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覆拳族の形2

 町長宅での話し合いの後、俺たちは町長に連れられて町の外れに来ていた。


「どうしても勇者様に見ておいて欲しいものがあるのです」


 町長宅の裏から十一メートル進んだ先、そこは墓地だった。細長い石や木板に名前を書いて地面に挿すという簡素な墓だ。昔からこの地の利用法は変わっていないらしく、実に四百六十三基もの墓があった。

 そして、その数は今まさに増えていっている。


 十二時間以内に死亡したと思われる男性の遺体が今まさに埋められている。

 死因は全身に強い衝撃を受けたことによる内蔵破裂からのショック死か。

 その男性の家族らしい男女が泣きながら、黙々と土をかけている。

 そのような姿が、あと七組ある。


「皆、魔族にやられたのです。お願いします、勇者様。どうか仇を・・・・・・!」


 町長と町民は、ただただ頭を下げ続けた。





 あのような状況では、落ちついて話ができないと考えて、一度町長らから離れることにした。

 俺としては町のものから覆拳族とやらの特徴を聞いてからでもよかったのだが、スクルドが自分にもわかると言ったので、彼女に着いていくことにした。


 向かった先は墓地とは反対の、林に近い方の町の外れだ。こちら側にはやはり近づきたくないのか、頼まなくても、着いてくる町民はいなかった。

 周囲にはせいぜい見張りの男衆しかいないため、ここならばある程度冷静な話し合いができるだろう。

 俺は武装の確認をしながらスクルドに話しかけた。


「元々町にいた奴隷が十五。襲ってきたのが三十強。少なくとも合わせて四十五はいるのか。スクルド、覆拳族の特徴は?」

「あの死体の状態から大体分かるとは思いますが、拳による殴打を得意とする一族です。それ以外にこれといった強みはありませんが、数が多いのが特徴で、魔族の中でも特に勢力が強い四強族の一つに含まれています」

「随分と詳しいのだな」


 予想よりも詳細な情報が語られた。

 意外に思って理由を問うと、彼女はニヤリと笑う。


「過去に捕らえて尋問したことがあるので」


 拷問の間違いではないのかと思ったが、音声にするのはやめておいた。代わりに、ライフルの分解と簡単な整備に視線を落とすことで返答を避けた。


「体の組成はどうなっている? 石や金属、もしくはまた骨でできているのか?」

「いえ。石でできたやつもいるにはいますが、覆拳族は普通に肉でできていますよ」


 人間よりは頑丈ですけどね、とスクルドは自らの腕の肉をつまみながら言う。

 タンパク質でできた体に殴られようと損傷する機体ではないが、話によるとかなり大きいため、衝撃は殺せないかもしれない。基本的に敵の攻撃は受けないようにするべきだろう。

 肩部のミサイルハッチを開き、動作確認をする。


「夜になってから襲ってくるようだが、奴らは夜行性なのか?」

「えっと、どうでしょう。さすがにそこまではわかりませんが、昼に来ないのはやっぱり人間に負けた記憶がまだ新しいからじゃないですかね」

「なるほど」


 現状は町民が一方的に殺されているわけだが、魔族側も人間に負けたことによる怯えや警戒から、正面きっての戦いを避けているということだろう。

 両腰に備え付けられた円盤を取り外して、ヒートブレードを展開し、動作の確認をする。


「それにしても、なぜ覆拳族はあの林に立て籠ったんだ? せっかく救出に成功したのだから、さっさと連れて帰ればいいのに」

「普段は見下している人間から奴隷扱いを受けた雪辱を晴らすまで帰らないのが半分。あとの半分は・・・・・・推測ですけど、来たとき同様帰りの足であったニーズヘッグを落とされたことで、帰れなくなったんじゃないかと」

「むう。思わぬ副次効果だな」


 俺がニーズヘッグを落としたことによってこの町に被害が出てしまっているのだとしたら、早急に手を打たなければならない。

 右手をブラスト砲に、左手をキャノン砲に変形させる。


「ところで、さっきからなにをウィンウィンさせてるんですか? 煩いんですけど」

「武装の確認だ」


 ライフルは残り二十発。替えのマガジンはもうない。

 肩部のミサイルは残り六発ずつの計十二発。

 ヒートブレードは俺からのエネルギー供給をうけている限り使用制限はないに等しいが、金属生命体との戦い以降補修していないので、強度に不安がある。

 ブラスト砲は後三十秒間の連続発射ができる。それ以上は機体の残り起動時間と右腕に無視できない影響を及ぼす。

 キャノン砲は残り五発。

 これが俺の全武装である。


「ところで、スクルドは昼と夜ならどちらがいい?」

「昼ですね。暗いのは苦手です」

「じゃあ、今から殴り込みに行くとしよう」

「賛成です」





 空を飛んで林に近づき、熱源を探知した場所に降り立って一気に攻撃を仕掛ける。


太陽のルーン(ソウイル)炎のルーン(カノ)!」


 ライフルの弾丸とルーン魔術が固まっていた魔族を襲い、混乱に陥れる。


「な、なんだ!?」

「人間だ! 人間が来たぞ!」

「人間!? 殺せえええ!」


 しかし相手が人間だと判明するやいなや、混乱して統率も取れないまま個々に襲いかかってくる。

 奇妙な生命体だ。

 子供がこねくり回した粘土細工のようだ。

 各パーツだけを見れば人間に似ている。

 ただ、頭部と手足が膨らんで、非常にバランスが悪そうだ。

 身長も平均して二メートルを優に超しているので、出来の悪いやじろべえのようだ。


「スクルド、少し下がれ。俺が前衛を引き受ける」

「任せましたよ!」


 スクルドが軽快にバックステップをしながらルーンを飛ばすのを確認しつつ、ライフルの弾倉に残った弾丸を一発も無駄にすることなく全て吐き出させる。

 これでライフルは鈍器となってしまうが、人数的に猶予がないため出し惜しみできない。

 全弾を撃ち尽くせば、最初に向かってきた者とそのすぐ後ろにいた魔族は二度と動かなくなっていた。


「あと十二体だ! これより接近して攻撃を仕掛ける」


 通信による会話ができないため、大声でスクルドに知らせる。

 目の前にいた仲間があっという間に倒れたことで、残った魔族は呆然としている。

 だが戦闘本能が強いのか、すぐに顔を怒りと焦りで真っ赤に染めて、拳を振り上げながら向かってくる。


「敵の動きを止めます! 棘のルーン(スリサズ)!」


 敵の太い足に地面の蔦や長草などが絡みつき、完全に動きを止めるとまではいかないが、その勢いを多いに削る。中には足をもつれさせて周囲の者を巻き込みながら倒れた魔人もいた。


「ナイスサポートだ!」


 その隙を逃さず、前方に短くジャンプしながらジェットエンジンを起動し、ヒートブレードを展開。

 熱で鮮やかな赤に光るブレードを構える。

 ほとんど動きのとれない魔族の間を飛行しながら斬り抜けていく。


「あと八体!」

「キサマらあああ!!」


 林の奥の方から、一際大きな体を持つ覆拳族が走ってくる。

 バランスの悪そうな体躯をその流れに逆らわずに捩じることで、すさまじい勢いを出している。


「ふむ。残り七体の姿がないな」


 大きな覆拳族の後ろに絞ってスキャンすると、小さいながらも反応があった。

 病症者を匿っていたのだろうか。


「よくもやってくれたなああ、人間ども!! オレサマは覆拳族一の勇士にして魔族四天王が一員のバンガ! キサマらまとめて────ウボアア!?」


 長々と口上を述べていた覆拳族の勇士にして四天王の一員とやらにスクルドの放った火球が命中し、大爆発を起こす。


「なーにが四天王ですか。残さず絶滅させてあげたでしょうが」

「このおおお!!」


 だが勇士と自称するだけはあるのか、火球が命中して焦げた頭を振りながらも、腕を振り上げて向かってくる。


「おっと」


 右腕を振り下ろせばその勢いと左手の重さで、左腕が頭の後ろまで振りかぶられ、それを振り下ろせば右腕が────といった具合に、次々と勢いと重量のあるパンチが繰り出される。

 なるほど。たしかに殴ることに特化した一族のようだ。


「だがワンパターンだな。それでは無意味だ」


 敵の攻撃リズムを解析し、拳の間を縫って背後に回ってブレードを振り上げる。


「終わりだ」


 バンガが慌てたように腰を捻って右腕を後ろに回して攻撃しようとしたが、もう遅い。


「バカなこ────────」


 赤い軌跡をのこして焼き斬られたバンガが崩れ落ちる。


「残り七体ですね。どこでしょうか?」


 討ち漏らしがないかチェックし終えたスクルドがキョロキョロと辺りを見渡しながら近づいてくる。


「この奥にいるようだ」


 バンガが出てきた道を示しながら、連れだって林の奥に向かう。


「まあ、残っているのは恐らく・・・・・・」


 スクルドが言い終える前に、残った魔族が姿を現した。


「ひぃっ!」


 怯えた声を漏らすのは────子供の魔人だった。

 ただひたすらにバランスの悪そうな体は動きづらそうで、大人たちのような全身を使った移動も攻撃も行うことはできないだろう。


「人質用の子供ですね。力の強い魔族は縛ることができないので、子供の方を捕えます。特に覆拳族の子供は見ての通り動きが鈍いので、一度捕えれば自力で逃げ出すことはできません」


 スクルドの声は冷ややかだった。

 魔族の子供を見るその目も、冷めきっていた。


「現状では脅威足り得ませんね。どうしますか?」


 ただその口調だけは、俺を試すようだった。


「決まっている。俺は人間を守る存在だ」





「ああ。やっぱり、そういうことでしたか」


 最後の魔族を倒した後、少し離れて周囲を索敵していたスクルドが何かを見つけて、声をかけてきた。


「見てくださいよ、これ」


 スクルドが指し示したのは墓だった。

 町にあったものよりもはるかに簡素なものだ。

 盛られた土に、木の枝が刺さっている。

 数は十五基ある。


「おかしいと思ったんですよ。町の規模にしては十五というのは奴隷の数が少なかったので」

「・・・・・・ああ。なるほどな」


 そこまで聞いて、俺の理解が追いついた。

 町民が襲撃してきた魔族を返り討ちにできたわけはない。町民たち自身もそう証言している。

 頑強な魔族が自然死した数にしては多すぎる。


 だが、墓は十五ある。


「因果応報ですよ」


遅い。長い。短い。

戦闘回なのに戦闘シーンが短すぎる。

仕方ないですね。圧倒的ですからね。


遅いのは、本当に申し訳ないです。

おもったより長くなってしまった。


次回は明日の朝9時過ぎに更新です。

ではでは。

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