第14話 新人指導! 苛め? いいえ、教育です!!
※第10話の流れの続きになります
---シオンサイド---
「お前の所為でまた失敗しちまったじゃねぇか!」
「てめぇの所為だろが! ふざけんじゃねえ!!」
今日は一旦、店に戻って休むとしようと考えているとお互いを罵り合う声が
店内に響いた。
一瞥すると、年若い男の冒険者2人組みがお互いの胸倉掴んで殴り合いをしようとしていた。
店内にいる冒険者連中の視線を集めているのに気が付いていないらしい。
「お前等やめないか。全く、……お前たち2人の所為で仕事を任せた
こっちの信用が落ちているんだぞ!
新人だからと思って数回はめこぼししてやっていたが、
こうも立て続けに失敗されたのではなあ。
次任せた依頼を失敗したら、お前等登録抹消だからな」
ギルドマスターであるガーヴィンは制止して、疲れきった顔でそう告げた。
「ちょ、それはないぜ、ギルドマスター!」
「そうだぜ! もとはといえばこいつが!!」
「なんだと!?」
「だから、やめろと言っているだろうが、この大馬鹿野郎どもが!!」
遂にガーヴィンの堪忍袋の緒が切れてしまったらしい。
こめかみに青筋浮かべて、拳骨を2人の頭に落としていた。
「「~~~~~~~っぅぅぅ」」
2人は同じしぐさで頭を抑えてうずくまっている。
かなりいい音がしたからあれは痛いだろう。
袖を引かれているのに気がつき、そちらに視線を向けると、
アンが小首を傾げていた。
「旦那様、依頼に失敗するとギルドの登録って消されるの?」
「失敗の内容にもよるが、普通は登録が抹消されることはない。
抹消対象となるのはギルドのルールブックの……ここに書いてあるように、
自分の受注できるランクより上の依頼を受け続けて失敗した場合や
ギルドの信用を落とすような振る舞いをして依頼主に迷惑をかけた場合が
分かりやすい事例だ。他にもいろいろあるが、必ずギルドマスターが直接通達する
ことになっている」
「ふむふむ、なるほど。じゃあ、あの2人は登録抹消にリーチがかかったの?」
「そうなるな」
「ふ~ん」
新米冒険者であるアンにルールブックの該当ページを開いて説明してあげると、
納得したようだ。さて、店に帰るか。
「お互い足引っ張りあうのに精だしてりゃ、できる依頼もできる訳ねえだろうが!
全く……お! そこにいるのはシオンじゃないか!? 丁度いいところに来てくれた。ちょっと緊急でお前くらいにしか任せられない依頼が来ているんだが……」
「話しは聞こう。受けるかどうかはそれからだ。
すまない、アン。店に帰るまでもう少しかかりそうだ」
「ん。気にしないで。アンも一緒に話しを聴く」
帰ろうとしていた俺たちを目ざとく見つけたガーヴィンが声を掛けてきた。
俺たちにとっては間の悪いことこの上ないな。
今まで人が多いところにいたことがないので、
気疲れしているであろう、アンに謝った。
先ほど少し疲れが見えたアンの方はどうやら、
依頼に興味をもったようだ。
「じゃあ、立ち話で済む話じゃないから、悪いが、
シオンたちは1刻後、俺の執務室まで来てくれ。
ウィルはあの資料を至急俺の部屋に持ってこい。
アンジュはこちらの2人に飲み物を提供して、
1刻後に俺の執務室まで案内しろ。くれぐれも粗相がないようにな」
そうして、ガーヴィンは部下に指示を出しつつ足早に去っていった。
「では、こちらへどうぞ」
受付嬢の1人が俺たちをギルドに併設されている酒場の奥にある個室へ
案内してくれた。
「お好きなお飲み物をどうぞ。費用はこちらが持ちますので」
受付嬢、アンジュが飲み物を勧めてくれるが、どうにも腑に落ちない流れだ。
「……それを聞くとなにやら面倒な依頼を受けさせられそうだが、
どんな依頼なんだ?」
「詳しくはギルドマスターから説明があると思いますが、
端的に言えば、モンスター食材の収集です」
この辺で捕れる物で俺クラスの冒険者に頼むのであれば大体見当がつくので、
敢えて訊くのは止めた。
替わりに俺は酒場で一番高いノンアルコールの飲み物である
シュバルツウーロンをジョッキで、アンにはカリュクス名物の1つである
ダイナミックエキセントリックパフェを注文した。
どちらも並の飲み物に比べれば値段がいくつも頭が抜けている代物で、
特にダイナミックエキセントリックパフェは扱っている店ごとに
独自のアレンジがされており、ここの酒場ではカクテル用にも使われる
フルーツが色鮮やかに盛り付けられている。質、量ともにまさに名前負けしない1品だ。
アンジュの笑顔が引き攣っていたが、知ったことではない。
これからこっちは一方的に厄介ごとを押し付けられるのだから……。
ジョッキを傾ける俺の横で、アンは一見無表情だが、
分かる人には分かる喜色を浮かべ、ものすごい勢いでパフェを制圧していった。
「失礼します。シオン様とアン様をお連れしました」
「おお、時間通りだな。入ってくれ」
ガーヴィンの指示に従いアンジュは俺たちをギルドマスターの執務室に
案内して、自分の仕事に戻っていった。
ガーヴィンは椅子から立って、俺に紙束を渡してきた。
「こいつが今回の依頼だ。シオンのレベルであれば簡単すぎるかもしれないが、
そっちの嬢ちゃんを連れて行くなら丁度いいかもしれないな」
俺はその言葉には応えず、ガーヴィンに渡された資料を読み込んでいく。
今回の獲物は『ホースディア』。
馬に鹿の角が生えている魔物で端からみていれば害はないが、
非常に気が短く、怒ったり、狂乱すると一部の魔物がHPが一定以下になると
攻撃力が上昇し、防御力が下がって攻撃パターンが変化する[激怒モード]に
なって角を振り回して暴れる危険な魔物だ。
冒険者がBランクからAランクにあがる際に討伐部位である角を集める必要があるため、
ZOFがゲームだったときに既にSランクになっている俺にとっては
何度も倒している相手でもある。
ちなみにこの魔物の肉は魔物肉の中でも上級に分類されるもので、
貴族たちのパーティーなどには必ずと言っていいほどテーブルの上に並んでいる。味に関しては馬肉みたいなもので好みが分かれるレベルのものだ。
市場価格は魔物の危険度に合わせてそれなりに高値で取引されている。
「……了解した。期日の明後日までに用意するが、
前日に達成した際の報酬の上乗せは発生するのか?」
「ああ、そっちの方はきちんと発生する。
今日中達成だと20%上乗せ、明日だと10%だ。
そして、分割での提出は不可だ」
「分かった。引き受けよう」
「ああ、助かるぜ。なにせ、狩れる人手がサンク王国の発行した依頼で
ポセイドン神域に行っちまって困っていたんだ」
「なにかあったのか?」
「さあ? 詳しくは分からないんだが、
サンク王国の宰相がAランク冒険者を集めてエティオピアに行ったって話しらしい。
あそこの王族は評判は悪いらしいが、土地は貿易の要所として機能しはじめたって話しだからな」
「そうか……」
どこからか情報を手に入れたケイが動いたのだろう。
休戦協定も今年までということを俺は思い出しながら、
ガーヴィンの話しに頷くと、ガーヴィンはため息を1つ吐いたあと、
机の引き出しから2つの赤と青に輝くこぶし大の魔石と2つの書類を取り出し、
書類のほうを俺に渡してきた。
「これは個人的な指名依頼で別に断ってくれても構わないんだが、
さっきギルドの受付で馬鹿騒ぎをした2人を指導して、冒険者を辞めさせるか、
使いものになるようにして欲しい。報酬はこのルビーアイとアクアロドンの魔石だ」
ガーヴィンの提示した報酬の魔石はいづれも遭遇するのが希少な魔物の亜種たちの魔石であった。
「なんであの2人をそこまで気にかけるんだ?
ギルドマスターとしては気にかけすぎだと思うが?」
俺は2つの魔石の価値と先ほどの2人を比較し、
遠慮なくガーヴィンに尋ねた。そのガーヴィンは今度は深いため息を吐いて、
「あの2人は俺の昔の仲間の忘れ形見たちでな。
あいつらの両親たちは結婚を機に冒険者を引退して商人に転身したんだが、
ガイア神域にあるアレス神域への交易路を通過中に魔物の群れに襲われて亡くなったらしい。
そのときあの2人はたまたま俺に預けられていてな。
以来、俺があの2人の親代わりとなって、面倒をみているんだが、
それもあの2人が成人したからもう潮時だ。
その2つの魔石は俺が仲間たちに2人のお守りの報酬に
渡されたやつだ。前金として好きなほうを1つ選んでいいぞ」
「……これを先に貰おう」
気前よく提示された条件の魅力に俺は数秒悩んだあとに
アクアロドンの魔石を選んだ。
魔石は文字通り、大気中に存在する魔力が溜まった石であり、
魔術の触媒や魔道具の回路に使われる代物で、レベルが高い魔物や遭遇率が低い希少種、亜種の魔石は高値で取引されている。
余談だが、魔石の価値は希少種の亜種>亜種>希少種>通常種だ。
ここでいう希少種の亜種というのは起源種を指す。
亜種は通常種が強力な魔力要因で突然変異したもので希少種は魔力以外の環境で変異した個体を指す。
俺が選んだアクアロドンはウォーターサーペントの上位種、
アクアサーペントの亜種だ。
名 前の通り、水系統の魔術を扱う難敵でランクはA+。
1体でAランク冒険者の6人パーティ2組相当の戦闘力を持っているといわれている。
俺はこの魔石を換金するのではなく、
アン用の武器の素材の1つとして使うことに決めて、
監督する2人の資料に目を通した。
さっき一瞥したときに髪の色が金と黒だったのは覚えていたが、
金髪のほうがカイ。黒髪のほうがリュウというらしい。
カイは長剣を得意とする前衛系戦士職の剣士で、
初級であるが補助魔法と回復魔法を使えるらしい。
一方のリュウは同じく前衛系戦士職ではあるが、格闘士で、
こちらも初級の全属性の攻撃魔法が使えるとある。
「前衛の部分は被ってはいるが、他の部分では被っていない部分が多いから、
協力すればバランスのいいコンビになる。
だが、あの2人はお互いをライバル視していがみ合ってばかりで
微塵も協力しようとしやがらねえ」
「それで次の失敗で登録抹消、しかし、必ず成功するための根回しか?」
「ああ、これでもう3回依頼を失敗しているからな。
俺としてももういい加減庇いきれん。
個別で依頼を受けさせようにも手ごろなのがなくてな」
「分かった。先の依頼に2人を同行させる形でいいな?」
「ああ、ついでで悪いが、このあと2人と顔あわせを済ませてくれ」
ガーヴィンは肩の荷が下りたような表情をして、そう告げた。
ガーヴィンの執務室を後にし、アンとともにギルドのホールに戻った俺を
アンジュがカイとリュウとともに待っていた。カイは俺を訝しげに見つめ、
リュウの方は頭を掻いていた。
「シオンさん。こちらが剣士のカイ、格闘士のリュウです」
「はじめまして、早速で申し訳ないが俺は貴方の実力を知らないから、
模擬戦をしてくれないか?」
アンジュの紹介のあと、カイは間髪入れずにそう言ってきたので、
俺は内心でため息を吐いたが、頷いた。
アンジュの方もやれやれといった表情で、
「では訓練場へ移動しましょうか」
そう提案して俺たちを先導した。
訓練場で鍛錬しているものはおらず、
俺たちの模擬戦に興味をもった野次馬たちが
遠巻きに観戦する姿勢をとっていた。
既にどっちが勝つかといった賭け事も仕事を片付けたガーヴィンの管理の下で始まっており、
認識阻害の双子座の仮面の隠蔽効果でカイの方が若干だが、
勝率が高い設定のようだ。
「それでは僭越ながら審判役は私が務めさせていただきます。始め!」
愛刀の一振りである『天羽々斬』を腰に差した俺と
剣を鞘から抜いたカイが向き合う間でアンジュが開始を宣言した。
「……」
なぜか正眼に構えようとして隙だらけになったカイに俺は嘆息する。
「……ッ!」
俺の嘆息に反応して怒気を顕わにして、間合いを詰めてくるカイ。
俺は呆れ、さっさと終わらせることにした。
詰め寄ってくるカイの行動を予測し、先回りをする。
「ふんっ!」
「ぐはぁっ」
アクティブスキルである【柄撃ち】を発動させ、カイに当身を入れる。
俺は吹き飛ぶカイを追い越し、がら空きの背中を蹴り上げて、
今度はカイを空中へ飛ばし、更にカイを空中へ蹴り上げ続け、
天井近くに到達する。
「【隕 石 強 撃】!」
俺は体術スキルの【隕 石 強 撃】の
とどめの踵落としをカイの脳天に極め、
一連の一方的な展開を呆然と見つめている観客たちが待つ地上へ、
ボロ雑巾のようになったカイを叩き落とした。
御一読ありがとうございました。
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