第12話 ZFO世界の風潮と夕食までの本気の模擬戦 ヘンリーVSアン
リアルの仕事の影響で以前に比べて投稿ペースが落ちてますので、
今後は最低週1~2ペースになると思います。
ギリシャ神話の世界では(オリンポスの)神々の間で男神と女神の間の
力関係は個々の力に拠るところが多く、ヘラやアテナ、アルテミス
などの例外を除き、基本的に男神が強く、権力をもつ男尊女卑社会
である。
そのギリシャ神話の世界をベースにしたZFOの世界、すなわち、
俺たちがいるこの世界も男尊女卑の風潮が現代の地球に比べて根強く
残っていると考えていい。
最も、俺とイリアたちが所属しているアテナ神域においては
その限りではなく、現代社会に近い男女平等の能力主義を取っている。
これはイリア達女性PCたちが頑張ってこの神域の人々に影響を
与えた結果でもある。
アルテミス神域においては僅かに女尊男卑の風潮があるが、
アテナ神域との交流の影響で徐々に男女平等が浸透している。
その一方で、他の神域においては依然として男尊女卑の風潮が
根強く残っているので女性を物扱いしている所が多い。
その神域の1つを司る神(が憑依している人物)が目の前にいる。
対談して協力することになった太陽神アポロンはたしかに所謂
イケメンではあるが、オリオンの言ったように愛を囁いた女性の
ことごとくに拒絶されている。
ギリシャ神話で有名な所のエロスの悪戯があったとはいえ
アポロンに迫られて月桂樹に身を変えたダフネ、アポロンに必ず
当たる予言の力を与えられたが弄ばれて捨てられる未来を予言した
ため、アポロンの許を去ったトロイアの王女カサンドラなどだ。
大神ゼウス、海皇ポセイドン、太陽神アポロン、軍神アレスなど、
ギリシャ神話に出てくる男性は冥神ハデスなどごく一部を除いて、
神・人問わず性に奔放、悪く言えば、性にだらしがないといえる。
特にアポロンに至っては上手くいっていたコロニスという女性を
僕の鴉の嘘を鵜呑みにして真偽を確認せずに射殺している始末である。
同じように女性を食い散らかして粗暴なオリオンが自分の半身
ともいえる双子の妹であるアルテミスを餌食にしようとしているのが
許せないのだろう。
同じ兄として可愛い妹を信用ならない男に任せられない所は共感できる。
もし、オリオンがイリアに邪な手を出そうとしたら……ケルベロスに
差し入れをもたせてハデスに地獄へ送ってもらえるかおはなしする。
無論、リリィたちにも手を出そうとしたらヤツは絶対地獄へ招待してくれよう!
クックックック……。
今の俺は体が女性であるため精神が肉体に引きずられていても
おかしくないのだが、イリアたちがその辺を危惧してくれて、
不完全な性転換解除薬で一定時間半陰陽になれる俺と2人1組で
1日おきに男であったときの感覚を忘れないためにつきあってくれている
ので精神の変化はあまりない。
正直、半陰陽状態は体の感覚が男のときとも違うのと、短時間とはいえ、
違和感、特に性器に関しては感覚が鋭敏化している上、通常ないはずの
片方もついている状態のため、脳への負担も大きい。
当初、イリアたちは俺の精神が肉体にひきずられないように
毎夜男女の営みに付き合ってくれていたが、
リリィとソフィが俺の不調があらわれ始めた3日目の朝に察して、
俺に内密でイリアたちに周知していたのだった。
閑話休題、会談が終わったあと、アポロンはアレス神域に
攻め込まれている自分の神域の民たちが心配だから戻ると告げて、
3日後にアルテミス大神殿前で待ち合わせる約束をして、
それまでにガイアとアフロディーテに話をつけると言い残し、
そそくさと帰っていった。
丁度、夕暮れ時になっていたので、今日は出した[コテージ]を
そのまま利用してここで野営することに決まった。
周辺の森の魔物や獣はオリオンとアルテミスが手当たり次第に
狩つくしてしまったが、念のため侵入者避けの結界を張っておく。
治安が比較的良いアテナ神域と違って、人の皮を被った獣どもが
出る可能性があるからだ。
ちなみに、使っているコテージは元々ゲーム時代にあったアイテムを
カリュクス職人が魔改造した作品群の1つで、外からは1戸建てに
見えるが屋根裏部屋が広くとってあるので実質2階建てである。
複数部屋は勿論、浴室、台所、魔導水洗トイレなどが完備
されており、旅先の苦労を激減してくれる1品だ。
ネックなのはサイズが大きいのでそれなりに拓けた場所でなければ
使用できないのと、使用時間は最長で48時間で、使用後は丸1日
ミニチュア状態になって使用できなくなってしまう。
まぁ、結構な値段するのだが、店の売り上げのおかげで予備で
まだ数個アイテムボックスに入れてローテーション使用できるように
しているので全く問題にならない。
ポセイドン神域で大量に入手して手付かずだった食材の一部を出して、
今夜の晩御飯をつくり……たかったのにイリアとリリィ、ソフィに
台所から追い出されてしまったところで不意に腕を引かれた。
「……丁度よかった。旦那様、捕まえた」
俺の手を引く主は銀髪に褐色肌、身長がおれより頭1つ分ほど低い、
ハーフダークエルフのアンであった。彼女に腕をガシッと掴まれて、
俺は有無を言わさずコテージの外に連れ出された。
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「お、来た来た。兄貴、夕食ができるまで模擬戦しようぜ!」
「ヘンリー兄さん、簡易生命維持結界の準備ができましたが、
次回はちゃんと手伝ってくださいよ」
「悪い悪い。おれがやるよりクオルが独りでやったほうが速いから
つい。次回はちゃんと手伝うから拗ねるなよ」
「……別に拗ねてませんよ」
ヘンリーとクオルが臨戦態勢で待ち構えていた。
男同士なのに何故かイチャついているようにしか見えないな。
「むぅ……アンと旦那様も負けない」
そう言って、アンが掴んでいた俺の腕を胸元に抱き寄せるように
密着してきた。身長に見合わないアンの大きな胸の柔らかい感触が
伝わってくる。コラコラ、アンよ、妙な対抗意識持たなくていいから。
「アン、模擬戦をするんだよな?」
「ん。ヘンリーとクオルの兄弟対アンと旦那様の夫婦コンビで
という話で向こうの2人と段取り組んでる。
使い捨ての簡易生命維持結界でこの中で死んでもHP20%で
蘇生するから、いつもの得物で本気で死合うのが今回の約束事」
「そうか」
何も説明がなく連れてこられたが、ヴァナディースのレベル上げと
性能チェックをするのに丁度いい機会なので、俺に異論を出す余地は
なかった。
ちなみに、簡易生命維持結界を張るアイテムは市販されているが、
購入には少なくとも家1件は余裕で建つ量の資金が必要で簡単に
入手できるものではない。
「兄貴、開始の合図はこのコインが地面についてからでいいか?」
そう言って、肩に愛用の無銘の大剣を担いだヘンリーは笑みを浮かべながら、
銅貨を見せた。
「ああ、構わないぞ」
ヘンリーに返事をして、俺はアイテムボックスから黄金刀を取り出した。
「アン、開始後すぐにヘンリーの相手をしてくれ、俺はクオルと
戦ってみる」
「分かった。クオルの槍は以前、旦那様が渡した不可避の死棘槍だから、
旦那様も気をつけて。ヘンリーは別に倒してしまっても構わない?」
「ああ」
俺の言葉にアンは愛槍であり、俺の作ったウォータージャベリンを携えて、
笑顔で応えてくれた。
「それじゃあ、みんな準備はいいか? ……いくぜ!」
キィンッと金属を弾く音がして、ヘンリーの手から銅貨が宙に舞って、
……甲高い音を周囲に鳴り響かせて地面に着地した。
直後、俺とヘンリー、クオルの3人が各々自分の得物の間合いに
持ち込むべく、駆け出したのだが……
「うおっ! アン姉、おれの邪魔をするのか!?」
「旦那様の邪魔はさせないのが今回のアンの仕事、
ここでヘンリーは無様な姿を晒すといい。
さっさとヘンリーを片付けてアンは旦那様にご褒美に撫で撫で
してもらう。どこをとは敢えて言わない」
アンは俺が以前渡した無限の投げ槍を遠慮なく、続々と
ヘンリーに投擲して足止めを開始した。
「くそッ! 負けるか!!」
ヘンリーは得物である無銘大剣を素早く振り続けて飛来する槍を
弾いていく。ヘンリーに弾かれた槍は役目を果たせなかったが、
空中で霧散していく。
ーーーヘンリーサイドーーー
久しぶりにおれの目標である兄貴との模擬戦ができると始める前から
おれはワクワクしていたのだが、開始早々出鼻を挫かれてしまった。
犯人はアン姉。うん、兄貴と組んでいる相手は他にいないから当然
といえば当然なんだが。
「うおっ! アン姉、おれの邪魔をするのか!?」
殺気に反応したおれの鼻先を紙一重で通過したのは、クオルの
里帰りのときに巻き込まれたポセイドン神域の迷宮事件で兄貴が
迷宮で手に入れてアン姉にあげていた[無限の投げ槍]が作りだした
魔力製投げ槍だった。
装備者の魔力を使って投げ槍を作り出すこの武器はハーフとはいえ、
豊富な魔力をもつダークエルフの血をひいていて、槍投げを得意とする
アン姉とは相性がよくて、槍を作るときに込める魔力で攻撃力を
調整できるみたいで、おれがされているように牽制・足止めのために
使うこともできる。
「旦那様の邪魔はさせないのが今回のアンの仕事、
ここでヘンリーは無様な姿を晒すといい。
さっさとヘンリーを片付けてアンは旦那様にご褒美に撫で撫で
してもらう。どこをとは敢えて言わない」
抑揚のないアン姉の言葉に湧いた頭以外にどこを撫でてもらうんだ?
という疑問を口にする間もないくらい殺到してくる魔力投げ槍の群れ。
「くそッ! 負けるか!!」
おれは愛用の無銘の大剣で迎撃する。
正面からだけでなく、頭上からも山なりに投擲された槍が襲いかかって
くるので油断できない。槍が飛んでくる感覚も短いので、軍隊を相手
にしているのかという錯覚をする位だ。
しかも、槍を作り出すアン姉の魔力量もさることながら、
当の本人は吐く息1つ乱さずに位置を絶えず、残像を残す速度で
変えながら緩急つけて投擲してくる徹底振り。
「ぐっ!」
おれの周囲では魔力製投げ槍と無銘の大剣が交差する音が絶えないが、
遂におれが捌ききれずに首をひねることでなんとか直撃ではなく、
かすり傷に抑えることに成功する槍がでてきた時点で、アン姉の
魔力切れよりもおれが先にジリ貧になると分かった。
「だったら、【断空閃・交差】!! ぐううッ」
俺は多少の負傷を覚悟して、最近覚えた大剣から魔力で作った刃を
×の字で相手に飛ばす大剣技を放ち、アン姉が移動する場所をこれ
までの動きから予測して、そこまで魔力製投げ槍のない”道”を作った。
予想通り、技の硬直後に数本槍を手足にくらうことになったが、
いづれもなんとか体を捻って急所を外すことに成功した。
「!?」
アン姉は襲いかかる剣閃の完全回避に成功したが、そのために俺に
投げる槍の手が止まり、一時的に槍の群れが止まる。
この千載一遇の好機を逃す手はない!
「アン姉、覚悟!」
おれは切り札の1つである【狼 化】を使い、素早さと筋力を極限まで
上げて、アン姉との距離を一気につめることに成功する。
「【強 撃】!」
技後の隙が大きく、命中率が悪いといわれたが威力は申し分ない
大剣技の基本技を放つ。成長して【狼化】を使った今ならば、
たとえ兄貴といえどもかわせない一撃だ。
おれの剣はアン姉の小柄な体を真っ二つにした。だが、次の瞬間、
おれが斬ったアン姉の体は地面に大きな水溜りを作って消えていた。
「え?」
勝利を確信していたおれは予想外の事態に動きを止めてしまった。
次の瞬間、背後から頭と喉、胸の中心と両肩を槍で貫かれた。
「65点。思い切りの良さは評価できるけど、攻撃の詰めが甘い。
敵を倒した後も安全が確認できるまで気を抜くのはダメ」
うつぶせに倒れたおれはアン姉の言葉を最後に耳にして、意識を
手放した。
御一読ありがとうございます。




