第十話『銀髪の従者は主が進む夢を見るか〜人超異変第六面、中ボス〜』
今回人超異変第六面、中ボスです。
「ふぅ……」
「やっと倒した……」
俺はそう言って、地面に倒れこむように転がる。俺を押し返す草の感触が心地よく、ついつい眠ってしまいそうだ。まぁ……未花の砂のせいでちょっとザラザラしてるけど、そこまで気にならないな。
「……寝ててもいいですよ? 私は周囲の警戒にあたります」
「……悪いな妖夢」
「いえ、お気になさらず」
妖夢はそう言うと、倒れこんだ俺から視界を外し、森の方をじっと見つめる。
俺はそれに気づいていたが……とっくに、意識はほとんど闇の中だった。
◇◆◇◆◇
黒い闇の夢を見た。顔も知らない男が、黒い霧に包まれた男が、その腕を俺に伸ばすのだ。
その腕は、空から降り注ぐ光に撃ち抜かれるが、今度は俺の背後から。次に、俺の足元に。
一歩も動けないその状況を、打破するように光は黒い霧を撃ち抜き、払っていく。
黒い霧は撃ち抜かれるが、その度に俺に手を伸ばしてくる。
それを繰り返すほどに細く、鋭く、腕の形が鮮明になってくる。
──やめろ、来るな、来るな!!
俺がそう叫びそうになって……でも、それもできなくなったその時、俺を白く温かな光が包み込んだ。温もりのある声が、俺を呼び覚ました。
「志郎さん!!」
その光は、声は、俺はなんとなく妖夢だと思った。光と声が、霧をかき消し、俺自身の姿を見えなくした。
◇◆◇◆◇
「うわぁ!!」
俺は、白と黒の混じる光の中で、意識を覚醒させる。
飛び起きると、時はだいぶ経っているようでもう夜になってしまっていた。
「志郎さん!!」
俺が起きたその途端、俺の隣にいた銀髪の少女が喜色に溢れた声を上げる。
「大丈夫ですか? 汗でぐっしょりですよ?」
「あぁ……大丈夫、悪い夢を見ただけだから」
俺はそう言って、額や頬を伝う汗を拭った。
妖力や体力は……だいぶ戻ってきたな。俺は斬られていた翼を再生させ、軽くストレッチをする。
「妖夢、未花はどうしたんだ?」
「ああ、あの少女なら木の根元に寝かしてあります」
妖夢はそう言って、木の方を指差す。俺はその根元で気持ちよさそうに目を瞑る未花に、敵ながらなんだかほっこりした気分になった。
「バゴンッ!!」
その瞬間、何かが大気を揺らした。揺れる空間に共鳴するように地面が震え、俺の中にある膨大な妖力が著しく動き、防御する体制を作る。
「きゃー!!!」
「なんて妖力……! 志郎さん、二手に分かれてこの妖力の元を探しましょう!」
「ああ! 俺はこっちを探す!」
「では私はこちらを!!」
俺たちが巨大な妖力に構えていると、何やら悲鳴のような声が聞こえ、咄嗟に妖夢と二手に分かれて、俺は深い森の中で、妖力と悲鳴の出処を探す。
「キャッ!! 未花姉! 助けてー!!」
悲鳴から察するに、人間の子供っぽいな。人里から消えた子供達だろうか?
口ぶりから、未花のことを慕って村から消えたことがよく分かるな。
「行かせはしない!!」
俺が悲鳴や妖力を頼りに進んでいると、突如銀髪のエプロン……? いや、メイド服(……?)を着ている背の高い少女がナイフを片手に襲いかかる。
俺は一歩後退してそれをかわすと、少女はナイフを一本、俺に投げつけてきた。
「この程度……!」
俺はそれを刀を使って防ぐと、続いてきた少女の回し蹴りをしゃがんでかわす。
「お、白色」
「うるっさい!!」
俺が偶然見えた眼福を無視するかのように、少女は容赦なく下にある俺の頭を踏みくだこうと、勢いよく踏みつける。
俺はそれを両手でガードし、転がって回避する。
「危ねぇ危ねぇ」
「甘いわよ!」
少女は再びナイフを今度は何本も投げつける。
「これし」
俺が言葉を言い終わるより早く、一瞬空間が静止したような感覚に陥る。それと同時に、大量のナイフが俺の周囲に出現する。
「マジか!!」
俺は地面を踏みぬき、俺の周囲の地面を盛り上げることでナイフをガードすると、空いた頭上から高く跳躍し、風斬落の風の刃を銀髪の少女に飛ばす。
「ふんっ!」
少女はそれを軽々とかわすと、今度は跳躍し、アクロバティックな動きをしながらナイフを投げつける。
「な!」
俺はそれを持ち前のスピードで回避し、一瞬で少女の着地地点に移動し、風斬落を構える。
だが、少女はぬるりとした動きで風斬落の攻撃を受け流すと、逆手に持ったナイフを思いっきり振るう。
そのまま、俺の手首に思いっきり突き立てた。
その痛みに、俺は風斬落を思わず取り落としてしまう。
少女はそれにニヤリと笑いながら、回し蹴りを俺の側頭部めがけて高く蹴り上げた。
「くっそ!」
「まだまだよ!!」
俺は顔面を蹴りつけてくる少女の脚をバク転でかわし、それと同時に少女の脚にオーバーヘッドキックを決める。
「うぐっ!!」
「これからだぜェ!!」
怯んだ少女の顔面に思いっきり蹴りを決める。
「ぐふっ!」
少女は鼻から血を流しつつも、バックステップとバク転で俺から距離を取り、ナイフを投げつけてくる。
俺はそれを手で弾くと、今度は横からナイフが飛んでくる。
次は後ろ、さらに横、前、横……と、少女が俺の周囲を回転しながらナイフを投げつけているようだ。さらに、当たらなかったナイフをどうやってか、逆向きに飛ばして再び俺を狙ったり、俺の逃げ道を塞ぐのに使っている。
「まだまだァ!!」
俺は飛んでくるナイフを、妖力を解放することで吹き飛ばして一斉にナイフを止める。
俺に内包される妖力量の多さに怯んだ少女の腹に、一瞬の隙をついて回し蹴りを決める。
少女はそれによっていくつかの木をへし折り、遠くにあった大木に衝突して止まった。
「ハァ……ハァ……お前も守るものはあるだろうが、俺だって引けねぇ理由があんだよ……さて……」
俺は半妖であり、満タンの妖力があったからこそ既に回復した手首をなで回しながら、刀を拾って妖力と悲鳴の方に顔を向けた。そこには、月光を背に輝く紫髪の少女の姿があった。
次回は今回の異変のラスボス!
ナイフを操る銀髪の従者の主人といえば……?




