第6話合流とヘンリーとの模擬戦
ハイ・マナポーションを使ってアテナ様を”憑依”したことで
枯渇したMPを回復させた俺はイリアたちと共にオーガの討伐部位を
回収してサンク王国の冒険者ギルドへ討伐報告を終え、朝に別れて
行動していたヘンリーたちと合流した。
「兄貴が……姉貴になった……だと!?」
女体化して胸がある俺を見て、ヘンリーはショックを受けたのか、
開口一番そう言って固まっていた。
「元に戻る方法の伝手はあるのですか?」
石像みたいに固まったヘンリーとは対照的にクオルは俺の心配を
してくれているようだ。
「ああ、大丈夫だ。一応伝手はある。それとは別に薬も手に入った
から、自分で解析して、解除薬を作ろうとも思っている。
最も、この姿でやらないといけない仕事がまだ複数あるから、
しばらくはこのままだな」
女体化解除のため薬品の解析が必要なのを察してか、ケレシスが
俺に使った薬品を1瓶分手紙を添えてイリアに預けていたのが
ギルドへの報告後判明し、俺は薬品と手紙を受け取った。
手紙の内容は謝罪と薬の材料がなかなか入手し辛いので、
なんとか確保して欲しいというのと、現状ではもとの性別の性器
だけを一時的に戻す失敗作が大量にあるので解析の参考のため、
それも渡しておくと書いてあり、別にギルドの指定金庫に50ダース
預けてあったのだ。
「元男性のシオン様にも負けるなんて……」
サラは女体化和装した俺の豊満になった胸と自分の胸を一瞥するなり、
見事な orzの態勢になって、激しく打ちひしがれていた。
ああ、うん、胸のサイズを含め、3サイズはなんの冗談か
イリアと全く同じなんだが、何を言っても追い討ちにしかならないよな。
「兄様、今はサラに言葉をかけるのは控えましょうか」
俺と同じ苦笑いを浮かべてそう告げてきたイリアに俺は同意した。
「それにしても、旦那様とイリア陛下は髪の色以外は鏡映しの様に
そっくり……」
「そうですね。男性のときのシオン兄様もお顔はそっくりでしたが、
女性となった今ですと、髪の色以外は本当に同じ人のようですね」
アンが俺とイリアを見比べて述べた感想にローラがほのぼの笑顔で同意して
いた。
ヘンリーたちが落ち着いてから、皆に今後の行動方針について伝えた。
まず、カリュクスへ戻って旅支度をすること。
今回はオリュンポス山を挟んで向こう側にあるアルテミス神域と
アポロン神域に行くので相応の準備をする必要があることを皆に
伝えた。
保存食はもとより、アポロン神域はアテナ様が敵対している
アレス神域とも接しているので、回復薬は現地作成も含め、
素材を含め大量に用意する必要があるだろう。
俺のアイテムボックスは容量の心配は不要だから、適宜リリィたちに
補充する必要がでてくる。
次に、今回はイリアが同行し、目的地への移動は運行が開始された
魔導鉄道を使うことになったこと。利用後の感想などを報告する指名依頼
を受注している。途中停車する駅の宿や車内で夜を明かすことになることもあり、
その際の意見を今後の参考にしたいそうだ。
そして、本来の目的であるアルテミス神域でユニコーンを召喚獣
として、アテナ様の依頼でアポロン神域の戦闘に援軍として加わる
ことになっているのを告げた。
「リリィとローラの故郷、ソフィたちの銀狼族の里にも向かう予定だ」
「いいのですか、シオン様?」
「アテナ様の依頼の件にしても、アポロン神域からの予言によると
季節としては冬のことらしいから、1月半くらいの余裕がある。
今回の移動は魔導鉄道になるから全然問題ない」
通常の馬車移動、ゴーレム馬車でも早くて半月かかる。
俺のスレイプニル、もしくはペガサスを使えば2人ずつだが、
全員の移動に4日程度で済むが、長距離移動ができるのを他の神域の連中に
知られるのはまずい。
ちなみにソフィとイリアはペガサスとは契約していないため召喚が
できない。アルテミス神域でペガサス(複製種)と契約できるように
なったという情報があるのでそこで今後のことも考えて
召喚できるようにしてもらうのも今回の旅の目的でもある。
ペガサスの起源種と複製種の違いは
複製種がすばやさ以外のステータスが1ランク下がると、
信頼できる筋からの情報を得ている。
特にイリアは天馬騎士に憧れている節があったので、
今回の旅に並々ならぬやる気に満ちている……下手に邪魔をしようものなら、
目が笑っていない笑顔を浮かべつつ、邪魔者を容赦なく徹底的に粉砕するだろう。
話が逸れたがそういうこともあって、開通してまだ日が経って
いないけれども、運行が周知されている魔導鉄道で行くことになった。
事故が起きない限りペガサスたちとほぼ同じ日数で目的地のアポロン神域
まで行けるのは大きい。一部運賃を大神殿が負担してくれるとはいえ、
早々、何度も利用できる金額ではないのが鉄道運営陣の今後の課題であろう。
明日の朝、カリュクスに戻り、翌日、1日で旅支度を終えて、
3日後にカリュクスにある駅から出発することが決まった。
~~~~~~~~~~
「くっ、性別が変わっても、やっぱり兄貴は兄貴かよ……」
ヘンリーがぼやきつつ、黒い和装の暗夜に身を包み、
長い黒髪をポニーテールにした俺の連撃から逃れるため距離を
とるためバックステップするが……遅い!
「はあっ!」
「うわっ、ちょ、まっ」
即座に、広がろうとする間合いを詰めて、【居合い】を3回放つが、
ヘンリーに放った【居合い】はいづれも完全に防がれる。
以前は防ぎきれずに2撃目から直撃していたが、
今は防げるまでに成長したようだ。
俺は仕切りなおすため、追い込むのをやめて、立ち止まり、
後退するヘンリーを見送る。
ううむ、やはり胸がある分、前のめりになっている。
まだこの重心バランスに慣れないな。
そう感じつつ、俺はこのサンク王城の訓練場の鍛錬結界が
正常に機能しているかを目を閉じてマナの流れを確認する。
……よし、問題なく機能しているようだ。
ついでにスキル【瞑想】で精神統一して、攻撃の命中率を上げる。
隙だらけに見えるようだが、間合いに入った瞬間、待機していた
【居合い】が発動するから、何回もそれで痛い目をみたヘンリーは
攻撃できない。
鍛錬結界はHPが0になる攻撃を受けても残りHPを1残して、
防御側を生存させる訓練用の結界である。
この結界は基点となる支柱を破壊しない限り効果があるので、
真剣勝負でのスキルや魔術の打ち合いを可能にする。
オーバーアタックに関しては結界維持に使用している龍脈から
吸い上げているマナによって完全無効化される仕組みである。
カリュクスの拠点の訓練場にも設置予定だが、まだ資金と資材の問題で
実現していない。
サンク王城のこの結界は俺がまだ亡命する前に古参のチームメンバーと
協力して設置したものだ。
「アルテミス神域、特にアポロン神域にはサムライもここより多い
だろうから、後々の対人戦のため、サムライの奥の手、特殊攻撃スキルの
【殺 界】を教えよう」
ヘンリーの成長を確認するために始めたこの模擬戦で予想よりも成長し、
今は乱れた呼吸を整えたヘンリーにそう告げて、俺は腰帯に差している
愛刀、天羽々斬の鞘を手に持ち、納刀する。
俺と俺の行動に身構えるヘンリーを今後の打ち合わせのために
ケイに連れて行かれたイリアを除いたリリィたちが観客として
見守っている。俺とヘンリーとの距離は間合いとして約5歩。
「……【波門】!」
俺は天羽々斬の鞘先で地面を打つ。すると、その地面に波1つない
穏やかな水面に水滴が落ちたような波紋が浮んで広がり、ヘンリーに到達する。
「っ!」
ヘンリーは愛用の大剣を盾のようにして防御態勢をとって波紋を
警戒して防いでいた。俺は愛刀を納刀したまま左手に持ち、腰を低くして
構え、駆け出す。頭の後ろで束ねた髪がなびくのを感じる。
「なっ!?」
ヘンリーが一瞬掻き消えて忽然と目の前に現れた俺に驚愕する。
それもそのはず、俺は一足で5歩ある間合いを詰めたからだ。
俺は瞠目して固まったヘンリーに構わず、柄打ちをする。
カコォォォォォーーーーーン
天羽々斬の柄打ちをした所から普段の柄打ちを防御されたときとは
異なる音が鳴り響くと共に、ヘンリーが柄打ちを防御したところから、
世界は赤に染まっていき、俺の作りだした功性結界が俺とヘンリーを覆った。
そして、天羽々斬の刀身に光る文字が鮮やかに浮かび上がる。
『舞え、天羽々斬、【羽刃滅殺】!』
柄打ちを防御したまま固まっているヘンリーに防御の上から居合いを
当て、ヘンリーの横を駆け抜け、俺は天羽々斬のもつ殺界技の
令 句、刀身に浮かび上がった文字を口にする。
抜刀している天羽々斬の刀身が解けていき、ヘンリーの周囲を
無数の天羽々斬が舞う様に包囲し、次々にヘンリーの前後左右から殺到する。
そのことごとくがヘンリーを刺殺、圧殺する。ヘンリーを核にした鉄塊が
できあがったところで、俺は刀身のなくなった天羽々斬を鞘に納刀した。
直後、世界は元の色に戻り、無数の天羽々斬は消え、ヘンリーは大剣を
地面に突き刺して、もたれかかっていたが、全身傷だらけで前のめりに倒れた。
HPは1。死んではいない。
「あいてててて、サムライにはあんな反則技があるのかよ。
でも、あの音の違う一撃さえ防げれば赤い結界はなんとかなるのか兄貴?」
リリィとローラたちに回復されながらヘンリーは【殺界】の特性を理解
したのか、そう訊ねてきた。
「半分正解だ。サムライのスキル【殺界】は高ランクの刀、
所謂、名刀といわれる刀に1つ備わっている強力な”殺界技”を
使用するのに不可欠なもの。刀毎に【殺界】の発生攻撃、
”始界撃”は違うから、高ランクの刀を持つサムライと戦う際は
注意したほうがいいだろう」
俺は天羽々斬の手入れを終えて鞘に納刀して、腰に佩いて答えた。
ほぼすべての名刀を蒐 集している俺は全ての”殺界技”と
”始界撃”を覚えている。一時期、アポロン神域に訳あってソロで
滞在していたときに必要に迫られてサブクラスをサムライにして
いた成果だ。
お気に入りと用途は状況に合わせて使い分けているが、
【殺界】を作り出して”殺界技”を使用する相手はなかなかいない。
リリィたちがいてくれるから必要がなかったというのもあるが、
殺界技の欠点は今のところ、対象が単体の技しかない点にある。
集団戦には不向きな技なのだ。反面、1対1の状況では絶大だ。
「あのヘンリー兄さんとの間合いを一気に詰めたのはスキルなんですか?」
「あれはスキルではない。あの【波門】は天羽々斬の特殊能力だ。
鞘で地面を打って作りだした波紋に触れた敵の任意の位置に繋がる
門を目前に作り出して移動できる。1戦闘につき1回のみのものだが、
あのように不意を突いて一撃必殺を行うのに適したものだ。
天羽々斬は俺だけが所持している刀ではないから、今後は同じ刀の使い手と
戦闘する可能性があるだろう」
サムライの刀は装備条件が筋力だけでなく、器用さを必要とするため、
その点で敬遠される武器ではある。攻撃力自体は戦士系職が装備する剣
よりも高く、アクティブスキルの【居合い】も習得条件が難しくはない。
しかし、刀はその製造方法が剣よりも難易度が高く、材料も特殊、
製造者に求めるスキルレベルも高いため、武器職人泣かせな武器であり、
材料がアポロン神域に比べ産出が少ないアテナ神域では入手が難しい。
その道の探求者が集まるカリュクスに置いても刀を扱う武器職人は
両手で足りる数しかいないが、彼等は元アポロン神域出身者たちであり、
材料の代替などの実験や創意工夫を続けている職人の鑑だ。
俺の刀たちに大規模な修繕が必要なときは信用できる彼等に任せている。
サムライ自体は優秀な攻撃役であるので、重戦士のような優秀な壁役が
いればその真価を十分に発揮できるため、アテナ神域にもサムライの
冒険者は増加しつつある。召喚師は依然として最下位を独走しているが……。
ヘンリーは先刻の俺との模擬戦で経験値が貯まり、メイン職が
上位クラスに昇 格することができるようになった。
クラスチェンジに関して、リリィとソフィ、アンを除いて、
俺はアドバイスに留め、最終的に本人の選択を尊重する方針をとっている。
ヘンリーは現在のライトウォーリアーの直系上位職である
ライトガーディアンを選んだ。それにより、武器・防具の選択の
幅が広がった。
サブクラスは格闘士のままだが、格闘士には上位職がない。
一見すると、上位職があるほかのクラスより不利に見えるが、
上位職にならないと専用装備のロックが外れない他の職業と違い、
条件さえ満たせば爪やナックル系の専用装備を装備できる。
この辺のシステムはゲームのZFOのときと変わらず機能している
のをアテナ様に確認済みである。
また、ライトガーディアンになると低レベルながら中級中位の
回復魔術、補助魔術を使えるようになる。中級中位回復魔術の中には
自動回復があるから回復役が壁役に掛けられる負担が減るメリットがある。
人数が増えたからこの際、二面作戦を展開することもできそうだと
考えながら、模擬戦でかいた汗を流すため、城内にある大浴場に向かおう
としたところで、
「シオン様、湯浴みをなさるのですね」
「マスター、お背中流しますね」
「……性別が変わったなら旦那様はこっち」
「私もお供しますね♪」
「……クックック、逃がしませんよ」
両腕をリリィとソフィに抱えられ、前をアン、後ろをローラに塞がれて、
幽鬼のように影を纏って不気味な笑みを浮かべて後をついてくるサラたち
に半ば強制的に大浴場の女湯に連行された。
素で性別が変わっていたのを忘れていた迂闊さに気付いて、女性陣に
拘束に気付いたときには手遅れで、不慣れな体の手入れの仕方を女性陣に
懇切丁寧に教わることになって、いつの間にか部屋割りを変更した女性陣の
大部屋更に連行される形でその日を終えることになった。
「……ヘンリー兄さん、シオン兄さんのこと、シオン姉さんとお呼び
したほうがいいのでしょうか?」
「う〜〜ん、あまりこれまでと違和感ないし、最終的には元に戻るらしいから、
これまで通りでいいんじゃねぇか? まぁ、姉ちゃんたちと相談した方が
いいのかもな。さて、俺達も一風呂行くか」
「はい!」
あとに残されたヘンリーたちも連れ立ってカリュクスにある根城の
大風呂と勝るとも劣らない大浴場に歩みを進めた。
御一読ありがとうございます。




