3回目のコンビニ
3
その次の日、風邪の症状は前の日よりはだいぶ良くなっていた。
2日前にはずいぶん新鮮に見えた平日の昼間の風景が、もうすでに、なんでもない日常のものになっているようだった。
たまには角の喫茶店で軽い物でも食べて珈琲を飲むのもいいかな、という思いが頭の中をちらっとかすめたが、次の瞬間には、その店のウエイトレスのいつかの不機嫌そうな顔を思い出してしまった。
それだったら、また昨日のコンビニの女の子にハンバーグ弁当でも温めてもらうほうがましかな、と思い、例の店に入っていったのは一体どういう心理状態であったのか。
店には先客がいて、その女の子は、ちょうど一万円札を受け取って困ったような顔をしているところだった。
僕は、ちょっとタイミングを外すつもりで店の中ほどのほうへぶらぶらと歩いていったところ、手に触れるものがあって、つかんでみたらレトルトの雑炊だった。
もう風邪もだいぶいいようだし、雑炊ってこともないだろうと元の棚に戻そうとしたとき、例の店長がいつの間にかすぐ横に立っていた。
一瞬、息が止まりそうになったのを見抜かれたかどうか、おそるおそるその男の顔を覗き込んで見ると、男は、
「毎度ありがとうございます。お待ちしていました。
しかしハンバーグ弁当は無理ですよ。あなたはまた熱が出てきたようだ。だからあなたはその雑炊を選んだのです。」
「………。」
「信じないのですか?
でも、うちへ帰って体温計で測って見るといいですよ。
運命には逆らえない。」
「何だって?」
「うちでは、これでも品揃えや商品の置き方にずいぶん気を使っているんですよ。
お客さんも聞いたことがあるでしょう。コンビニというのは狭い店舗で多くの物を扱って売り上げを延ばさなきゃいけない。そのためには、例えば昼と夕方、それに深夜では並べ方も違うのですよ。主婦と高校生とサラリーマンではもちろん買うものが違いますからね。」
「………。」
「ところが、そこまでならどこのコンビニも同じです。
うちの凄いところは、なんて自分で言うのも何なんですけどね、来るお客様ごとに品揃えをしとくんです。
一番最初にお越しになったときにもお話ししたでしょう。だからあなたにはあなたが買うべきものが探せるようになっている。」
こいつは頭がおかしいんじゃないか、相手にしてたら大変だ、と思って帰ろうとしたが、どうも頭が重いし体がだるくていうことをきかない。
「昨日のヨーグルトはおいしかったでしょう。
でも今日はこの雑炊です。熱で胃がやられているでしょうから。
それと、この懐中電灯もお持ちください。一家にひとつは絶対に必要ですからね。」
僕はもうこの男に逆らう元気もなく、言われるままにお金を払い、アパートに戻った。
部屋に入った途端ベットに倒れ込んでしまって、再び目を覚ましたのは夕方だった。もう薄暗くなってきていていたので電気をつけようとすると、停電だった。
懐中電灯を頼りに熱を測ってみると、三十八度を越えていた。