表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/66

第3話 ゴブリンの巣討伐依頼/前夜のサンク王城

※後半は視点が変わります。


改行の修正を行いました

2015/05/17

「どうか、シオン様、我等(われら)をお(すく)いください!!」


 時刻は朝7:15。近辺で早朝の素材狩猟(そざいあつめ)

近場の泉での水浴びを終えた俺はヴェスタに連れられて集落の中心にある

家にいた。

 そして、開口一番、目の前の老人、アルケー集落の(おさ)

土下座する勢いでゴブリンの(ネスト)への討伐を俺に嘆願してきた。


 この長とは昨日、軽く顔合わせした程度の面識で余所余所よそよそしく、ほとんど言葉交わしていないのにこの態度は一体??

と困惑しているとヴェスタが申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「すいません。シオン殿。昨日の戦闘でのご活躍が私の部下から

この長の耳に入ったようです。できれば、私たちも協力していただけると

助かるのですが、どうでしょうか?」


 昨日の戦闘からなんとなく、厄介事を手伝わされる気がしていたが、

どうしたものか。

 この集落も規模こそ小さいが、住人は余所者(よそもの)の俺にも

いろいろ教えてくれて親切だ。

空気も活気があってゴブリンに滅ぼされるのを黙って見捨てるのも

寝覚めが悪いな。よし。


「わかった。俺はヴェスタ殿の騎士団からの非公式の依頼という形で

協力するのはどうだろうか? 

俺は冒険者だからアルケー集落からの依頼となると、

いろいろと厄介なことになると思う」


 騎士団が任務できているのに集落が冒険者に依頼して、

その冒険者がゴブリンを独力で退治してしまうのは

騎士団と集落の関係にとってはマイナスでしかない。

 今回、騎士団は複数で冒険者は召喚士の俺1人だが、

量と質の違いの問題で自惚うぬぼれなく言えば、

戦力的にはレベルリセットで鍛えまくった俺だけでゴブリンが1000匹

いようが片付けることは十分可能である。

 しかし、それをやってしまうと騎士団の面目が潰れてしまう。

 面目が潰れると団長の責任問題になり、騎士団の規模縮小や

団長の更迭などが行われる。

それをやられるとおそらくアウケー集落の様な末端の人たちが割を食うことになる。

 そして、この神域の防衛力であるサンク王国の国力低下、

民衆の不満累積(るいせき)という負のスパイラルが発生する。

それはマズイ。でも、報酬の問題もあるどうするか。

 加えて、通常の巣を作るレベルのゴブリン討伐依頼の報酬は

この集落の規模では用意できないのは長もわかっているはずだ。


「……分かりました。私がシオン殿に依頼するという形でよろしいですね?

報酬は前金で銀貨1枚で、残りは成功報酬ということで討伐後、

責任を持ってお支払いいたします」

「わかった。その依頼受けよう」

「おお、ヴェスタ騎士団長様、シオン様、ありがとうございます」


 ヴェスタはこちらの懸念けねんを察したようで長に助け舟を出した。

しかも、前金で銀貨1枚とは多過ぎる。

 昨日助けた分の報酬をさり気なく上乗せして、

ねじ込んで、こっちの退路たいろを断ちやがった。

 温和そうに見えて、やはり騎士団長を任されているだけあるな。

それと、長もヴェスタの意図に気づいたようだ。

まぁ、受けたからにはきちんと働きます。

 

「ところで、問題となるゴブリンの巣の位置とゴブリンの戦力は把握して

いるのか?」


長が帰って、周囲に人がいないのを確認してから、

当然の疑問をヴェスタに投げる。


「昨日の到着後に集落の馬を借りて派遣した斥候の知らせによりますと、

ゴブリンの巣はここから西に半日歩いたところ、

アルムの樹海の入口前の道を南西に進む獣道(けものみち)の先にあります。

 見張りを立てているようで遠目でしか確認できなかったようですが、

最低で30匹はいるものと思われます。

加えて、昨日発見したジェネラルがいたことから、

少なくともキングの存在を念頭に動いたほうがいいとですね」


ヴェスタは惜しみなく昨日の戦闘経験と知りうる情報、

考察を提供してくれた。


 最低で敵は30+α(アルファ)か。

確かにおそらく、今、辺境に動かせる精鋭であろう

ヴェスタの騎士団18人だけではきついな。

それに昨日の遭遇戦の敵の規模を考えると……。

 今は調べるのは後回しにするか、

最悪、騎士団も知ったらマズイかもしれないしな。


「出発は何時にする? 俺はいつでも構わないが?」

「では13時過ぎに集落の入口で集合して、出立しましょう」

「よろしくお願いします」


ヴェスタの言葉に頷く俺に長は深く頭を下げてきた。








****************************************



 シオンが目覚める1日前。




「アルムの樹海近隣に開拓者たちが作りましたアルケー集落近郊に

ゴブリンの巣の存在が確認されました。規模は確認できておりません」


 若手の武官が玉座に座る私にそう告げました。

 彼の後ろには数人の文官と武官が報告のため並んでいます。


 私、各務 凛璃りりことイリア・スペクルムは

アテナ神域サンク王国の国王をやっています。

だいたい2年前位にVRMMORPG『Zodiac Frontier Online(ゾディアック 

フロンティア オンライン)』に酷似(こくじ)したこの世界にZFO(ゾディフロ)のキャラデータそのままに転生もしくは召喚されたようです。

本来なら、黒いはずの私の髪が、ゲームのプレイキャラクターと同じ、

プラチナブロンドに変わっているのもその根拠の1つです。


「その件に関しては最寄りの都市に駐在している辺境騎士団から人員を

選抜して、ヴェスタ騎士団長を派遣して対応します。彼には(ネスト)

規模の調査、可能であれば殲滅(せんめつ)をお願いしましょう。

巣の規模が殲滅できないならば報告が入り次第、検討します」


(かしこ)まりました。早馬(はやうま)を出し、対応します」


私の指示に従い、その場にいた武官は謁見の間から退出しました。


 この世界に来てから魔物との大きな戦争とその後片付けに明け暮れ、

それが終わったら山積みになった仕事の処理を淡々とこなす毎日。


 不幸中の幸いか、私は同性の長い付き合いの親友と一緒でした。

 彼女、(さかき) 恵子ことケイ・オルニスの補佐がなければ

この国もこんなにはやく持ち直さなかったでしょう。

 以前は神同士の関係が緊張していたポセイドン神域の国々と通商条約は

結べませんでした。

 他の神域との鉄道敷設ももっと時間がかかっていたのは疑いようがない

です。


 ゴブリンの巣の報告以後は特に変わった報告はなかったので、

執務室に移動して、国王の認可のいる書類を確認して判を押すのが

ここ1年半での日課になってます。


「はぁ……」


 日課の仕事は残すところ数枚のところでため息が出てしまいました。

 原因はホームシックではなく、生き別れることになった双子の兄のことを

考えていたからです。

 私と親友の恵子がこの世界に来たのだから兄も来ているはずと

最初の半年は期待していたのですが、練者の腕輪のメニューコマンドの

フレンドリストを毎日寝る前に確認しても兄のプレイキャラである

シオンの名前はログイン中の白文字で点灯していなくて、オフラインの状態の暗いまま。


「疲れているわね。大丈夫…ではないみたいね。その様子だと」


気づいたら、モノクルをかけて高位の魔術師が(まと)える赤いローブ、

緋炎ひえんのローブに身を包んだ赤いセミロングの髪を揺らして、

見知った【ウィザード】のスレンダーな体型の女性、

私の片腕、ケイがつり目がちな瞳でこちらを心配そうに見ていました。


「ええ、流石にここ数週間お城で書類仕事ばかりだと気が滅入るわね」

「他の人なら誤魔化せるかもしれないけれど、

あたしは(ごまか)されないわよ。イリア」


 笑顔で体の筋を伸ばして、肩こりをほぐす私にケイはため息をつきつつ、

そう返してきました。

 その後、やれやれと再度ため息を吐くとともに彼女は1通の地図付きの

多くの文が書かれた書類の束を机の上に出しました。


「これはなに?」

貴女あなたのお兄さん、各務 司、シオン・スレイヤ・ヴァイザードがポイエイン国で経営しているお店がある街の地図と付き合いのある店舗リスト、店員と出店してからの経営情報。

 フレンドリスト見ればわかると思うけれど、本人は不在なのは相変わらずだけどね。」


 資料に記載されている2人のお店の店員はよく知っている人物たちでした。

知っている理由は兄さん主導でクリアしたプレミアムレアクエストで

兄さんが助けて、身元を引き取った人たちです。

 種族は妖精だったり、人狼の希少種である銀狼族ですが、

どちらも可愛い(・・・)女の子だったのを覚えています。


「どうして私にこれを渡すの?」


 兄さんと興した国の混乱を鎮めるため、

それを理由に避けていた事柄に向き合うよう彼女が

うながしているのを感じましたが、敢えて尋ねると、


「そうね、とりあえず、

1週間くらいはどこの国も目立った動きがないだろうから、

あたしが代理で仕事捌いとくわ。イリアはそのお店に行きなさい。

本人との和解はまだできないかもしれないけれど、

あたし達の不手際で居場所を追われたのは

彼の従者である彼女たちも一緒なんだからさ」


「……」


「店員の子たちにしても顔見知り以上ではあるんでしょう? 

様子見に行くくらいはしなさいな。シオンとはこっちに飛ばされる前でも

1年はきちんと顔をあわせていないんでしょう?」


ZFO開始からお互いの時間を合わせて一緒に過ごしていた私と兄さんが

全く顔を合わせなくなったのは端的に言えば、私を一方的に慕うチームの人たちが兄さんに嫉妬して、罠にはめてチームから追い出したからです。

 真相ははアテナ神域にあってアレス神域に協力する国の謀略でしたが、

当時の私はショックで三日間寝込むことになりました。


「はいはい。とにかく、明日から1週間くらいはオフでいいから

行きなさい。あ、公式の街への訪問ではないから、

無駄かもしれないけれど、きちんと素性がバレないようにしないと

だめだからね。

 その街にはここから馬車で大体3日の位置にあるから。馬車の手配? 

明日朝発でもうしているわよ。残った仕事はもうあたしが片付けとくから、

今日はもうゆっくり休んで明日の出発に備えなさい」


ケイはそう言うと背中を押して私を執務室から追い出してしまいました。


 私は自分の部屋に行き、アイテムボックスを確認して、

必要な物を部屋に設置している保管箱から取り出して準備を整えると、

桶に貯めていた湯で体の汚れを拭き取って、寝間着に着替えてベッドに

横たわりました。

 お風呂に入って寛ぎたいところでしたが、私の私室には浴室が付いていません。

 早急そうきゅうに解決したい問題ですが、現状のサンク王国では

お風呂を沸かすための装置を作るのにかなりお金がかかるため、

なかなか解決できません。

 そういえば、ポイエイン国では公衆浴場や浴槽のマジックアイテムを

販売しているという情報がありました。

いい機会なので、ついでに見に行きましょう。


 アイテムボックスを兼ねている練者の腕輪のメニューコマンドから

フレンドリストを選択して、この世界に来てから毎日欠かしていない日課となっている

タブ分けしたチームメイト、付き合いのある他国の主要メンバー、

冒険者としてつながりのある友人のログイン状況を確認すると、

昨日はオフラインだった何名かがログインになっていました。

 挨拶と要件をまとめたメールをフレンド機能を使って送信しました。

返信がくるのは今のところ7割といったところです。

 最後に最愛の兄のキャラ名に期待を込めて視線を向けます……相変わらずオフライン。


「兄さん……」


私は練者の腕輪を外して枕元の小机に置き、眠りに落ちました。









***************************************


御一読ありがとうございました。



駆け足の展開になっていますが、

下書き段階で本筋を外れて過剰だった部分を

外した結果こうなりました。


視点変更には賛否があると思いますが、

今回はタイミング的にここしかなかったのと

今後の展開からの必要性から入れました。


頻繁ひんぱんに視点を変更する気はありませんが、

今後も必要に応じて誰視点かわかりやすい様に

入れていく予定です。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ