Flight17‐食べ物の怨みは怖い(ちょっと理不尽)
二週間に一話のペース……やっぱり遅いッスよね(汗
僕は……駆け抜ける。
廊下を全速力で走ってた僕は、右足を前に突き出してブレーキ。
そして左に体を向けて、方向転換を無駄なく行う。
すると、目の前に現れるのは二階と一階を繋ぐ階段……。
僕はその段を一歩たりとも踏むことなく、下り階段を一回のジャンプで飛び降り、一階へ着地する。
着地の際、衝撃を吸収するために曲げ切った脚。
その脚の力を一気に解放、0になった僕の動きを最高速度に持っていく。
僕は……駆け抜ける。かなり必死で。
理由? そんなの決まってるじゃないか……
「伊達ェェェェエエエエッ!! 待ちやがれェッ!!!」
理由は単純明快。
僕は人に追われ、そして逃げてるんです。そりゃぁ全力疾走で。
僕の十メートル背後からは『捕まえたら〇〇〇〇してから×××の◇◇してやるッ!!』って気配がビシビシ伝わってくる。
……でも、いつもと違う。
いつも、彩貴に追い掛けられてる時は『KOROSUuuuuuuu!!』って殺意が、僕の背中にグサグサ突き刺さってくる。
さらに、もれなく弾丸や砲弾が襲ってくる。
それに比べたら、この程度の逃走はどうってことない。
……いや、絶対に捕まりたくないけどね。
結局の話、今僕を追い掛けてるのは彩貴じゃないのだ。
「ったく! 一時間以上走ってんのにまだ潰れないかいッ!! バケモノだねあんた!!」
「そんなバケモノの僕を一時間以上追い回してる先輩も十分バケモノでしょうがッ!!」
「霊長類ナメんなッ!!」
「織田〇二ですか!?」
「いや、山本〇広の方」
「さいですか……てか、僕も立派な霊長類です」
……え〜、分かったでしょうか?
今、僕を追っ掛けているのは、戌高陸上部のエースにして部長。
肩の辺りで切り揃えられた、光り輝くオレンジ色の髪。
その髪を風になびかせながら走るその人は、萩野杏子先輩。
「まぁ、取り敢えず捕まりな」
「取り敢えずで捕まる気にはなりませんッ!!」
この人は、ある意味彩貴より恐ろしい。
人並み外れた身体能力で、僕の最高速度には追いつけないみたいだけど、結構なスピードとあり得ないスタミナで永遠と追い掛けてくる。
そして、一番恐ろしいのが『どこでも』入ってくる豪快さだ。
先輩の前では『男性用トイレ』さえも、ただの一室でしかない。
「先輩! 男性用トイレに入っていい異性は恥を捨てたオバサンだけですッ!! 先輩が入る場所じゃありません!!」
「そんな細かいこと気にすんなって」
「性別の差って先輩が思ってるより絶対大きいです!!」
僕は文句を言いながら、授業時間のため人の姿が無い廊下を走り抜けている。
あぁ、授業に集中してる優等生さん、騒がしくてゴメンなさい。
睡眠中の一般生さん、起こしちゃってゴメンなさい。
机の下でP〇Pやってるゲーム族さん……バレないように頑張ってね。
「ほらほら、集中しないと捕まえちゃうぞ?」
「ウソッ!? いつの間にか差が縮まってる!?」
いつの間にか、先輩との差が五メートル程に縮まっていた。
その差を、自分の中のギアを一段階上げることで元に戻す。
「お、まだ逃げるか! やっぱりあんたセンスがある! 陸上部に入れ。そしてアタシの奴隷になれ」
「奴隷って何ですか!? 陸上部に奴隷制度なんて存在するんですかッ!?」
……何で僕がこんな目にあってるかというと、約一時間前……お昼休みにまで遡る。
←←←一時間とちょっと前←←←
僕は一、二時限目の授業をそれとなく終わらせて、担当教師が奥さんの出産に立ち合うため、急に自習になった三時間目に生徒会室に来ていた。
理由は、そろそろ毎年恒例の球技大会が始まるため、生徒会として取り締まりやアンケートの整理をするためだ。
……彩貴に不平等条約を結ばされて授業は受けなきゃならないし、放課後は家事があるから遅くまで残るわけにはいかない……
だから、彩貴に許可を取って自習や昼休みの時間でちょくちょく仕事をしているのだ。
「……まぁ、彩貴のほうが忙しいんだけどね」
彩貴は種目に対する職員等の説得、外から来る人達への対応の検討、大会に必要な備品の予算編成……etc.
普通職員や他の実行委員がやるような仕事を、授業をこなしながら一人でキッチリやってのける。
さすが、二年連続で生徒会長になってるだけはある。
僕はそんな超人じゃないので、アンケート整理(約1200人分)等のディスクワークで手一杯だ。
「……んーーッ! お腹へったし、ちょっと早いけどお弁当食べよう」
僕は一端背伸びした後、目の前にそびえ立つ書類の山とノートPCを横にずらして、開いたスペースに持参のお弁当を広げる。
→→あぁ、今思えばこの行動がミスだった……って、いつの間にか先輩近ッ!! 足速いって!!←←
「ふ〜ん……結構意見が偏ってるなぁ」
僕は食事をしながらも、PC画面とアンケート用紙を交互に見る。
アンケート用紙の結果を入力する時、右手で箸を持っているため左手でキーボードを叩く。
……僕は弁当を食べながら、アンケート整理をしているのだ。
ちょっと行儀悪いけど、そこはご愛敬ってことで。
そのおかげで、弁当を食べ終わると同時にアンケート整理も終わった。
その整理した結果を一部抜粋してみよう。
『Q、今回の球技大会で、あなたがやりたい競技は何ですか?』
一位、野球
二位、ゴルフ
三位、ボーリング
この学校にはゴルフ場もボーリング場もありません。やりたいなら勝手にやってなさい。
『Q、この球技会に求めることとは?』
一位、友情!!
二位、努力!!
三位、勝利!!
ジャ〇プみたいだな。皆さん心は少年か?
『Q、この球技会中に消したい人物は?』
一位、伊達駆
二位、ダテカケル
三位、DATE KAKERU
……これはイジメですか? イジメだよね? ねぇ!?
『Q、この球技会で実は狙っているものは?』
一位、優勝の座!!
二位、伊達駆の命
三位、彼氏(彼女)が欲しい!!
:
:
二百五十七位、かーくん(一票)
……なんか、もういいや。
てか、彩さんは生徒じゃないんだからアンケートに答えないでください。
僕は集計結果から僕に関係するものを消去しながら、お弁当を片付ける。
……え? さらっと改竄してるって?
HAHAHA! これは改竄じゃなくて、身の危険を未然に防いでるだけだよ。
「さてと、一仕事終わって暇だし、教室……いや、保健室……やっぱりここにいよ」
僕は『修正』を加えたデータをUSB式のメモリに保存してから、目を瞑って椅子の背もたれに体を委ねる。
……だって、教室には彩貴がいるし、保健室には彩さんがいるし……少し一人っきりで考えたいことがあるんだ。
――今朝、美空さんと約束した通り美海さんはしっかりと家に帰した。
しかし、今日二人は学校に来てない――
やっぱり一週間……いや、六日後まで顔合わせはできそうにない。
「伊達!! 飯食わせろ!!」
出来るなら説得して和解しようと思ったけど……無理か。
「……って、おーい聞いてるか?」
……命を奪った罪は、生きては償えないって事か。
それでも、僕は死ぬわけにはいかない……『約束』を守るために……
「おぃッ!! 大丈夫か!?」
ん?
なんかさっきから、思考の間に声が聞こえるんですが?
てか、誰だ?
僕は声の主を確認するため、瞑っていた目を開け…て…
「どうした? かなりツラそうな顔してるぞ」
目を開けた瞬間、僕の網膜に映ったのは……クリッとした大きな瞳にスッと筋の通った鼻、柔らかそうな唇は艶やかなピンク色をしていた。
健康な肌に、サラサラと輝くオレンジ色のショートヘアーが栄える。
多分、これは萩野先輩の顔。
へぇ、近くで見て分かったけど、先輩って意外に睫毛とかも手入れしてるんだなぁ……
イヤイヤイヤ!! ちょっと待てぇいッ!!
どう考えても顔が近すぎるだろ!!
睫毛まで見える距離ってヤバいって!! 鼻先が触れそうだよ!?
僕は咄嗟に前方の長机を蹴って、椅子ごと後ろに下がって先輩から離れる。
「……どうした? 目を開けたと思ったらいきなり机蹴ったりして」
「い、いや、その……あ、そうだ! 机を蹴らなきゃならない使命感が、僕を突き動かしたんですよ!!」
混乱して訳が分からない事を口走ってる気がするけど、先輩に見惚れてたなんて言うよりましだ!!
Sな先輩にそんなことバレたら……確実にイジり倒される。
「……まぁいいや。それより伊達、弁当食わせろ」
……ほっ、よかったぁ。
先輩にはバレてないみたいだ。
一安心、一安心♪
「お弁当はありませんよ」
「……へ?」
「さっき食べちゃいました」
僕はバレなかった事に浮かれながら、軽い口調で先輩に答えた。
その瞬間、先輩は俯いて……ッて殺気ィ!?
「伊達?」
「は、はい」
「陸上部入れ」
「イヤです」
「じゃあ……死ね!!」
「イャーーーーーーーーーーー!!」
先輩が襲い掛かって来る寸前に、僕は生命の危機を感じて椅子を身代わりにサイドステップで先輩の強襲を回避。
回避の勢いを殺さないように、僕は迷わず生徒会室に向かって走る。
そして追ってくる殺気を感じながら、タックルでドアをブチ破って外に逃げ出した。
→→→→→→現在→→→→→→→
ハハハッ……回想してる間に追い詰められてしまった。
「せ、先輩……ちょっとタイム」
「ふふふふふ……お姉さん、あんたの言ってる意味が分からないなぁ」
ヤバい……完全にサディスティックモードに入ってるよ。
スゴく綺麗な笑顔だけど、目が笑ってない。
僕は先輩と向かい合いながら後退りをする。
場所は……野外に設置された六畳ほどの体育用具室。
僕はその用具室に入り、内側から金具をいじくって鍵を掛け、なんとかこの場をやり過ごそうと考えた。
けど、相手は陸上部の部長……合鍵ぐらい持ってたっておかしくはない。
しかし、それに気付いた時には、時既に遅し。
鍵を解かれ、扉は開き、そこには先輩の姿があった。
そして今、一ヶ所しかない出入口を先輩に封じられて、まさに袋小路状態に陥っていた。
「さぁ、食べ物の怨み晴らしてくれる」
「イヤイヤ! 食べ物の怨みって、元々お弁当は僕の物だから」
「伊達の弁当は私の弁当! 私の弁当は私の弁当!」
「先輩はいつからジャイ〇ンになったんですか?」
そんな会話の間にも、先輩はジリジリと近づいてくる。
それに対して、僕は既に背中が一番奥の荷物棚に背中がついていて、もう逃げ場がない。
僕は制服のポケットに手を突っ込み、中に入った紐を握る。
……髪を縛るのさえ間に合えば、この場を逃げることが出来る。 『俺』になった瞬間、プレッシャーで動きを止めて、その隙に首筋に一発手刀を入れて意識を刈り取る……
……って、なにを考えてるんだ僕は。
先輩は『裏』に関係しない『表』の人。
その人に『僕』以外が干渉するなんて、許されることじゃない。
ふぅ……どうやら和倉さん達の件は、予想以上に僕の心を揺さ振っているらしい。
「……先輩」
「どうした? 何か残したい言葉でもあったのか?」
「参りました。降参します」
僕は両手を上げて、降参のポーズを取る。
もちろん、ポケットに入れてた手に黒皮の紐は握ってない。
「どうした、いきなり。さっきまで逃げてたのに……気持ち悪い」
「気持ち悪いって何ですか……この通り、僕は袋のネズミ。逃げることなんて無理です」
僕は上げた両手を下ろしながら手首を合わせて、手錠をつけられたような動きで降参を示し、先輩に近づく。
先輩も僕に抵抗の意志がないことが分かったのか、ため息を吐きながら僕の左手だけを右手を掴む。
「抵抗は逃げるだけかい? ヘタレだねぇ」
「ハイハイ……ヘタレで結構です。とっとと煮るなり焼くなり好きにしてください。……でも、痛いのは嫌いなんで、優しくしてくださいね」
僕は口角を無理矢理上げながら自虐的に笑う。
僕の顔を見た先輩は、嫌そうな顔したと思ったら、何か考え込んだのち……なにやら怪しい笑顔を浮かべた。
「なんか、気に入らないねぇ……伊達がそう言うなら、アタシの好きにさせてもらうよ」
そう言ってから、先輩は空いた左手を振り上げる。
まぁ、二、三発〜四、五十発殴られるぐらいは甘んじて受けるか……
僕は覚悟を決め、これから来るだろう痛みに備えてゆっくりと目を瞑った。
ポンッ
…………へ?
なんか、頭に優しく何かが当たってるんですけど……
目を開けると、その何かが先輩の右手っていうのが分かった。
「お姉さん走るのは得意だけど、殴ったりするのは苦手なんだよねぇ〜」
先輩は相変わらず怪しい笑顔を浮かべてるけど……なんだろう、心が暖まる優しさがその笑顔から滲み出ていた。
「だからさ、アタシは考えたのよ。伊達、あんた明後日暇かい?」
……なんで僕の明後日の予定を聞く?
でもまぁ、明後日は土曜日だから休みだし、予定はないはずだ。
「はい、確かに暇ですけど……」
「よし! じゃあ決まりだ!!」
僕の答えを聞いた先輩は、僕の頭をクシャクシャと少し乱暴に撫でてくる。
「伊達、明後日アタシとデートしな! それで今日の事はチャラにしてあげるから。ちなみに拒否権はナシな♪」
……成る程、だから明後日の予定を聞いてきたのかぁ。
よかった〜、デートなら痛い事は無いだろうからね。
……ん?
デート?
Dayと?
イヤ、デート?
ハハハハハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!?!?!!?
‐遠呂智のハッキング予告日まで、あと六日‐
『死にたくても死ねない!?』の方が一段落するしたら本格的に始動しますんで、ちょっと……いや、結構待っててください