Flight15‐深紅の虚像
スミマセン!! 小説編集をしていたら15話が消えてしまいました(汗 原文が残っていたので再投稿します!
暗闇を携える大地……
闇夜に染まる空間……
暗黒が満ちる天空……
「赤外線センサー……監視カメラ……やはり、なにも反応がない」
私が姉の所在地……黒猫の屋敷に到着して、すでに数十分が経過した。
その数十分の間に、私はこの家の敷地に存在している赤外線センサーや監視カメラ等の侵入探知装置、地雷等の爆発物の位置を調べていた。
手に納まる程度の簡易探査機を使用しているが、機能的には全くといって問題ない。
しかし、この家の庭からは地雷どころか監視カメラさえ見つからない。
「……まさか、罠が一つもない?」
仮にも、この家の住民は『四谷最強』と語られる黒猫の住み家。
なかなか表舞台には姿を現さない黒猫だとしても、なにかしらの防衛手段を持っていていいはず。 しかし、目視でも探知装置でもそれらしいものが一つも確認できない。
「クソッ……」
確かに、見た目や機器では全くといって問題はない。
しかし、感じるのだ。
この屋敷全体から、私を死へ誘うような禍々(まがまが)しい雰囲気を……
「……仕方ない、鬼が出るか邪が出るか」
……安全かつ正確に事を進めたかったが、これ以上時間を浪費すると姉の身に危険が及ぶ可能性が上がるばかりだ。
「しかし、なにが出ようとも邪魔をするなら……容赦なく消す」
私は常備している使い慣れたクナイを逆手に握り締め、得体の知れない屋敷へと足を踏み入れた。
―――――――――――――――
「伊達さん……おやふみなさぃ」
「はい、おやすみなさい」
台所に座っていた僕に、眠そうに挨拶をした矢沢くんは、彼の寝室である一階の一室へと入っていった。
てか、猫模様の大きめな水色パジャマって……男の子とは思えない程可愛いな。
「ふぅ〜、家計簿もつけ終わったし……」
矢沢くんは寝たし、美海さんも方もさっき様子見に行ったら、幸せそうな顔で寝ていた。
安心できなくて眠れなくなるんじゃないのかと思ってたけど、あの様子なら大丈夫そうだ。
これでこの家で起きているのは僕一人になっ……
「……いや、お客さんが来たみたいだ」
自分自身に語り掛けるように独り言をぼやきながら、僕は家計簿を閉じて、ゆっくりと背伸びをする。
十分に体を伸ばした後、僕は机に置いてある、アルミ製の真っ赤なメガネケースを手に取る。
「これ使うのも久しぶりだなぁ」
そのケース手に取ってまじまじと見ると、真っ赤というより……まるで鮮血が塗りつけられてるような深紅色をしている。
そしてケースを開けると、小さな小箱とフルフレームのメガネが入っていた。
そのメガネのフレームは、ケースと同じ深紅色をしてる。
「これをつけたら……僕は世界の癌になる」
そう、これをつけたら『僕』は『私』になる。
そして、四谷財閥がネット社会での高地位を得た最大要因でありながら、史上最悪と呼ばれた私に……
―――――――――――――――
私は黒猫の敷地に侵入してから、細心の注意を払って屋敷の周辺を探索していた。
それは侵入口を探すと同時に、屋敷に仕組まれているかもしれない罠やセンサー等を探知するため。
しかし、未だにその類のものは一つも見当たらない。
「まさか、本当に罠が一つもないのか……?」
最初はあまりに無防備な様子に疑念を覚えたが、今は確信に近いものを感じる。
しかし、私の感じた雰囲気は気の迷いだったのか?
……いや、今はそんなことよりも目の前の事に集中しなければ。
屋敷内については矢沢から大体聞き出し、一度訪問したため大まかな構造は知っている。
二階は黒猫の寝室のため侵入不可、一階裏口は周辺の一室が矢沢の寝室のため同様に侵入不可。
その他の問題要因も考慮すると、結果的に侵入可能な入り口が一つになる。
「しかし、玄関から侵入とは……」
すでに、私は唯一の侵入口の前に立っていた。
侵入とは正々堂々としたものではなく、玄関から入ることなどまずないため、かなりの抵抗がある。
けれども、目の前の入り口こそが一番危険度の低い侵入口なのだから仕方ない。
「姉……どうか無事でいてくれ」
姉の無事を願ってから、私は意を決して入り口の扉に手を掛け……
「美空様、ご訪問有難うございます」
……このッ!
目の前の扉に集中するあまりに、何者かに後ろを取られた。
音も気配もなく背後に迫るなんて……同職の人間か?
だとすれば、迂闊に動けば私の命はない。
しかも、後ろからかけられたその者は、私の名前まで知っている。
……いったい誰?
「どういたしました? 早く入ればよろしいのでは?」
背後からかけられた声は、丁寧な口調でありながらも、まるで人を馬鹿にするような言葉の羅列。
……いや、挑発に乗ってはダメ。
口調からして黒猫ではない。
黒猫でなければ、そこまで恐れる必要はない。
冷静になれ……
「どうなされました? ……倭国の影人、倭玖羅美空様」
冷静になれ冷静になれ冷静になれ冷静になれ冷静になれ冷静になれ冷静になれ冷静になれ冷静になれ冷静になれ冷静になれ冷静になれッ!!
なぜ『裏』の私を知っている!?
どこの暗殺部隊!? それとも復讐者か!?
「? もしかして、お名前を間違えてしまいましたか?」
「……貴様、何者?」
「質問の答えになっておりませんね……ですが、ご本人という確証はありましたから構いません」
私が『倭玖羅美空』と知って、その背後を取ったということは……私を殺しに来たのか?
こんな所で死ぬわけにはいかない……こうなったなら、一か八かの賭けに出る。
「それにしても、今日は闇夜が深い。明日は新月ですから、更に暗くなるのでございましょうか?」
相手は話術で私の精神を追い詰めようとしている。
それは暗部としても復讐者としても、武術や体術の実力が乏しい一部の者が使用する一種の常套手段。
しかし、話術は話し掛けている途中で対象が予想外な方向に動けば、一瞬の隙が生まれやすい。
……その隙を突く!
「……無視でございますか。名も知らぬ私には掛ける言葉もないということでございますね。……仕方ありません。余計な事と思いますが、名乗らせて頂きましょう」
私はクナイを握り締める。
どの方向に動く?
右? 左? 前?
……いや、どの方向へ跳んでも逃げ切れるなんて思えない。
なら、私の動きはただ一つ……
「最初に言わせて頂きますが、私は『偽り』です。名乗る名前も偽名ですので御了承ください」
……今しかないッ!
片足でバックステップ。
さらに空中に跳んだ後、もう片方の踵で地面を蹴る。
蹴りの勢いで体に横回転が加わり、私は真後ろを向く。
同時に視界の正面に映る人影。
その影の中心……心臓部を瞬時に判断。
その一点をクナイで突く……!?
「なっ!?」
私の狙いは正確だった。
目標も全く動いていない。
私のクナイは確実に、影の心臓部を貫いた。
しかし、私の手には肉塊を抉る手応えはなく、飛び散る鮮血も見えなかった。
……そう、私はその影を『通り抜けた』のだ。
「……言い忘れておりました。今、貴方の目の前に存在している私は立体映像。つまり虚像ですので、無駄な警戒は不要でございます」
私は着地した瞬間、勢いで前のめりになった態勢を戻し、急いで影の方向へと振り返る。
振り返った私の視界に入ってきたのは……く、黒猫?
「貴方は私の姿を見たことがあるでしょう。しかし、今の私は貴方の知っている『伊達駆』とも『新井月朔夜』とも異なります」
影がこちらに振り返る。
その姿はじっくりみて、どこからどう見てもこの屋敷の主。
しかし、その人は見たことのないメガネをかけている。
そして、メガネの奥に光る瞳は……薔薇のような深紅。
「私の名前は『三十日八雲』。別名『深紅大蛇』や『World Server Breaker』、『鬼灯の瞳』と呼ばれております」
その目は、私が捜し求めていた人物。
そして……
「ですか、私個人としては『晦月の遠呂智』の別名がお気に入りでございますね」
……こいつこそ、私が命を賭けて復讐しなければならない史上最悪な人物だった。