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Flight7‐説明のち休息




 …ただ今、僕は一仕事を終えて下校中。

 いちようスッキリしたけど…面倒なことになっちゃったなぁ。



「伊達さん! さっきのはなんだったんですか!」

「あなたが伊達センパイですかぁ。…意外と綺麗です」

「美海、今はそんなことよりこの先輩の正体だ」



 侵入者を倒した時、そこにいた新入生達には、黒猫の状態でプレッシャーを与えながら『俺がいた事は誰にも言わない』って強迫しといた。

 世間に流れるのは、『凶悪犯が学校に侵入! しかし、勇敢な美人生徒会長が犯人を撃退!!』ってあたりだろ。




 …だけど、新入生の中でこの三人だけが首を縦に振ってくれなかった。


 一人は、僕の左手を握ってる我が家の住人、矢沢翔吾。

 もう一人は、僕の右手を握ってるやけに長い白髪ツインテールの少女A。

 さらにもう一人は、僕の前でジト目で見ている黒髪ツインテールの少女A’。



「センパイ、双子だからってAとA’で分けないでくださいです。そして私は和倉美海です」

「ヲイ、人の心を読みながら平然と自己紹介するな」

「普通に口に出していた。ちなみに私は和倉美空。そして私が妹でそちらが姉だ」

「口に出してて恥ずかしいなぁとか、なんとなく落ち着きのある君が姉かと思い込んでたこととかはそっちに置いといて、君達はなんで僕についてくる?」

「「さっきのことを説明してもらうため(です)」」

「僕にも説明してください!」



 クソッ

 両手が捕まれてる時点で逃げにくいし、家には結局矢沢くんが帰ってくるし…

 助けてくれそうな彩貴と彩さんは、さっきの事件を生徒会長と職員として処理するためしばらくは学校だ。


 まさに八方塞がり…どーするよ僕!!









「そこまで言うなら話してやればいい」

「そやで。出し惜しみは程々にせんとな」



 後ろから聞き慣れた二人の声。

 首だけそっちに振り返ると、そこには玲と光が二人並んで立っていた。



「いや、新入生を巻き込むわけには…」

「同居人としてと、生徒会の一員として…理由としては十分ではないか?」

「そこの双子は生徒会会計と会計監査に選出された……って玲が言ってたで」




 なるほど、和倉ってどこかで聞いたことあると思ったら、生徒会室で出力された名前だったな。

 …と、なると、いつかは絶対バレるな。






「……しょうがないか。まぁ、立ち話もなんだから家に来な……あと玲、説明は頼んだ」

「分かっている。この小説での詳細説明は俺の担当だ」

「こら、大人の事情は説明しなくていい」




 取り合えず僕達は我が家に行くことにした。















―――――――――――――――













 様々な理由により、俺達は伊達家の居間に来ており、そこにある机が事実を知る二年(俺、駆、光)と質問する一年(矢沢、和倉姉妹)を分割していた。



「…と、言うわけだが、何か質問はあるか?」

「「「………」」」



 駆に説明を任された俺は、取り合えず伊達駆という人間の『一部』を新入生三人に説明した。


 『一部』とは、『新月の黒猫=伊達駆の事実』と『四谷と黒猫の関係』。


 彼等が見たのは黒猫状態の駆だけだ。

 それ以上、駆のスペックや情報を露出する必要はない。






「…新月の黒猫。新月、黒猫、夜獣ヤジュウなど、様々な呼ばれ方をする四谷財閥を守る最強の男。……数年前に死んだと言われてから、その名を語る者が多く見られたが、その者達はこの一年間でほとんどが刑務所行き。本当の生死さえ不明の伝説的な隠密者…」

「ずいぶんと詳しいな和倉妹」

「美空は不思議な情報が好きなのです。時々危ない情報まで知ってるのが心配なのです」

「美海ちゃんのその気持ち分かるわぁ。俺も玲が末恐ろしくなる時があるわ」




 …随分な言われようだ。

 光と駆以外なら、情報操作で絶望の淵に叩き落としていただろう。




「…ま、そんなものだよ。本当は隠しておきたかったんだけど、今年から特級生にされたから仕方ないんだよねぇ」

「……特級生?」

「特級生徒単位免除制度の対象となった生徒のことだ。分かったか矢沢?」

「は、はい」



 まぁ、『特級生』という言葉は俺達特級生徒単位免除制度対象者でしか通用しないからな。



「しかし、伊達先輩はどんな理由で特級生なのだ? …それに小野田先輩と和泉先輩も特級生のようだ」



 眼鏡の縁を上げながら、こちらを見据えてくる和倉妹。

 …なかなか、キレ者のようだな。



「美空ちゃんは鋭いなぁ。大正解や」

「和倉妹の言う通り、光は学校の広報のキャラクターとして。俺は……企業秘密だ。そして駆は……」

「それは、僕の口から言わせてもらうよ」




 俺の話を遮って、駆は落ち着いた口調で話し始める。

 …駆の仕事は複雑ゆえに、本人が説明したほうがいいだろう。







「僕の仕事は……『特異な方法で戌神高校を害する者を排除する』。今日みたいに学校が対応出来ない事件の時に、いち早くその人達を追い出すのが僕…そして俺の仕事だ」




 髪を縛ってないため、一人称を変えても駆は黒猫になりはしないが、その瞳が微かに輝くのが見えた。

 …やはり、教えないのか。




「ま、これで話は終了だ。ほら、用件は終わったんだから帰った帰った」

「えー」

「私はもう少し話を聞きたい」

「俺も俺も!」

「早く帰らないと…彩貴との戦闘に巻き込まれるよ?」

「「「「お邪魔しました」」」」



 駆の言葉に、渋っていた三人は一瞬で玄関から出ていった。



「…なぜか、矢沢くんまで出てっちゃったな」

「誰も自身を蜂の巣などにされたくないだろう」

「それはそうだな…で、僕に聞きたいことがあるんでしょ?」



 駆は、机の上に置いてあった六人分の湯呑みを片付けながら平然と言う。

 こいつはいつもそうだ。自分に対する好意にはうといが、人の心の揺らぎはポーカーフェイスをものともせずに読み取ってくる。

 …ここは潔く話そう。













―――――――――――――――










 玲独特の無表情な瞳が、レンズ越しに僕を見据える


「なぜ、文章の一部を省いた? そこは、重要な文章だろう」



 その口から出てくる言葉は、事実を元に考えられた正確無比な言葉のみ。

 …まったく、玲は痛い所を的確に突いてくる。




「…だって、それを言ったらみんな恐がっちゃうだろ?」

「しかし、和倉姉妹もお前が黒猫という事実を疑っていた。それを言えば少しは…」

「別に信じられなくてもいい。僕は守りたいものを守る…それだけ出来れば僕はいいんだ」




 …僕が言わなかったのは『特異な方法で戌神高校を害する者を排除する』に続く言葉。

 それは『そして、当人はそのために命を捨てることも、人命を奪うこともいとってはならない』。

 もし邪魔があったら殺害さえ黙認し、四谷の権限によってその事実を消すということだ。




「…駆がそう言うなら俺はかまわない。しかし、和倉姉妹の事は注意しておけ」

「うん、ありがと」

「気にするな…さて、そろそろ矢沢も自分のミスに気づいて帰ってくるだろう。それでは失礼する」


 そう言って玲は僕の家から出ていった。




「さて、矢沢くんが帰ってくるまでゆっくりしてよ……確か、彩さんから貰ったいいお茶があったはずだ」







 …僕はそれから一時間あまり、久しぶりの休息を取ることが出来た。




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