Flight11‐波乱の日常、襲撃者を喰らう闇
前回、僕は彩貴の武力に負けて、『用事がなきゃ授業を受けること』を約束する不平等条約を結ばされた。
それに、担任(田口さん♂‐国語辞典標準装備)のふざけたアイディアで、新学期早々くじ引きで席替えをすることになり、最近絶不調の僕のクジ運が、窓際の一番後ろ…そして『彩貴の隣』という玉砕戦線圏内を引いてくれやがった。
…まぁ、一年前は普通に授業を受けてたわけだし、蜂の巣になるよりマシだと思った……んだけど。
「つ、疲れたぁ〜」
で、現在は久しぶりの授業をすべて終えた放課後の教室で、一人グダ〜ってしていた。
…いや、本当は心身ボロボロでグッタリしてるんだけどね。
はっきり言って、こんな日々が続いたら…死ぬ。
←←←←←←回想←←←←←←←
※今回の回想は描写なし、音声のみでお楽しみください♪
一時間目‐化学
「はい、今日の実験は硫酸を使うため、十分注意してください」
「…なに見てんのよ」
「いや、授業真面目に受けてるなぁって思った」
「当たり前じゃない。生徒会長の私が不真面目に授業するわけないじゃない」
「……去年まで校内で銃乱射してる奴が言うセリフじゃないよ」
「う、うっさい!! 死ね!!」
「いや、死ねって……ちょっとまて、それは硫酸じゃ…」
「問答無用!!」
「ギャァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!」
二時間目‐国語
「ZZZ…」
「こら伊達ッ!! 授業中寝てんじゃない!」
「グヒャ!? …出た! 田口さん必殺『広辞苑の[大当たり]の次の項目は[大穴]チョップ』……ゴブッ!?」
「ふざけてるんじゃないよッ! それと『さん』じゃなくて『先生』だろうが!!」
三、四時間目‐家庭科
「今日は、班でグラタンを作ってもらいます」
「…なに見てんのよ」
「いや、班まで一緒になるとは思わなかった」
「文句あるの?」
「そんなことはないけど………ホワイトソースが、焦げて茶色になってるのは気のせいか?」
「ッ! うっさいわね!! 文句言うんだったら自分でやりなさいよ!」
「こら!! 熱した鍋を投げるな……って、アチィィィィィイイイイイイイイイ!?」
昼休み
「「「伊達ェ!! 死ねぇぇぇええええええ!!!」」」
「テメェらが死ね!! つうか、追っ掛けるのをやめて、俺に飯食わせろ!! むさっ苦しい野郎共が!!」
五時間目‐英会話
「………」
「………」
「………」
「………大丈夫?」
「大丈夫です。大丈夫ですけど……もう少し休ませてください」
「髪、縛ったまま、いいの?」
「本当は解いた方がいいですけど…面倒です」
「……意外にいいかも…ムギュゥ」
「おふっ!?」
五時間目‐体育
「「「「伊達ェ!! 死ねぇぇぇええええええ!!!」」」」
「またかッ!! てか魔王! テメェは教師なんだから、ちゃんと授業しろ!!」
「今日は女子がテニス、男子は現実的鬼ごっこだ! ルール変更は目標を、全国の佐藤からこのクラスの伊達にする! 文句あるか!」
「文句ありすぎだ!! このクラスに伊達って名字は俺以外いねぇよ!!」
「だからこそだ!! ほら行くぞ、野郎共!!」
「「「オォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!」」」
六時間目‐数学
「…もう……ダメ……」
→→→→→回想終了→→→→→→
…なんか、まともに授業を受けてる気がしないんだけど…気のせいじゃないよね。
あと、大体の人が分かってると思うけど、僕は逃げるために黒猫まで使った。
気配を消して隠れるためとはいえ、基本的に緊急事態にしか使わないようにしてたんだけど……まぁ、いいか。
「……取り合えず帰ろ」
こんな所でグダグダしてても仕方ない。
早く帰って夕飯の用意をしなきゃ。
僕は、髪を縛ったまま沈み始めた真っ赤な夕日が射し込む教室をあとに……
「伊達センパイ見ーつけた♪ こんな所にいたです」
なぜか僕が教室から出た瞬間、ドアの影から一人の少女が表れる。
夕焼けに赤く染まる真っ白な髪をしたツインテール少女は、愛くるしい笑顔でこっちを見ていた。
「えっと…和倉姉妹のお姉さんの方だから……美海さんだっけ? 矢沢君のクラスメートの」
「センパイ、美海の名前覚えていてくれたんですね! それも、私の方がお姉ちゃんって! 私、感激ですぅ!!」
「い、いやぁ、結構印象的だったからね」
白髪と黒髪の双子…まるでオセロみたいだから、名前も序列もちゃんと記憶されていた。
そのことが嬉しかったのか、少女は目の前でキャッキャッ喜んでる。
「で、なんのようかな? さっき『見ーつけた』って言ってたってことは、僕を探してたってことでしょ?」
「あ、そうです。喜びのあまり、目的を忘れるところだったです」
僕が指摘したところ、美海さんは少しごまかし笑いをしながら、右手を僕に向ける。
その手には鋭利に黒光りする鉄の固まり……
「な、なんのつもり…」
「動かないでくださいです。美海としても、今はセンパイを傷つけたくないですから」
美々さんが握ていた鉄…正確には全長十五センチはあるクナイが、僕の胸元に突きつけられていた。
僕は両手を頭の後ろに持っていき、降参の意志を伝える。
「さすがセンパイ。物分かりがいいです」
「そんな危険なもの持ってる後輩に、物分かりがいいと言われても嬉しくないよ」
「護身用です」
「クナイって護身よりも歴史的な武器でしょ。てか、人を脅してる時点で護身用じゃなくなってるのは僕の気のせいかな?」
「きっとそうです」
「……」
笑顔で僕の攻撃を弾き飛ばす美海さん。
…柔らかそうな見た目と違って、実は腹黒いのかもしれないな。
「じゃぁ、ちょっと時間をもらえるですか?」
「何時間ぐらい?」
「分からないです」
「分からないのか……じゃあ、今から帰って夕食の準備があるからムリ」
僕は問いに素で答える。
その答えに、美海さんの笑顔が少し引きつった気がする。
「……命と夕食、どっちが大事なんですぅ?」
「命は大切だけど、矢沢君も待たせちゃってるんだよね」
夕飯を作るのは僕の仕事だ。
矢沢君が家で待ってるのに、何時間掛かるか分からない寄り道してる暇はない。
しかし、その答えに美海さんの笑顔は消えた。
「…仕方ないです。少しだけ痛くするです」
ため息を吐いた美海さんは、クナイをゆっくりと僕の胸に近づける。
刺さったらただじゃすまないけど、逃げたら背中にグサッてされる。
「『仕方ないかです』か……なら……」
仕方ない。だから、僕は自分のスイッチを切り換える。
それは『普段の僕』から『漆黒の俺』に…
「…俺がテメェになにしようと、仕方ねぇよな?」
暮れかかってた日は沈み、世界に闇が訪れた。
―――――――――――――――
いきなり、センパイの雰囲気が変わった。
優しそうだった瞳が、刃物のように鋭い金色の輝きを放っているです。
これが黒猫…一度見たけど、かなり怖いです。
…けど、この人をなんとかしないと私は…
「…すいませんです」
私は目を閉じて、手に持ったクナイでセンパイの胸に突き刺す。
命の容赦なんてなくて、完全に殺すつもりで。
そして刃先がセンパイに……
「……なにしてんだ?」
「エッ!?」
突き刺さるはずだったクナイは空振りして、背後からセンパイの声がしました。
急いで目を開くと、目の前にセンパイの姿はないです。
そして、目に映るのは闇、闇、闇。
さっきまで学校の廊下いたはずなのに、前後左右を見回しても、私の周りには先の見えない闇しかいないです。
「なっ、なんですかこれは?」
「…白チビ、すまねぇがソッコーで終らす」
暗闇からセンパイの声が反響するように聞こえ……
「食い尽くせ…黒夜」
一瞬で空気が冷たくなって、全身が硬直する。
それと同時に、体の中は焼けつくように熱くて、体が溶けそう。
外は極寒、中は灼熱。
まさに地獄のあまりの苦しみに、意識が遠退きそう。
いや、意識が遠退くんじゃない…喰われる。
「…あ……ィヤ……ヤめッ…イャァアアアアアア!!」
私…の意…シ…キは……や…ミに…クわ…れ……
―――――――――――――――
絶叫した美海さんは、意識を失って床に倒れこんだ。
静まり返った廊下に、クナイが落ちる甲高い音が響き渡る。
てか…
「…ちょっと、やりすぎたかな?」
「やりすぎだな。今日は部活もなく、周囲に他者がいなかったのが幸いだったな」
僕の独り言に、背後から答えが返ってきた。
振り返ると、そこには眼鏡をかけた仏頂面で僕を見ている玲がいた。
「玲か…何でこんな時間にこんな所に?」
「それはこちらのセリフだ。俺は身辺調査の資料を整理していた所、経験のある悪寒を感じてここに来た」
「あぁ、久しぶりに本気出しちゃったからね」
さっき使ったのは…黒猫状態の奥義・黒夜。
自分の気配を凝縮、そして爆発させて強烈なプレッシャーを周囲に撒き散らす技。
特に、直接触れている相手に対しては、闇に堕ちるような感覚が襲い掛かる。
まぁ、バカみたいに体力を使うため、普通は使わないようにしてるけどね。
「黒夜か……それほど和倉姉の精神は強かったのか?」
「いや、それを知るためにやったんだけど……十秒だった」
「十秒か……ある程度の訓練は行っているらしいな」
僕らは顔を見合わせた後、倒れている美海さんを見る。
黒夜は奥義と言われるだけあり、一般人なら三秒で意識が飛び、プロボクサーでも七秒で白目をむく。
それを十秒も耐えたなんて……常人でないのは確かだ。
「で、どうする? 拷問して素性を吐かせるか。それともここで存在を消すか? まぁ、お前の事だから…」
「取り合えず家に連れていこうか」
「……やはりな」
だって、このまま置いていっても可哀想だし、彩さんは帰るの早いから保健室も開いてない。
もちろん、玲の言ってることなんて論外だ。
「…もう、俺はお前にはなにも言わない。…お人好しすぎなけれれば駆ではないからな」
「それは褒められてるのか? けなされてるのか?」
「これでも褒めているぞ」
玲と会話しながらも、僕はクナイを回収して、美海さんを背中に背負う。
……一瞬、彩さんの背負った時の感覚と比べてしまったことは、脳内のマシンガンで蜂の巣にした。
「んじゃ、僕は帰るから。玲も早く帰りなよ?」
「俺はもう少し仕事がある……しかし、早く仕事を終わらせ帰るとする」
「うん、じゃぁ、また明日」
僕は玲に別れを言ってから、ゆっくりと昇降口へ歩きだした。
背中で寝息を立て始めた少女が起きないように…ゆっくりと、ゆっくりと。
前にも言ったことがあるのですが、今作は前作と書き方を大きく変えました。 それに関して読者方の意見を聞きたいと思っています。 これからの作風に関わってきますので、ぜひともお願いします。