第20話 強襲ミノタウロス軍団! ケレシス決死の剣槍舞!!
※今回展開の都合上、視点が2回切り替わります。
リリィサイド------------------------
私たちが迷 宮に連れてこられて3日目になりました。
「ん~~~、ここにきてなんか上手く誘導されているっぽいわね。
これはそろそろ大変よろしくない状況になるかな?」
エルフの私から見ても整った顔立ちの眉根を顰めて、
状況をいぶかしむ声の主は女性用の騎士団の制服に身を包んだ
炎の様な赤い髪を持つ長身の女性。
私達が住んでいる都市カリュクスが所属する国、
ポイエインの代表を務めていらっしゃるケレシス様です。
私たちの主であるシオン様の御友人でもあります。
昨日はシオン様から連絡があり、ヘンリー達は無事合流して、
冒険者ギルドに話を通す過程でサンク王国宰相のケイ様に遭遇し、
ギルドへの申請を任せて、私たちの救援のためにこちらに
急行されているとのことです。
ケレシス様はご自身もクレタ国のポセイドン神殿の神官たちに拉致され、
この迷 宮に転移されたエルフである私、妹のローラ、
銀狼族の姉のソフィ、妹のサラの4人を助けてくださった方です。
「妹狼ちゃん、MP回復薬の生産の方はどう?」
「シオン様の様に上手くは行きませんが、
手持ちの素材ではあと10個の生産が限界ですね」
戦闘で消費していく回復薬の生産を担当していたサラが
ケレシス様の問いかけに答えました。
回復薬の素材はケレシス様のアイテムボックスのものと
魔物との戦いの戦利品の宝箱と魔物の死骸ですが、
ここの魔物の死骸からは素材入手が期待できないので、
稀に魔物が持つ宝箱に期待するしかないのですが、
芳しくはありません。
「手持ちのマナポーションがあと6個だから、いよいよもって、ヤバイわねぇ」
そうぼやきつつ、ケレシス様は”練者の腕輪”の地図機能を
私たちにも見えるように空中に開きながら迷宮内を歩かれています。
私たちの隊列は中衛班の前方100m地点に前衛班として
ケレシス様の劇団員兼パーティメンバーである密 偵のカサンドラさん、
騎士のルイスさん、カリュクス所属冒険者の重 戦 士のペータさん。
中衛班にケレシス様、私、ローラ、リリィ、サラ。中衛班の後方100mの後衛班にケレシス様の劇団員兼パーティメンバーである剣士のヒルダさん、同じく軽 戦 士のマチルダさん、カリュクス所属冒険者の魔法剣士のパルドさんの順で
前後どちらから攻められても対応でき、且つ、カサンドラさんとマチルダさんは
ルイスさんとヒルダさんと交代でスキルの【探 知】で周囲を警戒しています。
当初、特別扱いせず、サラとローラも前衛班もしくは後衛班に組み込んでもらうようお願いしたのですが、
「う~ん、そんなつもりはないのよ。
妹狼ちゃんもローラちゃんもうちの子たちと違って前衛職じゃないでしょ?
どっちも前衛になりうる状況で、ここだと挟み撃ちにされる可能性も
十分考えられるから、魔法と弓で援護するための中衛班よ。
それに妹狼ちゃんは面子のなかで唯一MP回復薬が作れる錬金術もちだから、
回復魔法の使い手が多いこのパーティのある意味生命線ね。
それでも納得してもらえないのなら出て行ってワタシたちと別行動してもらうしかないのだけれど」
苦笑いしつつ、ケレシス様はそう仰りました。
「さしでがましいことを申し上げて、すいませんでした」
「うんうん、いいのよ。
メイドちゃんの立場と気持ちを考えれば当然のことだもの。
ここまで気が回るメイドちゃんがいる、しおんが羨ましいわね」
そうケレシス様は笑顔を浮かべて言われました。
「やっぱり魔術の使い手が複数いると違うわねぇ。
下っ端ミノ公にも魔術効き易いから戦闘がラクだわ。
ここを出たあとメンバーのなかに必ず1人以上は魔術使えるのを入れるようにしないとね」
懐のメモ帳に書き込みながらしみじみケレシス様は言われました。
本来、ケレシス様たちの劇団員の数は3桁に届く数なので、
中には魔術師がメインの方、スキルとして魔術が使える方も
いらっしゃるそうですが、ここにいるのは劇団の花形、体力のある方々のたっての希望と舞台の脚本を担当しているケレシス様の息抜きを兼ねて
ポセイドン神域に気分転換の旅行に来られていたそうです。
カリュクス所属冒険者のお2人は女だけの旅を懸念したポイエインの首脳陣が気を遣って雇った方々で、カリュクスのAランク冒険者で冒険者としては上位に入る方々です。しかし、ヘンリーやクオル、シオン様たちの動きとどうしても比較してしまうのはしょうがないのでしょうか。
Aランクとはいえ、彼等の動きに時折、無駄と反応の鈍さを感じてしまっています。
「団長、前方850m先にミノタウロス複製種4体と
グレイタウロス2体が接近中」
カサンドラさんが慌てた様子で伝えてきました。
敵の規模はこれまで戦ってきた数のおよそ2倍です。
そして、カサンドラさんの報告直後に今度はマチルダさんが駆け込んできました。
「大変です!
900m先からミノタウロス複製種8体とグレイタウロス4体が接近中です」
「ッ! まずいわ!!
マチルダは急いで後衛班に伝令。
速やかに前衛班と合流して前方の敵を殲滅。
メイドちゃん達も前衛班と合流し、
その後方から遠距離攻撃で敵集団を攻撃して弱らせて!
このままだと前後から挟み撃ちにされてタコ殴りよ!!」
「「はい!」」「畏まりました」
どうやら、覚悟を決めなければならないときがきたようですね。
シオンサイド-------------------------------------------------------------
『ご主人様、リリィ様たちを発見しました』
もう何回上り下りしたか数えるのも面倒になったのでやめたが、
階段を下りた先で褐色肌に白いワンピースを纏った緑髪の精霊神少女、
ドリアードが淡々と教えてくれた。
「ようやくか。しかも、まだまだかなり距離があるな……、戦闘中!?
しかも、前後から100体以上の挟み撃ちか。このままではまずいな」
「姉ちゃん達が危ない!?」
「待て、ヘンリー! アン、クオル、ヘンリーを止めろ!!」
「分かった」「はい」
俺は今にも駆け出しそうなヘンリーを制止して、
アンとクオルにヘンリーを抑えるよう指示する。
2人はヘンリーの両腕を押さえ込んだ。
いくら銀狼族のヘンリーでも精霊魔術で肉体強化したアンとまだ幼いとはいえ
ポセイドンの血をひくクオルの拘束は簡単に外せない。
「離せ! 姉ちゃんたちが危ないんだ。なんで止めるんだよ兄貴!! わぶッ」
俺はウンディーネを片手間で召聘し、
冷水を頭に血が上ったヘンリーへぶちまけさせた。
「頭は冷えたか? ここからお前が全速力で駆け出しても間に合わない。
リリィたちがいる所に到着する前に全てが終わってしまっている!」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!?」
「……全く、人に頼らず少しは自分の頭を使え」
俺はヘンリーに説教しながら、嘆息しつつ、
3つの召喚スキル【セフィロトの召喚陣】、【ルーンの盟約陣】、
【聖人の秘蹟】を発動させた。続いて、とっておきを召喚する手順をなぞる。
「……なにも出てこないじゃないか。兄貴」
大人しくなったヘンリーが怪訝そうあな反応を返してきた。
「ああ、ここに召喚したのではないからな。
これでしばらくは時間が稼げる」
そう言って、俺はアイテムボックスから黄金の刀を取り出した。
『……主よ、我のことなど忘れられてしまったと思っていたぞ』
若干、涙目で拗ね気味なアリスが白いワンピースを纏った金髪ロングで
灼眼の美幼女に実体化して、恨み節をぶつけてきた。
「すまない。アリスの斬れ味が凄すぎて使うに使えず、
使いどころに困っていたんだ。
そうだな、今後は刀状態で腰に差しておこう。
今回は少し無茶な使い方をするが黄金の剣でなければできないことだから、
申し訳ないがその斬れ味を活用させてもらうぞ」
「ん?
今後いつでも我を振るってくれる主の力になれるのなら我は構わんぞ!」
俺の謝罪と腰に差しておくこと約束をしたことに気をよくしたアリスは
満面の笑みで答えてくれた。
「なにをするつもりですか、シオン兄さん?」
「悪いが説明する時間も惜しいから始めさせてもらうぞ。
この方法はできれば取りたくなかった手段だが、
今回は人命がかかっているからな。できるようになっても絶対に真似するなよ」
俺は何をするのか尋ねてきたクオルに釘を刺し、
アイテムボックスから特殊な意匠を施された大理石でできた箱を取り出した。
リリィサイド---------------------------------------------
「ケレシス様、最後のマナポーションです」
「……そう、ありがとう妹狼ちゃん。
悪いけどそのままマチルダたちへの援護射撃をお願いできる?」
「分かりました」
サラはケレシス様にできあがったマナポーションを渡して、
弓を構えて矢を番えて放ちました。
当初は戦力を比較的敵の数が少なかった前方に集中したことで
一時的にですが切り抜けることができましたが、
ソフィが召喚して後方の足止めをしていた石巨兵を突破され、
私たちが迷宮の曲がり角に到達したところで追いかけてきた敵に追いつかれ、
更に前方から再び現れた敵集団に襲撃され、追い詰められてしまいました。
「メイドちゃん、範囲回復魔術を各グループにお願いね。
それとこれを渡しておくわ」
そう言って、ケレシス様は先ほどサラがケレシス様に渡した
最後のマナポーションを私に渡しました。
「ケレシス様!?」
「いいのよ。しおんと約束した手前、メイドちゃん達はなんとしても
この死地から逃がすわ。勿論、余裕があったらワタシたちも逃げるから」
そう言って片目を瞑って笑いかけてきたケレシス様に
私は返す言葉がありませんでした。
「こらこら、ちゃんと遅れずについてきなさいよ」
足を止めていた私にケレシス様は軽く注意して軽い足取りで
前衛に歩み寄りました。
「カサンドラ、こっちとマチルダの方、どちらが敵の層が厚い?」
「……こっちの方が厚いですね。
向こうはグレイタウロスなどの質重視で、
こっちは下級ミノタウロスの物量で押してきています」
「そう、これより血路を開く! 殿はペータ殿。お願いできますか?」
「ああ、任せろ。生還して報酬にはきちんと上乗せしてもらうぜ!」
ケレシス様の決断に重 戦 士のペータさんは豪快に笑って答えました。
「ええ、きっちり払うのできちんと生還してくださいよ?」
ケレシス様はそう笑ったあと、
吟遊詩人のスキル【英雄の讃歌】を使い、
両手に長剣を持って、流れるような動きでミノタウロスの集団に肉薄し、
次々に斬り伏せて行きました。
ケレシス様は隊列の先頭に立ち、
踊り子の最も攻撃力が高いアクティブスキル【剣 の 舞】を使い、
その使用不可時間のときは武器を双 剣のエンハンスソードから
魔槍、黄薔薇の滅槍に持ち替えて、
アクティブスキル【騎槍の舞踏】を使って、
100体を超えるミノタウロスたちを倒していき、宣言通り、
ケレシス様は通ったあとに(ミノタウロスたちの)血の路を作りました。
しかし、襲い掛かってくるミノタウロスたちの数は
なぜかいっこうに衰えることなく続き、
適宜、サポートについていたカサンドラさんがマナポーションで
ケレシス様のMPを回復していましたが、
遂にマナポーションが底を突き、足を止められてしまいました。
敵はミノタウロスの上位種、
グレイタウロスとグレイタウロスの更に上の存在、
見たことのない牛の魔人がいました。
「ふん、ここまでやるとは予想以上の苗床だな。
しかも、後ろには上玉がたんまりか。今回は大当たりだな。
おい、殺しさえしなければ手足は折れていても構わん、
まずはあの赤毛の女から仕留めろ」
人語を話すその魔物の命令に従い、
グレイタウロス4体が同時にケレシス様に襲いかかりました。
「くッ、この、しまッ」
ケレシス様は2体の攻撃を避けましたが、
追撃してきた1体の斧をエンハンスソードで
受け流してしまいました。
グレイタウロスの戦斧には電撃系の魔術が付与されており、
触れてしまうと高確率で電撃によって、麻痺状態になってしまうのです。
私はすぐに状態回復魔術でケレシス様の麻痺を回復しました。
ケレシス様が無事動けるようになったのを確認したときに
「リリィ姉様!」「姉様!」
ソフィとローラが叫んでいるのが聞こえ、
その理由であるグレイタウロスの戦斧が目前に迫っているのに気づきました。
完全にグレイタウロスの戦斧の攻撃範囲に捉えられていた私は
無駄と分かっていながら、腕を交差して身を護ろうとしていました。
そんな私の脳裏に不意にシオン様のお姿が浮かびました。
そして、………。
急に一切の音がまるで時間が止まったかの様に鳴り止みました。
私はその状況を怪訝に思い、視界を覆っていた腕を外すと、
私の目の前に巨大な白い盾を各々の手に持って、グレイタウロスの戦斧から
私を護ってくれている一角獣を連想させる白い兜を被り、白い鎧を巨大なその身に纏った見覚えのある武具精霊がいました。
次いで、その白い巨体の影に闇色の魔方陣が展開し、
漆黒の大剣を各々の手に持った、白い巨体の武具精霊の対になる存在がその姿を一瞬見せた後、
黒い旋風が駆け抜けました。
辛うじて猛攻を避けているケレシス様に襲い掛かっている
グレイタウロスたちを一刀のもとに斬り伏せ、
ケレシス様を私の傍まで下がらせた後に自身は飛び退き、
私を護るように立つ神 聖 卿の横に並びました。
「くそう、こいつ等、一体どこから湧きやがった!?」
人語を話す灰色の牛の魔人が忌々しげに言った一方で、
死を覚悟していた私はシオン様が気に入っているこの2体の武具精霊が現れた
意味を反芻していました。
「姉様、大丈夫ですか?」
「ええ、神 聖 卿が護ってくれたおかげで大丈夫よ」
心配そうに訊ねるローラに無事を伝えると、
「リリィ姉様、これはこのエリアにマスターが到着されたということですよね?」
興奮冷めやらぬソフィが同意を求めてきました。
「そうね。すぐにお見えになるでしょうね」
「ふん、誰だか知らんがそいつが来る前にお前達をいただいていけばいいだけだ。
たった2体の木偶人形が加わった所でこの戦況は覆せるものではないわ!」
灰色の牛の魔人がそういい捨てた直後、
私と牛の魔人の間にある壁の方から次第に大きくなる破壊音が聞こえてきて、
次の瞬間、無防備な私に襲いかかろうとしたグレイタウロスが
破壊された瓦礫と壁を貫通した黄金の剣閃に飲まれ、
五体をズタズタに斬り裂かれて絶命しました。
「なんとか、ぎりぎり間に合ったみたいだな」
目に見えるほど濃密な黄金の魔力と見たことのない黒光りする鎧を全身に纏い、
待ち焦がれた私たちの主が、キンッと黄金の刀を鞘に納めて、
真紅の外套を翻しながら、壊した壁から悠然とその姿を現しました。
御一読ありがとうございました。




