第十二話『ターニングポイント之壱〜異変解決〜』
今回、あのキャラが登場!
え?誰だって?あの人だよあの人!
俺はレミリアを抱き抱え、咲夜に寄り添うように寝かせておいた。
「ふぅ……とりあえずこれでいいか。それじゃあ、子供たちを人里に帰さないとな」
レミリアのあんな様子を見たら、もしかしたら何人かは帰らぬ人になっているかもしれないな──。
そんなことを思いながら、俺は一つにまとまっていた子供たちに、自己紹介と案内を申し出る。
「お兄ちゃん、だぁれ……?」
「俺は黒山 志郎。お前たちを連れ戻しに来た」
俺がそう言った瞬間、一人の子供が反抗するように声を荒げた。
「嫌だ! 戻りたくない!!」
「そんなこと言うな。お前らの親だって、お前たちの帰りを心待ちにしているはずだぞ」
「そんなことないもん!」
その子はそう言うと、森の奥へと駆けて行ってしまった。
「あっ! ……妖夢、ここに居る子供たちを頼む! 俺は責任を持ってあの子を連れ戻してくる」
「……分かりました、気をつけてくださいね」
「もちろん!」
俺は妖夢の心配に元気よく返すと、さっきの子供の消えた方角に向かって耳を澄ませる。
「……まだまだ全然遠くに行ってないな。10時の方向に60メートル」
俺はポツリとそう呟くが……異変を察知した。強い妖力の反応。それも……かなりの妖力量だ。俺よりは少ないが、それでもそこらの雑魚とは比べものにならないくらいには多い。
「なんだこりゃ……妖怪か!? 急がなきゃ!」
俺は子供のいる方向に走るが、妖怪の方も子供にどんどん近づいているようだった。
やがて、子供と妖怪の足が止まった。
「やべぇ……間に合え!」
妖怪と子供が遭遇してしまったらしい。同時に、熊のような耳をつんざく咆哮が聞こえる。
熊のような見た目をした妖怪と子供の姿が見えてきた。
それと同時に、凄まじい霊力が突如出現し、熊の妖怪の首が何か……霊力の持ち主に切り裂かれた。
「間に合ってよかった……!」
突如現れた霊力の持ち主はそう言うと、屈んだ子供と視線を合わせた。
「ケガはないか? 霊歌」
「………………」
霊奈と呼ばれた子供は黙っていると、屈んだ青年……子供の親らしき人物に、抱きつかれた。
「とにかく、お前が無事でよかった」
青年にそう言われた子供は、ボロボロと涙をこぼし始めた。
「うぁぁぁぁぁぁ!! ごめんなさい……ごめんなさい!!」
「よしよし、いい子だ。次から気をつけるんだぞ」
青年はそう言って、まだ小さな子供をあやした。
「霊歌、お父さんはそこのお兄さんとちょっと話をするから、先にみんなと帰ってなさい」
「はーい」
青年はそう言うと、俺に向かって歩み寄った。
「さて……初めまして、黒山 志郎。俺の名は『博麗 霊斗』だ。よろしく」
「貴様……なぜ俺の名を知っている?」
俺の名前を当てたことで俺の警戒心を強めさせた霊斗は、弁明するように話し始めた。
「俺の能力故、だな。それよりも、今回の異変解決に関しては、礼を言うよ」
「……いや、構わない。俺たちも自分のためにやったことだしな」
妖夢は一体どういうつもりでしたのか、分からないけどな。あのお人好しの少女なら『子供たちや親のために異変解決』、なんてこともあり得るだろう。
まぁ……まだ、俺も妖夢について良くは知らないから、なんとも言えないけど。
「後日、博麗神社に来てくれ。お礼がしたい」
「待て!」
俺はそう言って、帰ろうとした霊斗を引き止める。目的は特にないが……強いて言うなら、やはり俺の名前を当てたことが怪しすぎる。
俺をこっちの世界に引き込んだあの穴と何か関係があるんじゃないか、そんな一抹の希望を持って、霊斗に声をかけた。
「……もう一度聞く、俺の名前をどうして知っている?」
「……はぁ……。やっぱり、お前の思慮深さは変わらないな。軽率な行動に見えて、よく考えてる。……いや、お前自分が死んでもいいとか考えてるって前話してたな。それでか」
霊斗はブツブツとそう言っていたかと思うと、俺に向けて一本の木刀を構えた。
「……俺の能力故、って言ったろ? どうしても気になるって言うなら……この真剣を貸してやる、それで勝負だ」
霊斗はそう言って、俺に刀を投げてきた。俺はそれを受け取り、しっかりと構える。
「……いざっ!!」
そのやりとりは、一瞬だった。俺の瞬間移動を霊斗は一瞬で見切り、そのまま木刀を振るう。こっちは真剣、向こうは木刀、勝てるはずだ。
俺はそう思い、思いっきり刀を振るう。
霊斗はそれに対し、木刀を綺麗に流すように振るった。
「カラン」
乾いた軽い音が響く。
地面に、30センチほどの刀……鉄の刀が落ちていた。即ち、霊斗に木刀で真剣を折られた。いや、断面を見るに斬られたというべきか。
「……参った」
ここまでの力量差を見せられては、俺も何もできない。風斬落を使うことも考えたが……流石にそれは遠慮しておこう。使っても、一瞬で斬り伏せられて終わりだ。
「良い集中力だったぜ。ただ、踏み込みがまだまだ甘いな。鍛えれば、その太刀筋はさらに鋭くなる。妖夢を守るためにも……強くなれ」
霊斗はそれだけ言うと、駆けつけてきた時のように突然消え失せた。それにしても……霊斗はいったい、何者なんだ……?
◇◆◇◆◇
「ありがとうございます!!」
「いえ、そこまでのことは何も……」
何回死にかけたかわかったもんじゃないがな。俺はそんな感想を抱きながらも、同意を求める妖夢に対して頷く。
「少ないですが……こちらが今回のお礼です」
そう言って、村人は袋に詰められたお金と野菜、川魚を妖夢に手渡した。
「ありがとうございます!!」
妖夢は自分の手に渡ったそれに、嬉しそうに顔を綻ばせた。
俺もそれにつられて笑顔になる。……そんな時だった。
「阿礼」
「阿求ですってば!!」
「そうだったな。失礼」
俺は訂正する阿求に対して、そう答える。
「阿求さんと、お知り合いなんですか?」
「知り合いっつーか……あいつと異変の解決のために戦っただけだな。あとは、あいつの先祖に世話になった。それくらいだ」
俺は妖夢にそう説明すると、阿求に向き合う。
「で? 阿求、なんか用か?」
「ええ……書庫で面白い物を見つけたので。あなたへと手紙です」
「手紙……?」
状況から察すると、阿礼が書いたものか。
俺はそう思いつつ、阿求に手渡された巻物を受け取り、その場でめくる。
◇◆◇◆◇
拝啓 志郎様
……なんて、固苦しく書いても私らしくないですね。先ずは、あなたに無断で先立つことをお許しください。知っての通り、私含め、稗田の一族はこれから輪廻転生を利用した大仕事に取り掛かります。その際に、貴方が居ないのは残念ですが……いないのは致し方ありません。
貴方は、いつも変わらず、私を支え、励まし、助けてくれました。貴方は気づいてないかもしれないけれど、私は貴方に幾度となく助けられてるんですよ。
……貴方に、もう一度だけ会いたい。できることなら、看取って欲しい。ですが、そういうわけにもいかないようです。人間は、世界は、残酷ですね。
最後に、私から一つお願いです。できることなら、私の一族を、これからもずっと守ってください。
私の大切な子孫です。私の子孫が辛い思いをしたら、承知しませんよ。それでは……今までありがとうございました。子孫を、一族を、よろしくお願いします
◇◆◇◆◇
その手紙に書かれていたのは、別れの言葉。そして、俺を思っての言葉。阿礼の子孫を思っての言葉。様々な言葉が交差し、糸のように紡がれ、やがて黒い文字となって白い和紙の上に堂々とかかれている。
「……なんだよ、馬鹿野郎」
俺は、思わずそう呟いていた。
頬を、熱い液体が伝っていた。
「……黒山 志郎さん。貴方の想い人であった阿礼は、最後まで貴方を忘れませんでした。どうか、彼女の願いを……聞き届けてください」
阿求の、深々としたお辞儀。
「……ああ、もちろんだ」
妖夢も、守る。阿求たちも、守る。
みんなを守る。俺は今、改めてそう決めた。




