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東方遊楽調  作者: 甘味処アリス
第1章〜子供達の黄昏〈人超異変〉編〜
14/24

第十三話『エクストラステージ』


 あれから一ヶ月後。俺たちは霊斗に言われたとおり、博麗神社へとやって来た。ちなみに、この一ヶ月は人里からのお礼で細々と食いつないできた感じだ。

 思い出せば思い出すほど虚しくなってくる一ヶ月だったから、あんまり考えたくはない。


「お、来たか。ちょっと待ってろよ、今待ってるところだから」


 はて……何を待ってるんだろうか? 「お礼がしたい」ってことで呼び出されたが……。

 俺が疑問を抱いている隣で、妖夢は体を強張らせていた。


「妖夢? いったいどうしたんだ?」

「博麗 霊斗……噂には聞いていたけど、これほどなんて」


 ん? 何がだ? いったい、どんな噂なんだろうか……少し気になる。


「なぁ、妖夢。霊斗(あいつ)って……そんなにヤバいのか?」

「は? 志郎さん、あの人の気配が感じられないんですか?」


 妖夢に、呆れられるようにそう言われた。

 いや、実際呆れられてるんだろうけど。


「お、開いたな」


 霊斗がそう言うと、そこから……一人の少女が出てきた。一ヶ月前に倒した、紫髪の少女……レミリアとか言ったか?にそっくりだ。


 翼には宝石のような装飾が散りばめられ……いや、そういう翼をしているのか。

 あの時のレミリアのような、猟奇的な笑顔を顔に浮かべている。


「霊斗さん! 終わったよ!!」

「ああ、お疲れ」


 霊斗はそう言って、少女に労いの言葉をかけると、俺に少女を紹介した。


「志郎、紹介する。こいつはフランドール・スカーレット。お前の倒したレミリアの妹だ」

「志郎さん! 私、フランドール・スカーレットと言います。 フランって呼んでね!!」


 姉と違って、無邪気な少女だな。

 俺はそんな感想を抱きながら「ああ、よろしく」と返事をした。


「それで? 霊斗、お礼ってのは?」

「あー……とりあえず、金と飯だな」


 霊斗はそう言うと、小さなビニール袋くらいのバッグを俺に渡す。


「中は異次元空間と繋がってて、そこに食べ物入れときゃ経年劣化もしない優れもんだ。使いたいときは食べたいもんを念じながら袋の中で手を動かしたら、自然に手に取ることができる」


 俺はそう言われ、試しに袋の中に手を入れる。すると、中から俺が念じた物……バナナがしっかりと手に取れた。

 色もしっかりついてて、大きさもかなり立派だ。……変な意味じゃないぞ?

 それにしても、異次元空間……やっぱりこいつ、ただもんじゃない。


 俺が警戒を強めると、霊斗は無害だと主張するかのように、何も持っていない両手を広げ、さらにくちを動かした。


「さて……お礼はこれで終わりだが、何かして欲しいこととかあるか?」

「いえ……特には大丈夫です。志郎さんも良いですか?」

「ああ。今日はありがとう、大切に使わせてもらうよ」


 俺が霊斗にお礼を言って去ろうとした、その時だった。

 急に強い風が吹き、妖夢を俺の方に押し……そのまま俺たちはぶつかった。


「いって……」


 倒れこむ俺。その上に覆いかぶさるように妖夢がこちらを見ている。


「は、はわわ!? ご、ごめんなさい!!」


 妖夢は赤面しながら俺にそう言って、起き上がった。


「別にいいが……」


 妖夢、可愛かったな。俺は思わずそんな感想を溢した。


「わ、私が可愛い?」

「あ、えーと……何でもない。忘れてくれ」

「え!? ちょっと!? 何なんですか!?」


 妖夢は俺にそう言って聞き返すが……なわであんなこと言ったんだろ。恥ずかしくて悶え死にそうだ。


「おいおい、いちゃいちゃするなら帰ってからしろ」

「あ! そうだ、霊斗さん、私、志郎さんと戦ってみたい!」


 霊斗の言葉に対して、フランが元気よく霊斗さんに要求を出した。


「志郎と? それはいいが……くれぐれも殺すなよ」

「勿論!!」

「ということで、志郎、よろしく頼む」


 俺の意思完全無視!?

 俺はそんな感想を抱きながらも、風斬落を構え、フランから距離を置く。


「それじゃあ──よろしくね。禁忌『フォーオブアカインド』」


 フランがそう言った途端、フランが四人に分裂し、それぞれが弾幕を放ってくる。

 四人に分裂し、それぞれのスキマを他の分身が補い合うために、かなり密度の高い弾幕となっている。だが、風斬落の竜巻を使えば簡単に弾幕は消せるな。


 俺は風斬落で弾幕を絡め取ると、そのまま弾幕を消滅させ、フランの一人へと斬りかかる。


「「「「ふぅん……中々やるようだね! でも、負けないよ!!」」」」


 4重に重なった声でフランはそう言うと、空高くから俺に向かって4体で突撃してきた。

 俺はそれを飛び退いてかわすと、そのまま風斬落の竜巻で纏めて攻撃する。

 4体のフランはそれを高く飛んで回避し、空に手を掲げた。


「「「「禁弾『スターボウブレイク』」」」」


 フランの手から放たれたフランの羽のような美しい弾幕は、空高く飛ぶと真下にいる俺に向かって降り注いでくる。

 俺はそれをバックステップでかわし、風斬落を片手にフランのいる空へと向かう。


「「「「禁忌『レーヴァテイン』」」」」


 すると、4体のフランは赤く燃えさかる炎の両手剣を取り出し、一つは俺の風斬落と交差する。


 俺はすぐに飛び退いて回避し、追撃しようとする三体のフランの首を一撃で断ち切る。

 すると、三体のフランは簡単に消えていった。

 そのまま残った一体に目を見やる。

 フランはニコリと微笑むと炎の両手剣をブンブンと振り回し、そのまま俺に突撃してくる。

 俺は風斬落でそれを受け、レーヴァテインをフランごと吹き飛ばすとそのまま俺は追撃の構えを取る。


「はい、そこまでだ」


 俺が走ろうとしたところで、霊斗の制止の声が聞こえる。


「フラン、満足したろ?」

「うん! ありがとう!!」


 フランは無邪気に俺にお礼を言った。

 俺としてはあんまり戦いたくない所だが……まあ、いいか。

 俺は戦わないことを諦めながらも、妖夢の所に駆け寄る。


「妖夢、お待たせ」

「いえ、大丈夫ですよ」


 そう言って、妖夢はニコリと微笑んだ。


「そうだ、お前ら、人里にでもデートしてくれば?」

「「は?」」

「だから、デートだよ。花畑でもいいが……ま、行き先はお前らに任せる。本当にお互いを好き合っているなら、行ってこい」


 お互いを好き合っている……か。どうなんだろうか? 俺は──まあ、好きか嫌いかで言われれば迷わず好きだというが……。


 俺は妖夢の方を見ると、妖夢は顔を真っ赤にしていた。


「どうする、妖夢……?」

「──ましょう」

「え?」

「だから! デートに行こうって言ってるんです!!」


 怒る妖夢に、嬉しそうな笑顔を見せる霊斗。


「んじゃ、楽しんでこい」


 最後に穴に落ちる前に聞こえたのは、霊斗のそんな無責任な声だった。


◇◆◇◆◇


「お! 妖夢ちゃんと志郎くん! 活きのいい魚が入ったんだが、いるかい?」

「お気遣いありがとうございます! 大丈夫でーす!」


 話しかけてくる魚屋に笑顔で返しながら、俺たちは路地を立ち去る。今ので挨拶してくれるのは5軒目くらいか?

 あの異変の時、俺たちの解決が文によって大々的に報じられたこともあり、俺たちは一躍トップスターの有名人になった。


「……んで、デートっつったって何をするんだよ」


 俺は思わず、ため息とともにそんな言葉を漏らした。


「そういえば、そこに美味しいお茶屋さんが出来たらしいんですけど、どうです?」

「お、いいね。行こっか」


 ぎこちなくも、会話をなんとか成立させながらお茶屋さんへと向かう……ってすぐそこか。


「いらっしゃいませー。お好きなお席にどうぞ」


 店先の暖簾をくぐると、店員が温かな声で俺たちを歓迎してくれた。なるほど、人気が出そうなのも納得だな。


「妖夢、どうする?」

「どうって……テーブルで良いんじゃないですか?」


 妖夢はそう言いながら、空いていた小さいテーブルに席に腰掛ける。

 俺もそれに向かい合う席に座ると、店員がパタパタと駆け寄ってきた。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「ええ。とりあえずお茶を二つ」

「かしこまりました」


 店員は機械的というよりは、嬉しそうな感情のこもった声でそう言い、カウンターの方へと戻っていった。


「ふぅ……幻想郷での生活は慣れましたか?」

「ああ、まあな。お前らも居るし、特に問題ないぜ」

「そうですか、それは良かった」

「……」

「……」


 妖夢の返事から、しばらく無言の空間が続く。周りも結構な喧騒でガヤガヤとしているが、俺たちの周りだけ音が消えたのかのように静かになった。


「お待たせしましたぁ〜!!」


 そんな空間をぶち壊すように、店員がお茶と二つの容器に入った食べ物……2種類のパフェを持ってきた。

 それにしても……さっきの時間、苦しいというよりかは、心地良い感じがしたな。

 阿礼との時間も……あんな感じだった気がする。あの頃は部屋で仕事している阿礼をボーッと眺めながら、時間だけが刻一刻と過ぎていったな。


「こちら、初めてのお客様へのサービスです!」

「ああ、悪いな」


 俺は予想外の頼んでないものが届いたことにドギマギしながらも、パフェのお礼を店員に言う。

 店員は無言でニコリと微笑むと、妖夢と俺の前にそれぞれパフェを置いた。


 妖夢のパフェは……苺だな。俺のは宇治金時か。

 妖夢は真剣な顔で自身の前に置かれたパフェを見つめる。……そうか、この世界じゃまだパフェって普及してないんだな。


「……妖夢、パフェって初めてか?」

「パ、パフェというのですか……。お初にお目にかかります」

「はは、そんな畏るなよ。とりあえず食ってみろ」


 俺はそう言って、スプーンを妖夢に差し出す。……スプーンまで使えないなんてないよな?

 俺のそんな心配は杞憂に終わったようで、妖夢はスプーンでパフェのクリームをすくい、口に運ぶ。


「ん〜、美味ひいです!」


 妖夢は目をキラキラとさせながらそう言った。しっかりしてるかと思えば、やはり見た目の年相応の感情も持ってるみたいだ。

 俺は妖夢に愛しさを覚えながら、自分のパフェを口に運び、お茶を啜るのだった。

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