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Flight26‐蛇と剣と爪の夜



 私は心の強い男に出会いました。

 私は嘘を吐いて、その精神を崩壊させてしました。


 私は未来に夢見る少女に出会いました。

 私は嘘を吐いて、その夢を打ち砕きました。


 私は強い信仰心を持つ女に出会いました。

 私は嘘を吐いて、その手を血に濡らしました。




 そして、私は一人の少年に出会いました。

 その少年の心は、私の背筋を震わせるほど禍々しく、魅惑的な闇を持っていました。

 私は少年に、なにをしているのか、と質問を致しました。

 すると、その少年は私の姿を見ても眉一つ動かさず、私の問いに答えました。



「黙れペテン。その舌全部引き抜かれてぇか?」



 ……敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意。



 言葉が、目線が、態度が、感情が……私に向けられた彼の全てが、私に幾千もの刃を突き付けられたような、圧倒的な敵意となって向けていました。

 そして、私はその圧倒的な敵意に惹かれ、その少年の心に住まうことに決めました。

 そして今、私は少年の闇を糧にして、悠悠自適に嘘を吐き続けております。


















 もう日も暮れて、暗闇が深く夜空を染めきった頃、僕の家では既に夕食を食べ終えていた。

 ……でも、いつものような食後の空間は、そこには存在しなかった。



「……ふむぅ……だてさぁん……」



 僕はサイズのあったダークスーツに身を包み、矢沢くんは制服姿のまま眠っていた。

 僕は熟睡してる矢沢くんを、彼の部屋に運んで、布団へ寝かしつける。

 ……今夜、矢沢くんに出した夕飯には、彩さん調合の睡眠薬を盛ったのだ。

 今回の件に、矢沢くんを巻き込む訳にはいかない……



「さて……んじゃ行きますか」



 心の中で矢沢君に謝ってから、僕は部屋の戸を閉め、静寂に包まれた一直線の廊下を歩き、黒靴を履いて玄関の敷居を跨いで外に出る。

 すると、玄関脇にもたれ掛かってる人影が視界の端っこに入ってきた。

 僕はあえてその影の方を向かず、敷居を跨いだ状態で立ち止まる。



「駆……行くのか?」



 あまりに感情が籠もらない平坦な声……玲が黒縁眼鏡の奥から、僕を凝視してるのを横顔に感じる。

 その視線は、僕の真意を確かめるように、刃物のように冷たく鋭く突き刺さる……でも、僕はその視線を受けつつ口を開く。



「あぁ、約束だからね」

「無謀だ。敵方はこちらが『新月』と『晦月』を相手にする事を想定し、それに見合う戦力を用意しているはず。その中に単体で挑むか……見るところ、お前は『朔望月相』の力を全力で使う準備はしていない……まさに飛んで火に入る夏の虫。想定上では七割方死ぬぞ」

「……」



 玲の言葉を僕は否定できなかった。

 確かに、僕は和倉さん達の両親の仇として、これ以上なく恨まれてる……彼女達がこんな好機を逃すはずなく、本気で僕のことを殺しに来るだろう。

 そんな場所に行くのは、まさに自殺行為だろ。



 でも……そんなのは最初から百も承知だ。



 僕は身につけたスーツの内ポケットに入れておいた、漆黒の紐状装飾具を取り出して、その紐でゆっくりと自分の後ろ髪を纏め上げる。

 時間を掛けて纏め上げることで、自分自身の気を引き締めると共に、『俺』に必要なパーツを自分から引き出し、一つ一つを組み上げていく。

 そして……『僕』を『俺』に作り変える。



「死なないさ。俺は彩貴に元気な姿を見せなきゃならねぇからな」



 俺は手に持った黒い外套を羽織る。

 その膝下まで届く外套は見た目より暑苦しくねぇが、季節外れもいいトコだ。

 そんな外套の胸ポケットから、深紅の視力調整具を取り出す。

 伊達だから普通は特別な意味を持たねぇけど、俺にとっては『私』を作り上げる一つのピースとなる。



「……Mundus vult decipi, ergodecipiatur……」



 俺は言葉を紡ぎながら、精神、肉体、思考回路、立ち回り、口調、在り方……その一つ一つを、把握し分解し解析し整理し組み換える。

 そして『伊達駆』を『新井月朔夜』に、『新井月朔夜』を『三十日八雲』に、自分自身の体を器として使い、その中に赤の他人を作り上げる……排除す者の『俺』から、欺瞞だます者の『私』に。



「……世界は騙される事を欲している。それゆえ世界は騙される……」



 私は外套のポケットから取り出しました、黒革の手袋をはめます。

 そして、私は世界を欺かせて頂きます。

 なぜなら、私は偽りの担い手でございますから……



「“三十日八雲の世界は、深紅に染まります”」



 私の身につける季節外れの防寒具は、私の紡ぐ偽りの言葉によって、鮮血のような深紅に染まります。

 それが事実なのか幻想なのか……それは私が知る由もありません。

 なぜなら、私も世界の一部……私という虚言師ライアーに騙される対象なのですから。



「世界を欺くための布石は全て揃いました……では、参りましょう。誰かの世界を真っ赤な嘘で染め上げるために。……そして、私が交わした約束を果すために」



 私は深紅の外套を翻し、再び歩きだしました。

 史上最悪と謳われる虚言師として、私の地獄道をまっとうするために……



「……では、まずは日常を乱す野暮な方々に、この舞台から退場して頂きましょう」
















―――――――――――――――
















 昨日の曇り空から抜け出せずに、ジメジメした夜を迎えた戌神の地。

 私は和玖羅一族伝統の戦闘用衣装である、自身の黒髪が同化するたもとの無い筒袖の和服に、腰板のない細めの馬乗袴を身に纏う。

 小手には防御用の鎖帷子くさりかたびらを筒袖の中に巻き、髪止めもゴムではなく、軽金属製のしっかりしたものにし、底に軽量硬度の金属板を仕込んだ足袋たびを履く。

 そして、懐や袖口、袴の隙間等には、必要最低限の武器を仕込む。


 ……今日は『新月の黒猫』と『晦月の遠呂智』の正体である伊達駆が、四谷の中央サーバーをハッキングすると指定した日。

 この日の為に疑似ウイルスでのセキュリティホール改善も終了し、対ハッキング用ソフトも、今日の暁に染まる早朝に完成した。


 今回は、遠呂智のハッキングと同時に逆探知を開始し、伊達家や四谷の本社ビル、戌神高校校舎など、遠呂智が関係する場所周辺に倭国の影人で編成した小隊を配備しているため、遠呂智の位置が判明した場合には、いち早く最寄りの部隊が強襲し、その間に他の部隊が合流して敵を叩く、一定範囲の索敵戦術を用いている。

 そして現在、私は索敵範囲の中心である、サーバーがあるビル内に留まり、司令塔の役目を果たしているが、遠呂智の位置が確認されれば即座にその場に向かう。

 そして必ず……その首を討ち取る。



「……美空」



 名前を呼ぶ声に、私は後ろを向く。

 そこには背丈も服装も私と同じで、その闇に映える白髪を除けば同一人物にも間違えられかねない姿があった。



「姉さん、どうしたの?」

「百爪さんから連絡が入ったです。『第二、第三、第七部隊からの通信が途絶えた。警戒態勢を強めるべき』だ、そうです」

「……そう」



 私は返事をしながら瞳を閉じる。

 第二、第三部隊は伊達家の周囲に配備された部隊であり、第七部隊は伊達家とこのビルの延長線上に配備されていた。

 状況からみて、小隊を潰したのは遠呂智なのは間違いないだろう。

 倭玖羅本家に応援要求して、送ってもらった倭国の影人だったが、流石に敵も一筋縄ではいかないらしい。

 しかし、遠呂智が指定した時刻には一時間ほど早い……四谷のセキュリティ能力は、遠呂智もよく知っているはず……ハッキングはハッタリで、元からサーバーを破壊しにきたのか?



「……まぁいい。こちらとしてはそっちの方が好都合だから」



 私の目的はサーバーの防衛ではなく、両親の敵討かたきうち……目標がこちらに近づいてくるなら、私はそれを待つのみ。

 自分の腕が震えているのが分かる……これは強大な敵に向かうための恐怖か、それとも武者震いか……



「美空……私は……」

「分かってるよ、姉さん。姉さんは優しいから」



 私は目を閉じたまま姉の躊躇いを含んだ声を聞き、そして遮る。

 姉さんは人を傷つけることを嫌う……遠呂智かたきのことだって、少し深く関わりすぎたがために、刃を向けることに戸惑いが生まれてしまったのだろう。



「姉さんは純白の『盾』……無理にその力を使う必要ない」



 私が目蓋を開くと、その視界には悲しそうな顔をした姉さんが映る。

 それに対して、今の私はきっと鬼のような形相をしているだろう。



「奴の首は……『剣』である私が必ず討ち取る」



 なぜなら、今の私は復讐に身を焦がす――鬼そのものだから。
















―――――――――――――――













 私は倭玖羅本家の当主殿直々のめいに従い、双子の少女が行う復讐に付き合わされる羽目になった。

 百爪として名を知られている我にとって、これはつまらぬ任務と予想していた。



「だが……良い意味で予想外だ」



 街頭もなき路地裏に入り込んだ私の目の前には、黒衣でその身を包んだ私の部下が、目立った外傷もなく意識を刈り取られた状態で何体も転がっていた。

 これは敵の所業……数年前に忽然と姿を消した暗殺者『新月の黒猫』が唐突に姿を現し、その力をこのような形で現した。



「この好機……逃す意味なし」



 あの黒猫の首を取ったとなれば、私が名により一層高名となり、世界に私の強さを示すことが可能だ。

 私が自らの幸運を心中で歓喜している最中、私の足元に転げていた部下の一人が動いた。



「……うっ……ぁ………ひゃ…くつ…めさま?……」

「む? 目を覚ましたか」



 未だ意識が混濁しているのか、呻きながら体を震わせるだけで、立つこともままならないようだ。

 私は一つ息を吐き、呻く部下に黒い手袋を着けた自らの右手を差し出す。



「……ひゃくつめ…さま……お気をつけを……やつは…化け物です…」

「うむ、承知した。奴と対峙する時は、細心の注意を払おう」



 私の差し出した右手を掴もうと、まだまともに動かない腕を必死に伸ばしている部下に、私は溜め息混じりに述べる。




「……しかし、私に君達は必要ない」




 私は差し出した手を、流れるように横へと凪ぐ。

 その刹那、私に伸ばされた部下の腕は突如として血を吹き出した。

 噴霧ふんむする鮮血が暗闇に妖しく煌めく。

 アスファルトが黒紅色に染まる。

 血染めの地にボトボトと落ちる、幾つにも切断された部下の腕『だった』肉塊。



「いや、先程の言葉は訂正しよう」



 『一瞬で腕を細切れにされた』という、自らの状況を把握できていない顔をしている部下を余所に、私は左手を夜空に掲げ、勢いをつけることなく振り下ろす。



「君達には、私の爪研ぎとして役立ってもらう」



 生きた爪研ぎは、私の爪によって血の大輪を闇夜に咲かせ、原型を残さぬ肉塊となって散った。












 最近、KOTATHUという暖房器具に合体している夷神酒です。



 久しぶりの更新……予想以上に時間が掛かっている私ですが、引き続き読んで頂けると有り難いです。

 ラブもコメもない、バトルへ向かいます。ラブとコメを求めて見てる人にとっては

「ツマンネー」と思われるかもしれませんが、頑張らせて頂きます。


 ちなみに、人気投票+見てみたいシチュエーションですが、様々な人からいろんな意見を頂けて、私としては最高に嬉しいかぎりです♪ 全部参考になります。



 では、また。
















 次回の更新こそは早くしたい……(切実)


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