表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/39

Fligit30‐爪と盾が交わる時、怒れる蛇は……

……前回より早く更新できた←目標が低い



 急げッ!!

 速く速くもっと速くッ!!

 私は闇夜を斬るようなイメージで一直線に走る。

 イヤな予感……胸騒ぎがする……この感じは、ミソラが大ケガした時と一緒だ。

 勘違いならいい……私は胸騒ぎが示すほうへと一直線に向かう。

 見えづらい電線を一気に跳び越え、小さなマンションの屋根に着地し――



「――ッ!!」



 突然、目の前に表れた巨大な黒い影。

 反射的に右袖口に隠した短刀を逆手に持ち、影を切り裂く――しかし、甲高い金属音だけが響く。

 初撃が防がれた瞬間、もう片方の腕を振るい上げ、袖に仕込まれた数本のクナイを正面に飛ばす。

 同時に、短刀を手放し片足を軸に体を右へ一回転させ、その遠心力で右裏拳を放つ。

 そして影に対して全体重を乗せた掌底を体勢の崩れた影の中心へと打ち込む……が、影は後退することで私の攻撃範囲から脱していた。



「ッ!!」

「突如の襲撃に反応し、なおかつ一瞬で四手を繰り出すか……これほどの力を持つならば、盾の名は相応しくないのではないか?」



 よく見ると、その影は表情の見えない仲間だった。

 私の投げつけたクナイをすべて片手で掴み取り、もう片方の手には私の斬撃を受けたらしい四本もの小刀が爪のように握られている。



「驚かせるな……です。いきなり目の前に表れないでくださいです」

「これからは善処しよう」



 私は焦りすぎて乱れた口調を、いつも通りに戻すです。

 ……それでも、胸騒ぎは一向に治まらないです。



「で、なにかようですか?」

「君の妹に、君を早急に連れてこいと言われたのだ」

「え、そうなんですか?」

「そうだ。どうやら遠呂智相手にてこずっているらしい」



 意外なことに私は驚いたです。

 私が頼りないのもあるですが、美空は自分で殆どの仕事を成し遂げ、私をあまり頼りにしないです。

 そんな美空が私を呼ぶなんて……



「……どうした。こうしている間にも遠呂智は黒剣の元へと近づいてきている。早く行こう」

「はい、分かったです」



 百爪さんは、さっきまで私が向かっていた方向へと跳んだです。 見た目とは裏腹に身軽な動きで民家の屋根に跳び移った百爪さん。

 私はさっき手放した短刀を回収してから、その背中を追うように跳ぶです。

 そして――





「――四斬爪しきつめ

「――九十九巡りつづらめぐりッ!!」





 ――百爪さんの左手が動いた瞬間、手にした短刀を含め、袴や袖口、足袋などに仕込まれた武器を一斉に投げ、そして打ち出す。

 黒い左手から放たれ、不規則な動き迫り来る四つの刃。そのすべてを圧倒的な数によって打ち落とす。

 そして、数多く打ち出された武器は追撃のみならず容赦なく百爪さんへと迫る……しかし、私が打ち出したすべて武器は、命中する寸前で不自然に止まり、瞬時に細切れへと形を変える。



 一瞬の攻防……私はその標的から目を離さずに着地をするです。



「……なにをする」

「それはこっちのセリフです。先に攻撃してきたのはそっちですよ」

「……」

「仕方ないですよね。それがあなたの本当の任務なんですから」



 私の言葉に、百爪さんの殺気が膨れ上がるです……バレたら隠す必要はないってことですか。

 私は唯一投げなかった背中のクナイを手に取り、追撃の構えを取るです。



「その様子、本当に知っているらしいな……一つ聞こう。どこからの情報だ?」

「怪しい人のいかがわしい情報だったんですよ。私も貴方の話を聞くまでは、ほとんど信用してなかったんですけどね」



 和泉センパイに屋上で渡された一枚の紙に、それは書かれていたです。

 でも、私は仲間を信じてさっきまで行動してたですけど、今は和泉センパイの情報を信用することにしたです。



「だって、『増援として来た』百爪さんの真の目的が『一族に災いをもたらす私を殺しに来た』なんて、信じられなかったですよ……さっきまでは」

「……」



 倭玖羅の一族が衰退しているのは知ってたです……そして藁にも縋る思いでおこなった占いの結果、私を殺せば一族は災いから抜け出し見事に復興する……そう、占いにでたそうです。

 ……今更この白髪がそういうことになるなんて、思いもしなかったです

 それも、百爪さんの言葉を聞くまでは、ですけどね。



「美空は強情で意地っ張りな妹です。そんな美空が『てこずってる』ぐらいで私を呼ぶはずないんです。美空が私を呼ぶ時は、任務完了か任務失敗で撤退する時……すべてが終わった時だけなんです」

「そんな不確定な経験で、そこまでの確信を持つとは……流石姉妹といったところか?」

「誉めてくれてありがとうです」



 敵を騙すならまず味方から……そんなのは、奇策としては良策でも策としては愚策……私を騙す理由は数えるほどしかないですし、一番有力なのは、私の隙を作り出すためということです。

 あとは推測ですけど、私の目の前に表れたのも奇襲だったです。

 そう考えれば、私の短刀に対してわざわざ四本もの爪で止めたのも、『襲撃のために最初から出していた』なら自然です。

 そして実際、百爪さんは私を殺す気で攻撃してきた。



「ふむ……白盾の噂を耳にする機会はあまりなかったが、予定より手間取りそうだ」

「手間取るだけですむと思ってるですか? 確かにあなたは強いですけど、防御と逃亡に撤すればやられる気はしないですよ?」

「うむ……確かに、その実力なら叶わないことではない」



 こうして会話してる間も、意識は敵を警戒し続けてるです。

 相手は実力も経験も私以上です……この場はなんとか逃げて、美海にこの情報を伝えて……



「しかし……人質がいれば、素早い子兎もおとなしく捕まってくれるか?」

「――ッ」



 一瞬、自我を失いかけた。

 いつの間にか一歩を踏み出していた足を、元の位置に戻す。

 落ち着け……落ち着くです。これは嘘かもしれないですし、ここで無茶しても意味がないです……今は冷静でいるべきです。

 ただ、その黒ずくめの姿を目線で射殺すように睨み続けるです。



「一人前の殺意だ。いつもの気の抜けた気配は演技か?」

「……」

「沈黙か……まあいい。私は私が与えられた任務を果たすまで」



 ゆっくり掲げられた黒い片腕……その手が振り下ろされる時が、攻撃の合図です。

 ここで逃げれば、美海に危害が及ぶ可能性があるです。

 でも――そんなことを姉の私が許すわけがないです。



「痛いのはイヤなんですけどね……やるんだったら全力でやらせていただくです」

「ならば、私もそれ相応の覚悟で相手をしよう」



 私は手にした短刀を逆手に持ちかえ、姿勢を低く構える……武器はこの短刀と小手の鎖帷子くさりかたびら、そしてこの腕だけ。さっきみたいな派手なことはできないです。

 ここは、敵の出方を見るのが最善策……でも、美空の安全を確保するには、一秒でも早くやるしかないです。

 それは一瞬の思考――瞬間の判断――刹那の無防備。



「――早々にけりをつけよう」



 振り下ろされる手。

 同時に逆の手が振り上げられ、その手から四つの光が打ち出されたです。

 それは百爪の十八番『まぎれ』。変幻自在の軌道による回避不能の刃。その刃に対して、私は低姿勢のまま前方に全力で跳ぶ。



「……ッ!!」



 一つは短刀の峰で弾き上げる。



 一つは右掌の帷子で防ぐ。



 残り二つは……左手で掴むッ!!




「ッ……はァッ!!」



 手のひらを冷たい痛みが走る。

 その痛みが現実味をおびる前に、その刃を飛んできた方向へ投げ返す。



「……無駄なことを」



 飛んできた刃物は不可視の糸によって操られているため、私が投げ返した小刀は軌道を変えてコンクリートの地面に落ちる。

 しかし……そんなことはすでに知っているッ!!

 軽い金属音が二つ鳴った時、私は既に目標を間合いに捕らえていた。



「確かに、早くけりをつけないとですよね」



 手にした短刀に力を込める。

 突き出すのは先端、目標は百爪、穿つはその心臓いのちッ!!

 私は自身が出せる最高速の突きを――





「――無駄といっただろう?」





 全力で突き出した刃は、目標に触れることなく止まる……いや、止められた。

 まるで右腕だけが空中に貼りつけられたようにびくともしない。



「ッ!?」

「紛の原型である糸境しきょうとは、元来、糸のみを指で操り対象を捕らえる拘束術。未熟な者は糸の先端に錘をつけるが……私がその程度の実力だとはおもうまい?」

「ッガァ!?」



 分厚い黒靴の爪先が私の体を突き刺す。

 その力によって体が宙を舞うが、固定された右腕の枷がそれを許さず、肩が鈍い悲鳴を上げてすぐに重力に引かれ落とされる。

 ……『紛』は本来八本の刃を飛ばすが、さっき私に飛んできたのは四本……くッ、小刀を飛ばした左手は右手の糸を隠すためのフェイクッ!!

 地面に倒れることも許されず、右腕にぶらさがるような無防備な体勢をとっている私の前には、私を殺す刺客。



「さて、私としては任務を完遂してから、黒猫と手合せ願いたいのだが……痛む死か、痛まぬ死か、君が選べ」

「……」



 絶望的な状況……でも、私は死ねない。

 美空を一人にするわけにはいかない……妹に絶対に淋しい思いをさせないって決めたから。

 だから、私は最後まで諦めない。



「……死ぬのはあなたの方です」

「そうか……それは叶わぬ願いだ」



 振り上げられる右腕、その手には四つの刃。

 それが振り下ろされる時、私の命は消え落ちる。

 防ぐ力は残ってない、回避することも不可能。

 だから、私は目の前の敵を睨みつける。

 眼力だけの無駄で無意味な抵抗、それでも睨みつける。

 黒い影を、暗殺者を、私を殺す者を。


 ふと、私の脳裏に場違いなことが浮かんだ。


 目の前の黒い影は確かに黒い。 でも、私は見たことがある……この黒より深い黒を。

 あの、すべてを喰らう漆黒を……















「少しどいて頂けますか? 百爪様」
















 その声は不意に……本当に不意にかけられた。



「ぐっ!?」



 私を殺す黒い影は、突然目の前から消えた。

 同時に右腕を絡みつくような拘束感も消え、私は地面に倒れこむ。

 私は驚いて視線を前に戻す。

 そこにあるのは黒い影。漆黒のスーツを纏った背中に、闇夜の中でもくっきりと浮かぶ深くしなやかな黒髪。



「セ、センパイ?」

「……フッ……敵に回った私をまだ先輩と呼んで頂けるとは……『僕』もいい後輩を持ったものですね。いいでしょう、私は貴方の先輩です」



 それは紛れもない伊達センパイの背中だったです。

 前に見せた無防備な背中じゃないけど……その背中は不思議と私に安心感をくれるです。

 そして、その背中の先にはさっきまで目の前にいた百爪が両手を使い防御の姿勢を取っていたです。



「貴様……なぜここに? ハッキングは進行しているはずだ」

「あちらはあちら、こちらはこちらでございます。私もただ通りすがっただけとは申しません。私は確固たる目的を果たすためにこの場に来ました」



 いつの間にか両手に八本の爪を装備し、既に臨戦体勢を整えた百爪。

 右肩が外れてまともに動けない私。

 そして、私を庇うように突然入り込んできた伊達センパイ。



「……まぁ、いい。黒猫、貴様を狩るのも私の目的の一つだ」

「失礼ですね、この眼鏡をかけている間、私は遠呂智でございます……まぁ、構いません。私は後輩を可愛がって頂いたお礼はきっちりとお支払いするだけです」



 睨み合う二人……さっきまでの空気とまるで違う。あまりに冷えすぎて、逆に体が嫌な熱を持つです。

 それでも、私はこの二人に釘づけにさせられる……異様な緊迫感が私の視線を独占させるです。

 そして、なにより……



「――貴方には選択する権利がございます……一瞬で逝きたいか、一瞬でも生きたいか……どちらがお望みでございますか?」



 センパイをまだよく知らない私が分かるほど明白に

 疑う余地がまったくないほど確実に

 嘘吐きとしては失格としか言えないほど露骨に

 センパイが怒ってることに、私は驚きを隠せなかったです。




 さあ、今回の分かりにくい三つ巴を簡潔に解説タイム。

 百爪←和倉の増援……と思いきや、一族の命令で災悪をもたらす者を殺しに来た暗殺者。

 美海←一族の占いで『黒き死神と対をなす白髪の死神が一族に災いをもたらす』という結果が出たために、百爪の襲撃を受けた。

 遠呂智←ハッキング中にもかかわらず登場。目的や真意は不明。しかし、嘘吐きのくせして感情丸出しでぶちギレ中。

 次回はハッカーが活躍します……たぶん。

 では、また。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ