第3話アテナ神域3ヶ国会議
朝日が差し込み、小鳥たちの囀りが聞こえる。
「朝か……」
俺は天井を見上げる形で目を覚まし、しばらくして、寝間着を着て
いないことを思い出し、右腕が動かせないことに気がついた。
問題の右に目を向けると俺の右腕は一糸纏わぬ元妹のイリアに
がっちりと両手で胸元に抱き寄せられていた。
その豊かな胸の感触が伝わってきて、俺の健全な男の部分は正常な
反応を示す。
イリアは幸せそうに寝息をたてて、眠っている。その白金の髪が
日焼けの後のない真っ白い肌の上に散って、朝日を反射している様
は神秘的で、女性として成熟している、本人が言うにまだ
成長が続いている肢体に思わず見入ってしまっていた。
「ん、んん……」
不意にイリアのまぶたがゆがみ、開かれて、青い瞳が俺の姿を捉えた。
「おはようございます。兄さん」
「ああ、おはよう」
満面の笑みで朝の挨拶をしてきたイリアに俺が挨拶を返すと、
彼女は抱きしめていた俺の右腕を解放して、今度は首の後ろに腕を
まわして唇を重ねてきたので、 俺は両腕を彼女の背中にまわして
抱き寄せて応えた。
「皆さんお揃いのようですね。それでは時間になりましたので、
これより、第67回アテナ神域三ヶ国首脳会議を開催します」
場所はサンク王国王城、緋の円卓の間、時刻はAM10:00。
腰まである白金の髪を揺らして、要所に聖銀を編みこんでいる割と
値の張る白金の聖騎士団の幹部用の制服に身を包んだ今回の進行を
担当するイリアが開会を宣言した。
この場にいるのはサンク王国の国王のイリアと宰相のケイ、
王国騎士団長のユリシズ。ポイエイン連合国の国家代表ケレシス、工業都市カリュクス市長のテイラー、学園都市セーメンの都市長の
メリッサ、ゲオルギア王国の国王ジョージ。
そして、今回召喚された俺、シオンの合計8名である。
各々の服装はバラバラで個性を如実に表している。
前述したようにイリアは白を基調にした白金の聖騎士団の幹部用
の制服(下はズボン)をきっちりと着こなして赤いマントを着用している。
ケイとユリシズもイリアと同じ白金の聖騎士団の幹部用の制服を
着用して、マントを装備している。
その2人と対照的なのはポイエイン連合国の3人で、ケレシスは
昇竜の刺繍が施されている派手な真紅のチャイナドレスを着て、
扇を片手にしており、テイラーとメリッサの2人は其々落ち着いた
色合いの男性用、女性用のスーツに身を包み、ゲオルギア王国の
ジョージは独特な文様をもつアイヌの民族衣装カパリアミプの様
な衣服を着ている。
俺に至ってはリリィとソフィに手を入れてもらって白ではなく、
黒を基調にして白金の聖騎士団の制服を基にデザインされた軍服で
あった。デザイナーはテイラーの奥さんのヨーコさんで見事の一言
に尽きる機能的かつ見た目も素晴らしい一品である。
ここにいるサンク王国の人間以外は一昨日、このサンク王城に
勢揃いして旅の疲れを癒し、昨日の朝に会議の資料をケイから直接
手渡しで渡された。
資料には特殊な紙が使われていて、サンク王城から持ち出そうと
するとその場で灰になってしまう上に、ケイから直接受け取った
人間しか読めない魔術が掛けられていた。
そこまでされるのも資料の内容の大半がアテナ神域全域の人口や、
農作物のここ1年の生産量など他神域の国家には公開できない内容
が満載である。
ケレシスたちからこの会議に出席するように要請されたあの日、
現在ではここに首脳がいる3国が事実上アテナ神域を分割統治している。
俺が寝ている間に3国条約を結んで、裏切りがない限りにおいて
半永久的な不可侵の条約が結ばれているとか。
領土争いの戦争を起こさない代わりに本来戦争へ向けていた国力を
各々の得意分野の伸張に回し、同盟国へその利益の一定量を分配し
あうことも条約で決められており、この条約でポイエインで開発さ
れた生活用品の一部がサンク王国とゲオルギアへ輸出され、
ゲオルギアの食料が他の2国へ輸出されている。
とまあ、会議の最初の方の内容は前回の会議から一昨日までの
アテナ神域全体の景気や作物の生産量などの話であって、現状では、
景気は上向きで失業者がほとんどいない状態である。
続いて、他神域との交易と外交状況の話に移った。
ポセイドン神域との交易は最寄の国であるエティオピアとの本格
的な通商条約の締結やクレタ王国の賠償金などにより貿易収支は
黒字となっていて、停戦条約の期限を過ぎても裏切らない限りは
戦闘行為はしない協定が既に結ばれている。
また、俺達がポセイドン神域にクオルの親子対面の件で行った際
にエティオピアでケイがやっていたようにポセイドン神域にある
幾つかの都市や町は表面上はポセイドン側に所属しているのだが、
実質的にはアテナ神域が支配しているようになっているらしい。
「ポセイドン神域から浴場設置の依頼が昨年に比べて増えてきた。
カリュクスから既に職人団を派遣して対応しているから問題ない。
鉄道の方も計画通り順調に進んでいる。事故が発生しなければ予定
通りに完成して運行できるだろう」
カリュクスとエティオピア、ここサンク王国の一部に立ち入り禁止
エリアが出来ていて、職人クラスの人々が毎日工事をしているのは
遠目で見て知っていた。資料によればアテネ神域から引き続き停戦
協定を結んでいるポセイドン、アルテミス、アポロン神域まで各国
の代表の合意と協力の下、鉄道計画は進んでいるとのことだ。
鉄道の運用自体は実は既にアテネ神域では穀物の輸送用に限って、
ゲオルギアとポイエイン連合国間で試験運用されている。
現在では改良を重ねて人員の輸送も可能になったらしい。
初期型は兎に角、乗り心地が最悪だったとテイラーは笑って語っていた。
この計画は魔獣大戦後すぐに開始され、順調に進んでおり、
すでに最終段階に入っているとテイラーが報告した。
馬車よりも4日以上早くアテネ神域から現在の最終駅である
アポロン神域の駅まで行けるのでかなり便利な乗り物である。
とはいっても、やはり1人あたりの運賃は高く設定されており、
しばらくは高ランクの冒険者や大商人たちの乗り物になりそうだ。
「いろいろと企画しているから劇団の巡業も遠征規模がいい感じ
に広がってやりがいがあるわ」
とこの話題のときにケレシスは終始扇で口元を隠して笑顔だった。
あれはなにか企んでいるということがこれまでの経験で培われた
勘が告げていた。
続いて各国に展開している諜報員が集めた情報をもとに停戦条約
期限後の各国の神域間戦争に関しての議論が始まった。
「アレス神域は魔獣大戦後停戦条約を結んですぐに、神域の境を
完全に封鎖していて、現在も鎖国状態になっているから神域内が
どうなっているか不明。冒険者を潜入させようとしたけれども、
皆戻ってきていないのよね。ここは内政に力をいれるべきでは?」
「地理的にアレス神域からアテナ神域へ侵攻するためには
どうしても魔物が生息するガイア神域の大森林を通過する必要が
あるから、ガイア神域との神域境よりも同盟国であるアポロン神域への
補給物資の供出を考えて加工業を促進した方がいいのではないかしら?」
「私も内政を充実させる案に賛成だ。幸い、今年は豊作で穀物の
値段が今はまだ落ち着いているが、徐々に市場価格が下がりが
始まってしまうことが確実視されているから明らかな余剰分を
輸出したい」
ケイの言葉にメリッサとジョージが賛同し、言葉を返す。
「国内各所に駐留している騎士たちの訓練は順調です。
また、辺境騎士団からも支援物資の要請がきておりますので、
どうかそちらへの注力をお願いします」
3人に続いて騎士団の代表としてこの場にいるユリシズが進言した。
「うう~ん……4人の意見は最もなのだけれど、
相手があのアレス神域だから困ったわね。あちらさんたちはガチで
迷惑極まりない戦闘民族集団だからねぇ……」
ケレシスがため息を吐いた。4人とは違い、アレス神域への警戒を
主張する。
「そうですね。ガイア神域への警戒のための人員増強を早急に実施
する必要がありそうですね。砦の1つか2つを増築する必要もでて
きそうね」
「だな。相手があいつらだから武器も一級品のものをアポロン神域
への援軍分も含めて多めに用意しとくべきだろうからカリュクスで
手配しよう」
イリア、テイラーもケレシスの意見に賛同した。
「内政強化も重要だけれども、アレス神域の連中への警戒態勢も
並行して強化する必要があると思う。内政支持の4人はアレス神域
へ行った経験もしくはアレス神域の冒険者と対峙したことはあるか?」
皆の意見を催促する視線に応えて自論を述べて、内政支持派に問い
かけたところ、彼等は一応に首を横に振っていた。
「あちゃ~、なら仕方ねぇか、シオンお前がこの中でおそらく一番
アレス神域には詳しいのだから、知らない4人のために説明してくれよ」
「私も手伝いますからお願いします。兄さん」
なんで本来おまけで来ている俺が説明しないといけないのだと
テイラーに視線を向けたが、イリアに頼まれたら仕方ない。
実際、アレス神域は狩場として結構な期間滞在していたことが
あったから彼等の大半の習性も把握している。
「念のため訊いておくが、4人はアレス神域が鎖国される前に
行ったことあるか?」
俺の問いに4人は一様にないと答えてきたので、俺は半ば諦めの
境地に入った。
「彼等の大半の思考を端的に言うならば戦闘狂、もしくは戦闘民族だ。
この2つは称号としてアレス神域出身者にはほぼ全員に付与
されていると考えていい」
「他にもアレス神域限定クラスがあったわよね」
ケレシスがにやけた顔でフォローしてくれた。
「ああ、アレス神域所属限定クラスに歩兵職の【クリムゾンブレイブ】、
騎兵職の【クリムゾンナイト】、弓兵職の【クリムゾンイエーガー】は
物理攻撃に異様に特化しているが、最も注意すべきはクリムゾン職が
集団で攻めてきた時、対PT戦や神域戦のときで、そのときには
クリムゾン系の固有スキル【緋の共鳴】によって、ある程度近くに
いるクリムゾン職人数分だけ向こうに物理攻撃力に補正が入る」
戦争という多人数で戦う場合で相手をするにはアレス神域は
厄介極まりないスキルがあるので、密集している所は範囲魔法や
罠による分断を念頭に相手をしなければ圧倒的な攻撃力の前に
蹂躙されるだけなのだ。
「あと、種族構成として、最も多いのがケンタウロス族で、
人族はその次、次いで、獣人・亜人種となっていますね」
イリアの説明に俺は捕捉として一番多いケンタウロス族の大半が
前述した【クリムゾンナイト】になっていることを告げ、更に、
【クリムゾンナイト】の上位に【クリムゾンナイトロード】、
【クリムゾンナイドマスター】がいることを付け加えた。
その情報はケレシス、テイラー、イリアも知らなかったようで、
その場を気まずい沈黙が支配した。
御一読ありがとうございました




