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覆拳族の形1


 見送りの儀は五分で終わった。

 というよりもスクルドが終わらせた。

 涙ながらに「困っている民に一刻も早く救いの手を差し伸べたいのです」と訴えられては、王としても無闇に引き留めるわけにはいかない。

 王から金を受け取った俺たちは馬に乗って、騎馬隊と共に国の端まで向かい、そこから飛んでいくことにした。

 金を持って行くといっても、この時代に紙のお札はないし、カード払いに適応した店などあるはずもない。

 要するに金属製の貨幣────金貨や銀貨となる。

 食料などを直接持って行くよりは軽くなるものの、金属の塊を持ち歩くことには変わりないので、あまり多くを持って行くのは本末転倒だ。

 だがだからといっても価値の高い金貨だけを持っていっても、取引相手がお釣りを用意できるとは限らない。王都から向かうということはつまりどこへいっても田舎の方向になるということだ。貨幣制度自体は浸透しているらしいが、田舎はやはり自給自足が基本らしい。

 結局、金貨を一枚、銀貨を二十四枚、銅貨二十四枚という内訳となった。銀貨十二枚で金貨一枚分、銅貨十二枚で銀貨一枚分らしいので、実質金貨三枚と銀貨一枚分となる。

 厳密な価値は地域によって異なるものの、金貨一枚あればそれで一生働かずに暮らせるらしい。遊んでは無理らしいが。

 貨幣の形状としては可能な限り円に近づけたというような歪な円に王の名前と、王家の紋章らしい王冠と盾の絵が刻まれている。加工のしやすさが理由なのか、金貨が最も真円に近く、紋章もはっきりと刻まれている。


「まずは王都ウプサラより一番近いイェヴレに向かいます。林業が盛んな町ですから、それなりの人数の奴隷がいると思われます」

「了解した。道案内を頼む」

「ええ。お金で取引できる限界もありますからね。短期決戦です」


 俺の隣を飛ぶスクルドは寒さを凌ぐため厚着をしている。

 無理もない。

 現在俺たちは地上二十メートルの上空を時速二十キロで飛行している。

 一般的に地球上では百メートル上に行くごとに約0.65℃気温が下がるので約0.13℃下がっていることになる。

 更に時速ニ十キロということは風速にして約6m/sとなり、体感で-5.1℃となる。

 長時間の飛行は体にかかる負担が大きすぎるのではないかと思ったが、ルーン魔術によって体を保護しているためある程度なら大丈夫だそうだ。


 そのような状態で五時間三十二分飛行し続け、林に隣接している町────イェヴレへ到着した。

 人口としては二百人ほどの規模の町だろうか。周囲を柵で囲んでいる。

 ただ、倒壊している家屋がいくつか確認できる。


「手ひどくやられていますね。町長の家は無事なようなので、話を聞きに行きましょう」


 着地した俺たちは一際大きな造りとなっている町長宅へと向かった。

 道中、通りには人気はなく、魔族が暴れ回った痕跡がそこかしこにあった。

 だが進むにつれ、熱源感知に反応があった。

 どうやら襲撃を防ぐため、一か所に集まっていたようだ。


「止まれ! 何者だ!」

「それ以上近づくな!」


 見張りであろう男たちが数人、手斧などの武器を携えながら姿を現した。

 反抗する気もないため、要請に従い足を止める。

 王からは権限の一部を譲渡する証明書である羊皮紙を預かっているが、果たしてこの追い詰められた状況で町人にどこまで信用されるか分からない。

 ナンパ成功術~対男性編~と人心掌握術~世界征服編~のどちらを起動させようか迷っていると、男たちが突然警戒を解いた。


「勇者様!」

「来てくださったのですね!」

「・・・・・・?」


 あまりの話の早さに困惑するが、誤解が解けたのなら問題はない。

 俺たちは男たちに案内され、町長の前に連れてこられた。


「おお! 勇者様、よくぞ来てくださった。王都へ伝令も送れぬため、途方にくれておったのじゃ」

「ええ。このような事態はこの美人天才魔導師スクルドにとっては想定の範囲内です。現状はどうなっていますか?」


 ヤーレと名乗った町長──歳はヴァンランディ王と同じく三十代半ばだろうか──の話を要約すると、三日前に突如として魔族の一群が襲来。

 町にいた魔族の奴隷を破壊活動を行いながら解放し、そのまますぐ近くの林に居着いてしまったようだ。

 このままでは仕事ができない上に、夜になる度に町を襲撃されるという。


「話は分かりました。すぐさま解決してあげますので、その折には謝礼をよろしくお願いしますね」

「これ以上金属を増やしてどうする。ヤーレ町長、申し遅れた。俺は欧州群機甲軍所属QWERTY部隊第二分隊隊長、コードナンバー020。通称ニードだ。事態を解決したら、報酬といってはなんだが、夜を明かす場所と食料を分けていただきたい」


 指で硬貨の形を作りながら町長に迫るスクルドを押しのけて、交渉を進める。

 が、町長はよく聞き取れなかったらしく、眉根を寄せて皺だらけの顔をさらに皺まみれにしている。


「こうちゅう、くわがた・・・・・・?」

「俺は鋏が付いていたりも、樹液をすすりもしない。ニードだ」

「ああっ! 申し訳ありません、勇者ニード様!」


 個性が強く出たQWERTYナンバーにとって、名前は重要なものだ。

 とはいえ怒ったわけではない。

 平伏する町長の頭を上げさせて、重要なことを訊ねる。


「それで、敵はどんなやつなんだ」


 質問に町長は憎々しげに林の方角を睨む。


「覆拳族です」


学生時代以来の計算に手間取りました。

いや、ほんとうに申し訳ないです。

体感温度はミスナールの計算式を用いています。

たぶん、あってるはず、です。


次回はようやく戦闘回です。

本当は今回で終わらせたかったのですが、長くなるので。


明日こそ朝九時過ぎ更新です。

ではでは。

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