Flight19‐二人のデートと二人の破壊者
今回は焦って書いてしまった……拙稚な文が幼稚な文になってないことを祈ります(願
いやぁ、僕は先輩を甘く見ていたらしい。
いくら純白のワンピースで着飾ったって、先輩は『萩野杏子という名のアネゴ系+Sな女性』だ。
そんな当然極まりない事を、僕はすっかり忘れていた……
僕は先輩に駅前の町中を連行……もとい連れ回されていた。
と、言ってもいろんな店を見て回っても何も買わない、いわゆるウインドーショッピングってやつらしい。
「まぁ、今金欠だからねぇ。見てるぐらいがちょうどいいんだよ。あ、あのネックレス欲しいかも」
「先輩のお財布事情はあえてツッコみませんが、人の心を読まないでください。……ちょっと値段張りますね。てか、ペアネックレスですしね」
「んな、細かいこと気にすんなって♪」
「それはなにに対してですか?」
「さぁ〜ね」
僕の会話の相手……萩野先輩は機嫌良さそうに笑みを浮かべ、僕の隣を歩いていた。
青空が広がる晴天の中、先輩の髪は太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
いやぁ、先輩と並んで歩く機会なんてほとんどないから、ここまで綺麗な人だとは、今まで気づかなかった。
それプラス、いつもと違って純白のワンピースという、清楚な姿は恐ろしい程の破壊力を持ってる。
なんかもう反則だろ!!
……なんて、先輩の横顔を見ながら心の中で叫んでいると、進行方向に向いていた横顔がいきなりこっちを向いた。
「あんだよ。そんなじーっとあたしのこと見て……なんだ、あたしに見惚れたのかい?」
「うっ」
先輩は『へっ、イジり甲斐がありそうだ』と思ってそうにニヤニヤと笑いながら、的確に僕の核心を突いてくる。
……失敗った!
的確な先輩の言葉に僕はついつい言葉を詰まらせてしまい、次に『そんなことないです』なんて言っても説得力がない状況になってしまった。
「ホレホレ〜♪ 観念して白状しちまいな」
あぁ、この人僕が見惚れてたこと絶対知ってる。
それを知ってる上で、僕をイジってるドSがここにいますよぉ!!
……さて、現実逃避はここまでにして、早めに白状るか。
「……はい、正直見惚れてました」
「まったく伊達ったら、『見惚れてたました』ってウソついても、アンタが見惚れてたのはバレ……バ……アレ?」
「だって、仕方ないじゃないですか。目の前に物凄い美人がいるんですよ? 見惚れない方が難しいですって」
「…………」
僕が包み隠さず本音を言うと……先輩は固まった。
まるで、先輩の時が止まったかのように、歩みから瞬きまですべての動作が停止し、硬直している。
「おーい、先輩? 生きてますか? 個人的にザ・ワー〇ドとか使われてませんか?」
僕は声を掛けながら、先輩の面前で手をフラフラと振る。
ん〜、全然反応がない。
……仕方ない、奥の手を使うか。
僕はジャケットの内ポケットから、一本の扇子を取り出した。
何の模様もない真っ白な扇子を開いて……開きっぱなしの先輩の目に、そよ風を送り続ける。
扇ぎ初めて十秒……先輩に変化が起こった。
「……イッタァァァァァアアアアっ!?」
突然叫びだした先輩は、両目を押さえながらその場を転がり回る。
ある程度転がり回ったのち、僕の襟首を鷲掴みし、前後左右にブンブン振り始めた。
「伊達ェェエエエッ!! あんたなにしてくれんだ!! アタシをドライアイにする気かい!? つか、もう少しまともな起こし方しろ!! あんたあれだろ! 人を起こす時、容赦なくフライングエルボーどてッ腹に打ち込むだろ!!」
「いや、そんな直接死に繋がる起こし方はしません。矢沢くん……あ、矢沢くんっていうのは、最近僕の家に入居してきた戌高の一年生の男の子です。その矢沢くんが来て最初の頃寝坊しまして、その時はずっと枕元に立って起きるの待ってましたよ」
「いや、普通に起こしてやれよ」
「新入居には必ずやります。それをすると寝坊しなくなりますから」
「……あんた、なんか降霊してるだろ」
いやぁ、僕は霊媒士じゃないから降霊なんて出来ないから。
……正確に言えば、黒猫の力を使ってお寝坊さんの枕元に立ちながらプレッシャーを与えている。
起きない程度でプレッシャーを与えることで、寝苦しくなったお寝坊さんは悪夢を見るのだ。
それを約一週間続けると、ちょっと強いプレッシャーを与えるだけで、どんなに図太いお寝坊さんでも、悪夢を見たくないが為に跳ね起きるようになる。
いやぁ、いちいち起こしに行かなくてすむし、全員一発で起きるから便利だよ? ……って、そんなことは別にいいか。
そんなことよりも……
「てか、何で先輩固まってたんですか?」
「そりゃ、アンタがいきなり美人なんて言うから……って、なに言わせんだッ!!」
いや、僕は何も言わせてないから。
そんな僕の心のボヤキを知るわけもなく、先輩は顔を真っ赤にしながらポカポカと殴ってくる。
避けられないわけじゃないけど、なんか怒らせちゃったみたいだし甘んじて受けるか。
……なんてこと思ってると、先輩はポカポカ殴るのをやめて、僕のことを不満げな目で見てくる。
「ハァ……どうやらアンタを殴っても無駄らしいね」
「無駄ってことはないですけど、彩貴……生徒会長のお陰で殴られる耐性はついてますからね」
昔から殴られてばっかりだったから……いや、蹴られたり掴まれたりもあったなぁ。
他にも殴り殺されそうになったり、斬り殺されそうになったり、打ち殺されそうになったり……あれ、なんかスゲー泣きそう。
「……あれ、先輩?」
僕が今まで積み重ねられてきた心的外傷の扉を強引に閉じた時に、僕の視界から先輩の姿が消えていた。
その代わり、右腕が柔らかくて暖かい感触に包み込まれている。
僕は薄々嫌な予感を感じながら、自分の右腕を見る。
そこにはイタズラが成功した子供のように、にこやかに笑う先輩がいた。
……しかも、僕の腕を抱くように。
「……先輩。なにをしていおられるんですか?」
「ん? アンタが前に『女性に引っつかれるのは慣れない』って言ってたの思い出したから、試しに引っついてみた」
「そんなことをしても無駄でございますからなんで、やめていただけないでございませんでござましょうか?」
「そう言ってる割に、さっきから口調が変だねぇ……まさに効果抜群♪」
「クッ!」
いや……だって…慣れるわけないでしょう。
女性独特の柔らかさとか……メチャクチャ心臓に悪い。
ワンピースの薄い生地越しに、僕の腕に密着してくる先輩の胸から心音が伝わるたび、僕の心拍数は跳ね上がる。
「先輩、さっきのことは全面的に僕が悪かったことを認めます。だから許してください。そして僕を放して下さい」
「お姉さんなにも聞こえな〜い♪」
「ちょ!? 先輩引っ張んないでくださいぃッ!?」
「ははっ! 伊達ェ、顔真っ赤だぞー」
先輩は僕の右腕を抱き締めたまま、勝手に走り出した。
僕は笑顔の先輩に抵抗できるはずもなく、引っ張られるままに走る。
ちょっと楽しいけど、心臓に悪いのは変わらないし……周りの目線が集まってて恥ずかしい。
それも、一部に殺気が交ざった目線も向けられてる気がする。
「よしッ! このままランチを食いに行くぞ!!」
「いやぁぁあああ!! せめて放して下さい!!」
神よ……滅びてないならこの状況をなんとかしてください。
いや、結構マジで。
―――――――――――――――
現在、俺は駆の様子をビルの屋上から観察していた。
双眼鏡のレンズ越しに観察する限りでは、陸上部部長に大分遊ばれているようだ。
俺は面白ければそれでいいのだが……そうでない者が俺の近くに二名ほど存在している。
「駆ったらあんなに鼻伸ばして!! 今すぐ殴って粛正してやるわ!!」
「………………私のかーくんに触るな……」
俺は目から双眼鏡を外し、騒がしい声のする右方向を見る。
俺の視界に入ってきたのは、目視可能なほど殺意を発している四谷姉妹である。
彩貴はいつもより三割増しで騒ぎ、四谷姉もいつもより口調が攻撃的になっている。
そして、俺の譲渡した二機の双眼鏡は、既に二人の手の中で無惨にも粉砕されていた。
「取り合えず、二人とも落ち着け」
「なに玲? 私は冷静よ。冷静に駆を殴りに行くのよ?」
「……かーくんにくっつく……萩野……死に値する」
俺の注意では、二人の暴走は止まらない。
この状態……正に俺の危惧した通り。
陸上部部長は高確率で駆に悪戯を仕掛ける事は、事前に予想できた。
その状態を見た四谷姉妹が激昂するのも、同確率で予想できた事態だ。
……俺はその事態が悪化する前に、切り札の一枚を提示する。
「そこの二人、もしここで接触した場合、報酬は無しとなるが……それでいいのか?」
俺の言葉に即時に反応したのは四谷姉。
放出されていた強烈な殺気は消え去り、俺に向かって手の平を出してくる。
俺はもう破壊しないよう忠告してから、その手に先程粉砕された物と同型の双眼鏡を渡す。
「ちょっと彩ネェ!! そんな写真ぐらいで諦めるの!?」
そこで食い下がるのが彩貴。
流石と言いたい所だが、俺は彩貴さえ一言で攻略する方法を既に心得ている。
「いいのか? 報酬の中には入浴時の姿も存在する。流石に局部が写る物は処分したため無いが……鎖骨の曲線美やうなじの色気はしっかり写っているぞ?」
「う゛っ」
その映像を想像したのか、彩貴は顔を紅に染める。
彩貴の好みは鎖骨というのは調査済み。ちなみに四谷姉の場合はうなじである。
蛇足だが、駆の好みは綺麗な髪だと、本人が証言していた。
俺が頭の中で情報を取り出している途中に、彩貴の隣で四谷姉が不敵に笑い……
「……彩貴……行くの? 私は行かない……そして…かーくんの写真もらうの……」
言葉の最後に幸せそうにクスリと笑う四谷姉。
……その四谷姉の言葉が、彩貴の行動の決め手となった。
先程の四谷姉と同様、放出されていた強烈な殺気は消え去り、俺に向かって手の平を差し出してくる。
俺はもう破壊しないよう忠告してから、その手に先程粉砕された物と同型の双眼鏡を渡す。
「彩ネェでも、抜け駆けはさせない」
「……私も……同じ」
二人はお互いに牽制した後、手にした双眼鏡で目標を追う。
そんな二人の様子……そして二人の『足元』を見て、俺は心の中で溜息を吐く。
二人の足元には合計六機分の双眼鏡の残骸が山となっていた。
……実は、このやり取りは既に三回行っている。
――初期は、俺が目標の居場所を確認し、他の三人が一定の距離を取って追跡する予定だった。
しかし、四谷姉妹は駆と陸上部部長が手を繋ぐという行為のみで暴走。
四谷姉妹に追跡は不可能と判断し、目標と距離を取るために二人をこの場に留置している。
それにしても、今日はどの位の双眼鏡が破壊されるのか……
《‐玲、聞こえるか? お二人さん今度はカフェで休むらしいで。……あ、背中に抱きつくなんて、萩野さんも大胆やなぁ》
俺が破損数を予測しようとした瞬間、突然右耳に装着したイヤホンから聞こえてきた光の通信。
それと同時に、四谷姉妹の居る方向から『ミシッ』という破壊音が二回ほど聞こえた。
「……光?」
《‐ん? どうしたん?》
「ホームセンター辺りで双眼鏡を二十機ほど購入してきてくれ」
《‐二十機!? またなんでそんなぎょーさん》
「どうやら、四谷のお嬢様達はご機嫌斜めらしい」
《‐……うん、なるほど、分かった。そっちもガンバってや》
光は俺に同情する言葉を言いながらも、早々と通信回線を切る。
残る双眼鏡は四機。
光が来るまでに全滅する確率は、驚異的に高いと推測……いや、断定できる事態だった。
さぁて、今回の後書きは?(サ〇エさん風)
伊達駆
戌神高校二年
特級生制度適応者
戌高生徒会所属‐役職:副会長
(現在は事務も兼任)
・身体的特徴
身長:170後半
体重:50後半
頭髪:黒髪、後ろ髪の一部を肩甲骨辺りまで伸ばしている。
・内面的特徴
性格:誰にでも優しく穏やか、そして自らも認めるほどのヘタレ。 基本的に追ってくるものから逃げる。
いざとなると、他人の為に迷いなく自分を犠牲にする、とても強くてとても弱い人間。
成績:上の下。
一人称:僕。
大切なもの:誓い。約束。居場所。周りにいてくれる人。
ポリシー:約束は死んでも守る。
うむ、初回はこれくらいで十分ですかね(自己満足)
ネタバレのしそうな部分も書いておいたんですが……今回はあえて削っときました。
まぁ、削った部分は一生お蔵入りかも知れませんね。
あと、これからこの後書きで書いてほしいこと、解説してほしいことがあれば、是非とも私めにご報告ください。
その報告がなければ……次回は天下無双の生徒会長、四谷彩貴さんについて、ネタバレのない程度に書かせていただきましょうか。
ネタバレ希望があれば、中核以外はバラしちゃいますけどね♪
では、夷神酒でした♪