Flight16‐嘘吐きは知っている
敬語で描写を書く……これほど大変だとは思いませんでした(トホホ
ここで、『僕』でも『俺』でもはない、『私』の特徴を蛇足ながら紹介させて頂きましょう。
最初に言わせて頂きますが、私は虚であり偽りであり嘘でございます。
私は虚飾を纏った土人形。
私の述べる言葉は、虚実で無意味な音の羅列。
表の反対は裏
本当の反対は嘘。
充実の反対は空虚。
信用の反対は疑念。
実勢の反対は虚勢。
真実の反対は虚実……
突然ですが、ここで貴方に簡単な質問をさせていただきます。
貴方の前には、一枚のトランプが置かれています。
描かれているのは、『表』のスペードのA。
私がそのカードを裏返します。
するとカードは裏側になり、そのカードの種類は分からなくなりました。
貴方の前には一枚のトランプが置かれています。
描かれているのは、『裏』の全カード共通模様。
次に私がこのカードを裏返した時……貴方はどのような絵柄のを見ると思いますか?
「お前はッ!!」
私の目の前には、苦虫を潰したような顔をして私を睨みつける方が一人。
名前は和倉美空様となっておりますが、正確な漢字は倭玖羅美空様と、私は認識しております。
倭国の影人……古くは大和政権の頃に設立された、日本裏歴史上最古の忍一族。
伊賀忍者、甲賀忍者の発祥とも言われるその一族は、日本の歴史を大きく左右していたと、私の友人の情報通に聞きました。
「お前とは失礼ですね。それよりも、私の家にご訪問されるのは構いませんが、時間帯と所持物を考えて頂けないでしょうか?」
「なぜお前がここにいる!?」
「また、無視でございますか……ここは私の家ですから、ここにいるのは当然かと」
……嘘。
確かに、この家は私の両親の残した遺産であり、思い出や愛着が存在します。
しかしながら、私はここにいる理由としては、取るに足らないものでございます。
「そんなことはどうだっていい! 姉はどうしたッ!!」
「必要ないなら聞かないで頂きたいですね……確かに、美海様はこちらにいらっしゃいました」
私の言葉に口を歪め、眉間に皺を寄せ反応する美空様。
次の言葉で、そのお顔はさらに歪むのでしょうか?
「美海様は……殺しましたよ。貴方のご両親同様に」
……相当歪むと思われた美空様のお顔は、私の言葉が終わる前に視界から消えてしまいました。
そして、聴覚が集音致しましたのは、地面を蹴る音と地面を滑る音でございます。
その二つから考えられるのは……非常に簡単なことでございますね。
「……美空様、言ったはずです。私は虚像。そのような感情に流された行動はいかがなものかと」
これは推測でございますが、私の言葉に憤怒した美空様は、私を殺そうと斬りかかった……きっとそのようなところでございましょう。
しかしながら、美空様の目の前にいる私は虚像。美空様の一閃は私をすり抜けるだけでございます。
「貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様ァァァァァァァァァアアアアアアッ!!」
怒濤と憎悪の叫びが、深夜の静寂を引き裂く。
……予想より精神状態が崩れてしまったようです。
ここは一つ、真実を申し上げ落ち着いて頂きましょう。
「……嘘でございます。美海様は食事も取られて、現在は一室で睡眠を取られております」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇええッ!!!」
「怪我一つ追わせておりませんのでご安心下さい」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッ!!」
私がいくら説明いたしましても、美空様の暴走が止まることはありません。
あまり気が進みませんが……仕方ありませんね。
私は目を閉じ、精神統一を行います。
「……Cognosce te ipsum……」
私は言葉を吐く。
その言葉には本当の意味は存在せず、ただの空虚。
「……汝、自らを知れ」
その言葉は人を揺さ振る。
その言葉は人の人生を変える。
その言葉は人を……殺す。
「……“和倉美空。貴方は直ちに沈黙し、地に平伏します”」
「くッ!?」
私の言葉通りに、美空様は叫びと動きを止め、私の虚像の前で頭を地につけます。
最初に申し上げますが、これはギ〇スではありません。
まず、魔女と契約もしておりませんし、一人に一度しか使用できない制限もございません。
要は、混乱等で不安定になった心に直接語り掛け、その言葉が絶対的に正しいと認識させる……それだけの事でございます。
「“私が許可するまで、貴方は一歩たりとも動きません。一言たりとも話しません。その間、貴方は私の言葉を聞き入ります”」
私の言葉に拘束力も強制力もございません。
しかし、美空様は動く事も話す事も出来ません……いえ、動く事も話す事もしないのです。
それが嘘偽りであっても、美空様にとって『絶対的』に正しいのですから。
「……ようやくお静かになられましたね。これから話す三つの事は貴方にとって、きっと有意義な事でございます」
目の前の美空様は一歩たりとも動かず、一言も話しません。
土下座の状態で、しっかりと私の話をお聞き頂けます。
「まず一つ、美海様は私が誠意を持ってお持て成し致します。お食事も美海様の『体質』を考えておりますので、安心してください」
……白変種。
それは、突然変異により体毛等が白い個体の事でございます。
白変種はメラニン色素の遺伝情報欠損による白化とは異なり、メラニンは生成されておりますので、紫外線耐性や遮光性は正常に働いております。
さらに、倭国の影人は一族の秘術を守る為に、近親者での婚姻を長くに渡って行っているそうでございます。
……説明が諄くなりました、申し訳ありません。
簡潔に申しますと、美海様は近親姦によって偶然生まれた人間の白変種なのでございます。
「次に二つ、この家には探知妨害装置搭載の監視カメラを設置しております。深夜や留守時に起動しておりますので、その映像に映りたくないのでしたら、是非とも私が在宅中にご訪問ください」
美空様は忍の者、映像等の存在が残ることは極力避けるはずでございます。
これで、無防備時の侵入を避けると思われます。
「最後に一つ……もし、貴女が私に復讐したいのでしたら、私は一週間後の7:00'00"00から8:00'00"00に四谷の中央サーバーにハッキングをかけます。その時に私のハッキングを止めることが出来れば、私の命を差し上げましょう。『黒剣』の和倉美空様?」
言い忘れておりましたが、美海様と美空様は『私達』の後釜として、四谷に雇われているそうです。
『白盾』と『黒剣』……名前だけ聞いておりましたが……悲しいものです。
……おっと。少々、時間を取りすぎましたね。
「さて、私が話す事はこれがすべてでございます。質問はございますか? “開口を許可いたします。貴方は頭を上げます”」
「くッ!?」
私が許可した瞬間、憎悪に満ち溢れた表情で私を睨みつけてきます。
仕方ありません、私は彼女達のご両親を殺した張本人の一人……いいえ、二人なのですから。
「……ここは一旦引く。決着は一週間後、必ずつける」
「はい、私は嘘つきですが約束は守らせていただきます」
美空様も落ち着いたのか、この場で一番賢いと思われる選択を致しました。
それに賢さに誠意を持って、私も美空様に許可を……
「貴様…」
「はい、なんでございましょう?」
「もし、明日姉が帰ってこなかった時は……」
美空様の目から放たれる殺意。
体を動かす許可をしておりませんのに、今にも飛び掛かりそうなプレッシャー。
モニター越しからでも、その恐ろしさが伝わってまいります。
「……私が貴様を切り裂く。腕がもげれば貴様の頭蓋を蹴り砕く。足が削がれれば貴様の喉笛を噛み切る。たとえ私を殺しても、貴様を呪い殺す……それを忘れるな」
「承知いたしました。肝に命じておきます……“倭玖羅美空。貴方の全行動を許可する”」
……私は私を殺す可能性を生かしました。
タイムリミットはあと一週間。