プロローグin冥界、白玉楼から
この作品の進みは多分だらだらになります!ご容赦を!
プロローグ
「妖怪の山の勢力はどうだ!?」
「完全にあっち側の傘下に下るみたいだ! これで、こっちの勢力は紅魔館、白玉楼、永遠亭、人里。対してあっちは、守矢神社を筆頭に妖怪の山、地底、天界、月!」
「命蓮寺と神霊廊はどうだ!?」
「神霊廊は未だ不明だが、命蓮寺は中立を表明、人里の人間の多くも命蓮寺に寄り添っている模様!」
なんだこりゃ、すげぇ慌ただしいな。
何が起きてんだ……って、考えなくても大体分かる。幻想郷内で、戦争が起こっているってことだろうか? で、俺は博麗神社側であいつらと一緒に戦う、と。
ということは、俺は妖怪の山の連中と対立するってことか。妖怪の山は同族も多いし、なるべくそんなことはしたくないんだがな……。
「鬼や天狗たちが全員あっちに付いたのは、かなり痛手じゃないか?」
「まあな。鬼たちは、一人で一騎当千の破壊力を持っている。しかも、今は鬼の四天王が揃っちまっている状態だからな。並大抵の軍隊じゃあ傷一つ残せずに潰されちまう。それに、月の最新兵器が向こうにあるってのも、こっちがかなり不利になってる」
霊斗はそう言って一区切りつけると、だがまぁ……と付け加えた。
「強い人間は、大体こっちに入ってる。それに、危なくなったら俺がなんとかしてやる。安心しろ」
霊斗はそう言って、自信満々に自分のことを指差した。けど……それって、危なくならないと霊斗がなんとてくれるわけじゃないってことだよな? すっげぇ不安なんだけど……。それに、打開策もないままに霊斗に戦いを挑むなんて、到底思えない。
いくつも不安が残る中で、俺は霊斗の言葉に首を縦に振った。
◇◆◇◆◇
西行妖の樹の上。幹とも見間違うような、樹齢二千年を超える太い枝の上で、一人の青年はスヤスヤと寝息を立てていた。
そんな青年の元に、白いシャツの上に青緑色のベストを羽織った、美しい銀髪と黒く大きなリボンが特徴的な少女が一人歩み寄る。
「……可愛い所もあるんですね……。ってそうじゃなくて! 志郎さん、起きてください……志郎さんってば!」
少女の可愛らしい声が、冥界に木霊した。
◇◆◇◆◇
俺は誰かに起こされ、状況を確認する。
えっとここは……西行妖の上、だよな? 確か、俺はここで休憩がてら仮眠していたんだが……。
「ふぁ〜あぁ……ねむ……」
俺は、一つ伸びをして辺りを見渡す。
すると、銀髪を伸ばした、少し大人びた魂魄 妖夢がこちらを覗き込んでいた。
ああ、妖夢が俺を起こしてくれたのか。世話焼きな彼女のことだ、見過ごせなかったんだろう。
「もう、志郎さん、こんな所で寝たら風邪ひいちゃいますよ!」
「だ〜いじょ〜ぶだってぇ……」
俺はあくびをしながらそう言いつつ、「よっこらせ」とお爺さんのような言い方をしながら立ち上がる。
半人半妖である俺に、風邪をひくなんてありえないが……ああいや、冬花異変の時は思いっきり風邪ひいたっけ。
あの日は、酷く寒い1日だったな。
いや、今は冬花異変のことなんてどうだっていいんだ。あの異変はもう既に一区切りついているし。
「はてさて……今日も幽々子様の為に、ひと頑張りいきますか!!」
「はい!!」
俺は大きな声を出して気合を入れてから、西行妖を飛び降りると、妖夢は俺についてくるように返事をしながら飛び降りた。
腰を折り曲げて降り立った地面によって、自分に軽い衝撃が起こる。
石畳の硬さを踏みしめ、自分が冥界の人間であることを再確認しながら、奥地にある西行妖から、冥界の比較的入り口付近にある、屋敷、白玉楼へと目をやる。白玉楼へは、まだ少し距離があるな。
……そう言えば、西行妖には幽々子様の死体が封印されているんだよな。もし西行妖の封印が解かれれば、幽々子様の死体が現れる。死体が現れるってことはつまり、亡霊である幽々子様が消滅するってことだ。
やっぱり、西行妖は守らなければいけない。封印を解かしてはいけない物だったわけだ。
……あれ? 一回、封印って解けなかったっけ? 気のせいか……? いやいや、そんなことはないはず。今度、霊斗に問いただしてみるか。
そんなことを考えながら、俺たちはゆったりと白玉楼へと歩いていく。
俺たちは……いや、俺は異変の解決を仕事にしながらこの冥界、白玉楼にて西行寺家のお嬢さま、西行寺 幽々子様に仕える者だ。
異変の解決といっても、大抵は肉体労働になる。元々異変解決を仕事にしていた霊夢の所……博麗神社は、ここん所安定収入の目処が立ったらしく、異変を解決してとやかく言われることはない。
そういや、自己紹介がまだだったな。俺の名は、黒山 志郎……ああ、間違えた、元黒山だ。今は魂魄って名前になってる。
何人かの人はもう察したと思うが、先ほどの黒く大きなリボンの銀髪の少女、魂魄 妖夢と俺は結婚した。
妖夢はすでに子供を身ごもっていて、もうすぐ俺が守ってやらなければならない時期になるだろうな。それはとても楽しみだが、同時に大きな不安でもある。
だが、いつも守られてばかりだった俺だが、今度は俺が妖夢と、俺たちの子供を守る……! そう、決めたんだ。俺は自らに言い聞かせるように確認しながら、やはりゆっくりと白玉楼へと歩いていく。
俺の種族は半人半妖。大天狗と人間の血を引く、この世界でおそらく唯一無二の存在とも言える人間……いや人間か? ……まあいいや。
そんな俺と彼女の慣れ始めは……多分、今から2年前のことだったと思う。
俺が階段から落ちた所を、妖夢に助けてもらった。今考えれば、それは奇跡みたいな物だったと思う。
あの日、俺が突風に吹かれて階段を踏み外さなければ。
あの日、あのタイミングで妖夢が博麗神社を訪れなかったら。俺が倒れたことを妖夢が発見しなかったら。
あの日、妖夢以外の誰かが博麗神社で倒れている俺を発見したら。
きっと、今みたいにはならなかったと思う。
唯一、今のこの状況を作れる過去。それは、きっと俺が階段から落ちて、そこを妖夢が助けてくれた過去だったのではないだろうか。
まあ、確証はないが……それでも、よく分からないことがいくらでも起こるのが幻想郷、パラレルワールドが無限に起こりうるのが幻想郷だ。この一時を大切にしよう。
俺はそう思いながら、白玉楼へと向かって歩く。
白玉楼の玄関は、もうすぐそこだ。