プロローグ『紅魔郷』
遂に第2章開幕です!!
それは、とある吸血鬼の男の話。
その吸血鬼には、3人の子供がいた。
一人は、男と番となる吸血鬼の間にできた『真祖』の吸血鬼。
残り2人は、男と男に仕える人間との間にできた、『半魔』の吸血鬼だ。
真祖の吸血鬼……ヴラド・スカーレットは父や母に教えを乞い、あらゆる『魔術』と真祖としての不死の肉体を手に入れた。
陽の下に出ても何ら問題はなく、真祖故に強い力を持つその体は、一般に言われる吸血鬼……半魔の弱点を全て覆していた。
それもそのはずだ。半魔の弱点は、真祖の吸血鬼と人間の性細胞の化学反応によって起こる拒絶反応の一種であるからだ。
吸血鬼に話を戻そう。本来、彼らは欧州のとある国でひっそりと生きていた。
だが、ある日。吸血鬼の家族に、異変が起こる──。
◇◆◇◆◇
──200年前、ヨーロッパのとある国──
それは、酷い雨の降る日だった。
雷鳴が鳴り響く中で、俺たち……スカーレット一家は食事をしていた。
スカーレット一族は、吸血鬼の中でも特異とされた一族だ。
人間と共に生きることを望み、少量の人間の血と引き換えに、紅魔城で人を住ませている。
夜中の警備は本家であるスカーレット家の分家に当たる一族が担当し、昼間は人間たちが見回りをする。
この城には、この城だけの上下関係が成立し、本来なら人々の誰も入ることは許されない──その、はずであった。
「あら、ヴラド。眠れないの?」
「ああ……パチェか。……うん」
俺はこの城に住む人間の1人、大魔術師パチュリー・ノーレッジ……通称パチェの言葉に応じる。
「まあ、それも仕方ないわね。……ドラクル様なら、きっと大丈夫よ」
「ならいいんだけどさ……」
俺の父親、ドラクル・スカーレットは偉大な吸血鬼にして、国の英雄であるらしい。
なんでも、過去の大国からの猛攻を防ぎきり、この国を守ったとか。
その功績もあり、今のこの領地を与えられた。真祖であるから、昼の公務にも出席できる。
だからきっと、父上は国王には自らが吸血鬼となったことを話してないのではないか。そして、もしそれがバレたら、父上はきっと『化物』として処分されるんだろう。
だから、俺は父上が国に呼ばれた時はヒヤヒヤして仕方がない。まあ、父上は民を信頼しきっているから、きっと自分が殺されるなんて考えてないんだろうな。
そんな折……事件は起こった。
「……ここ、ですか」
「……!!?? パチェ!! フランとレミリアを守って!!」
「ヴラド、どうしたの?」
「来る……!!」
俺がそう言うと同時に、空から銀色の何かが襲来した。
「やられるかってんだ!!」
俺はそれを盾を召喚して防ぐと、パチェをフランとレミリアが寝る寝室へと逆召喚する。
「待っ──」
パチェが言い終わるより早く、転送は完了する。
「……あなたも吸血鬼ね。いいえ、魔法を使っている以上、魔法使いと吸血鬼は皆殺し……だったかしら。何にしても、関係ないわね」
銀色のナイフを手に持った少女はそう言うと、俺の目の前に父上の生首を落とす。
「私、鼻が効くのよ」
そう言った少女は、両手に持ったナイフでこちらを斬りつけてくる。
「ああ、吸血鬼臭い」
少女は嘲笑するようにそう言いながら、後ろ回し蹴りで俺の盾を吹き飛ばした。
「な!?」
「甘い……ううん。甘すぎるわ!!」
俺は少女によって、少女ごと俺のいた城の二階にあるバルコニー部分から蹴りおとされた。
「うぐぅ!?」
「殺しきらなきゃ、私が死んじゃう♡」
少女はそう言うと、俺の胸にナイフを突き立てる。
「ガハッ!?」
「やっぱり。吸血鬼には、銀のナイフよね」
少女は俺の胸に刺さったナイフをわざと大振りに抜いて俺の体を傷つけると、そのまま立ち去っていった。
◇◆◇◆◇
「次は……ここね」
少女は己の優秀すぎる嗅覚を頼りに、レミリアとフランが2人で眠っていた寝室を訪れた。
それと入れ替わりになるように、美鈴がレミリアとフランの手を引いて逃げる。
それを追いかけようとする少女を、氷の塊が阻害した。
「……2人を殺させはしないわよ」
「勘違いしてるようだけど──」
「御託はいいわ」
「……そのようね」
パチュリーは少女との短い会話を済ませると、空中から一斉に大量の鎖を召喚し、その先端が少女を絡めとらんと襲いかかる。
少女はそれを卓越した身のこなしで回避すると、ナイフをパチュリーに投げつけた。
瞬間、少女は何かによって吹き飛ばされ、壁に激突する。
「グフッ!!」
「……その程度かしら?」
パチュリーは少女によって投げられたナイフを空中に浮遊させたまま、その切先を少女へと向ける。
パチュリーによって、そのナイフは少女の頬を僅かに掠め、少女の頬からは赤い血が垂れる。
次の瞬間。パチュリーは、一瞬にして窮地に立たされた。見れば、大量のナイフが自分を取り囲むように飛んでくるではないか。
「……っ!!」
パチュリーは少女を押さえつけていた魔法を解き、地面から強力な風を瞬時に吹かせることで部屋の天井を破壊しながらも、ナイフを回避することに成功する。
その瞬間だった。
「おらぁ!!」
少女に対し、一個の金槌が投げつけられる。
少女はそれを身を翻してかわすと、そのままバク転によってはさみ打ちとなっていた状況から脱する。
パチュリーはこの時既に、この少女がヴァンパイアハンターであることを理解していた。それと同時に、ヴラドが来たからといって状況が良くなるわけではないことも。
パチュリーはヴラドがいると、本気の魔法を放つことはできない。ヴラドに被害が及ぶからだ。
だからこそ、パチュリーはその技を選んだ。
「……秘術『土行抜』」
五行の中で、他の四つを繋ぎ止め、保護する役割を持つ土。それを一切失くした術を用いれば、大爆発が起こる。
「……ヴラド、サヨナラ──!!」
「待て! ダメだ!! やめろ!!!」
ヴラドの制止を聞かず、パチュリーはそれを使用した。それは部屋どころか、紅魔城やその周辺一帯を吹き飛ばすほどの大爆発。
◇◆◇◆◇
大爆発の直前。ヴラドの足元を、水色の魔法陣が囲っていた。
──そうして、ヴラドは家族を失い……文明開化の最中の東京へと転移した。
◇◆◇◆◇
「……ヴラド・スカーレットという男を捜しているのだけれど」
「アァ? 嬢ちゃん、ベッピンさんだなァ。俺と大人の遊びに付き合ってくれたら、教えてやってもいぃ……ヒイッ!!」
咲夜は、路地裏で無礼を働いた男の顔の隣を踏み砕いた。その結果、男は従順な奴隷となる。
「ほ、ほら!! あそこにいるぜ!! んじゃ、俺は帰るからよ!!」
そう言って、男は逃げ帰るように立ち去っていった。
そして、その反対方向にはビール瓶の籠に座っている長身の男。
「……懐かしいわね」
「あ? ……お前はいつぞやの。人間離れしてるとは思ったが、人間じゃなかったとはな」
「残念、私は人間よ。それより、我が主……貴方の妹君がお呼びなのだけれど、来てもらえるかしら?」
「そんな手に引っかかるとでも?」
咲夜は男……ヴラド・スカーレットにそう言われると、証拠を見せるように太腿のナイフホルダーを外し、その下にある刻印を見せる。
それは、龍の爪を模した紅い刻印。即ち、スカーレット家に仕えるものである証拠だ。
「……お前がそれを偽造していないという証拠は?」
「あら、疑り深いのね。なんなら、この場でこの刻印を刺してもいいわよ」
「……分かった、信じよう」
ヴラドがそう言うと、俺の目の前に水色の魔法陣が出現する。
「……懐かしいな。これはパチェの召喚陣か」
ヴラドはそう呟きながら、咲夜……いつかのヴァンパイアハンターと共に、パチュリー・ノーレッジの展開した魔法陣を潜るのだった。
パチェの年齢については自己解釈に自己解釈を重ねた結果こうなりました。年齢100歳くらいは使いづらいんだもん(´・_・`)