第11話 オリオンとアポロン
「ふん、女にもてないうるさい奴が来た」
「お前には用はない。この間男が!」
目の前に現れたアポロンに悪態をつくオリオンに言い返すアポロン。
「アポロン兄上、ボクたちの邪魔をしないでよ」
今は体の主導権はアルテミスにあるのだろうアルテミスを憑依させた
アタランテが2人の会話に割り込む。
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「今、あの会話にアテナ様を参加させると間違いなくこじれますね。
兄さん」
「そうだな」
リリィとローラのエルフ姉妹にに風の精霊に3人の会話が聴こえる
ように頼んで傍観していることに俺たちは決め、折を見て加わった方が
いいという結論になった。
なぜ、アテナ様を加えるとこじれるか?
理由はオリオンがアテナ様も狙っているからで、立場的には2人を
別れさせたいアポロンサイドにいるからだ。アテナ様はアルテミス
と異母姉妹の関係であるが、本当の姉妹のように仲がよく、2人揃って、
処女神となることを父親である大神ゼウスに認めさせたのだ。
余談だが、他にいる処女神は生まれた順番ではゼウスの姉だが、
父神クロノスから吐き出された順番で妹にされたヘスティアがいる。
穏やかで優しい彼女を巡ってポセイドンとアポロンが争って、
犯人は不明だが、あるとき既成事実を作って彼女をモノにしようとした
男神から驢馬に乗って逃れたヘスティアは兄神であるゼウスに
処女神でいることを認めさせたという逸話がある。
下手に参加して、そのまま会話がヒートアップして、話合いが
肉体言語による実力行使に発展するとアルテミスを憑依している
アタランテが死亡する可能性、オリオンたちに駆け落ちされて、
行方をくらまされる可能性など、不確定要素がでてくる。
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「狩りをするにも限度というものがあるだろうが!
アルテミス、お前も自分の守護する森で必要以上の殺生を禁じて
おきながら何をやっている!?」
「兄上には関係ないでしょう!」
「おおありだ!
冥界のハデスからはアルテミス神域から冥界に来る親子の動物の魂
の数が連日異常に多いため、忙しいから原因をなんとかしてくれと
言われ、ガイアお祖母様からは自分が生んだ子供たちの助けを求める
断末魔の嘆きの声がお前の神域から連日絶えないから原因を解決して
ほしいと言われた」
恋で盲目になって周囲が見えなくなっているアルテミスに反論され、
憤慨し、感情的に反論するアポロン。
「2人からは全く現地を管理しているお前に連絡がつかないから、
双子であるオレに連絡するしかないとさんざん小言を言われたんだぞ!
アレスの馬鹿の僕どもが散発的に攻め込んできているから
オレの神域は気の抜けない状況だというのに」
「この神域はアルテミスのモノなのだから、持ち主であるアルテミスが
なにしようがアルテミスの勝手だろう?
兄であるお前が口出しするなよ」
「はあ、お前はそれでも神の端くれか?
本当にアルテミスの伴侶になる気あるのか?
信仰心で力を得ているオレたち神が信仰を失うとどうなるか
知っているだろう?
ここ最近のアルテミス神域でアルテミスへの信仰心が変質して、
低下しているのに気付いていないのか?
このままだとアルテミスが人間どもの討伐対象になりかねないのだぞ!」
「フンッ、もしアルテミスが人間どもの、世界の敵になったら、
最強の生物であるこの俺様が全ての生物を狩りつくしてやるから
問題ない!」
アポロンの反論を鼻で笑い、オリオンは胸を張って自分に敵はないと
豪語するが、オリオンのその言葉を聞いて、一瞬アポロンの口端が
釣りあがったのに気付いたのは俺とイリア、リリィ、ソフィ位だろう。
肝心のアルテミスはオリオンに熱い視線を送っていて気付かなかった
ようだ。
「……それで解決する問題ではないのだがな。
まあ、この話は今日はここまででいい。オリオンよ、オレを
崇拝していたオーピオスという娘を知っているな?」
「はあぁ? だ、誰だよその女?」
オーピオスの名が出てからそれまで自信に満ち足りていたオリオン
の挙動に落ち着きが無くなってきた。
「お前に暴行されたと嘆き悲しんでいる娘だよ。オレの元に昨日、
お前に無理矢理、家族を殺すと脅されて、身を穢されたことを
告白しにきた。
オレの妹に恋慕しながら他の女性に手を出すとはどういう了見なんだ?」
「俺様はそんな赤毛の女なんぞ知らん!
人違いだ、不愉快だ! 俺様はもう帰る!!」
「あ、オリオン様」
語るに落ちたオリオンをアルテミスがその後を追おうとするも、
アポロンに手を掴まれて邪魔された。
そうこうするうちにオリオンの姿は森の深緑の中に消えていった。
「もう、離してよ!
兄上の所為でオリオン様が帰っちゃたじゃない!!」
アルテミスは自分の腕を握り続ける兄の腕を振り払った。
「お前も少しは頭を冷やせ、その神子に掛かっている負担が
分からない程考えなしになったならばこの場で神子を殺して、
お前が介入できないうちにあの粗暴な粗忽者を誅殺し、この神域との
境に控えさせたオレの配下に命じ、この神域をオレの物にしても
いいんだぞ?
正直、今のお前の領域内の民への対応は休戦同盟の約束を反故に
してもいい位、見るに耐えん。現に、オレの神域にお前のところから
亡命してきている者も既にでているんだぞ」
憤りを露にする妹の前で兄であるアポロンは落ち着いた様子で
たしなめた。
「……今日はもう帰る」
アポロンの言葉が効いたのか、アルテミスはその場から立ち去った。
「さて、立ち聞きとはいい趣味ではないな。姿を見せてもらおうか?」
アポロンは遠く離れている俺たちのほうを向いてそう告げた。
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「なるほど、そういうことだったのか」
アイテムボックスから出したコテージに剣呑だったアポロンを招きいれ、
リリィ、ローラ、ソフィに給仕をしてもらいながら、俺、イリア、
ヘンリー、クオル、アンは席に着き、茶を交えながら、これまでの
いきさつを話した俺たちの事情にアポロンは納得してくれた。
「それでそちらに接触してきたガイア様はなんと?」
俺の説明が終わって、アポロンが納得したタイミングを見計らって、
イリアが口をつけていたティーカップをテーブルに置き、
訊ねた。
「ガイア祖母様は『愚息のオリオンが調子に乗ってわたしが生んだ
可愛い子供達をアルテミスを誑かして殺して回っている。
目に余る不遜なことを言っていたら協力するから遠慮なく殺して
冥府でハデスに灸をすえてもらってかまわない』とも仰っていた。
君達になにか言い案はあるか?」
「……方法としては3つあります。
まず、アポロン様、貴方がアルテミス様を賭けて、オリオンと
一騎打ちをして彼を殺す方法です。この方法ですと準備の手間が他
の方法より掛からない利点がありますが、事後に決闘という正当な
手段を用いたとはいえ、アルテミス様との間に遺恨が残る可能性があります」
「それは困るな。他の方法は?」
「次に、オリオンを海上に誘き出し、海に浮かぶ丸太に見える幻術を
オリオンに施して、アルテミス様に射殺させる方法です」
「なるほど、奴を誘き出すのは手間だが、妹自身の手で殺すのだから、
先の方法と違ってオレが嫌われることがないわけだな」
「……ですが、この方法を使いますとアルテミス様はご自分の手で
(邪眼の魅了によるためとはいえ)愛する者を殺めた事実に嘆き、
悲しむことになる可能性があるでしょう」
「ううむ……それではどうすればいいのだ?」
「最後の方法ですが、ガイア様に弓矢で殺せず、殴っても殺せない
生物、蠍を送ってもらい、オリオンを誘き出し戦わせましょう。
先ほどのオリオンの不遜な言葉はガイア様の耳にも届いているはず
ですので、お力を貸してくれるでしょう」
「そうか。では妹の方はどうしようか?」
俺の案、正しくはギリシャ神話で伝えられている幾つかのオリオンの
末路を提案したところでアポロンはその間どうやってアルテミスを
足止めするか懸念した。
「僭越ながら発言させていただきます」
「構わない。話してくれ」
「アポロン様のほうでアフロディーテ様に【黄金のリンゴ】を
3つほど譲っていただくことをお願いできませんか?」
紅茶を淹れなおしてくれていたリリィが発言した。
「訳を教えてくれないか?」
「はい、今代のアルテミス様の神子を務めるアタランテは大層な
リンゴ好きでございますので、アフロディーテ様が保有されている
【黄金のリンゴ】を理由に誘き出すことが可能でしょう。
アタランテを引き止めておけば依り代のないアルテミス様は
オリオンを助けにいくことはできないでしょう」
「なるほど、たしかに今のオレたち神々は依り代として神子の身体を
借りるか、手間のかかる化身を作り出す方法をとらねば父上の作った
法に触れるからな。
如何にアルテミスといえどもその法を犯してまでオリオンを助けに
いくことはできないし、すぐに化身を用意できないからその方法が
いいだろう」
「アタランテの足止め役は彼女の幼馴染でもある私とローラが
引き受けますので、シオン様たちはアポロン様の補佐をお願いします」
「分かった。ではアポロン様はガイア様に蠍を頼む件と、
アフロディーテ様に【黄金のリンゴ】を譲ってもらうお話しを
してもらっていいですか?
俺たちは蠍とオリオンを戦わせるに適した場所を探してきます」
「ああ。その分担で構わない。オリオンの件はそれで構わないが、
そこにいるオリオンに似ている少年のことを紹介してもらえないか?」
俺の言葉に納得したアポロンは話は終わりとばかりにしめ、
緊張のあまり会話に加われないヘンリーたちの中にいるクオルの
ほうに視線を向けた。
「はい。彼はポセイドン様とその愛人であったメデューサの息子で
名をクリサオルと言います。
アテナ様とポセイドン様の了承を得て、俺とこの銀狼族のヘンリーの
義弟として冒険者を生業にして共に暮らしています」
俺の紹介に合わせて、緊張した面持ちながら、クオルはアポロンに
頭を下げた。
「そうか、ポセイドン叔父上の子であったか。母は違えど、
あの男に似るのは道理だが、礼節を知っている分クリサオルの方が
断然マシだな」
しばらくクオルに視線をやって見定めていたアポロンはそう告げて、
苦笑していた。
御一読ありがとうございます。




