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Flight3‐新学期から気合いを入れて


 春の風。

 桜の爽やかで心地いい香りが、まだ少し寒い空気に鮮やかな色をつけ、その色は風に乗って僕達を包み込む。

 学校に続く一本道には、さまざまな顔をした生徒が同じ方向へと進む。


 ある者は義務教育を抜け出して、新しく始まる生活に緊張する者。


 ある者は夢の長期休暇から現実に引き戻され、怠そうな顔。


 ある者は目の前の控えた進路に向けて、真っすぐな信念を持った者。




 僕はそんな人達が歩く中を、全力で走り抜ける。

 僕の通り過ぎた後からは、悲鳴や驚愕の声が阿鼻叫喚あびきょうかん地獄の如く聞こえる………はずだ。



「……新学期から、気合い入ってる」



 今の僕が聞こえる声は超近距離にいる彩さんの声だけ。




 だってそうだろ?









 春一番を超える突風が僕の後ろから吹きつける。

 …全長20メーターを超えるヘリが、地上十メートル程を超低空飛行で、春の空気を引き裂くような轟音を放って迫ってくるんだもん。




「彩貴も気合いの入れ方を180゜以上変えてほしいな」

「………360゜ぐらい?」

「彩さん。それ結局一緒」



 僕は彩さんとショートコントをしながら、スピードを緩めないように軽く後ろを見る。

 その機体からは、口径が30ぐらいある漆黒の自動式機関銃チェーンガンや、鉄パイプを何本も束ねたようなロケット弾の発射口がこっちを向いてる。

 …その姿は日常よりもゲームなんかでよく見る姿。



 桜吹雪を巻き起こしながら迫ってきたのは、アメリカ軍の戦闘用ヘリ、AH‐64D――通称アパッチ・ロングボウ。

 その搭乗口を開けて、機械式メガホン片手にこちらを睨む一人の少女。

 機体が巻き起こす風が、その栗色のポニーテールを激しく揺れ動かす。




『駆ぅ!! 待ちなさぁぁぁぁぁぁああああああああいッ!!』



 メガホンによってプロペラの爆音の中でもよく聞こえたその声は、とても透き通っていた。


 …彼女は僕の幼馴染みであり、僕をよく狩ろうとする人であり、僕が守る人の筆頭である四谷よつや彩貴サキだ。



 まぁ、守るといっても彩貴は十分強いし、僕なんか必要ないけど、一度決めたことだから自分の中だけでそう思ってるんだけどね。



 …ん? なんか同じような紹介を一回したようなしてないような……




 …まいっか。

 ついでに言っとくと、背中の彩さんは彩貴の…




「のぅ!? ……こんなトコでも撃つのかよッ!!」



 読者には悪いけど、思考を中断して左に飛び退く。

 僕の予感通り、左後方で地面がぜる音がする。

 さすがにミサイルじゃなくて機関銃だったが、通学時間帯に実弾なんて撃ったら被害者が出るだろ!

 死人出るぞ死人が!



「大丈夫。四谷の操縦者、そんなヘマしない。かーくん以外には、絶対当てない」

「いや、ある意味嫌なんですけど! それに、この状況だと彩さんも危ないんでしょ!」

「大丈夫。あんな弾、かーくん絶対当たらない」

「あなたはどっちの味方!?」




 そうツッコみながらも、飛んで来る弾を様々なパターンで動き、そのすべてを走りながら避ける。

 ……一部の人は気づいてるかもしれないけど、アパッチは武装以外の本体だけで5トンを超える機体であり、ある程度速度を抑えてるとはいえ、高度維持のため公道の車ぐらいの速度は出している。

 しかし僕は、そんな速度を出す機体に追い抜かれていない…






 ……イコール僕はその速度を自分の足で逃げてるんです。

 人の限界を超えてる気もするけど、生存本能と生命の環境適応力でなんとかカバーされてるのさ!



「…補足、ご苦労様」

「さすがに走りながら+弾を避けながらの補足は疲れますね」



 この状態じゃ、校長の長話しは聞く気が起きないなぁ。



「……彩さん、少し喉が渇いたんで、あの建物の一室で紅茶でも飲みましょうか? 」

「……本音は?」

「スイマセン、朝から久しぶりに走って疲れたんで、保健室で休ませてください。そして、彩貴の怒りが収まるまで匿ってください」

「……いいよ」




 部屋の主に許可も得た。

 僕はヘリを一気に突き放し、目の前にたたずむ真っ白な建物に向かってひたすら走る。

 校門を突き抜けた先には、一列の人垣が立ちふさがっていた。



「伊達ぇ!! 今学期こそおまえを倒し、彩貴さ……」

「おはよう田中! そしてじゃあな田中!」

「ちょっと待てぇ!!」



 僕は進行方向を九十度変え、横一列に並んだ人垣の端っこまで走って、そのを脇を悠々とすり抜ける。



「って、背中にいるのは学校のマドンナ、四谷彩校医じゃないか!! クッッソォォォォオオオ!!!」

『伊達ぇ死ねぇぇぇぇええええ!!』



 僕の背中の彩さんを発見し、田中(僕と同級生で、ラグビー部のエース)達の殺気が一気に増加する。



「いやムリ! この人離そうとしたらどうせ離れないからね」

「かーくん、よく分かってる」



 この一年で僕も学習と成長をしましたからね。

 …そして、それらが原因でこの一年で何度死にかけたことか……




 この場所こそ、何度も僕の墓場候補に上がる場所。

 そして、僕の存在が許される数少ない場所。



『待てぇぇぇぇぇぇえええええええええええ!!』

『死ねぇぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!』

『羨ましいぞぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!』





 …戌神高校で騒がしい生活が再び幕を開けた。



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