Flight2‐…あなた何者ですか?
皆さんこんにち…いや、おはようございます。
矢沢翔吾です。
今日から戌神高校に通う高校一年生です。
今は、たまたま見つけた『空き部屋有り』の広告がきっかけで、大家さんで高校の先輩でもある伊達さん家で一緒に住まわせてもらってます。
伊達さん二週間ぐらいしか一緒にいないけど、伊達さんは男性だけど綺麗で料理も上手くて気が利いて優しくて……とってもいい人なんです
だけど……
「彩さん……そろそろ離れましょ? …そんなにッちょっ!? …ぁ…ぁふッ…」
「…あむっ……ここ、かーくんの弱いトコ」
…出来るなら、あ、朝からこんなことは止めてほしい。
今、目の前の伊達さんは赤髪の美女(伊達さん曰く、戌神高校の校医さん)に襲われていた。
無表情な美女は、いきなり伊達さんを床に押し倒したと思ったら、その耳や首、まぶたや指先……そしてく、唇までも甘く噛んだり、猫のように舐めたりしてた。
見ちゃいけないと思ったけど、僕は人間の興味に負けてしまった。
…そして、僕が見てる間も伊達さんは校医さんのされるがままでいる。
「……や、矢沢く…ん。助け……ひぅ…」
「れろっ…手出し無用。入ってきたら…」
伊達さんの頬を執拗に舐めながら、僕に向かってドコからか取り出した銀色に光るものを突き出してくる。
「…伊達さん、すいません」
僕には、人にメスに向けるような人を相手にするのはムリです。
僕はしばらくの間、コーヒーを飲みながら現実逃避をさせてもらった。
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「…助けられなくてすいません」
「いや、仕方ないよ。彩さんに勝てる人は少ないから」
「…私、怖くない」
「「いや、メスとか十分怖い(です)」」
結局、伊達さんは遅刻しないギリギリまで校医さんに弄ばれ続けてた。
そして今は、玄関に続く一直線の廊下を二人で並んで(校医さんは伊達さんの背中に張りついてる)歩いてる。
「それにしても彩さん。いちよう先生でしょ? 先に行かなくていいんですか?」
「校医の仕事、一年中特にやることない」
「それは彩さんの仕事の速さと、ファンクラブの人達を締め出してるからでしょ」
「あれ、キライだから。それより、かーくん今日も来る?」
「あれ呼ばわりって……魔王も救われないな。……今日は保健室に用はないけど、もしかしたら逃げ込むかもしれないんで、その時はお願いしますね」
「……分かった」
なんか、二人の間がとても和やかで……
「お二人ってお似合いのカップルですね」
靴を履きながら、ついつい本音がこぼれる。
その言葉に校医さんの無表情な顔は少し赤くなり、伊達さんは大きなため息を吐く。
「……ありがと」
「いや、冗談キツいって。僕なんかじゃ彩さんとは釣り合えないって」
「……むぅ」
伊達さんの言葉に若干膨れっ面になる校医さん。
僕には伊達さんも十分綺麗だと思うんだけどなぁ……
「んじゃ、彩さんは……」
「降りない、一緒に行く」
「……しょうがないか。しっかり捕まっててくださいよ……いや、やっぱりむ、胸が当たるんで少し緩めに」
「ヤだ。折角だから、もっと……」
「あふぅ!?」
校医さんは、まるで羽交い締めのように抱きつき、伊達さんの背中に体を密着させる。
……やっぱり付き合ってるんじゃないだろうか。
「や、矢沢くん。僕達は先に家を出るから、死にたくなかったら後から学校に来てね」
「……死にたくなかったら?」
……あぁ、なるほど。
別に、そんな大袈裟なこと言わなくても、二人の邪魔なんてしないのに……
「……君、かーくんの言ってることは本当。甘く見てると……死ぬよ」
「えっ?」
こ、心が読まれた!?
これが読心術ってものなんですか!
「んじゃ、ケガだけしないようにね」
「……あっ、はい」
驚きを隠せない僕に、伊達さんは苦笑いをしながら玄関の扉を開けて、一歩を踏み出…
と、思ったら一瞬で走りだして………
庭に火柱が立ち上がった。
「はぁっ!?」
飛んでくる土を手で遮りながら、僕は叫んでしまった。
伊達さんが着地してすぐ飛び退くと、その後を追うようにして火柱が次々と庭に作り出される。
「ったく彩貴のヤツ! クレイモア地雷なんか庭に埋めたら……庭の景観が壊れるだろがっ!!」
「そっちじゃないでしょ!?」
ついついツッコんだ。
だってそうでしょ!?
庭の景観より自分の命のほうが大切だって!
「んじゃぁ、矢沢くんも気をつけてねッ!」
伊達さんはこっちに手を振りながら、遠くへと走り去っていった。
……そして、その後ろを黒いなにかが突風を起こして飛び去っていった。
嵐のような出来事の後にできたどこかの紛争地のように荒れ果てた庭を前に、ただ立ち尽くすしかない僕…
「…伊達さん、あなたいったい何者ですか?」
僕の中で二週間で感じた伊達さんの印象が、この朝で一気に揺らいだ気がした。
クリスマスプレゼント代わりに小説更新!(ショボッ!!)