Flight14‐殺意の黒、羞恥の白
今回は短いです(汗
「はぁ……はぁ……はぁ……」
私は夜闇に包まれた街中を走り抜ける。
すれ違う人は少なく、遅く散り始めた夜桜の香りが、私の頬を撫でる。
私は足を止めずに、手に持ったの携帯電話型小型端末を開く。
その画面にはこの周辺の地図が表示されている。
そして、その地図上では青い矢印が移動しており、停止している赤い点が点滅していた。
「まったく……困った姉だ」
姉は定時になっても帰ってこず、連絡にさえ応答しないため、私は姉の携帯電話に仕込んだGPSを頼りに捜索した。
通常ならば、急ぐことなくその場に向かい、姉を連れて帰るだけだ。
しかし、姉の現在地が問題だった。
「……着いた」
手の平の画面では、青い矢印の先端が赤い点に重なっていた。
そして、私の目の前には純和風の家屋があった。
そこは、一度来訪したことがある……しかし、現時点で侵入厳重注意とされる場所。
「黒猫……どうするべきか」
私の目の前には『伊達』と書かれた表札があった。
誘拐されたのか自ら侵入したのか……この際気にすることではない。
姉に何かあった場合……
「……命、貰い受けるぞ」
私は自分の中に殺気が渦巻くのを感じながら、手に持った端末をパチンと閉じた。
―――――――――――――――
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
布団の上で座ってる私の目の前に、センパイは麻婆丼を出してきました。
小降りの器には、一粒一粒がつやつやしてて、綺麗に立ってる白米が盛られています。
そして、その上には白い湯気が立ち上る、お店で出てきそうな麻婆豆腐が乗ってて……美味しそうな匂いを漂わせてるです。
「……麻婆豆腐、嫌いだった?」
「違うです! け、けど……」
これが普通なら私は飛びつきます。
けど、私は一度センパイを殺そうとしました。
そのお返しに毒が入ってるかもしれな……
「まったく……食べないんなら僕が食べるよ?」
「えっ!?」
そう言ってため息を吐いたセンパイは、私の目の前に置かれた麻婆丼を取り上げました。
「いただきますッと♪」
「あぁ……」
センパイは私の目の前で、麻婆丼をレンゲですくって食べました。
その姿を見てるだけで、口の中からよだれが湧き出て……
ぐぅ〜〜〜〜
……私の体から正直な音が出ちゃいました。
とっても恥ずかしくなって、私は俯いて顔を隠します。
「……まったく、正直に食べたらいいのに」
私を追い詰めるセンパイの声は、少し笑ってます。
センパイの言う通りです。
センパイを信用して食べてれば、こんな恥ずかしいことにならなかったかもです……
「じゃあ、ここに置いていくから食べたくなったら食べなよ」
私に笑い気味の声をかけて、センパイは部屋から出ていきました。
「センパイ……意地悪です」
部屋には美海一人だけなので、ついつい本音がこぼれます。
私が迷ってる間に食べるなんて……鬼畜です! 下道です!
「こうなったら……心置きなく食べてやるです!!」
私は素早く麻婆丼とレンゲを取り、急いですくって一口食べます。
「………………」
ビックリです。
あまりの驚きに、言葉が見つかりません。
驚きすぎて、私は次の一口を運ぶこともしないでいました。
美味しさにもビックリしましたけど、センパイの料理を口にした瞬間に……分かったんです。
センパイが私の目の前で食べたのは『意地悪』じゃなくて、毒が入ってないことを『証明』するためだったんです。
だって、さっきセンパイが一口食べたから、この麻婆丼に毒が入ってないことが分かったんです。
……私の考えを完全に読んでいても、センパイはなにも言わずに私を受け入れてくれてる。
「……センパイ、なんでそんなに優しいんですか?」
たった一口の料理で、私の心は充実感と罪悪感に満たされてしまったです。
センパイの溢れるほど優しさに満たされるです。
センパイを疑うしかない私がイヤになるです。
「本当に……優しすぎです……センパ……ィ……?」
私の目に熱いものが込み上げてきた時…………気づいてしまいました。
私が今、口にしているレンゲは……さっきセンパイが使ってました。
つつつッ、つまり……わわ私はせせせセンパイと……
「間接キスゥ!?!?!?」
ヤバいですヤバいですッ!!
しかも、レンゲだからセンパイの口の中にとっぷり入ってたです!!
今思えば、センパイの唾液でレンゲが濡れていた気が……って、なに思ってるですか私!!
これじゃ間接キスよりも……あの……あぅ……そのっ!
「……はぅぅ〜」
顔を真っ赤に染めてる思われる私は、目の前のレンゲをただただ見ることしか出来ませんでした。
センパイのバカ…………はぅ……