。俺の顔に何か付いているのだろうか?
というか……自己紹介、してないよな。
「あの、俺の名前……黒山 志郎って言います。君の名前は?」
俺の突然の自己紹介に、少女はパチクリと瞬きをし……やがて、自己紹介だと気付いたのか、「ああ」と納得したような様子を見せて、自己紹介をしてくれた。
「私は、魂魄 妖夢です。よろしくお願いします」
そう言って、少女……魂魄 妖夢は俺の目を見つめたまま、ニコリと微笑みかけた。
その笑顔に、俺の鼓動はドキリと高まる。
何この生き物、かわいすぎる。
「……ところで、志郎さんは行くあてはあるんですか?」
「いや……特にないけど」
妖夢が俺に聞いてくるので、俺は簡単に返す。
「じゃあ、是非ともウチで暮らすといいですよ! いいですよね! 幽々子様!!」
「んー? あー……いいわよー」
妖夢は部屋の奥に語りかけたかと思うと、適当な返答と共に、ピンク色のウェーブのかかった髪をした女性が奥から出てきた。
妖夢より少し大人びているが、それでも見た目は高校生くらいだろうか。いや、胸だけ見ればそれ以上かな。発育が良いって線もあるが……よく分からん。
ちなみに、俺の予想だと妖夢は中学生くらい……いや、小学生と言われても納得できてしまうな。胸に関しては、女性と比べるとより明確になる。要するに、小さい。俺は小さくても大きくても好きだけどな!
「あー……ただし、私のお世話係ということにしときなさい」
付け加えるように女性は忠告した。お世話係ねぇ……この人は相当偉い身分ってことか?
「わかりました! つまり、志郎さんは私の後輩ってことになるんですね!! よろしくお願いします!」
人生という点においては、俺の方が大先輩だろう。そう思いながらも、俺は妖夢の言葉に頷いた。妖夢って、女性のお世話係なのか。
というか、勝手に話が進められてるが……行くあてもないし、まあ、いいか。
こうやって話すのも、とても楽しいし。
「さて、志郎さん……料理はできますか?」
「まあ、ほどほどには」
「では、今日の晩御飯は志郎さんが作ってみてください。3時間後、7時までに10人前です」
10人前……? 夕食時に、そんなに人が集まるのか? まさか、女性……いや、幽々子様や、妖夢がそんなに食べるとは到底思えないし……。
俺はそう思いながらも「ああ、わかった」と短く返事をして、台所に向かう。
「ふむ……材料はこんなもんか。じゃあ、10人前だから……メニューはこれとこれと……」




