Flight4‐今はゆっくりしよう
今頃ですけど、前作と書き方を色々と変えてみました。それに関して読者達に是非ご意見をお聞きしたいです。
僕は取り合えず彩さんと保健室に行った。
だけど、クラス分けを知らないと後々困るから、始業式&入学式をサボって昇降口に張り出された表を見に来た。
……そしていきなりで悪いけど、僕は絶望していた。
「……う、ウソだろ」
目の前にたたずむ巨大な板に書かれた逃れようのない運命が、僕の体を絶望で震わせる。
そして、喉の奥から溢れかえった絶望を吐き出す。
「…………オーマイガァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
なぜこんなに神は僕にこのような試練を与えるのだ!
新学期から僕を断罪の断頭台への階段を上らせる!?
俺がなにしたっていうんだぁ!!
「どうしたん駆? 俺と同じクラスやないのがそんなにイヤなんか?」
「いや、光。それは自身過剰というものだ。二組の欄の一番下の方を見てみろ」
「一番下? …………こりゃお陀仏やな」
「1/10の不運を呼び寄せるとは……相変わらず不幸な男だ」
空に叫んでいた僕の後ろから、聞き馴染んだ二人の男の声が聞える。
僕は振り返って二人に泣きつく。
「光ゥ〜、玲ィ〜。僕はこの一年どうすればいいんだぁ……」
「すまんなぁ。俺はクラス違うし、少ししか協力出来へんわ」
「本当に危機に陥った場合には保護してやるから安心しろ」
僕が泣きついた二人は僕の幼馴染みで、一年の時のクラスメート。
……喋り方が関西風なのが小野田光。
短く刈り込んだ茶髪に時々見せる人懐っこい笑顔、180を超える長身を持つスポーツ系の爽やかな青年だ。
中学時代を関西で過ごした関東人のため、喋る言葉が関西弁じゃなく関西風になってしまってる。
……『保護してやる』って、ズレた発言をしたのが和泉玲。
黒髪のツンツンヘアにフレームレスの眼鏡から覗く鋭い目、僕と光の間ぐらいの身長を持つ常に冷静沈着な男だ。
玲の脳ミソには人の弱みや細かい情報がつまっていて、対抗しようとすると精神がズタズタに惨殺される。
「……って、二人とも何でここにいるの? 始業式と入学式やってるはずじゃないの?」
普通、生徒はここにいないはずじゃ……
「始業式は終わったんよ。どうせ新入生は午後会うんやし、適当にサボタージュしてたんや」
「光、正確にはサボタージュは労働争議の一つだ。……入学前に新入生256名の情報はすでに入手済みだ。直接見る必要はない」
……まぁ、この二人なら理由もなしにサボってそうだな。
「それに、俺達にはそれぞれの仕事をこなし、最低限度の成績さえ取れば単位は必要ない……そうだろ?」
「まぁ、そうだけどさ……」
この学校は不思議な制度がある。
その名は『特級生徒単位免除制度』。
簡単に説明すれば、学校に対して有意義な働きを一定以上行えると判断された生徒…特級生は、その働きをするによって授業出席の単位を免除されるのだ。
今年からあのクソ……ゲホン! えぇ……理事長が決めた制度で、今は五、六人が対象になっている……らしい(玲情報)。
光は、その老若男女に好かれる人柄から、学校の行事やイベントのイメージキャラクターとしての仕事。
玲は、入学予定者や生徒などの素性に問題があった場合、情報を学校に提供する契約。
そして僕は……面倒だからまぁいいや。
この仕事をこなせば、僕達は別に授業には出なくていい。
その代わり、成績はある程度取っておけってわけだ。
……そしてもう一人、俺の知り合いにその対象者がいる。
「……よりによってこいつと同じクラスか…やっぱり厄日……いや、厄年だ」
「「まぁ、ドンマイ(やで)」」
『和泉玲』の文字の数段下に『伊達駆』と書いてある二年二組のクラス名簿。
その名簿、一番下の欄。
書いてあるのは『生徒会長としての仕事』をすることで特級生となった人。
「……幻覚なら早く解けてくれ」
そこには、『四谷彩貴』と、一字一句間違えなく書いてあった。
→→→→→→→→→→→→→→→
「……って、コトなんですよぉ。もうやってらんないです」
「かーくん、運悪かった」
クラス分けを知って、僕は光に弁当を渡してから二人と別れてトボトボと保健室に来ていた。
「去年よりも来る回数が増えるかもしれないんで、お願いしますね」
「……私は、運良かった、かも」
目の前で座っている彩さんは、左右と後ろの赤髪で、頭の頂点より後ろの方に艶やかな団子を一つ作り、そこにシンプルな鼈甲の髪止めを一本さしていた。
この頃、保健室ではこの髪型にしてるけど、顔の左半分のほとんど(鼻とか口とかは隠れてない)が、いつも通りに隠れているのが不思議だ。
……てか、正直この髪型はかなり色っぽい。
彩さんの大人でミステリアスな雰囲気と、赤髪のうなじ+綺麗な首筋の組み合わせがなんともそそる。
浴衣なんて着たら最高だろうなぁ……
「……やっぱりかーくん、この髪型好き。だから、ここでだけ、この髪型にする」
「……さっき読心したことは、記憶から永久的に抹消してください」
「ムリ」
「……ハァ」
僕は自分の失態にため息を吐き、手に持った紅茶に口をつける。
「……いつものことながら、美味いです」
「ん、ありがと」
やっぱり彩さんの入れた紅茶は美味い。
コーヒーとか抹茶なら自信があるけど、紅茶の入れ方とブレンドは彩さんにかなわない。
「……かーくん、午後から、生徒会室でしょ?」
「そうなんですよ……って、あなたも関係者でしょ」
「……サボる、もん」
「だったら顧問になるなんて言わないでくださいよ」
「そんなことより、今は、ゆっくりしよ?」
「……そうしますか」
それから僕は、彩さんと午後までゆっくりと紅茶を味わっていた。
それを現実逃避というかは……考えないことにした。