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Flight5‐会長様と副会長の鬼ごっこ




「へぇ〜、地面が爆発ですか」

「…俄かに信じがたいな」

「でも、本当なんだよ。…確か、伊達さんはク、クレイ…モアとか言ってた」



 僕は、自分のクラスで伊達さんの絶品お弁当を食べた後、近くにいた人と話していた。



「…もしかしてクレイモア地雷ですかねぇ? それなら対人用地雷のことですから、地面が爆発するのも分かるです」

「殺傷能力はそれほどではないが、足ぐらいは簡単に吹き飛ぶな」



 …内容は高校生らしくないけど。

 朝、僕が見たことを話してたら二人が食いついてきたのだ。



「へ、へぇ。二人ともそういう事に詳しいんだ」

「なに、ちょっとした趣味でな」

「それにです、普通の人が地雷の爆発をよけるなんて、ふつう考えられないことです」




 会話の途中で同じように腕を組んで考え込む目の前二人。




 …和倉わくら美海ミミ

 僕と同じぐらいの背丈で、ほんわかした雰囲気を漂わせる表情。

 白くきらめく髪は、ツインテールでも腰まで垂れるほど長い。



 …和倉わくら美空ミソラ

 僕と同じぐらいの背丈で、キリッとした雰囲気を漂わせる表情。

 黒くつやめく髪は、ツインテールでも腰まで垂れるほど長い。




 この二人は双子らしく背丈や美人なのはまったく一緒。


 父親譲りの白髪が姉の美海さん。

 母親譲りの黒髪が妹の美空さん。

 見分け方は髪の色と、美空さんの方だけが眼鏡を掛けてる……って本人達が言ってました。


 美海さんは明るくて、どこか幼さが残ってる感じで可愛い人。

 美空さんは物静かで、古風な感じが漂うかっこいい人だ。




 たまたま、一年二組の名前の順で男子の最後になった僕と、女子の最後になった美海さん(美海さんの前はもちろん美空さん)の席が隣になったから話してるだけで、二人には今日始めて会った。


 …だから、美海さんに『女の子なのに男の子の制服着てるです』って言われたときは結構ショックだった。

 いや、今までだって何度も同じようなことあったけどさ……そこまでストレートに言われるとちょっとね…




「そのセンパイっていったいどんな人です?」

「うむ、是非ともその先輩とやらに会ってみたいものだ」

「…あ、うん。学校でも会える機会はあると思うよ」



 僕の思考がダウンし始める寸前に、二人に話し掛けられた。

 …もう少しで、中学の頃に女装させられたトラウマが舞い戻ってくるところだっ………







「きゃぁ!!」

「むっ!?」

「なっ!!」




 地面がドンッと揺らぐ。

 爆音に窓ガラスがビリビリと鳴る。

 教室内のほとんど生徒が、突然の事態に混乱している。

 そして、僕はその音の発生源らしいグラウンドに目を向ける。







 …………あ




「……美海さん、美空さん、あの人が例の人です」

「「えっ!?」」




 僕の視界には、グラウンドの地面が次々と爆発する中を駆け抜ける伊達さんがいた。













―――――――――――――――













「ちっ! あのバカ新学期早々テンション高すぎだッ!」



 僕は、グラウンドを縦横無尽に走り回る

 そして、下手な口笛のような砲弾独特の飛翔音が、僕の後ろで大合奏をしている。



「新入生の目線が痛いって!!」



 二年から上は、一年間の惨劇を見ているため『あぁ、いつものことか』ですましている。

 しかし、何も知らない一年は目の前で起こってる非日常に唖然としてる。



「それに、人に向かってッ……くっ、大型迫撃砲弾ヘヴィハンマーはないでしょ!」



 丈夫な建築物をいとも簡単に瓦礫がれきと化す威力を持つ迫撃砲の砲弾は、着弾した瞬間に地面から火柱を吹き上がらせ、そのエネルギーは音や熱、光や衝撃になって僕に襲い掛かる。



「こうなったら……逃げるしかねぇだろゴルァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!」



 爆発の衝撃に身を揺らされながらも僕は走る。


 そして思う。

 ………………僕、なんか悪いことしたかッ!?









←←←←←←回想中←←←←←←










「………ついにここまで来ちゃったか」



 僕は保健室で現実逃避をした後、生徒会室前で現実に戻っていた。

 今までも何度か来たことあるけど……いつもラスボスが住まう部屋に感じるのは僕の気のせいか…?



 なぜ僕がこんな所にいるかというと、いろんな経緯があるのだ。



 …今年も生徒の投票によって、生徒会長は彩貴に決定した。

 まぁ、僕に対しての攻撃以外はカリスマ性を発揮してしっかり働いていたから、当然といえば当然だ。


 ここで出てくるのは、『副会長は教師達の投票で決まる』という戌高独特の仕組み。


 そして……僕は、ほぼ満場一致で副会長に推薦された。


 理由は『会長のサンドバッ…ゲホゲホッ…補佐に相応しいのは君しかいない!』と、ある先生に言われた。

 唯一反対してくれた彩さんも、副会長の担当顧問になることを条件に買収された。

 ………でも、サボる気満々なのに担当顧問になる必要なんてないのにナゼ?




 そんなこともあって、僕は生徒会副会長として生徒会室に来てるわけだ。




「……ま、ここで時間を食っても仕方ないな」



 ため息を一つ吐いてから、僕は重厚な扉のドアノブに手を……



「ッ! …あっぶねぇ」



 ドアノブに触れる寸前で手を引き、ポケットの中に入れておいた黒い革手袋を取出し、その中に手を入れる。



「本当は用途は違うんだけどなぁ…」



 僕は愚痴を言いながら手袋をした手でドアノブを握り、今度こそ目の前の扉を開ける。



 横に長い空間にあるのは、全面の床に敷かれた深紅のカーペットの上に、対面式の綺麗なロングテーブル。

 その周りには、重厚感のある黒い革張りの椅子が五、六台置かれていた。


 …そこはまるで、ドラマに出てくる大企業の重役専用会議室のような場所だ。

 そして、ガラス張りの壁から差し込む光を背にして座った人……彩貴は俺を見据えていた。



「ちっ…黒焦げにはならなかったのね」

「あぁ、この手袋がなかったらケシ炭になってたろうな」



 …あのドアノブは触れた瞬間に高圧電流が流れ、一瞬で変死体が出来上がるトラップが仕掛けられてた。

 それに気づいたのは…まぁ、生命の危機を感じたとしか言いようがない。

 そして僕がしている黒革の手袋は、超絶縁性+超断熱性(防水加工済み)だったため感電死体にならずにすんだ。



「…僕以外が触れたらどうする気だったんだ」

「今日はアンタしか呼んでないし、ここに来る必要があるのは私とアンタ以外いないでしょ?」

「…確かに」




 …彩貴の言う通り、僕と彩貴以外はこの部屋に入ることはない。



 それは、『今の』生徒会役員が僕と彩貴しかいないからだ。


 戌高ここの生徒会の役員は、投票で選ばれる会長と副会長以外はその二人が推薦して決められる仕組みだ。

 そして、その生徒を決めるために僕はここに来たのだ。



 僕は取り合えず手袋を外し、彩貴から一番離れた席に……



「なにしてるの? あなたの席はここよ?」



 …座ろうとした瞬間、彩貴が自分の右隣の席を指差す。

 それも、普通の席の間隔は二メートル以上あるのに、彩貴と右隣の席は間隔ゼロの状態。

 ……………あんま座りたくねぇ。



「え、別にここで…」

「ここよ?」

「いや…」

「ここよ?」

「あ…」

「ココヨ?」

「…はい」



 彩貴の言葉から殺気を感じ取った瞬間、僕は素直にその隣の席に行き、反抗一つせずに座る。

 …どーせ、僕はヘタレですよ。



「それじゃあ、今から生徒会役員を決めることにするわね。情報資料はここにある和泉の調べた全校生徒の能力スキルのデータを使用するわ」



 僕が素直に従ったことに気をよくしたのか、少し笑みを含ませながら、横から出したノートPCを開く。



「この全校生徒スキルデータから、生徒会の役職…会計・会計監査・書記・事務。その四つの役職に適している人物を今からこのPCで弾き出すわ」



 そう言って、彩貴はキーボードのENTERキーを指で叩く。

 画面上では、0と1の数字が上から下へと駆け抜ける。


 ん…ちっと待て。



「……てか、これがあるなら一位になったやつに決めればいいだけじゃん……僕、来る必要ないよね」



 だって、その役職に一番合ってる人が分かるんだから、彩貴一人でも決めてよかったはずだ。



 僕の発言に、彩貴は少しだけ表情を濁らせる。



「……そう上手くいけばいいんだけど……ほら、結果が出たわ」



 彩貴の言葉に、僕は彼女に向けていた目線を画面に移す。






━━━━━━━━━━━━━━━


〜結果〜



会計‐一年二組、和倉美海

会計監査‐一年二組、和倉美空

書記‐二年二組、和泉玲

事務‐二年二組、伊達駆



━━━━━━━━━━━━━━━







「……今年の二組には精鋭が揃ってるんだな。そして、なんで僕の名前があるんだ」

「やっぱり……クラスが偏ってるのは目をつぶるとして、やっぱり問題発生ね」



 彩貴は、軽く呆れたようにため息を吐いてから背もたれにその体をゆだねる。




「僕と玲のデータを抜いてもう一度やり直せば……」

「ムリよ。この個人データは編集どころか、算出結果以外は閲覧さえ不可能…一回使用したら、個人データは自動的に削除される…って和泉が言ってた」

「……玲がそう言ってるなら仕方ないな」



 …一回似たようなシステムファイルを使ったことがあるような、ないような…………まっ、いいか。



「会計と会計監査は決定でしょ? 玲は絶対に役職はやらないし……僕は副委員長だから事務はムリ」

「……駆、アンタ決まるまで事務と書記もやりなさい」

「なんでッ!? ……って言っても副委員長って暇だし、穴埋めぐらいならやってやるよ」

「物分かりがいいわね。…私も手伝うから、適任者が見つかるまでよろしく頼むわよ」

「りょーかい」



 ここら辺で反抗すると、僕と彩貴の問題じゃなく学校全体が機能しなくなる可能性がある。

 どうせ雑用ばっかだろうし、なんとかなるだろう。


 …さて、これで仕事は終わったし、帰りにスーパーにでもよって帰ろう。



「んじゃ、僕はもう帰るよ」

「……待ちなさい」



 僕が立ち上がって出口に行こうとした瞬間、後ろから右手をガッシリと捕まれた。

 この展開、いやな予感が……



「今朝、彩ネェとなにしてた?」



 さっきと違って声のトーンが下がり、僕の右腕がミシミシと音を立てる。


 せ、説明し忘れたけど、彩さんと彩貴は姉妹なんです。

 もちろん、彩さんが姉で彩貴が妹。

 …って、呑気に説明してる場合じゃねぇ!!



「な、なにって、朝起きたら背中にくっついてきて、顔中舐められたり甘噛みされて、朝ご飯を食べさせて、胸押しつけられ…って、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛ぁいぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!?」



 手首簡単に捻っちゃダメ!! ヤバいほど極まってるってッ!!




 僕は彩貴を無理矢理引き剥がして右腕を救出してから、後ろに振り返……



「カァ〜ケェ〜ルゥ〜? やっぱり彩ネェとイチャイチャしてたんだぁ?」




 いつの間にか、彩貴は引き金のある丸い筒を肩にかついでいた。

 ……PG‐29V弾頭を発射する、ゲームで大人気のRPGシリーズロケット弾発射砲…RPG‐29、通称‐吸血鬼ヴァンピールの弾頭がこっちを向いていた。


 もちろん、破壊力はバ・ツ・グ・ン♪



「ちょっと待ったァァァアアアアア!! ここは落ち着いて話を…」

「死に晒せぇぇぇぇええええええええええッ!!」




 新学期から、命を賭けた鬼ごっこの二ラウンド開始の爆音ゴングが鳴った。













→→→→→→回想終了→→→→→












 そんなこんなで、理由も分からず僕は爆風の嵐を走り抜けてるわけですよ、ハイ。

 てか、屋上に迫撃砲を常時設置ってありえねぇだろ!!

 とにかく俺は言いたい。




「こんなの……理不尽だぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!」







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