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第16話 後始末という名の死闘

お待たせしました。今年最後の投稿です。

 漆黒の巨体をもつ大蠍が大きな2つの鋏みの届く距離にいて、

拘束しようと動かしている大鋏みを避け続けるヘンリー目掛けて、

尾の毒針を素早い動きで突き刺した。


 鋏みを避けることに集中していたため、毒針を避けきれずに、

それに気付いて驚愕の表情を浮かべるヘンリーの眉間に毒針が突き

刺さった瞬間、ヘンリーの体は形を失って、その場に水溜りを作っ

た。アンがヘンリーに施していた水魔法の【】だ。


「あっぶねぇ、お返しだこの野郎! 【強 撃(ストロング・ブレイク)】!!」


無傷のヘンリーは愛用の無銘の大剣を鋏みよりも大きい尾に向かって

反撃する……しかし、ギインッという金属同士が打ち合った際に

放つ音を立てて黒曜石を思わせる巨大な大蠍を覆っている甲殻に

阻まれてしまった。


「くうううッ! 堅えええぇ!」


「ヘンリー、堅い殻よりも動かすために薄くせざるをえない関節を

狙いなさい! 【夢想残月(むそうざんげつ)】!」


盾役のヘンリーの側にいる前衛攻撃役のイリアが手に持つお気に入りの

『聖剣』の1振りで大剣である『敵を砕くもの(グラムドリンク)』を時計の針の様に

動かして剣の残像で作り上げた月が浮かびあがると共に姿を消し、

忽然と現れたときにはタイラントデスストーカーの右の大鋏みの関節を

切り落としていた。


 そこから少し離れた所に俺とアン、クオルが中衛として敵に攻撃と

前衛の2人の補助をしている。


「全く、油断しすぎよヘンリー! 岩が砕けたとき飛び散る破片にも

注意しなさいよ。はい、これで大丈夫よ」


「へぶッ!? サンキュー、サラ!!」


更に後ろで後衛としてサラが前衛の2人に

回復役(ヒーラー)としてHP回復薬(ポーション)を文字通り投与していた。


 さて、どうして俺たちがオリオンを斃したこのでっかい黒蠍と戦う

ことになったかというと、単純にアポロンがタイラントデスストーカーを

送還する方法を全く準備していなかったからである。


 きちんと準備して連れて来いという話しではあるのだが、敵方でもある

魔物の産みの親、大地母神ガイアが絡んでいるので、この刺客は

元々オリンポスの神々が治める大地を混乱させるためにアポロンに

預けられた意図も考えられる。


 蠍は雌性産生単為生殖する種も僅かだがいて、1回で数多くの幼生を生み、

幼生は1週間から10日で成体に成るので単体だからなんとか対応できているが、

これが群れになるとしたら、流石に俺たちの手にあまるだろう。


 また、この世界のオリオンがガイアの息子であることもわかったので、

この計画はオリオンが生まれる前からたてられたものではないかと

疑ってしまう程ガイアは厄介な相手だ。

なんといっても旦那を息子に去勢させて失脚させているからな。


 また、今回片棒担がされたアポロンはオリオンと同じく弓矢しか

持っていなかったので【弓矢無効】のスキルをもつタイラントデス

ストーカー相手では力を十分に発揮できない依り代に憑依している

という状況も重なって今回は役に立たない。


 しかも、愛する自分の妹(アルテミス)の支配領域に意図しなかったとはいえ、

害獣を放ってしまったので激しく落ち込んでいた。


 とても戦闘の役に立つ状態ではないので、俺はタイラントデスストーカー

退治を乗りかかった船として引き受けて、早々に自分の治める神域に

お帰り願った。

 渋々ではあるが、アレスに攻められている自身が治める神域を長い間

代理で統括している神子が留守にするのも問題なので、大人しく帰っていった。


 ちなみにアポロンが張った結界はタイラントデスストーカーが

オリオンを喰らい尽くしたあとに消滅したので、念のため外側に

用意していた結界をすぐに起動して再び結界内に封じ込めた。


 結界の性質はアポロンの張ったものとほぼ同じで、外からの攻撃を

中には通さないが、今度の結界は入ることはできるけれども、結界の

外へ出ることができない代物だ。




 さて、事前に打ち合わせていたフォーメーションも問題なく機能して、

盾役のヘンリーにタゲを固定して抜群の物理攻撃力をもつイリアに

前衛で存分に聖剣を振るってもらって、クオルに中衛から2人の援護攻撃、

アンには無限の投げ槍と水の補助魔法で主にヘンリーの支援。


 サラはメインがイエーガーで武器が弓矢であったため、今回の

タイラントデスストーカーとの相性は最悪であるので、サブ職の

錬金術師を活用して回復補助役として配置した。


 俺は中衛で他のメンバーに指示を出し、戦闘を管制するとともに

時折、【シヴァ】を召聘(しょうはい)して【極小細雪氷晶(ダイヤモンドダスト)】の凍結効果で動作を

阻害している。

今回はステータス的に防御力が素でセイントより劣っていることと、

『ソロモンの聖衣(クロス)』を性転換の影響で装備できなくなっていたため、

中衛に下がるよう皆に懇願されてしまった。


 余談だが、今回はアリスに黄金刀ではなく、黄金扇に変化してもらった。

これが刀状態よりもステータス補助効果が高いのが分かったのは嬉しい誤算であった。


 さて、確かにタイラントデスストーカーは強いが、やはり実際に

戦ってみると、1対1で相手をするには荷が勝ち過ぎる相手だが、

しっかり構成して鍛えたパーティーで戦うと勝てる敵だ。


 無論、他に取り巻きの雑魚や集団でいないのが前提である。

ここで見逃して、増殖される前に確実に息の根を止めなくてはならない。

 逃がすとまず間違いなくすぐさま幼生を生み出すだろう。


 先制で俺が投げた投擲系罠アイテム『とりもち』はなんと、跳躍して避けられて

しまった。しかし、着地の硬直を狙ったサラの『とりもち』が動きを封じた。


 その好機を逃さずイリアとヘンリー、クオルは動けなくなっている

タイラントデスストーカーの脚を集中攻撃して破壊した。


 これで『とりもち』が効果を失ってもタイラントデスストーカーは

動けなくなったので、次は武器である大きな鋏みと特に尾の毒針を

狙って集中攻撃する指示をだした。


 そして、さっき、尾の毒針よりも先にイリアが鋏みを1つ

斬り落としたのだ。状況から敵の攻めてを1つ潰してから本命の

毒針をもつ尾を攻撃したほうがいいという判断なのだろう。


 【看 破(リード)】でタイラントデスストーカーのHPを頃合いを見て、

調べるが、順調に削れている……しかし、次の瞬間、全体の1割のHPが回復した。

イリアが斬った断面から流れていた体液も止まっている。


 戦闘開始前に再度タイラントデスストーカーのステータスを確認

したのだが、スキルに【HP自動回復(リジェネレート)】が追加されていた。

どうやら、オリオンを食べた影響で強化されたらしい。とはいえ、

イリア達の時間当たりの与えているダメージの方が回復量を上回っ

ているので、今の俺たちにとっては丁度いい相手かもしれない。


「おっしゃあああ! もう1つの鋏みも落としたぜ!!」


漆黒の大蠍の攻撃を大剣のカウンタースキル【斬り落とし】で無効化

していたヘンリーが喜色満面で大声を上げる。


 その横で俺はすかさずその場に落ちている斬り落とされた大鋏み

をアイテムボックスに収納した。既にイリアが斬り落とした分も回収

済みだ。これは確認したステータスになかったけれども、念のため、

破壊した部位を【HP自動回復】で回復して再接合されるのを防ぐ

ためだ。もちろん、脚の方も左右全て回収済みだ。


 これでタイラントデスストーカーは身動き取れない上、尾の毒針と

口付近にある鋏角しか攻撃手段はなくなった……と思ったら、

一瞬、心臓と思われる部分から紅い光が輝いて、その巨体を包み、

体を覆っている甲殻の色が漆黒から真紅に変わった。

これは発狂モードか?


 次の瞬間、タイラントデスストーカーが失ったはずの脚と2つの

大鋏みが傷口から体液を纏わりつかせながら再生し、ご丁寧に毒針

付きの尾が付け根から1本生えてきた。こんな怪物を野放しにして、

増殖されたらアルテミス神域は滅ぶなぁと他人事のような思考が

過ぎった。


「イリアは攻撃より回避を優先、毒針攻撃は最優先で回避だ!

ヘンリーは2つの尾を破壊して毒針が無くなるまで出来る限り、

カウンタースキルは使うな。鋏みと尾で連続攻撃してくるだろうから、

硬直する防御よりも回避を優先。

 アンは『無限の投げ槍アンリミテッドジャベリン』で攻撃、クオルは【真名解放】で2つの尾を1つずつ

確実に潰せ。イリアは尾が落ちたら、向こうの攻撃の隙にアイテム

ボックスに回収して再接合を阻害してくれ。

サラは現状維持で前衛2人の回復」


「「「「「了解」」」」」


俺の指示に5人が返事をした直後、真紅の大蠍の2つの尾が俺に向かって、

伸びてきた。


「兄さん!?」「兄貴!?」


前衛2人が声を荒げる。


「おっと、折角だから反撃させてもらうぞ! 【徒 花(あだばな)】!!」


不意を突かれた形だが、1つ目の尾をなんとか回避して、2つ目の尾に

鉄扇のカウンタースキル【徒 花(あだばな)】を合わせて反撃する。


 鉄扇のスキルは一角獣(ユニコーン)のアルベリッヒと契約を結んだ翌日に、

アルベリッヒを憑依した状態を試すついでに鍛えて習得したのだ。

他にも乱舞攻撃と遠距離攻撃を覚えたが、刀使って戦った方が攻撃力が

上だから、そうそう出番はないだろう。


「クオル、旦那様が反撃した尾に攻撃を集中させる」


「わ、わかったよ。アン姉さん」


「……ん、アンの旦那様を亡き者にしようとするとはいい度胸。

【乱れ撃ち】!」


アンが『無限の投げ槍』の固有スキルの【乱れ撃ち】を使って俺が攻撃した

尾に追撃をかけていく。目が据わっているのは気のせいだよな?


「【真名解放】! 【不可避の(ゲ イ)……死棘槍(ボルグ)】!!」


クオルは助走距離をとるため、後方に跳躍し、助走をつけ、槍投げ

の要領で【真名解放】とともに手に握っていた『不可避の死棘槍(ゲイボルグ)』を

投擲した。後で確認したが、間の『……』の溜めは必須らしい。


 クオルの放った『不可避の死棘槍』は鮮血に似た真紅の魔力に覆われて、

マッハコーンを作りながら飛んでいく。


 アンの『無限の投げ槍アンリミテッドジャベリン』の【乱れ撃ち】は本来、無差別に魔力製の投槍を

4連続投擲するものだが、アンは俺を攻撃したタイラントデスストーカーの

毒針の尾の根元に4本全ての攻撃を同じ場所に当てた。

全ての魔力製の投槍が役目を終えて消滅して真紅の甲殻を穿った箇所に

真打ちとしてクオルの『不可避の死棘槍』が飛来する。


 『不可避の死棘槍』は何の抵抗もなく、穿たれた箇所を貫通し、

クオルの手元に戻ってきた。


「確保!」


「はい!」


俺の指示に地面に落ちた尾の側にイリアが移動し、アイテムボックスに

収納した。大鋏みと同じく再生できる可能性はゼロではないが、

鋏みを再生した際にHPを結構な割合で消費していたので、対価なし

でできる能力ではないようだ。自動回復があるとはいえ、再生に掛かっ

たHPの割合は自動回復の量を上回っていたのは確認済みだ。


 タイラントデスストーカーの残りHPは約4割まで減っている。

サラが投げた「とりもち」で再び動きを抑え、脚を集中攻撃。

程なくしてまた両脚の破壊に成功した。


「うおッやべッ! 【斬り落とし】!!」


大鋏みを回避したが続く毒針を避けきれないと判断したヘンリーが

カウンタースキルを使った。それまで俺とアン、クオルの猛攻に

耐えていた尾の耐久力が遂に尽き、尾が切断されて地面に大きな音

を立てて落ちた。すかさずイリアがアイテムボックスに入れた。


 タイラントデスストーカーの残りHPはおよそ3割。先ほどのヘンリー

が避け損なったのは前衛2人はもとより、パーティー全員のスタミナが

危険域に入った証左である。


 ここで懸念事項である毒針を封じることができたので、

俺は勝負を決めに出る。


「前衛2人は時間を稼いでくれ、中衛の2人は前衛のサポート、

サラは適宜、回復薬の投与」


皆に指示を出して俺は【シヴァ】を”召喚”した。


『ふむ、ようやく正式な召喚か、それで今度は妾はなにをすればよいのだ?』


今回の戦闘でシヴァを”召喚”ではなく”召聘”していたのはひとえに召喚して、

シヴァがダメージを受けて消滅したときの再召喚できるようになるまでの

回復時間というリスクを避けるためであった。


 それほどHPが高くないシヴァはタイラントデスストーカーの毒針で

即死してしまう危険性が高かったのだ。


とっておき(・・・・・)でアイツに引導を渡してくれ」


俺はザリガニもどきになった大蠍を指差した。

シヴァの視線が鋭くなった。


『然らば我が君の魔力を融通してもらうが構わぬな?』


「ああ、一息にやってくれ」


『……承知』


氷結の女帝(シヴァ)は笑みを浮かべて俺の要請に快諾してくれた。


「サラ、『とりもち』でヤツの動きを止めるぞ」


「了解! てい!!」


残った大鋏みを振るってイリアとヘンリーを攻撃してそっちに気を

とられていたタイラントデスストーカーに三度『とりもち』の拘束

が襲い掛かった。


 『とりもち』は敵によっては効果がないのもいるのだが、今回は

大当たりだった。あとで補充しておこう。


「総員、退避! タイラントデスストーカーから離れろ!!」


「「「「了解!」」」」


俺の指示に従い、即座にイリア、ヘンリー、アン、クオルの4人は

俺の傍まで退避した。


『さぁ、極光に包まれ散るがよい! 【極 光 処 刑オーロラエクスキューション】!!』


シヴァの配下の氷でできた蒼い鎧を身に纏った氷戦乙女たちが

タイラントデスストーカーを中心に五芒星の位置に出現し、

シヴァの指示でそれぞれが掲げた剣の剣先を目標に向け、強力な

極光をともなった冷気を放った。


 俺のMPの大部分をもっていくだけあり、タイラントデスストーカーは

シヴァの【極 光 処 刑オーロラエクスキューション】の絶対零度の冷気で凍死した。


 上機嫌で配下を送還したシヴァに礼を言って送還陣で送った

俺はアイテムボックスからあるだけHP・MP回復薬をだして、

イリアたちと一息つくことにした。


御一読ありがとうございました。


第4章は年明け最初の投稿になるあと1話をもって終章予定です。

それでは良いお年を。

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