第2話亡命回想(後)
チームからの一方的な脱退処分。
ZFOにおいてもこれは簡単に行えることではない。
脱退処分を行う権限があるのはまず、チームリーダー。
俺が所属していた”白金の聖騎士団”においてはイリアである。
次にサブリーダーの5人。
但し、彼等1人1人にリーダーの様にこの権限があるのではない。
1人が除名処分を提議、提議時ログインしている面子で審議する形式だ。
この場合、脱退処分を審議される本人のログインも条件である。
サブリーダーの定員は5人まで。チーム結成当時俺は固辞したが、
ケイが裏で調整し、イリアに強引に任命されてしまった。
任命後に自分からその地位を降りることが外堀を埋められていた
俺にはできなかったので、地位に見合うと可もなく不可もない成果
を上げていた。
最後にGM、つまりは運営側である。
運営がこの処分を下すことができることは
知られているが、今のところその実例はまったくない。
流れたログを確認したところ、
俺と第4騎士団長が会話している間に俺の脱退が提案され、
俺が会話に意識を割かれている間に時間切れで可決されてしまったようだ。
ちなみにサブリーダーは俺とケイ、それと面識がない古参メンバー
キャラ名がNOBUが1人。
そして、今回俺をハメた2人だ。
現時点でイリアとケイ、NOBUはログインしていない。
俺をハメた2人は”白金の聖騎士団”がアテナ神域でチームのトップに
なったときに加入してきた人間で、イリアの取り巻きを形成している。
どうでもいいことだが2人共女性らしい。
加えて、2人ともリアルでもイリアの取り巻きをしている。
更に、頻繁にタブーであるリアルをZFOに持ち込んできて、
毎回、一方的に俺に言いがかりをつけてくる。
俺もやられっぱなしではなく、内容が幼稚過ぎているので、
毎回論破していた。そして、今回実力行使に出た訳か。
2人とも無能ではないが、プレイヤーとしては中途半端に実力があり、
現実でもイリア、凛璃の取り巻きをしているリアルフレ達を
積極的にZFOをプレイするよう勧誘してチーム人員の増加という
点では貢献していた。
最も、その取り巻きも1枚岩ではなく、
ZFOの魅力を理解して、本格的に楽しんでいる人もいれば、
俺やNOBUの様な古参メンバーをきちんと立ててくれる人もいた。
目の前の騎士団長様は2人側の人間で、あわよくば凛璃とリアルで
付き合いたいという下心を隠そうともせず、公言しているアホである。
不覚にもチームから脱退させられてしまったからには早急に
この城から撤退して、サンク王国から離れなければならない。
脱退処分を下されるとたしかに同士討ち無効の効果がなくなり、
それまで使えていたチーム機能、チーム倉庫やチームチャット、
チーム専用クエストの受注などができなくなる。
親しくなったチームメンバーとはフレンド登録をしていた俺には
チームチャット機能が使えなくなり、チーム倉庫は倉庫を管理している
ケイに確認も兼ねて作成した各種ポーションを納品していた以外はほとんど利用していなかった。
チーム専用クエストの受注はレベリングに最適化した繰り返し受注
できるクエストがいくつかあった。
今回の強制脱退で受注できなくなると思える。
しがし、一般に知られていないがチームメンバー登録には
何故か従者にしたNPCを任意で入れることが可能なのである。
総じて、チーム機能が利用できないことは俺にとってほとんど
意味がなく、俺をPKして排除するにしても穴があり過ぎる。
だが、まだリーダーとサブリーダーには脱退処分の提議意外にも
特別な権限がある。それはチームクエストの作成・発行である。
設定できる内容は多岐に渡り、なんの冗談かPCやNPCの指名手配、PK依頼もできる。
当然これも俺が脱退させられた直後に発行されていると見ていいだろう。
「くっくっく、貴様を捕縛するチームクエが今発行された。観念するんだな」
と目の前の騎士団長様は親切に告げてくれた。彼の部下を見ると
一様に呆れた表情をしている。馬鹿でアホが上に立つと辛いよな。
状況的にこちらはソフィと俺だけ。向こうは【探 知】で分かるだけで
40名。多勢に無勢ではあるが、手がない訳ではないのだ。
俺は高説垂れているアホを無視してメニュー機能から部屋の鍵への
命令を起動して、閉じさせた。これで2対40から2対10になった。
俺がいるこの部屋は実はチームの所有物ではなく、俺の所有物である。
このことを知っているのはこの城を建てるために苦楽を共にした
古参メンバーのみで、当然目の前と俺をハメた奴等は知らない。
突然、背後の扉が閉まって、目の前にいる全員が思わず振り返った。
確かに驚いたかもしれないが、敵を前にしてその行動は愚の極みである。
俺はソフィに魔氷狼を召喚させ、自分は愛刀、天羽々斬を構え、
隙だらけの騎士団長様との間合いを詰める。
明日に備えて戦闘準備を終えたときにのこのこやって来たのが、
目の前にいる愚者たちの運の尽きである。
俺はフェンリルの援護を受け、侍のアクティブスキル【居合い】で
立ちはだかった雑魚たちを正当防衛の名の下に全員瞬殺した。
ZFOでは死亡すると、ログイン時最寄の教会もしくは
セーブポイントで復活し、一定時間各種ステータスが1割ダウン
するデスペナルティがある。
俺の現在のメインクラス:暗黒大魔導師、サブクラス:侍【極】。
ザーヴェラーもそうだが、サムライマスターもまだ育成中で、
明日のチームクエの魔物討伐で経験値を稼ごうとしていたのだが、
脱退処分で取り消しになってしまった。
この怒りは脱退を仕組んだ奴等と俺を殺しに来る奴等に向けること
にした。俺はソフィに召喚状態を維持したまま、ついてくる様に
指示した。
NPCだから指示しなくてもと言う人が多いが、俺は無意識に
この世界のNPCたちにはPCと同じ対応をしてしまっている。
取り巻き共を含め、俺のその行動を嘲笑・失笑している輩は多い。
だが、俺は気にしていないし、イリアのように共感してNPCも
PCと同じ様に扱っているPCも実際は少なくない。
俺とソフィ、フェンリルは部屋の隠し扉の奥にある転移陣で、
城から少し離れた所にある自分の屋敷の裏手にある枯れた古井戸へ転移した。
築城当時、隠し通路は浪漫であると多くの仲間が同意してくれていたが、
まさか使う羽目になるとは思わなかった。
屋敷への直接転移は何故かシステム上できないので仕方なく、
偽装の古井戸を屋敷近くに作ったのだ。
警戒しつつ、まず、フェンリルが壁を蹴って井戸を出て、索敵、
次いで、梯子で俺がソフィより先に井戸を登る。ソフィの装備、
ローブの下はスカートだからソフィに対して当然の配慮といえる。
ZFOは他の全年齢VRMMORPGに比べて粗はあるけれども、
CG描写で手を抜いている所がない。ソフィは井戸の周囲の安全が
確保されていないから、弟子の自分が先に梯子を上ると言ってきたが、
俺は即答で却下した。紳士として、師匠として、役得だとしても、
相手がNPCだから、不可抗力だからを盾にそれを行動に移すと、
大切なものを確実に失ってしまうだろう。
現に、反論してきたソフィに俺が後続になった際にソフィに降りかかる
悲劇を説明したら、ソフィの顔は羞恥心で真っ赤になってしまった。
そんなソフィの顔は可愛いとは思うが、俺は変質者ではないので、
さっさと梯子を上っていく。
遠くから兵士が4名、通常よりも遅い足取りで接近してきているのが見えた。
全員NPCで、敵対表示の赤文字ではなく、中立表示の黄文字であった。
よくよく見れば4名中2名が瀕死であった。
先を急がなければならない状況ではあるが、見捨てると寝覚めが
悪いので、ケイに納品する予定だった手持ちのポーションから20個ほど渡して屋敷へ急いだ。
兵士たちには名前が付いていた様だが、先を急いでいたから、
確認せずに早々にその場を離れた。
現在、チームを強制脱退させられて指名手配された暗黒大魔導師の
俺と普段のメイド服ではなく、緑を基調にしたエルフの戦闘衣装に
豊満で魅力的な身を包んだ金髪碧眼の妖精族の精霊魔術師リリィ。
銀髪橙色の瞳で将来は確実に美人になることを予想させるけれども、
今は可愛い領域にいる髪の毛と同じ色の毛に包まれた耳と尻尾をもつ
銀狼族の召喚師のソフィ。
俺達は今、サンク王国と当時建国されたえポイエイン連合国の国境にいる。
屋敷に設置していた転移陣で2人の故郷があるアルテミス神域に
高飛びしようとしたが、俺の指名手配クエストが発行されたため、
俺は神域外へ移動する転移陣が利用できなくなっていた。
指名手配されていない2人はこの転移陣を制限なく使えるだろうと
思い、2人の安全のため別れようかと考えていたところのだが、
リリィに釘を刺され、結局、俺が使える最も離れた国境までとべる
転移陣を3人で使った。
幸い、まだ国境は封鎖されていなかったようので、無難に国境の関所を通過、
今は連合国側の街道の途中である。
指名手配クエストは指名手配されている人物が生死を問わず捕まえ
られた時点で終了し、捕まった人物はそのクエストが発行された城の牢屋へ
装備と財産を全て没収された上で投獄される。
牢から出されるのは所持していた財産が神殿の算出した保釈金以上
であれば即時、未満の場合は神託があるまで……らしい。
当然、没収された装備と財産は手元に戻ってこない上に、それまで
積み上げてきた周囲の信頼度が0どころかマイナス10前後下がる。
信頼度はギルドランクに影響し、ギルドカードは没収されないが、
ランクは最低からやりなおし、しかも、2度目は剥奪される。
そういうリスクがあるため、理不尽だがこの指名手配クエストの
捕縛対象になっている俺は捕まってやるつもりは毛頭ない。
ちなみに、この指名手配クエの有効範囲はどういう訳か手配される
までに累積した信頼度が判定基準の様で最低でも発行した1国内、
最高で神域全域まで及ぶらしい。
俺はそれまで積み上げてきた信頼度で幸いにもサンク王国内で
おさまっているようで、勝利条件は国外脱出である。
故に、関所を越えた時点で指名手配クエストは終了したのだが、
執念深い連中は連合国側にも待ち構えていたようだ。
しかし、様子がおかしい。
「マスター、どうやらサンク王国の第6、第8騎士団がポイエイン
連合国の冒険者と前方で戦闘しています。いかがなされますか?」
隊列の先頭を任せていた銀狼族の鋭い五感をもつソフィが殿を務める
俺に尋ねてきた。
ふむ、騎士団の方は十中八九俺の追っ手であることが予想できるが
ポイエインの冒険者たちはなぜ奴等と戦闘しているのだろうか?
「僭越ながら、シオン様、私は冒険者たちに協力して騎士団を撃退
するべきと愚考します」
疑問が浮かんですぐに俺とソフィの間にいたリリィが口を開いた。
俺も同意見なので頷きつつ、もう1人の意見を訊いてみる。
「……そうか、ソフィはどう思う?」
従者でNPCだから必要ないだろうという輩はいるけれども、俺はただ
主人の言うことに従うだけの従者にソフィになってもらいたくないので、
考えさせることにしている。
「……あたしもリリィ姉様と同じくここで騎士団の人たちは倒すべき
だと思います!」
少しの思考ののち、ソフィは強い意思を込めて答えを口にしていた。
俺は彼女の答えに満足し、2人に冒険者たちと協力し、騎士団を
撃退する方針を告げた。
「いい加減、あたし達には勝てないんだから退きなさいよ!」
「何の断りもなく、勝手に街道を隣国に封鎖されて黙って帰る
馬鹿がいるか! ガキの使いじゃねえんだぞ!!」
どうやら騎士団側が優勢で、ポイエインの冒険者達が押されている
ようだ。しかし、立ち位置的に俺達に背を向けて気づいていない
騎士団を冒険者たちと挟撃するには絶好の位置にいる。
この好機を逃す手はあるまい。
「リリィ、悪いが騎士団に気づかれないように冒険者側のリーダーへ
俺達が加勢することを伝えてくれ」
「畏まりました」
そう言うとリリィは風の精霊を呼び出し、伝言を預けて放った。
「ソフィ、奴等を蹴散らすぞ!」
「はい、分かりました! 出でよ、魔氷狼!!」
俺の言葉にソフィは青い召喚陣を作り出して相棒を召喚する。
俺も負けじとお気に入りを黒い召喚陣を作り出して召喚する。
漆黒の鎧に妖気を纏った死を運ぶ武具精霊。その数6。
俺のメインクラスである暗黒大魔導師の固有技能【闇の猟域】に
よって、闇属性のダークナイトたちに大幅なステータスボーナスが
加算される。
頃合い良く、メニュー機能を持つ[練者の腕輪]から、ポイエインの
冒険者たちのリーダーから共闘の是非を問うメッセージが届く。
既に2人の意思も確認しているので遠慮なく共闘することを選択、
これで彼等は一時的だが名前などの文字表示が中立の黄色から、
味方の緑色に変化した。ちなみに敵の騎士団たちの表示色は赤だ。
「見敵必殺! 行け!!」
「頑張ってね、フェンリル!」
俺の命令に従い、俺の周囲に待機していたダークナイトたちは
前方に無防備に背中を晒す獲物たちを見つけると同時に掻き消え、
次の瞬間には轟音とともに地面に着地している悪夢たちが隙だらけ
の目標に容赦なく手に持った漆黒の大剣を振り下ろしていた。
一方、フェンリルは騎士たちの足を凍結させて動けなくしつつ、
冒険者たちを援護する傍ら、爪牙で斬りかかってくる騎士たちを
倒していった。
「おい、あれがシオンじゃないか?」
「くそ、間が悪い、おい、何人か奴を仕留めに行けないか?」
「無茶言うなよ、っと。危ねえ! 連合国の雑魚の相手で手一杯って、
ぎゃああああああああああ」
「ケッ、戦場でお喋りとは騎士だけにいいご身分だな。おらおら、次はどいつだ?」
そう言って斧を装備したスキンヘッドの冒険者は3人の騎士を
得物の1振りでまとめて黙らせていた。
最早、蹂躙ともいえる状況に騎士たちはスキルもロクに使えず、
次々にHPが0になり、死亡していった。幸か不幸かNPCの騎士
は1人もおらず、全てPCで騎士団は構成されていた。
つまり、死亡した騎士たちは武装解除の上、漏れなく神殿逝きだ。
「いやあ、助かったぜ! サンキュな。よかったら、これから凱旋
して祝宴なんだが、一緒にどうだい?」
ハ…スキンヘッドの重戦士のリーダーが声を掛けてきた。
この男が、カリュクスの市長テイラーだったのをこのあとの凱旋で
知り、他所者の俺達を気兼ねなく迎えてくれたのに加えて、
テイラーの奥さんとリリィ、ソフィが意気投合したのを決め手とし、
カリュクスに居を構えることになったのだった。
御一読ありがとうございました。




