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Flight24‐灰色の空(前編)

この作品を愛読してるという方は是非、後書きまで呼んで頂きたい所存です。



 早朝から続く、雨が降るか降らないか天気予報士でもはっきりしない曇天灰色の下……私は少し廃れたビルの屋上で空を見上げていた。

 まるで無限に広がる絨毯のように、四方の彼方まで続く雲は薄暗く、人の心まで曇りを作る。

 しかし……今の私にはその程度の曇りはどうということはない。



「明日……か」



 私が伊達……いや、遠呂智おろちと接触し、完全に屈伏させれた。

 その際、奴は四谷財閥の中央サーバーへハッキングする事を宣言した……その宣言通りなら、四谷の中枢は明日ハッキングされる。

 四谷財閥の隠密・障害抹殺部隊長である姉と私にとって、これはピンチであり……復讐のチャンスである。



 ――私の……私達の両親は『倭国の影人』の中でもトップクラスの力を持っていたらしく、当時四谷財閥と対立していた大手企業の下、異能の力を持った者から企業を守る防衛の要として、夫婦揃って雇われていた。

 そもそも、異能というものは『才能』として世界に溢れている。

 絵の才能がある人がいるように、手に火を灯す才能を持つ人が世界にはいて、高い身体能力を持つ人がいるように、高い飛行能力を持つ人がこの世界にはいる……それが異端なる才能、それが『異能』。

 しかし、歴史上魔女狩りや異端粛正などの対象となりえた才能の持ち主は生き残るため、自然に世界の裏側で生きるようになった。

 そして現代、殆どの異能者はその力を隠し、または自分が異能者という事に気づかずに社会に溶け込んでいるが、一部の強力な異能者は裏組織や大企業、さらには国家や軍隊の裏でその力を発揮するものがいる。

 そして、そんな異能者の一族である倭玖羅は後者の異能者として暗躍し、その一族のエースだった私達の両親は裏世界で名を馳せていた。


 しかし……五年前、何らかの事情で四谷の逆鱗に触れたその企業は、当時は無注意ノーマークだった二人によって壊滅状態に陥った。


 一人は『新月にいづきの黒猫』の名を持つ『新井月にいづき 朔夜さくや』。

 一人は『晦月つごもりづき遠呂智おろち』の名を持つ『三十日みとび 八雲やくも』。


 その二人は社長等の上層部の一部を抹殺し、電子系統のシステムを全て破壊した。

 一度に二つの必要不可欠要素を失ったその大手企業は一晩で壊滅状態陥り、一週間後に倒産した。

 世間に公表された理由は『社長の乱心』という不信感極まりないものだったが、後に私が四谷内部から当時の事を調べた結果、四谷が裏で手を回し事実を隠蔽した形跡が残っていた。


 そして企業が倒産した次の日、私達は両親が上層部を守るために二人と対峙し……殺された事を聞かされた。


 私達は泣かなかった……いや、泣けなかった。

 両親はいつも私達に笑いかけてくれた、優しくしてくれた、誉めてくれた、撫でてくれた。

 そんな二人がもうこの世にいない……その事実を認められなかった私達は泣けなかった。


 それから私達は倭玖羅本家に引き取ってもらい、『倭国の影人』としての本格的な修行励んだ。

 当時小学生だった私達にとって、その修行は毎日血反吐を吐くような苦痛を強いられるものだった。

 しかし、私達は復讐の為に生きた。

 一心不乱に血反吐を撒き散らしながら『倭国の影人』としての『わざ』を得て、自分が吐く以上に敵の血を撒き散らしてきた。


 そんな時、そんな私達の所に『四谷が黒猫の代わりを探している』という話が来た。

 私達は舞台から忽然と消えた『黒猫』と、元から表舞台に姿を現わさない『遠呂智』の情報を掴むため、その話に乗った。

 そして、過去の黒猫の行動の多くに、四谷財閥当主四谷源蔵の娘『四谷彩貴』がある事を突き止めた私達は、なんらかの手掛かりを得るために四谷彩貴が通い、当主のもう一人の娘である四谷彩の勤める戌神高等学校に裏口入学した。



「しかし……あの当主は本当に当主なのか?」



 私の視界の真ん中で灰色に染まる曇天を貫かんばかりの超高層ビル……四谷財閥が経営する企業の中枢が集う四谷グループ本社ビルを見ながら、私は当主の脳天気な顔を思い出す。


 戌神高等学校に裏口入学を志願した際、私は当主に『基本的教養を補うため』という偽りの理由を提示したが……当主は私の理由をまともに聞かずにそれを許可した。



『あ〜いいぞ。入学したいのなら書類……いや、メンドイから書類はいらん。適当に名簿に名前突っ込んどくから、入学式から適当に行って……よしッ!! 来たぁぁぁあああ!!』



 当主はいつもの席に座りながら、競馬新聞と赤鉛筆を持ちラジオを聞きながら、私達の裏口入学を許可した。


 雇用された当初から思っていたことだが……あの性格でよく巨大な四谷財閥を従わせる事が出来る。

 しかし……そんなことはどうだっていい。

 賃金は桁外れで住居も二人で住むには十二分を与えてもらったが、黒猫と遠呂智の居場所さえ分かれば用済みだ。

 黒猫と遠呂智の正体である『伊達駆』……奴への復讐を終えたあかつきには、証拠隠滅の為に家族共々消えてもらおう。



「恩を仇で返す……か。それでも私は迷わない」



 独り言を呟いた私は、代わり映えのしない空を見切りをつけ屋上を去る。

 階段を降り最寄りのエレベーターに乗った私は、最上階である七階のボタンを三回押し、三秒以上の間隔を開けずに最下層である地下二階のボタンを三回押す。

 すると、私の乗ったエレベーターは『最下層』であるはずの地下二階を通過し『真の最下層』に向かう。



 目的に到着したエレベーターの扉が開くと、私の視界に入るのは暗闇の中で光を放つ一枚の巨大なスクリーン。

 そのスクリーンは、教室程度の広さの部屋に設置された十二機のPCパソコンとコードで接続され、0と1の羅列が絶え間なく駆け巡っていく。

 そして、十二機のPCには倭国の影人の中で電子機器の扱いが出来る者達が、この狭く薄暗い空間でひたすら手元のキーボードを叩いていた。


 ここは四谷のネットワーク機器を一手に管理する部屋であり、四谷のネットワークセキュリティを制御できる唯一の場所だ。

 なぜ、本社ビルから離れた地下にこのような場所があるかは、『万が一本社が破壊されてもデータを守るため』や『当主の思いつき』など、様々な説ある。

 ……私は後者が有力でないかと踏んでいるが。


 そのような事を頭の端で考えながらある程度部屋を見回した私は、そのスクリーンを直立不動で見上げている一人の大男に近づき、声をかける。



百爪ひゃくつめ、調子はどうなっている?」

「む……黒剣か」



 獰猛な獣が獲物を前にして喉を鳴らすような低音の声色。

 私の倍ぐらいある身長とがっしりした体格を、黒いスーツに無理矢理ねじ込んだ印象を受ける。

 深く被った黒いソフト帽で表情を隠していて、何度か一緒に仕事をしている私も、その顔を見たことはない。

 彼の声と体躯はあまりに威圧感があり、私も初めて会った時は無意識の内に警戒していたものだ。

 そんな彼は、私の声に反応しながらも体はピクリとも動かさず、帽子の影に隠れた口を開く。



「……全プロトコル層のPFファイアウォールの確認は終了した。後は無害なコンセプトウイルスをインストールして、起動と性能を確かめればいいと考えられる」

「そうか……後はサイト内にハッキングの情報が出回っていないか確かめないと」



 サーバー等のネットワーク系機器への攻撃方法として、DoS攻撃というものがある。

 簡単にいえば過剰アクセスにより、ネットワーク機器に過負担を与え異常動作や停止を誘発する攻撃方だ。

 『遠呂智が四谷財閥をハッキングする』という情報が流れたとしたら、野次馬効果で自然に過剰アクセスされDoS攻撃が成立する。


 私がその事を調べるために、この部屋に並んだ十二機のなかで手近なPCを借りようとすると、黒皮の手袋をはめた百爪の手が私を止めた。



「それは既に確認済みだ。掲示板や個人サイトを中心に約三十万件ある。しかし……日時やハッキング先に様々な誤記があり、四谷ここのサーバーに極端な負担は掛からないと考えられる」

「……流石だな」



 この百爪は倭国の影人の中でもトップクラスの切れ者で、今回の件で現倭玖羅本家に増援を頼み込んだところ、電子系を扱える者達を引きつれてきたのがこの男だった。

 きっと、両親の仇を討つこのチャンスに、本家も動いてくれたのだろう。

 しかし、その百爪さえすぐに答えの出せない謎の行動を、遠呂智はしていた。



「四谷内部からの裏切りなら正確な情報を流すはず。このことからも、これは敵の故意的行動である事は確実であるが……意図が読めない」

「私にもさっぱりだ。しかし、警戒を強めたほうがいいのは確かだ」

「うむ……コンセプトウイルスを何度かインストールし、セキュリティホールの改善点を今一度洗い直すべきと考えられる」



 コンセプトウイルスとは、ネットワークセキュリティの不備等の問題点を発見するための試験的なウイルスであり、その問題点の事をセキュリティホールと言う。

 百爪がその作業を指示するために巨体を動かそうとするのを、今度は私が手をかざして止めた。

 そして、百爪の前に真っ赤なUSBメモリーをさしだす。



「コンセプトウイルスならこれを使って。遠呂智の使ったコンピュータウイルスを無害にした物らしい。私のPCで何度も確認したが有害性はなく、ステルス技術だけが群を抜いて異常に高い」

「……なぜ君がそんなものを?」



 私の差し出したメモリーを受け取りながら、百爪は重低音の疑問をぶつけてくる。

 その問いに、私は迷い一つ無く平坦な声で答える。



「私が奴を殺したいから……それ以外に理由は必要ない」

「復讐の業火に己が身を燃やすか……」

「黙れ、百爪。これは私達の問題だ。私達以外に口を出す権利など一辺もない」

「……」



 百爪はそれ以上言葉を発することなく、メモリーを懐に入れた後、最初の時のように巨大モニターを見上げる姿勢を取った。

 ソフト帽を目が隠れるほど深く被っているため、どんなに見上げてもモニターなど見えないはずなのだが、この百爪には見えている……しかし、そんな事は今は関係ないことだ。



 私はモニターの薄暗い光を浴びながら明日の計画を綿密に考える傍ら、一つの心配を抱いていた。

 今日の朝、『夕方には帰ってくるです』という置き手紙を残し、その姿を消した姉への不安を……私は捨て切れないまま、私は思考を続けた。
















 我が辞書に後書きの文字は……あるッ!!






 はてさて、前回と比べコメディらしくないシリアス全開の今回でしたが……いかがでしたでしょうか?

 次々回から晦月(美海・美空)編が佳境に突入します。

 これが終われば一段落つきますので、神酒はあることを考えました。

 今まで読者様から頂いた意見で最も多かったのは『展開が早い』でした。

 なので、それを解消するために、一段落ついた後に物語から脱線する番外編を投稿したいと思います。

 それにつきまして……折角ですから人気投票もかねてどんな話がいいか、読者の方々にお聞きしたいと思いますッ!!


『駆と○○のデート』

『駆が○○に追い掛けられる不様な姿を!!』

『○○と○○の、のほほんとした日常会話』

『駆をめぐる○○VS○○の壮絶なバトル』


 ……等々、いろんなシチュエーションを募集してます。

 気に入ったキャラの名前と合わせて、ご応募待っております!! ……まだ、出演予定主要キャラが二、三人残ってますがそれは次の機会があれば、ということで。


 次回は、彩貴と駆、美海と駆、玲と駆の、色とりどり三段重ねの対決前日……お楽しみに♪


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