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Flight8‐黒い扉

今回の話は伏線+特異設定が多く、分かりづらいです。次話で少し解説しますのでお許しください。


 国語、数学、科学、物理、世界史、日本史、地理、英語、古文……etc

 大体の学校生活中で最も多い時間は、もちろん卓上の授業だ。

 でも、その授業を受けないというのも、ちょっとした優越感がある。




「…ふぅ、これでよしッと」



 僕は机の上の書類を片付け終わって、椅子に寄り掛かりゆっくりと伸びをする。

 机といっても、教室の机じゃなくて生徒会室の馬鹿デカい長机だ。


 他の生徒が授業を受けている中、僕は特級生の権利で授業を休み、生徒会室で副会長兼書記兼事務の仕事をこなしていた。

 さすがに掛け持ちすると仕事量が半端ないため、作れる時間を有効利用しているのだ。

 ……でも、まだ時計の短針が12の所を登りきる前にだいたいの仕事が終わってたりする。



「後は…弁当食べてから部屋の掃除でもしとくかな」



 手持ちぶたさになった僕は、少し早いけど弁当を食べるために、書類をずらしてスペースを作り、足元に置いといた弁当を机の上に広げる。




 ん? …廊下から誰かが走る足音が聞こえる。

 それも物凄い速度でこっちに迫ってる気が……あ、この部屋の前で止まった。



「伊達ェ!! 弁当食べるぞ! てか、食べさせろ!!」



 ノックもせずにドアを開けてきた人は、笑顔でそう言った。



 ……萩野はぎの 杏子キョウコ

 肩の辺りでバッサリと切り揃えられたオレンジ色の髪は、他の生徒とは一線違う。

 背丈は僕よりも少し大きく、スレンダーで無駄な肉がついていない体は、日頃の鍛練の成果を表している。



「……萩野先輩、ノックぐらいはしてください」

「いいじゃないかそんなこと。それより飯食わせるか、陸上部に入れ」

「弁当はあげますから、部活には入りません」

「ダメかぁ…ま、分かり切ってたけどね」



 そう言って、萩野先輩は僕の差し出した弁当を流れるような動作で取り、僕の隣…つまり彩貴の席で食べ始めた。


 ……この人は戌高の三年生で、陸上部の部長である。

 短距離、長距離、走高跳びの三種目において全国レベルの頂点に達するという超人的な実績を持っていて、その功績で『特級生』となった人だ。

 性格は男勝りのアネゴ肌ってやつで、その容姿のよさもあって男女構わず人気がある。


 そんなスゴい先輩と僕が関わる理由となったのが、僕の逃げ足の速さだ。

 僕が彩貴とかファンクラブとかに追い掛けられてた時に、先輩が遊び半分で僕を捕まえようとした所、僕の防衛本能が実力以上の走りを見せ、先輩をブッちぎった事がきっかけらしい。

 それ以来、週に一度は陸上部の勧誘に先輩自ら来ている。

 …まぁ、僕が縦に首を振らないのは薄々分かっていて、今では僕の弁当を食べるために来てるとしか思えないけど。



「ごちそーさま。 いつもながら美味かったッ!」

「早ッ!? ほんの数分で完食!?」

「今日は少し早く食ってみた」

「…なんでですか?」

「なんとなく」

「………」



 なんというか、豪快な人だなぁ。

 そういえば、彩貴は萩野先輩の事が少し苦手らしい。「あの豪快さにはついていけない」だそうだ。

 その代わり、萩野先輩は彩さんが苦手らしい。「あの雰囲気はアタシにあわない」だそうだ。

 危険な幼馴染みや豪快な先輩さえ退ける領域……僕が保健室によく行く理由が分かるでしょ?

 僕は取り合えず先輩にカラの弁当箱を返してもらい、隣の給湯室に向かう。



「おい、どこ行くんだい」

「先輩に食べられた弁当の代わりにお茶でも飲もうかと」

「んじや、コーヒーくれるか?」

「ハイハイ」



 随分と強引な気がするが、この遠慮のない性格が先輩のコミュニケーション方法だ。

 僕には出来ないなぁ……







「って、なにしてんの君達?」

「「えっと……学校探険をしてた(です)」」



 給湯室を開けると、そこには同じ顔が二人並んでいた。



「はぁ……君達はまだ生徒会員じゃないんだから、入って来ちゃダメだろ」

「……もうしわけない」

「ごめんなさいですぅ」



 そこには、まだ授業中の筈の和倉姉妹がいた。

 つか、なぜここにいる?



「理由は……まぁ、別にいいか」

「「えっ!?」」

「どうした? もしかして聞かれたいのかい?」

「…いや」

「聞かないでくださいです」



 素直でよろしいな、うん。

 まぁ、給湯室に盗まれて困るものなんてないし、生徒会の資料だってこの二人はイヤというほど見ることになる。

 これくらい気にすることじゃない。



「ほら、君達も向こうでお昼でも食べな」

「えっ?」

「さっきは入ってはいけないと…」

「君達の侵入を許したのは僕だ。早く出てけなんて言わないよ。…飲み物は紅茶でいい?」

「「は、はい」」

「ほら、向こうに気のいい先輩がいるから行ってきな」



 そう言って、僕は給湯室から二人を押し出す。

 双子なんて珍しいものを先輩に見せたら……二人とも、餌食になってこい。



「さてと……」



 一人になった僕は、お茶を入れる前に目蓋を閉じて集中する。


 『僕達』と対話するために……















▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






 黒絵具に塗り潰されたような空間……どこが上でどこが下かさえ分からない。


 この空間は、『僕達』が対話するために作られた精神のたまり場。

 そしてここは『僕達』の部屋に繋がっている。




「今日は……お、珍しく全部揃った」



 念じることで暗闇から五つの扉が表れる。

 その扉の色は様々で、それぞれに独特の雰囲気を持っている。

 ……普通は一つ扉が出てくればいいほうなんだけどね。



「でも今は『俺』としか話せる時間がないんだ」



 僕は取り合えず、用件のある真っ黒な扉の前に立つ。

 その扉は真っ黒な空間よりも濃い黒で、どこかのアンティークなバーのような古びた様子をしている。


 僕はノックもせずにその扉を開ける。


 その部屋は、真っ黒の中心にスポットライトが一つだけ当てられていて、そこには背もたれのない丸椅子が二つあった。



「久しぶり」

【ったく、なんのようだ】

「いやぁ、君の意見が聞きたくてさ」



 その椅子の片方には、この部屋の主がいた。



「気配とかは『僕』よりも『俺』の方が専門でしょ?」

【そりゃそうだが…メンドくさ】



 その椅子に座った主は、右手で器用に顔を拭き始めた。

 僕は、主と向かい合うようにもう片方の椅子に座る。



「さぁ、新月の黒猫としての意見を聴こうか」

【…仕方ねぇな】



 その主……毛並みも艶やかな黒猫は顔を拭くのを止め、その金色の瞳で僕を見つめる。

 この猫こそが僕の心に住み、僕の性格を変える存在……『朔望月相』の一つ、『新月の黒猫』の正体だ。



 そして、『僕』と『俺』の対話が始まった。

 これから起こることに備えるため……




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