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第5話 侵掠すること火の如し

サブタイトルの話数修正しました。



※改行・誤字修正しました


 陽が昇り始めてまだ間が立っていない時間。

 俺とヴェスタの辺境騎士団は野営のために広げていたテントを片付け、

ゴブリンの(ネスト)がある領境にある山の洞窟の前にある、

開けた場所に隊列を整え立っていた。

 俺は経験値と熟練度獲得を増強する装飾過多で刃が(なまく)らの

孔雀の短刀を装備しているのを確認して、隊列の前に立っていた。


「では、打ち合わせ通り、シオン殿が召喚魔法で召喚獣を召喚し、

それが洞窟に突入後、包囲陣にて洞窟からゴブリンどもが逃亡しないよう

待ち構えるという策で?」

「ああ、これから呼び出す。そうだ、昨日よりかなり強力な存在を呼び出すから、

気配に飲まれて攻撃しようとしないようにしてくれ」


ヴェスタの言葉にそう応えた俺にヴェスタを含め困惑した表情を向けた。

俺はこれから呼びだすお気に入りの1つを前にしたときのことを思うと

苦笑いを隠しきれなかった。


 これから呼び出すのは【ケルベロス】だ。


【ケルベロス:

冥府・地獄の番犬として有名な3つの首をもつ巨大な犬。死に抗う亡者を

貪り喰う獰猛さと亡者を逃がさない

確かな技量を持つ。ポイズンブレスとファイアブレスを放つことが可能。

生半可な冒険者では文字通り歯牙にもかけない】


 ケルベロスはランクA、かつ巨体のため、召喚可能枠は1つしかない。

 しかし、これ1体で国が1つ確実に滅んでしまうので当然であろう。

これから攻め込む(ネスト)には普段のサイズでは入らないので、

【サイズ変更】スキルで洞窟に合わせて小さくなってもらう必要がある。


 俺は左掌に通常の召喚陣を作成し、右掌に召喚スキル【セフィロトの召喚陣】

を作成した。

左手を手前に重ねて二つの召喚陣を合成、展開して、数え切れない回数を

こなした工程を再現する。

 淡く白い光を放っていた召喚陣は蒼と赤、自然現象ではありえない

冷気も宿す地獄の炎が一瞬吹き上がり、白から紫色の光を放つようになった

召喚陣からは3つ首をもつ黒い獣毛に覆われた巨躯きょくの犬が現れた。


 ケルベロスは周囲を見回して、俺の姿を確認すると、

嬉しそうに吠えて、(こうべ)を垂れてすり寄せて甘えてきた。

俺は(あご)の下を撫で、強い毒性をもつ唾液に注意しつつ、

手が視界に入らないよう注意して、頭を撫でてやった。

 そんな俺たちを後ろの騎士団の面々は萎縮して見守っていた。


「ほら、好物の蜂蜜サンドだ」


俺はアイテムボックスから3つコッペパンもどきをだして、

ケルベロスの3つの首に食べさせてあげた。

 ケルベロスの好物は蜂蜜と小麦粉もしくは芥子を練って焼いたものという

神話設定を踏まえたのか、それらを材料にした菓子がケルベロスは大好きだ。

その菓子はというと当然NPCの店では売っておらず、自家製である。

この蜂蜜サンドは俺がいくつか試作した菓子類のなかでも

最もケルベロスの反応がよかったもので、大抵、大物を狩るときや

敵が多いときにあげている。

 蜂蜜サンドの見た目はコッペパンを2つに割って間に

蜂蜜をサンドしものだが、パンには少量ながら芥子の粉末を入れている。

HPだけでなく少量ながらMPも回復する。

 蜂蜜サンドを堪能たんのう)したケルベロスは俺の命令を

聴く姿勢をとった。


「今日はあそこの洞窟にいるゴブリン共に地獄を見せてやってくれ。

洞窟の中は狭いと思うからサイズ変更スキルで調整してくれ。

ブレスは使用禁止だが、火炎爪は使っていい。

 あの群のボスをしとめたら、その死体が分かるようにしてほしい。

頼んだ」


俺がそう頼むと、ケルベロスの3つの首は一様に了解したとばかりに

頷いて、洞窟の入口に駆けていった。


 俺がケルベロスのご機嫌を取っている間に巣のなかのゴブリンが

逃げ出すことを危惧する者が騎士団のなかにいたかもしれないが、

逃げ出すことは不可能だ。

 なぜなら、ケルベロスの咆哮には敵味方抵抗に失敗したものを萎縮させ、

行動を阻害して、動きを鈍くさせる効果があるからだ。

 俺はケルベロスが駆け出すと同時に召聘陣(しょうはいじん)

展開して、再びシルフを召聘してネクタルドロップを渡して、

風の補助スキル【疾風(はやて)の加護】を騎士団全員にかけさせる。


 疾風の加護の効果で移動速度が上がり、

状態異常から回復したヴェスタの騎士団は半包囲陣を組んで完全に

洞窟の入口を包囲した。

 洞窟からは内蔵を破壊し、骨を折り、あるいは砕く音が絶え間なく、

人外の断末魔と時折混ざるケルベロスの咆哮とともに響いてきた。


 待機している騎士たちの様子は様々で或者は顔色を真っ青にし、

或者は恐怖で震え、或者はケルベロスが味方であることに安堵しているなどだ。


「いやはや、ここまでとは……ケルベロスもそうだが、

シオン殿を敵に回す者達の気がしれません」


包囲陣を敷く歩兵と2列で洞窟から逃げでてくるゴブリンを

狙う弓兵の後ろで、待機している俺にヴェスタが話しかけてきた。

俺はやられたらやり返す性質なので、非のない俺を追放した奴等には

すぐに個人的に報復はした。

 今頑張っているケルベロスをPK(プレイヤーキル)狙って待ち伏せしてきたところに

(けしか)けてやったのだ。

 人ってあんなふうにあそこまで高く吹っ飛ぶんだと感心する位飛んでいったのを

そのとき見た。


 ケルベロスが突入してから、

1時間程度たった頃にはそれまで聞こえていた戦闘音と断末魔は

聞こえなくなり、代わりに巨体が近寄ってくる足音が聞こえてきた。

 その音は次第に大きくなり、不意に洞窟からケルベロスが首を出し、

騎士の数名が驚いて悲鳴をあげたのが聞こえた。

 ケルベロスはそれを意に介さず、歩みを進め、弓兵と歩兵の間を通り抜けてきた俺の前に咥えて運んできたゴブリンキングの死体と巻物スクロールを置いて、

褒美(ほうび)の催促をしてきた。


「お疲れ様。ほら、褒美の蜂蜜サンドだ」


そう言って俺はアイテムボックスからケルベロスの大好物を

1つずつ差し出す。

 ケルベロスは尻尾を大きく振って、蜂蜜サンドを堪能し、

送還陣に消えていった。

 俺がケルベロスを送還している間にヴェスタは騎士たちに指示を出し、

ゴブリンキングの死体から討伐部位の剥ぎ取りと敵の総数、

ゴブリンが溜め込んでいた財宝の捜索を開始させた。


 一方、ケルベロスが頑張ったおかげで経験値を得、

孔雀の短刀の特殊効果でレベルが1上がっていた。

ステータスの伸びは極僅わずかだったがきちんと伸びていた。


そして、俺はケルベロスが持ってきた巻物スクロールが何なのかを

確認していた。

どうやら中身は俺が知らない召喚獣との契約方法のようで、

ヴェスタにこれは報酬とは別にもらっていいか確認すると、

ケルベロスが持ってきたものだから構わないと苦笑いとともに承諾された。


 まだ調査に時間がかかるようなので早速この巻物スクロールを使って

新しい召喚獣との契約を開始する。


 ヴェスタ達から離れ、十分な距離をとったところで巻物スクロールに魔力を流すとドーム型の結界が俺を封じ込めた。

この手のアイテムから契約をする場合は大きく2パターンある。

 1つは魔力を通すとともに契約相手となる召喚獣が出てきてそのまま契約。もう1つは……。

 俺が素早く飛び退くと遅れて俺がいた場所に隕石が落下したような跡が

つき、そこには1頭の馬が立っていた。8本脚の。【スレイプニル】だ。


【スレイプニル:

8本脚が特徴の滑走するものという意味に解釈される名の通り動きは

非常に速く、飛行も可能。最も優れた馬であり、軍馬である】


 俺は孔雀の短刀を抜いて構えるが、スレイプニルは頭を垂れている。

一向に動きがない。

 残念だが、俺は動物の言葉が分かるビーストテイマーのスキルは持っていない。

仕方がないので、三度シルフを今度は召喚し、通訳させる。すると、


「「「『自慢の速さの乗った会心の攻撃をかわされたので私の負けです』だそうです」」」


 シルフたちに恒例のネクタルドロップを渡して送還したところで、

再び巻物スクロールに魔力を流すと燃え上がって、

その炎は俺の体のなかに消えた。契約完了である。

 スレイプニルは歓喜のいななきをあげ、送還陣で帰還した。


 それにしても、今回ケルベロスは本当にいい仕事をしたな。

 拠点に戻ったら蜂蜜サンドをたくさん補充してボーナスをあげようか。

新作を作るのも悪くないな。

そういえば、馬つながりでユニコーンをまだ見たことがない。

もしかしたら、この3年の間に目撃情報が手に入るかもしれない。

楽しみになってきた。


 洞窟の前に戻ると騎士団の1人が駆け寄ってきた。


「シオン殿こちらにいらっしゃいましたか。団長がお呼びです」


そう告げると俺をヴェスタの元に連れて行った。


「シオン殿、この度は協力感謝いたします。

ようやく、ゴブリン達の総数が分かり、奴等が溜め込んでいた財宝がみつかりました。

 ゴブリンの総数66。この数を私たちだけで戦っていたとしたら、

甚大な被害がでていたのはまぬがれようがありません。

ありがとうございました。

 それで……財宝に関してはこちらにいただければ助かるのですが……」


 ダンジョンで発見した財宝が誰のものになるのか? 

ということに関して、この世界ではふたもないが、

1人でみつければ早い者勝ち、PTパーティで見つけたら

山分けというのが通念である。

 特に後者で恐喝などで不正があった場合は神殿に神託が降りてきて、

12神の中で正義を司る女神、アストレアの裁きの炎で断罪される。


 そして、俺が知っている限りのサンク王国の経済事情から考えれば、

イリアが王でケイが補佐して彼女等の従者が優秀だから、

国民が飢えていないというのがサンク王国の台所事情。

 それから多少変わっていると思うけれども、

軍備は国庫を圧迫するのはこの世界でも変わらない。

特に神域の防衛を一手に担っているならだ。


「前金をもらっているから、ゴブリンの集めていた財宝はそちらで全て回収して構わない。

 今回の報酬に関しては、ポイエイン国での用事が済み次第、

おそらく6日後以降に、サンク王国に行くことになるから、

そのときに受け取ろう」

「ありがとうございます。ではこちらの確認とギルドカードの接触をお願いします」


俺の言葉に大きく安堵したヴェスタは今回の依頼の契約書類を渡してくる。

冒険者ギルドが発行している個人依頼専用のマジックアイテムの依頼書だ。


 一応、書類の全文を注意深く確認したが、話し合った内容そのままで、

不備はなかったので、達成者の欄に俺の冒険者ギルドカードを当てる。

 すると、達成者の欄に俺の名前、シオン・スレイヤ・ヴァイザードが

書き加えられた。


 その書類をヴェスタに手渡すと、ヴェスタは地図を渡してきた。


「これは?」

「街で売られているこの神域の地図です。

シオン殿はお持ちではないようですので、よろしければどうぞ」

「貰っておこう。感謝する」


地図はアルケー集落でも探し回ったのだが、なかった。

開拓者たちの集落だから、仕方ない。

 正直、近くの街の位置をヴェスタたちに聞けばいいと考えていた。

 今回の依頼の報酬へのフォローだと思うが大変ありがたい。


「では、依頼が完了したので、俺はカリュクスへ向かう。

長にはよろしく伝えてくれ」

「分かりました。長には私から伝えておきましょう。

道中お気をつけください。機会がありましたら、

またよろしくお願いします」

「ああ、そのときはまたよろしく」


ヴェスタの言葉にそう応えて、俺は左手で通常の召喚陣を作成し、

右手で中級召喚スキルである【ルーンの誓約陣】を使って、

誓約陣をその上に重ねて、両方に魔力を通して、先程契約した

スレイプニルを召喚する。


 俺はスレイプニルに乗り、ポイエイン国の都市カリュクス、

俺の従者たちが待つ街を目指した。


御一読ありがとうございました。


これにて第1章は終了です。

トラブルありましたが、なんとか第1章が終わりました。


ZFOでは召喚獣はレシピのある供物(餌付け)で契約するものが結構います。

自分で作る必要はありませんが、供物自体の作成難易度が高いのも

召喚士系が少ない理由です。

もちろん、1対1で勝利しないと契約できないものもいます。

例:ダークナイト


次話はそのまま第2章に行きます。


今後、投稿ペースは低下しますので、進捗は活動報告をご確認ください。



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