表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/66

第12話 外道死すべし! 盗賊魔術師パイアの最期!!

鼻息荒く突っ込んでくるグランドボアの『パイア(起源種(オリジナル)』の鼻先に蹴りを

くれてやって俺はこの猪の突っ込む方向を後ろにいる姉ちゃんたちに行かないように変えて、


「炎よ、我が声に応え、我が敵を貫け! こいつはおまけだ!! とっておけ!!!」


がら空きの怪物の背後へ特訓で覚えた得意の火炎魔術の1つ、

火の槍を飛ばす【フレイムジャベリン】を短詠唱で3本放った。

1本は外れ、もう1本は辛うじてかすって、体毛を焼くに留まり、

最後の1本はむこうが作り出した土壁に防がれてしまった。


「くそっ、まさか土系統の魔術が使えるとは」


俺は目の前のでっかい猪と対峙して自分の失策に気づいた。

それはこの魔物と相性が悪いとか、むこうの方が強いとかではなく、

俺の得意の火炎魔術で焼き殺してしまうと、倒した後で手に入る

グランドボアの肉質が落ちてしまうことだ。


 兄貴曰く、


「レア食材を高ランクの調理スキル保有者が調理に成功してできた料理を食べれば

きつい鍛錬に匹敵する効果を鍛錬につきものの疲れないで得られるから、

肉質を傷める火炎魔術を使って希少魔物(レアモンスター)は倒さないのが賢明だ」


目の前にはボア種の希少魔物(レアモンスター)であるグランドボアで、

起源種(オリジナル)という最上級の希少魔物レアモンスター


 更に、俺たちのパーティには王族に使える王宮料理人以上の

Sランクの料理スキルをもつリリィ姉と姉ちゃん、ここにはいないけど

2人と同等以上の腕をもつ兄貴がいるパーティーだから、

この千載一遇の好機を逃すのはおそらく、その料理から得られる恩恵の規模の

でかさを考えれば、俺の人生最大にして最悪の汚点になるだろう。


 加えて言うならば、俺の得意の火炎魔術を使えばグランドボアのパイアを

消し炭にするのが簡単なのは馬車を守っている相手のあらゆる情報を読み取る

看破(リード)持ちの御者ゴーレムのカペラから聞き取り済みで、

そんなことをすれば俺は姉ちゃんとサラからあのときみたいに

お仕置きされるだろう……。




 それはまだ俺と姉ちゃんとサラが銀狼族の里でようやく狩りにでる許可が下りて、

3回目の狩りにでたときのことだった。


「この野郎、燃え尽きろ! 【バーニングナックル】!!」


俺は襲い掛かってきた(ボア)魔物(モンスター)で森に住んでいる食用肉としては

なかなかの上物である、フォレストボアを当時覚えたてで、

碌に火力のコントロールができない腕と拳に炎を纏わせる

【バーニングナックル】を使って、思いっきりフィオレストボアを

殴り飛ばして腕に纏わせた炎で焼き殺してしまった。


 一緒にコンビを組んでいて、今夜の夕食にフォレストボアの肉が

食卓に並ぶことを期待していた姉ちゃんとサラは俺のとった行動に

2人は唖然あぜんとし、協力しなければならない狩りにおいて

1人で突っ走った結果、狩りの成果を下げたことを父ちゃんを交えて責められ、

その日からしばらくの間、罰として俺だけ食事は野菜ばかりの献立になっていた。

他の家族が美味しそうに肉料理を食べる横で俺は肉を食べることが

できなかったんだ……。


 その悔恨の記憶に引きずられそうになったが、

戦闘中であるのでなんとか気を取り直し、

姉ちゃんの召喚して伝令役になっているシルフを通して、

水と風の魔術が得意なリリィ姉にこの猪をしとめてもらいたい旨を伝えてもらった。


[分かりました。私とローラ、クオルで向かいましょう。

ヘンリーはソフィたちと連携して、あの盗賊の女魔術師の方を倒しなさい]


「「「了解」」」


リリィ姉の指令に皆の返答がきれいに続いた。



「ヘンリー、なんでリリィ姉さんに代わってもらったの?」


「あの猪がランドボアの上位種で更に起源種(オリジナル)がつくレアモンスターだからだよ。

あの肉はカペラに聞いたが極上ものらしい。

火系統の魔術が得意な俺だと、倒せても味が落ちるのは確実だから

代わってもらった訳だ」


「ああ、なるほど、あの時の教訓が活きている訳ね」


合流早々、サラが尋ねてきたので、簡単に返答すると、

サラは意地の悪い笑みを向けてきて俺の古傷をえぐりやがった。

 次の瞬間、俺とサラに向かってきていた火球が真空の刃で真っ二つにされて、

俺たちの後方に落ち、俺とサラの頭上に姉ちゃんの拳骨が落ちてきた。


「「~~~~っうううう」」


「2人とも、戦闘中に余所見が過ぎるわよ」


姉ちゃんは女盗賊のパイアから視線を逸らさずに俺たちを注意していた。


「ふん、お前たちなんてワシの相手をするには役者不足よ! 炎よ舞え!」


パイアの言葉に先ほどの火球より幾分小さい火球の群れが弾幕となって、

俺たちに向けて放たれた。


「俺に任せろ」


姉ちゃんとサラそう言って俺はケートスとの戦いの事後処理のときに

兄貴が見せてくれた【炎の壁(ファイアウォール)】を思い浮かべて放った。


 俺の作った炎の壁はその場に留まらず、パイアに向かってゆっくりと動く。

そこに飛来したパイアの放った火球は俺の作った炎の壁によって、

1つ残らず吸収されてしまうのだった。


「なにぃぃぃい?」


そのあまりの呆気なさにパイアが驚嘆の声をあげた。


「馬鹿な、このワシの【火炎の散弾(フレイムショット)】が飲み込まれた!?」


目の前の婆さんがなにやら驚愕しているが、

婆さんの炎に感じた違和感の正体に俺は気づき、

それ以上に驚かされることになっていた。


「どうしたの? ヘンリー?」


サラが俺の異常を心配して声をかけてくるが、

俺はそれには答えず、目の前の婆さんを睨み付ける。


「婆さん、あんた、殺した人間たちになにをした!?」


「ん? お主、気づいたのか? なかなかいい魔術の素養をしておるのう。

殺すのが惜しいわい。どれ、ワシの部下にならんか?

 この方法(・・・・)を使えばお主の火炎魔術も今よりも、もっと、

もっと強くなるぞ?」


そう言って、婆さんは手のひらに紫色のぼんやりした火を灯した。

その火は儚げに揺れて今にも消えそうな灯火ともしびだった。


「ふざけるな! 誰があんたのような死霊使い(ネクロマンサー)に師事するか!

それに俺にはあんたが足元にも及ばない兄貴がいるんだ。

こっちから願い下げだぜ!!」


「よく言ったわ、ヘンリー。あの魔術師が死霊使いということは、

そういう(・・・・)ことなのね?」


俺の言葉を褒め、確認してくる姉ちゃんに俺は頷いて答えるが、


「ちょっと、どういうことか、あたしに説明してよ」


話しに付いていけず、蚊帳の外に置かれたのか、

サラは不満顔で説明を求めてきた。


「魔術の行使に魔力が必要なのはわかるわね、サラ?」


「うん」


「魔力は精神が変化したもので、精神はつまるところ魂そのものだ」


「え、それって、もしかして、あのパイアって魔術師は……」


「そう、殺した相手の魂を吸い取って、自分の魔力にしているんだ!」


俺たちが向けた視線の先でいくつも皺が刻まれた顔に喜色を満面に浮かべ、

婆さんは口を再び開いた。


「うむ、ご明察じゃ。魂はいうなれば、魔力の塊。

生前に魔術の素養がなくとも人間誰しも魂はあるからのう。

死んだ人間は魔術を使えないのだから、ワシが使っても構わんじゃろ?

特に人間の子供の魂は魔力が上質なものが多くてのう。

特に、この魂はワシのお気に入り(コレクション)の1つじゃよ」


『あつい・・・あついよ・・・お母さん』


口という発生器官がないからこれは声ではない。

脳に直接聞こえたそれはまだ年端もいかない、いけなかった(・・・・・・)のだろう

女の子の魂の慟哭(・・・・)だった。




「……ツ! …い…! ……リーッ! 」


遠くで声が聞こえる。俺はどうなったんだ?

そう考えた瞬間、不意に横殴りにされ、

吹き飛ばされた先の地面に倒れた衝撃でようやく、

意識がはっきりした。


 気づけば自分の腕には頭の髪の毛と同じ銀色の体毛が腕を覆うように伸びていた。

脚もズボンで見えないが同じように体毛が覆っているようでズボンで圧迫された毛の感触がむず痒い。


視界に見慣れないたかく(・・・)なった自分の鼻が見える。


 かなり吹き飛ばされたようだが、

さっきまで立っていた場所の足元には焼け焦げて辛うじて

ローブと分かるものが付着している焼け焦げた肉のかたまりがあった。


「やっちまったのか……」


「ガウッ」


俺の呟きに傍にゆっくりとした足取りで近寄ってきた姉ちゃんが俺を止めるために

召喚したのだろう、狼の召喚魔獣、フェンリルが答えてくれた。


 俺たち銀狼族の男性の中には普段の人族よりの姿から狼に変化、

狼化できる者がいる。


 人と狼の中間である人狼化は身体能力が大幅に増加するのに反比例して理性での抑制が効かなくなる。

精神的に修練することでこの変化を自在に操れるようになるらしいが、

生憎、俺はまだまだ修行中だ。現にブチ切れる(・・・・・)と今回の様に暴走してしまう。


「大丈夫、ヘンリー? はい、これ」


サラが幾分落ち着いた俺にハーブの爽やかなにおいが漂うコップを差し出した。


「ありがとう。大丈夫だ」


俺はそれに応えてコップを受け取り、中身を飲み干す。

少しずつ俺の狼化が解けていく。

 サラに渡されたのは兄貴が親父たちから訊いた狼化止めの薬を改良したものだ。

 兄貴が改良してくれるまでひたすら苦くてとても飲めたものではものだったが、

これのおかげで俺以外の狼化できる仲間たちは時間がかかったり、

苦い思いをしなくて狼化を解除できるようになった。


「聖なる炎よ。この迷える魂たちを導き給え!」


姉ちゃんが焦げた肉塊の傍へ兄貴に教えてもらっていた

神聖魔術の聖なる火焔(ホーリーブレイズ)を放って、

パイアに魂を捕らわれていた人々が解放されていく。


『あり…がとう、ございまし…た』

『これでようやく……』

『ありがとうございました』


消え行く魂たちの多くに感謝の言葉を投げかけられていくなかで、


『お…兄ちゃん、おねえ…ちゃん、たち……ありがとう』


一瞬、紫色の髪をした女の子が目端に涙を浮かべた笑顔を見せて

消えていった。パイアが自慢げに見せた魂の少女の声だった。


---ソフィサイド---


ときはヘンリーが激怒して狼化したときに遡ります。


 マスターが懸念されていた通り、

ヘンリーがあたしたちの目の前で狼化して暴走してしまった。


 狼化していくヘンリーを前にして死霊魔術師のパイアは腰を抜かして、

失禁する始末でした。狼化して暴走した銀狼族を元に戻す方法の1つは

強い衝撃を与えることなので、腰を抜かして気絶寸前のパイアには最早、

死あるのみです。


 人族よりも鼻が利くあたしたちにはパイアの醜態しゅうたいが放つ臭いが

つらい状況なのですが、暴走したヘンリーがその身に炎を纏って

パイアの胸倉を掴み、鳩尾に一撃を与えて浮かせたあとに、

得意とする炎を纏わせた拳で相手を殴る【バーンナックル】の怒涛のラッシュを放ってパイアを消し炭にしてしまい、その悪臭も一緒にヘンリーが

焼き尽くしてしまいました。


「フェンリル、お願い!」


「ガウッ!」


ヘンリーの勢いが落ち着いてきたところであたしは召喚して待機させていたフェンリルへ

ヘンリーに強い衝撃を与えて狼化を解除するようにお願いしました。


「姉さん、あたしはヘンリーの面倒を見るから、

あたしが対応できない犠牲者の方たちをお願いね」


サラが自分の無力さを悔やみながら、あたしに告げて、

フェンリルに吹き飛ばされたヘンリーの元へ駆けていきました。


 狼化しての自身での暴走の克服・制御は狼化できる銀狼族の男性の

生涯目標であり、克服できる者が人口1000人を超えるあたしたちの里でも

両手で足りる数しかいないことから、克服した者に里長になる資格が

与えられるのは里を統べる者としては自然のことと言えます。


 ヘンリーも里長の有力候補とはいえ、現時点で狼化して暴走しているので、

その条件を乗り越えるにはまだ時間が掛かるみたいですね。


 また、今回ヘンリーを暴走させてしまったのは

不可抗力とはいえ、責任の一端はあたしにありますね。

マスターが予測されていたのに防げないとは。

まだまだ我が身の未熟を痛感しますね。


 一頻ひとしきり反省して、

あたしはサラに頼まれたこの場の浄化を行います。


「聖なる炎よ。この迷える魂たちを導き給え!」


マスターに教えてもらった神聖魔術の聖なる火焔(ホーリーブレイズ)

短詠唱でヘンリーがパイアを殴り倒した付近一帯に放ちました。

 マスターは無詠唱で使えますが、私はまだ詠唱が必要でかつ威力も

発動速度もマスターに遠く及びません。

 そんなマスターにどうすれば無詠唱で使えるようになるかと

尋ねたことがありましたが、マスターは遠い目をされて、

使えなきゃ死ぬ状況にいつの間にか置かれたことが数え切れない位あったから、いつの間にかできるようになっていて、実践を繰り返した成果だ

と仰られました。


 今のあたしたちが同じ状況に置かれたら、

命の保障をしかねるとそのとき苦笑いを付け加えられていました。


 ヘンリーの炎にはまだ魂や残留思念への浄化作用がないので、

あたしがやらなければ、パイアに殺された人々は冥府に行けず、

ここで不死者(アンデッド)化してしまいます。


 不死者アンデッド化した者の魂は多くの場合、

浄化されない限り、この世に留まり続け、生への執着で、

生きている者を無自覚に襲って、地獄(ゲヘナ)で清算することになる

罪を重ねてしまうそうです。


 一部の冒険者たちの間では不死者がいないのに

神聖魔術の聖なる火焔(ホーリーブレイズ)を使うことは

愚か者の行為だとあざける否定的な人がいるそうですが、

マスターはそんな言葉を気にせず、犠牲者を見たら必ず使われています。


『お…兄ちゃん、おねえ…ちゃん、たち……ありがとう』


小さい紫髪の女の子が一瞬目に映って消え、

自分がしたことに間違いがなく、意味があったことを実感し、

あたしは悔し涙を堪えているヘンリーとサラの元へ行きました。 




御一読ありがとうございました。


次話以降も投稿は不定期になると思いますので、

投稿タイミングは活動報告にて告知させていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ