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2回目のコンビニ

     2


 次の日、やっぱり何か食べなくちゃ、と思って、またアパートを出た。

 何度も言うようだけれど、食欲があったわけではない。

 それにしても、一体なんだって人間はこうして物を食べて、それを出さなければ、生きて行けないんだろう。いや、なにも食事が一切いやだと言ってるわけじゃあない。ただ、やっぱり、食事をすることすら面倒だなって思う日は、誰にだってかならずあるものだ。だから、たとえば一日一粒の薬を飲めば、その日の食事を省略できるような、そんなものは発明されないものだろうか。

 このご時世に、なんでそんな薬が出てこないのか、逆に不思議なくらいだ。もちろん、単に栄養分をとるだけではなくて、なんとなくおなかが一杯になったような気がして、すこうしだけでも幸せな気分になれるような薬でなければいけない。おそらく、そこらへんがネックなのだろうな。

 ついでだけど、食べるほうでなく、出すほうをもう少しなんとかできる薬が発明されたら、それこそノーベル賞一年分は間違いないだろうと思う。

 それが無理なら、究極の風邪薬だ。そう。風邪を治す薬じゃなくて、風邪をひかなくする薬。

 それで思い出した。僕は、風邪をひいていたんだった。


 結局昨日は、その得体の知れない男のコンビニで買ったお粥を食べて風邪薬を飲んだら、そのまま眠くなって今朝まで寝てしまった。

 またバイトをサボることにはなるが、体がいうことをきかないのであれば仕方がない。

 この日は、前の日にもまして陽射しの強い日だった。

 車の音がとても遠くに聞こえ、そうかと思うとすれちがう瞬間には引き摺り込まれそうな大きな音となって迫ってくるような気がした。

 道の向こうに、昨日のコンビニが見えた。

 あの店長、またいるだろうか。

 そりゃあ、店長ならいるのは当たり前だ、そう思った瞬間、昨日の、なにやら脂ぎった、歯並びの悪い顔が思い出された。

 また、わけのわからないことを言われるのも嫌だし、変なものを買わされるんじゃなお不愉快だ、今日はあの店はやめて前々から行っていた店にしようか、と思ったが、どうにも体がだるい。少しでも近いほうが楽なのは間違いないし、見るとレジにはバイト風の女の子がいるだけだ。


 それならば、と入ってみると、まあまあ可愛いバイトの女の子がいるレジの横に『三分間で、温かいお食事がお持ち帰りになれます。』と書いた紙が貼ってあって、ピラフやカレーライスなんかのサンプルが並んでいるのが眼にとまった。

 今日はこれにしてみようか、昨日より体調もいいし、と思ったときには、その女の子が

「ピラフですね。」

とにっこり笑いかけていて、僕のほうは、ただ軽くうなずくだけで注文は完了だった。

 ピラフが出来上がるのを待っている間にレジの前を見ると、ヨーグルトが一つ置いてあり、気がついて見ると手にとっていた。そのひんやりとした感触は、熱っぽいのどに気持ちいいであろうことに疑いの余地はなかった。

 むしろそのときに疑ってみるべきであったのは、本来奥の冷蔵庫に入っているはずのヨーグルトが、なぜレジの前にあって、しかも出してきたばかりのように冷えていたのか、ということだったのだが、

「お待ちどうさまでした。」

の声に、それ以上考えることを止めてしまった。


 温かいピラフと冷たいヨーグルトを持ってそのコンビニを出ようとしたとき、背後に視線を感じた。そう、あの、店長と思しき男が、視界の隅にちらっと見えた気がした。

 僕は、あえて振り向かず、自動ドアが開くのももどかしく外へ出たが、その時その男の、

「ありがとうございました。お役に立てましたかな。」

と言う声が聞こえたのが空耳であったのかどうか、はっきり思い出す事はできない。

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