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Flight6‐しなやかな闇



「フゥ…死ぬかと思った」



 あの状況から、僕は生存本能で逃げ切ることが出来た。

 そして、僕は生徒会室より豪華な扉の前に来ていた。

 僕は手に持った黒く長い革紐で、肩甲骨まで伸びた一筋の黒髪をしば……



「……らなくてもいいか」



 殴りたいのは山々だけど、わざわざ戦闘態勢に入る必要ないな。

 僕は手に持った紐をポケットに入れ、ノックもなしに目の前の扉を開ける。


 その部屋は、教室一つぶんほどの空間に、生徒会室と同じような深紅のカーペットと重厚な机と椅子が一つあるだけのシンプルな部屋。

 そして、その席に座っている茶髪のオッサン。



「お、ノックもなしとは随分だビャッ!?」



 その姿を見てムカついたから、なんとなくぶん殴ってみた。



「……な、なにするんだ駆!? いきなり殴りおって!! 昔の恩を忘れたかッ!!」

「それは昔につり銭が出るほど清算しただろボケが。ついに老化が脳細胞に来たか?」

「なにを言う。ワシの愚息はまだまだ若いモンには負けんゾビャッ!?」

「このエロジジィ!!」



 けがらわしい下ネタ発言は、顔面パンチで制裁しときました。

 ……この男は四谷よつや源蔵げんぞう

 四谷財閥の現当主であり、彩貴と彩さんの父親であり、…僕に力の制御を教え、しばらくの間僕の上司だった男だ。

 昔はカッコよかったが、この数年でメタボリックの流行に乗った男だ。

 茶髪(地毛)の髪をオールバックにしたポッチャリオッサンだと思ってくれれば簡単だ。

 そして、こいつは現在の戌高の理事長である。

 学校の設備等には目を通しているはず。

 と、いうことは…




「テメェ、屋上に迫撃砲を設置する事了承しやがっただろ」

「イタタ……仕方ないだろ。ワシの娘の頼みジャバッ!?」



 ジジィの顔に、今日三度目の歪みが起こる。

 もちろん、僕の拳によって。



「親バカもいい加減にしろ。この学校を武装化する気か?」

「そ、そこら辺は安心だ。『伊達駆以外の生命体には使用しない』と誓約書を書かせたから」

「……一回逝っとくぅ?」

「遠慮しとくぅ……ちょっと待て、電話だ」



 ムカつく笑顔を殴りたい衝動に駆られるが、電話中に殴るのは相手に悪いのでなんとか押さえ込む。



「あ……ハイハイ……なるほど……うん……分かった………駆、一年二組の教室で生徒数十人を人質に立て込もりだそうだ」

「へぇ、んじゃぁその携帯の1を二回、0を一回押せばポリスマンが来てくれるんじゃん?」

「彩貴も一緒にイヴッ!!?」



 四発目は、椅子ごとその体を吹っ飛ばす威力でジジィの顔面を捉えた。



「それを先に言え!! ……ったく、たぶん勝手に頭突っ込みやがったな会長様は!!」



 急いで部屋から出た僕の手には、どさくさに紛れてジジィから取った携帯。



「……玲、敵と武器と人質の数を教えろ」

『やはり駆もいたか。…組織性はない九人、刃物六拳銃四、逃げ遅れた新入生二十四人と生徒会長殿が一人だ』

「まぁ、身代金目的の寄せ集めか……人質以外の一般人を学校の外に出して、警察への連絡を遮断してくれ」

『分かった。九人の中に一人、その筋がいる。時間はかけるな』

「了解」



 僕は携帯の通話を切ってポケットにしまい、その代わりに黒紐を取出して、自分の髪を一筋伸びた後ろ髪を中心に纏めて縛る。



「ったく、なんで早速トラブルに巻き込まれんだあの無鉄砲女が! 後始末する俺の身にもなれ!」






 喧騒が広がり始めた廊下を、一つの闇がしなやかに風を切った。













―――――――――――――――










「テメェ等、動くんじゃねぇぞ」

「お兄さん達キレやすいから、この鉄砲で撃っちゃうよぉ」

「なんなら一人ぐらい殺ってもいいんじゃね?」

「よせ、血の臭気は好ましくない」

「ハッ、こんなかで一番殺してる野郎がなに言ってんだか」




 …あの、なんで僕達は入学初日からこんな目にあってるんでしょうか?



 伊達さんが見えなくなってから三人で話してた時、教室にいきなりフルフェイスヘルメットにライダースーツを着た集団が入って来て、僕達に銃を向けてきた。

 その後、教室の端に追い詰められ、カーテンを閉めて薄暗くなった部屋の中に僕達はいる。



 あまりの驚きで、僕は変に冷静だ。

 …と言っても、僕が出来るのは下手な動きをして相手を挑発しないようにするだけ。

 それが今の一番適切な対応。

 美海さんと美空さんも冷静に周りの様子を見てるだけだ。


 だけど、パニックを起こす人だっている。

 その人たちをなんとか抑えているのは……



「大丈夫だから、助けはちゃんと来るから落ち着きなさい」



 入学式の時、壇上で凛々しい姿で僕達に挨拶をした…四谷生徒会長がみんなを落ち着かせていた。

 四谷会長は新入生の各教室を見回ってたらしくて、ちょうど僕達の教室に来た時が侵入者と一緒になったみたいだった。



「……会長、あなたは大丈夫と言うが、その理由はドコにある」



 騒いでいる侵入者に聞こえないぐらいの声で、美空さんが会長に話し掛ける。



「私は……信じてるから……駆のことを」

「駆? あ、伊達センパイのことですね。でも、逃げてばっかりの頼りないセンパイらしいですよ?」



 会長の口から伊達さんの名前が出たことに、僕は驚いた。

 美海さんの言う通り、伊達さんは学校でいろんな人に追い掛けられて、まったく反抗もせずに逃げるだけらしい。

 暴力を振るうような人じゃないのは分かってたけど……格好いいイメージはなくなった。



「そのような先輩は信用ならない。私達は私達で行動させていただく」

「私も早く帰りたいです」



 そう言って、美海さんと美空さんはゆっくりと立ち上がった。



「ちょっと、二人とも待っ…」

「翔吾君はじっとしてるです」

「巻き込まれて命を失いたくなければな」



 僕が声をかけると、二人は僕の制止を遮って………消えた。



「グブァ!?」

「な、なんダブェ!?」

「お前等ドオッ!」

「な、なんだテブェ!!?」



 そして、その一瞬の間に侵入者四人は床に倒れていた。

 そして、その一瞬の間に二人は一人の男に捕まっていた。



「ッ!?」

「……まさか、そっちの人がいるとは思わなかったです」



 残った男は両膝で二人を床に押さえつけて、その二つの背中に両手に持った大きなナイフを突きつけてた。



「それはこちらのセリフではないか? 高校生の女子おなごがここまで動けるとは…」



 ヘルメットの中で反響する声はやけに冷たく、背筋が震える。



「ちょっと! 早くその足を退けなさい!!」



 事態が飲み込めずに騒めくだけの僕達の中、会長はその男に向かって走りだした。



「威勢のいい女子だ……血は好かぬが、邪魔者は消えて頂こう」



 男は容赦なく会長に向かって片手のナイフを投げた。

 数名の女子が甲高い叫び声をあげた。

 僕は反射的に目を瞑る。



 …見たくない

 人が死ぬところなんて

 いやだ

 逃げたい

 僕はもう………










「ったく、相変わらず無鉄砲過ぎんだよテメェは。テメェがそんなんだから、俺が体を張らなきゃならねぇんじゃねぇかよ」

「……遅いわ! アンタの仕事なんだから、文句なんて言ってないでもっと早く来なさい!」



 聞いたことのあるいつもやさしい人の声は、聞いたことのないようなぶっきらぼうな口調だった。



「アンタが遅いせいで新入生はパニックになりそうになるし、そこの二人は勝手に飛び出すし………私だって怖かったんだから……早く助けに来てよ……」

「弱音吐いてんじゃねぇよ。テメェは完璧超人の生徒会長だろうが……後は俺に任せとけ」

「…ぅん」



 聞いたことのあるとても凛々しい人の声は、想像出来ないほど弱々しい口調に変わった。



「メンドくせぇから、とっとと終わらすぜ?」



 その声に反応してきつく閉じた目を開くと、ここにいるはずのない人がいた。



「……外の見張りは何処いずこへ?」

「ちゃんといるぜ。ただ、四人仲良く夢の世界だけどな」



 その人は、男と会長の間に立って、その手で男が投げたナイフの刃を握っていた。

 その手からゆっくりと流れ出る血が、一筋の赤い線を引く。



「だ、伊達さん…?」



 その姿は髪を縛ってるみたいだけど、間違えなく僕の住んでる家の家主。

 だけど、目つきはやけに鋭くて、いつも優しい雰囲気は欠片もなく、まるで別人。



「その迷いなき行動と一片の痛みも見せぬ表情……只者ではないな」

「テメェに言われても嬉しくねぇよ、三下が」



 二人の睨み合い。

 ヘルメットで顔が見えなくても、男からは怒りが見える



「……フッ、私が三下と言うなら、私がこの女子を殺すのを止めてみろ!」



 そう言った男は、両手で一本のナイフを振り上げ………






「……ッたく、ウゼェな」





 ――吹っ飛んだ。

 男はいきなり僕等と反対側の方向に飛んだ。

 そして男がいた所には、踏まれていた二人と、それを助ける伊達さんがいた。



「ここの生徒にそんなもの突き立てるなんて、テメェには一生涯ムリだな。三下はおとなしく公園の砂場のお城に、お子さまセットについてくる国旗でも突き立てろ」



 ……一瞬、伊達さんの姿が二人に見えた。

 助けられた二人も、目の前の伊達さんを見て唖然としていた。

 この部屋で驚いてないのは、気絶している数人……あと、会長だけだ。



「…さて、テメェにはしっかりと落とし前をつけてもらわねぇとなぁ」



 伊達さんは一歩一歩吹き飛ばされた男に近づく。

 一歩が踏み出されるたび、後ろに纏められた黒髪が揺れる。

 その動きは、まるでそれ自体が生きてるみたい。



「クッ……その気配の消え方……き、貴様! まさか……ヤジュウ!?」



 野獣……?

 その男の叫びに反応したのは、伊達さんだった。



「ったく、通り名のバリエーションが多すぎだろ。たぶん、あのクソジジイのせいだろうから、あとで通り名の種類の数だけブン殴ってやる」



 意味深な言葉を残し逃げようとした男を、伊達さんは正面から両手で頭のヘルメットを掴んで止める。



「奴らに俺のこと言う時は『シンゲツのクロネコ』って言え………んじゃ、あばよッ!」




 伊達さんが言葉の最後にした膝蹴りは、ヘルメットを貫通して男の顔を潰していた。











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