第17話 一難去ってまた一難。
長らくお待たせしまして申し訳ありませんでした。
タイラントデスストーカーが自称地上最強の生物、オリオンを
斃したことにより、オリオンのスキル【邪眼(魅了)】EXで
虜になっていた女性たちは元の状態に戻った……否、自分たちを
邪眼で虜にして弄んだオリオンに大きな負の感情を抱いていた。
どうやら、魅了されていたときの記憶はそのまま残っているようだ。
アポロンと同じ太陽神ヘリオスの妹であるエオスはオリオンとの
逢瀬で夜明けを告げる仕事をサボっていたことを関係各所にヘリオス同伴で
誠心誠意、謝罪して周って許された。
アタランテに関してはどうも恋という自覚がなく、花より団子、
色気よりも食い気で好物の林檎を今日も食べているとか。
余談だが、オリオンとアルテミスの合流を妨害するために足止め
のために用意した黄金の林檎の味が忘れられないらしい。
そして、肝心のアルテミスはオリオンの死に悲嘆にくれることもなく、
オリオンが兄であるアポロンに対してとっていた言動に憤り、
邪眼で魅了されていたとはいえ、アポロンに対してとってしまった
行動の数々を深く反省し、アポロンに謝って、2人の関係は修復された。
「アルテミス様の快癒を祝って、乾杯!!」
月の女神の神子、アタランテの音頭で宴が開かれた。
場所はアルテミス大神殿。参加者はアルテミス神域の住民と
アポロン神域に亡命して戻ってきた人々、タイラントデスストーカー
を退治した俺達だ。
亡命した人達と残っていた民の間に溝はない。亡命した人達の多くが、
アルテミスとアタランテに諫言をしたが、聞き入れてもらえず、
命の危険があったため、やむを得ずといった事情の人達ばかりであった。
幸いにも死人はでなかったが、その理由というのが、
「やあ、シオン。元気そうだね」
長く伸ばした深緑の髪を後ろで簡単にまとめて、爽やかな笑顔を浮かべたイケメン。
彼が半人半馬のケンタウロス族であることは下半身が馬の胴体である
ことから、分かる。彼の名はケイロン。
前大神クロノスと精霊であるピリュラーの息子でアポロンから医学と
音楽、予言の力。アルテミスからは狩猟技術を学んだ人物でヘラクレスなど
多くの英雄の教鞭と執った。いわば英雄の家庭教師である。
彼が半人(正しくは半神)半馬なのはクロノスが馬の姿で母である
ピリュラーと交わって、身籠らせた子であるからと言われている。
ケンタウロス族は好色野蛮で粗暴な者が多いが、ケイロンは例外で、
洞窟で薬草を育てながら、病人を助けて暮らしている知恵者だ。
容姿も馬に変身前の父と母の姿に似て美男子であり、アポロンに師事して、
医学に精通している完璧超人である。だが、下半身は馬だ。
ゲームのZFOでは錬金術師の重要人物として登場している。
つまり、
「お久しぶりです。師匠」
俺の錬金術の師匠だ。だが、下半身は馬だ。
「もしかして、シオンは性転換の薬を飲んだ。いや、飲まされたのかな?」
「ええ、ってもしかして、薬を提供したのって……」
「ああ、うん。断れない依頼で『性転換の薬』を頼まれてね。
解除薬も用意できているから、渡してもいいんだけれども……」
ケイロン師匠がそういいかけたとき、
「「「それを渡すなんて、とんでもない!!!」」」
イリア、ケレシス、アポロンが突然揃って現れ、ハモって大声を上げて
ケイロン師匠の行動を制止した。
「……当然、理由は聴かせてもらえるんだろうな?」
俺はいい加減もとの男の姿に戻りたいので頭に血が上り始めている。
「まず、兄さんはアテナ様の神託でアテナ様を”憑依”して
アポロン神域の対アレス神域戦線に加勢しなければなりませんよね?」
「う、でも、それは1度”憑依”に成功しているから、男に戻っても
”憑依”に問題ないのではないか?」
「そうかもしれませんが、そうでないかもしれません。
この場合、極力不安要素は排除すべきです。
よって、現状維持の女性の体で今しばらく我慢してください」
むむ……そう言われればたしかにそうかもしれない。
はっ! イリアの口車に乗せられるところだった。
「だったら、一度解除薬で完全に男に戻って、”憑依”を試して、
できなければまた女体化すればいいのではないか?」
俺は男に戻ったら再び女になる気はないが反論した。
「うん、シオンの言いたいことは最もだね。できることなら、
私も助けてあげたいのだけれども、解除薬を服用するとその効果が1ヶ月は
体内に残留するから、再度、性転換の薬を飲んでも性別を変えることはできない。
解除薬飲んでしまうと、1ヵ月後にならないとできないんだよ」
ケイロン師匠が申し訳なさそうに薬の効能からイリアたちを擁護する。
「それと錬金術スキル保持しているしおんは気付いているかもしれないけれども、
その性転換の薬の素材はなかなかの稀少モノばかりだから、
再び集めるのはなかなか骨が折れるわよ?
ケイロンさん、今、性転換の薬の手持ち在庫ってあるかしら?」
「流石に、今手持ちでは材料も足りないからありませんよ」
ケレシスの問いに苦笑いでケイロン師匠が返した。
「うむ、そして、オレたちの企画に女の体のシオンが必要不可欠なのだ」
「ええと、その企画ってなんです?」
アポロンが口にした企画というのはケレシスが絡んでいるところから、
ロクでもない企画である不安が拭えないが、一応、訊いてみた。
「よくぞ訊いてくれました!
原案・作詞、同士イリア! 企画・演技指導、ワタシ、ケレシス!
作曲・編曲太陽神アポロンによる『ZFOアイドルプロジェクト(仮)』よ!!」
ケレシスが無駄にでかい胸を張って高らかにそう宣言した。
「な……なんでアイドル?」
「ワタシ気付いたの、このZFOの世界には音楽と歌、それらを組み合わせた
演劇という素晴らしい娯楽があるのだけれど、歌って、踊れるA○B48の様な
アイドルという存在がいないことに!」
「いやいや、別にいなくても問題ないだろうに」
「そして、考えたわ。娯楽の少ないこの世界ではアイドルは戦いで
疲れた戦士たちの心を癒す至高の存在であると!?」
俺の呆れ声を無視してケレシスは勝手に盛り上がっていく。
「オレが作ったゲーム時代のこの世界の音楽の完成度が高く、好評だったのは
周知の事実!
お前達がこっちに来てくれたおかげで、今では更に音楽のジャンルも楽器も増加した!
形にしたい構想が溢れて止まらないぜ!! おお、オレの音楽を聴けぇえええ!」
アポロンもケレシスのテンションに同調して、どっかの熱気なBASARAの様な
台詞を吐いていた。
「プロデュースに関しては私とケレシスが担当しているから大丈夫ですよ?」
いや、それが一番の心配の種なのだがと口にしようとしたが、
「アイドル育成ゲーム『愛$マイスター』を隅々まで遊びつくした
同士イリアとワタシのコンビにお任せよ!」
再び胸を張ってケレシスがそう宣言する。
「俺はパs「しおんはセンター候補だから途中下車はできないわよ?」え? なんでだ?」
俺の辞退の言葉に被せてケレシスがとんでもないことを言ってきた。
「兄さん、専用の特注衣装は既に3着完成していますよ。
黒髪ロングですので『愛マス』の支部谷燐ちゃんのイメージが近いですから」
「そうそう、同士イリアと双子で髪の色が違うというのも大きな
アピィ~ルポイントだから、2人は同じ髪型で色違いのあわせ衣装でステージに
立ってもらうことになっているわ。
勿論、それとは別にしおんにはソロで歌ってもらう予定も組んでるから♪
あなた、カラオケでガン種の3期OP気に入って歌っていたじゃない。
他にもあなたが好きなのも歌ってもらうわよ?」
向こうの世界でZFOのオフ会でケレシスに半ば強制連行されたカラオケ屋で
熱唱した思い出したくない記憶が蘇った。
「無論、オレの作曲したのも歌ってもらうがな!」
アポロンはそこは譲れないと主張してきた。
「大丈夫ですよ、兄さん。私が付いていますから」
イリアに手を両手で包まれ、満面の笑みでそう宣言された俺は完全に退路を断たれて、
承諾するほかなかった。
3人で打ち合わせをするからとケレシス、イリア、アポロンの暴風の様な3名は
俺とケイロン師匠を置いて移動した。
「いやはや大変なことに巻き込まれているね。シオンは。
解除薬に関してはイリアに預けておくから」
「ええ……」
イケメンフェイスに苦笑いを浮かべつつ、そう言うケイロン師匠に
俺は他人事の様に同意するしかなかった。
「ああ、ここにいたのか、ケイロン先生。んん? お前、シオンか!?」
そこに筋骨隆々の鍛え抜かれた筋肉の肉体に獅子の皮を身に纏った
身長2m近くの男が肉料理を山の様に盛った皿を持って現れた。
「ああ、ヘラクレス。君も久しぶりだね」
そう、ケイロン師匠が言ったように目の前に現れた男は
俺の兄弟子に当たるギリシア神話の大英雄の1人、ヘラクレスだ。
大神ゼウスの地を引くだけあって顔のつくりは悪くない。
ヘラクレスの冒険はギリシア神話では特に有名であり、
それと同時に俺はケイロン師匠絡みで1つの予見していたイベントが始まり、
イベント終了までに如何に鬱展開を回避するべきか思考を巡らせた。
ご一読ありがとうございました。
第4章は当話で終了する予定でしたが、内容を1話で収束できなかったので、
もうしばらく第4章は続きます。




