王の形1
粒子の解析は甲斐なく失敗した。
今は既に王都へと入り、王宮へと向かっているのだが、その道中において魔力とやらの粒子の解析は一向に進まなかった。
どのような成分かはおろかその役割や性質も解らない。
スクルドがルーンを描いて出した炎や、あまりにも俺が重すぎて走ることができない馬に、部隊の魔術士がかけた筋力強化の効果があると思われる騎乗のルーンなどが起こす摩訶不思議な現象──魔術の発生やその効果に作用しているのは分かるが、その作用がどのようなものなのかが解らない。
諦めた俺はロットーとスクルドと会話し、情報交換に努めた。
最初は任務に忠実に俺たちの先を走っていたロットーだったが、やはり気になるのかちらちらとこちらを振り返っていたので声をかけると、喜んで後ろに下がってきた。
「勇者殿────ニード殿はやはりアースガルドのご出身でしょうか? その金色の鎧から察するにフレイヤ様の眷属の方とお見受けしますが」
口の片端を持ち上げ、目を輝かせて────つまりは俗に言うドヤ顔を披露するロットーだが「違う」と真実を告げると、サッとその表情を羞恥に変えた。
「ところで、さっきの巨大な骨の固まり──ストゥルルソンだったか。 ロットー隊長は〝罪深き者ども〟と呼んでいたようだが?」
ロットーは放って、反対にいるスクルドに問いかける。
「ああ。正式な名称は〝罪深き者ども〟ですよ」
「じゃあストゥルルソンというのは?」
「さっきのあの集まって巨大になった骨の顔はなぜかどれも大体同じになるんですけど、その顔がですね」
「ああ」
指をたててなぜだか得意気に説明するスクルドに円滑な会話のための相槌をうつ。
「家の裏手に住んでる売れない老詩人の顔にすっごく似てるんですよ」
「・・・・・・・・・・・・その老人の名前が、ストゥルルソンというわけか」
「そうです。もうほんと骨と皮だけって言うか、骨と膜だけって言うか。まあお金がなくて食べ物買えないからなんですけどね」
「・・・・・・・・・・・・」
残念ながら俺には食料事情を改善するためのプログラムは搭載されていない。そのご老人が売れる詩を作るのを祈るばかりだ。
そのような会話をしていると、一人の女性に目が留まった。 彼女の周りにだけ一際、魔力粒子が集まっている。そして体を構成する情報に、通常のヒトとは違うところが見られる。外見こそ人そっくりだが、俺の識別システムは彼女を人とは認識しなかった。
「ロットー隊長、一つ訊いても?」
「はい!勇者殿。してなんでございますか?」
落ち込んでいたロットーだったが、声をかけると途端に元気を取り戻した。
「あそこにいる女性なのだが・・・・・・」
俺の示す先が分かったのか、ロットーがああと頷く。
「彼女は妖精族の者ですね。儀式に参加していた魔術師でしょう。勇者殿の世界に妖精はいなかったのですか?」
「妖精か。いや、いなかったはずだ」
エイリアンならいたが。
「私には彼らがいない世界というのは想像できませんが、異世界ならそういったこともあるのでしょうね」
「共存はできているのか?」
「それはもう。ユングヴィ王がスヴェーリエの三代目の王に就いた際にアルヘイムより共に降りてきて以来、良好な関係を築いております」
「ふむ。妖精族は移民なのか」
「いえ。今いる妖精族のリョースアールヴは確かに移民の子孫ですが、移民が来る前にも妖精族は当時からいたそうです。と言ってもリョースアールヴの数は少なく、ほとんどがデックアールヴでしたが」
「妖精族にも色々な種があるのか」
「はい。それが原因で当時はリョースアールヴとの間にもいさかいが発生したそうですが、今では地域によって信仰の対象とされているほどです」
「ふむ。そうか。助かった。なにぶんわからないことばかりでな」
「いえ、お役に立てたのであれば幸いです」
シグナンドから視線を外し、もう一度妖精族の女性を見る。
測る。
街の中は、市民がどこか集会場のようなところに避難したのか人気はあまりなかった。
その代わりに兵士と思われる者たちが物々しさを振りまいている。
(特に筋力が発達しているわけでもなし、道を普通に歩いていても周囲の人が警戒する様子もない。人類と良好な関係を結んでいるのは本当のようだな)
これなら。
(妖精族を殲滅する必要も、敵対する必要も無さそうだ)
そして、王宮に到着した。
ちょっと短いですが、これ以上は長くなりそうなので一旦切ります。途中からスマホにて執筆しているので改行等おかしなところがあります。申し訳ありません。戻り次第修正します。
次回更新は明日の朝9時過ぎになります。
ではでは。